46話・ロルクの裁判
ギルドの地下室で色々とやらかした為、オレはゴーレムが使える事実がシャナルとカナリアにバレてしまった為、とりあえず急ぎギルドを後にした。
色々質問をしようとしていたカナリア達をスルーするのは本当に申し訳なかったけど、あまり質問をされるのは面倒くさくて仕方ないのでしょうがないよね。
次の日、ギルドに改めて呼び出されたオレ達は、それをスルーして、一度、商業の街に帰還する事に決めた。
【眠れる獅子】の攻略を中断するのは勿体ないけど、ダンジョンに入るには、ギルドの許可が必要なんだから、仕方ないよね。
そんなオレ達がロルクを出ようとすると、門前で何故か、通行許可がおりなかった。
門兵さんも凄く申し訳なさそうに此方に頭を下げているので、あまり強くも言えないんだよな。
「大変申し訳ないな、ただ、上からの指示でな」と、困る門兵に訳を聞いてみる。
「じつは【亜人の団】の方々が来たら、重大事件の功労者であり、大切な証言をして貰わないとならないと、キツく言われててな」
なんか、先回りされて、身動きが取れないな。
「強行突破は、まずいよな?」
「カシーム、そう言う事を口に出すもんじゃないぞ、見てみよ。彼等が困惑しておるじゃないか」
門兵の表情を見てみたら、オレ達が何をしたかを聞かされていたのか、何とも言えない表情を浮かべていた。
諦めて、冒険者ギルドに文句を言いに行く事にした。
ギルドに入ると直ぐにカナリアが此方に走って来て、挨拶も終わらぬ間に奥に通される。
奥の部屋には、やはりシャナルさんが待っていた。
「いらっしゃい。いきなりごめんなさいね。カシームさん」
「本当にいきなりですね。ただ、今回はギルドにオレ達も苦情を言う為に来たので、会えて助かりますよ」
笑いながらそう言うと、シャナルさんは、深々と頭を下げてきた。
「今回はこちらの都合で本当にごめんなさい。明日のアグリの裁判まで、ロルクに滞在してて欲しいの、朝からロルクの宿屋さんを全部調べたら、全部ハズレで伝えられなかったのも此方のミスなのだけど、お願い出来ないかしら」
「裁判……? なんでオレ達が?」
「オレ達ではないのよ、アナタなのよね。カシームさんがアグリを捕らえた際に「洗脳を受けた」と、アグリが言い出してしまって、発言などの信憑性が疑われてしまったのです、なので鑑定を皆の前で受けて欲しいの」
「いやだよ、鑑定なんて!」
「お願い、鑑定結果は公表されたりしませんから、それは保証しますから、お願いします」
オレは本当に嫌なんだけど、悩むよな。
「はぁ、分かりましたでも、クエストとして処理してください。そのクエスト内容に鑑定結果を公表しない事も書いてください。報酬はお任せします」
「ありがとうございます。本当に助かります」
話が終わると、オレ達はギルドの案内でロルクの高級宿屋に止まる事になり、早朝に迎えが来るとの事だ。
ギルドの用意した宿は初めて泊まるタイプの物だった。
フカフカのベッドに広い部屋、高そうな家具に室内には魔導具のシャワー付きの風呂が備え付けられている。
食事は食べ放題と言うのだから至れり尽くせりだった。
用意されたのは、男女別々に一部屋づつだったが、それでもかなりの高級宿だと改めて感じてしまう。
せっかくの高級宿だが、なんか退屈なんだよな……
「そう言えば、帰りも鉄笠を使うんだよな……」
「旦那様、何かお悩みですか?」
「ああ、あの鉄笠だと、少し目立つんだよな」
ヌビスにそれとなく相談すると即座に返事が返ってきた。
「確かに、目立ちますな……馬でも仕入れますか?」
「馬か……いや、馬を買えても、ずっと使う訳にいかないし、何より馬だと鉄笠より遅いんだよな?」
ヌビスと話していると、シャドーが提案を口にする。
「カシーム兄貴、なら、馬のゴーレムを作るのはどうですか? 兄貴のスルトの足って蹄もありましたし」
「馬型か……なら、少し作って見るか」
そうして、オレはシャドーとヌビスの意見を聞きながら、二体の馬型ゴーレムを作り出していく。
スルト達と違い、魔力枯渇等は起こらず、満足いく結果になったので眠る事にする。
次の日、早朝から宿屋の従業員が部屋の扉を叩き、声を掛けてきた。
「おはようございます。お客様を迎えに来られたようで、外に馬車が来ております」
そんな言葉に軽く返事をしてから扉を開けて入口に向かう。
既にアバス達が入口で待機しており、使者としてやってきたギルド職員はカナリアだった。
予定通り、迎えにやってきたカナリアに挨拶をしてから大型の馬車に乗り込む。
パーティー全員が乗り込むとカナリアが御者台に向かい、御者さんに馬車を出すように伝えてから馬車が走り出す。
オレ達は馬車に揺られて裁判所へと向かう。
裁判所につくと早朝にも関わらず、既に大勢の人々が傍観席に座っており、裁判長であろうマスクをつけた人物が中央の高台に座っている。
そして、アグリとその仲間達が鎖で繋がれて端に座らされている。
此方に気づいたアグリが睨みつけているが、そこは無視していく。
アバス達には、傍観席に行ってもらい、一人で案内された席に向かう。
オレの到着と同時に裁判長が喋り始めると場が静寂に包まれる。
「今より容疑者、アグリの発言が真実かを確かめる! 鑑定士よ、冒険者である彼を鑑定しなさい」
美しい女性がオレの前までやってくると軽く頭を下げてから、鑑定が開始される。
鑑定士の目が輝き、その瞬間、冷や汗をかいて顔を青くしている。
「どうしたのだ? 鑑定結果に洗脳が可能な物があったかを答えなさい」
裁判長がそう口にして、鑑定士が慌てて、裁判長に振り向くと頭を下げた。
「は、はい、鑑定結果ですが、洗脳に使えるスキルなどはありませんでした……」
「うむ。ならば、アグリは予定通り、極刑とする。本日、正午の鐘と共に、すべての権利を剥奪し、その首を捧げるか、奴隷となるかをジックリと考えるがよい! 以上を持って、閉廷とする!」
「嫌だ! 何故、私が! クソォォォォォォ!」
アグリの叫び声が裁判所の広場にまで聞こえて来たが、罪悪感などはない。当然そうなる事も覚悟して悪事に加担したんだろうから、自業自得なんだ。
裁判が終わり、オレはアバス達と合流するとギルドへと移動する。
ギルドで報酬を受け取り、改めてシャナルとカナリアに挨拶をしてからオレ達は予定通り、ロルクを後にした。
門兵さんも改めて謝罪してくれたので、軽く頭を下げるとオレ達はロルクに来た時と同様に鉄笠を巨大化させてから宙に浮かす。
一つ違うのは、馬型のゴーレム二体を使っての牽引だろう、遠目から見れば立派な馬車もどきには見えるはずだ。
「なんやこれ! ごっつい馬やんか!」
「これはまた、流石に我もこれは驚いたな」
「ご主人様、いつの間に!」
アバス、トト、パステの三人が驚いている顔はなんか面白いが、更に鉄笠を引かせ始めるとその速度に更に驚かれた。
普通の馬では出せない速度を軽々と出していき、一気に風を切りながら進んでいく。
次第にロルクの門が遠くなり、その姿が小さくなっていく。
ダンジョン【眠れる獅子】は近いうちに攻略されるだろうな……オレ達が攻略出来なかったのは残念だけど、あれ以上目立つと面倒臭いから仕方ないな。
そんな事を考えるオレの横で楽しそうにはしゃぐパステ、トト、シャドーの姿にオレは更に速度を上げていく。
長かったダンジョン都市ロルクでの日々に別れを告げて、商業の街へとオレ達は駆け出していく。




