5話・はじめてのボス戦
アバスは語った、呪いは掛けられた人物が強ければ強い程その効果を発揮するモノであり、もし仲間がいたら、もし解呪ができるアイテムがあれば、負ける事は絶対になかったと……
エリアボスは、四十体の鎧を操り人形のように使う砂の魔物であり、鎧を操る際に魔玉を使っている。
砂の魔物自体は、魔玉と三又の矛を手にしており、鎧を無効化すれば大した驚異ではないと語った。
話を聞いた後にカシームは自身の自己紹介を済ませると最後の宝箱を開いていない事実をアバスに伝えた。
「話はわかったよ、ちなみにオレは最後の宝箱は開けてないんだ、魔物が多くて諦めたからな」
「カシームはそんなに強くないんだな……」
「まぁな、だから、アバスの言う、協力ってのは、俺には無理かもしれない」
「いや、策はある。無理を承知で話だけでも聞いてくれないか?」
策はあると言う言葉にカシームは一度諦めたが、話を聞く事を決める。
アバスは自身の袋から、数個のアイテムを吐き出すと説明を開始した。
出されたアイテムは四つ。
風のリング。
飛翔の腕輪。
韋駄天のピアス。
スピードアップポーションであった。
「この装備をつけてから、スピードアップポーションを飲めば、可能性はあるんだ! ずっと待って待って待って、待ち続けたんだ! 頼むよカシーム」
今にも泣き出しそうな訴えにカシームは静かに頷いた。
カシームは全ての装備を装着する。
装備……
◆黒の短剣
◆ナイフ
◆額当て
◆韋駄天のピアス
◆風のリング
◆飛翔の腕輪
◆ボア皮の手甲
◆皮の胸当て
◆革の靴
シーフを思わせる装備であったが、その効果は絶大であった。
軽くジャンプをすれば自身の身長程の高さまで飛ぶ事が可能であり、走れば普段の倍ほどの脚力を感じさせた。
「これなら、いけるかもしれないぞアバス!」
「それにスピードアップポーションを使えば、確実に奴の度肝を抜けるはずだ、無理を言って悪いが頼んだよカシーム。それと敵の魔玉を奪ったら直ぐに袋の中に入れてくれ、そうすれば間違いなく勝てる!」
「わかったよ。そん時は任せたぜ。アバス!」
計画を聞いてから、一日後、準備を整えるとカシームはアバスをベルトに通し手がちゃんと触れられるかを再確認し気合いをいれる。
安全エリアから通路に出て、エリアボスの待つフロアへと足を踏み入れる。
それは直ぐに動き出した。エリアボスはカシームの存在を感じると突如その腕を前に伸ばす。握っていた魔玉が輝きを放つと壁に並んでいた鎧達が意思を持ったように武器と盾を構え、左右からゆっくりと全身していく。
四十体の鋼鉄の兵士がカシームへと兜を向けると、隊長を思わせる黒い鎧が剣を前に伸ばし、突撃の合図をする。
合図が送られると隊長を除く四十体の鎧兵が一斉に動き出し、カシーム目掛けて剣が襲い掛かる。
剣による攻撃を次々と回避していくカシーム、つい先日までならそんな動きは出来なかっただろう、安全エリアで一日を過ごす間、アバスの指示に従い通路でウルフやゴブリンからの攻撃をひたすらに回避する特訓を行っていた。
ウルフの素早い攻撃は鎧兵の斬撃よりも速く、それをひたすらに回避し続ける事で鎧兵の攻撃スピードに体を慣れさせていた。
更にスピードアップポーションが敵の動きをスローに感じさせており、今のカシームからすれば鎧兵の攻撃に当たる方が難しいと言えるだろう。
しかし、数の暴力により、次第に壁際に追いやられていく、鎧兵を操る砂の魔物からはそう見えていただろう。
「カシーム、今だ!」っと、アバスが合図を送る。
「了解ッ!」
カシームは壁際に集まった鎧兵の頭上に飛び上がると前方にいた鎧兵の兜に向けて落下する。そして、思い切り踏みしめ、高く前へとジャンプすると更にそれを着地地点にいる鎧兵の兜を踏みつけ同じ行動を二回程繰り返す。
鎧兵の包囲を脱出すると一気に駆け抜けていく。
カシームは悩まずに魔玉の握られた腕へと向かうと地面を蹴りあげるように足に力を込めて飛び掛かる。
砂の魔物が焦りを顕にする。即座に魔玉を自身の側に移動させるような動作をすると片手に握った矛を一気にカシーム目掛けて突き出す。
しかし、矛が突き出された時には既にカシームは砂の魔物の懐へと潜り込んでいた。
風のリングと韋駄天のピアスの能力を使い、空中を一気に加速しており、砂の魔物からすれば、一瞬でカシームが自身の目の前に現れたように映った事だろう。
片手に握られた魔玉に手を伸ばし触れた瞬間、カシームは声を張り上げる。
「アバスッ!」
「よしゃッ!」
その瞬間、普通では有り得ない事が起こっていた。
魔物の所有物はその権限がある限り決して所有権が移る事はない、それは敵のロッドや魔法剣を奪ったとしても使えず、ましてや持ち去る事も叶わない事実が存在していた。
しかし、アバスは、砂の魔物が持っていた魔玉を自身の袋に収納して見せたのだ。
その瞬間、鎧兵は以前に与えられたカシームを倒す以外の命令を更新する事が出来なくなり、事実ともに有象無象の人形へと変わる。
砂の魔物は怒りにその表情を歪めると矛を力任せに振り回す。
収納の隙をつかれ、カシームの腹部に矛が叩きつけられ、入口付近の壁まで吹き飛ばされる。
「ガハッ、ゲホッゲホッ……」
叩きつけられ意識が僅かに遠のく感覚にカシームは急ぎ無理矢理自身を起き上がらせる。
「大丈夫か、カシーム!」
「……あぁ、まだまだ、いける……ゲホッ……」
「すまねぇな、だが、準備が整った! 今からが本番だぜ、カシーム!」
アバスは先程、袋に収納した魔玉を吐き出すとカシームへと再度声をあげる!
「契約する!」
「オレはアバスと契約する……契約物は魔玉……」
契約を口にした瞬間、魔玉が輝き、袋から閃光が放たれると魔玉にアバスの口と目が移動する。
「上手くいったぜ、カシーム、今からが反撃だ!」
魔玉となったアバスが輝くと隊長であった黒い鎧に閃光となって飛んでいく。
一瞬の輝きの後、膝をついた状態の黒い鎧兵の姿がカシームの前にあった。
「少し待っててくれ、カシーム」
静かに立ち上がるとカシームのベルトからアバスだった布袋を取り外し、鎧に結びつける。
「少し休んでてくれ、ここからは我が変わろう」
布袋から回復ポーションを取り出し、カシームへと渡し、黒い鎧は更に大剣と巨大な盾を取り出すと一歩、一歩、前へと進んでいく。
そんな黒い鎧となったアバスの道を開くように四十体の鎧兵が道を作り、通り抜けたアバスの後ろへと並び、全ての鎧兵が砂の魔物へと行進を開始する。
砂の魔物は慌てて矛を両手に握り、アバス達と戦闘を開始する。
鎧兵が吹き飛ばされ、矛に叩きつけられるも、立ち上がり、剣を前に突き出し、矛を盾で弾いていく。
アバスは砂の魔物が矛を振り抜いた瞬間、掛け出すと盾を片手に固定し大剣を両手に握ると砂の魔物に切りつける。
肩から斜めに切りつけられた斬撃に砂の魔物の体内に存在するコアがあらわになると振り抜いた大剣を回転する様にコアに切りつけ、真っ二つに切断した。
「ギギャアァァァァァァァァッ!」と、断末魔を放つと砂の魔物が崩れさり、ただの砂となり、そこに宝箱が姿を現す。
回復ポーションにより回復したカシームの元にアバスが宝箱を抱えてやってくると宝箱を目の前に置く。
「宝箱って、ボスからのドロップなら、もしかして……」
「開けてみろよカシーム、我らの勝利だ」
読んで頂きありがとうございました。
ブックマークや感想、誤字など、ありましたらお願い致します。貴重な時間をありがとうございました(*・ω・)*_ _)