44話・ロルクギルドで話し合い1
帰還の魔法陣を使い、オレ達は無事に最初の入口へと舞い戻ってきた。
ダンジョンネームの石碑には新たに七階層の文字があり、討伐階層が六階層に変化していた。
そんな、オレ達【亜人の団】を出迎えたのは、ギルド職員達であり、出迎えと言うには、余りに乱暴な武器を構えての歓迎であった。
「なんの真似だ……我らに何かようか?」
アバスはそう冷静に質問しながらも、両手に大鉈を取り出していた。
「構わんやろ? 冒険者相手に喧嘩売ってるんや、しっかり買ったろうや!」
ロルフのギルド職員達は顔を一瞬、強ばらせたが此方が本気だとわかったのか、額から汗が流れている。
「ボク達に喧嘩を売るなら構わないよ……今、すごくギルドにもイライラしてるし、でも、やるなら手加減出来ないよ」
そう語り、ゴーレム達を呼び出そうとした時、ギルド職員達を掻き分けるように偉そうな男が此方に向けて歩いてきた。
「いやいやいや〜実に素行が悪い。本当にこれだから、低級冒険者は困りますなぁ」
此方を煽るように嫌味な言い方で口髭をいじる男、見た目だけ紳士ってやつかな、整った髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやりたくなる。
見た目からして、お偉いさんって奴だろうが、オレ達には知った事ない。
「ご主人様……そいつと、この場にいる何名かが【黒竜の息吹】の内通者です。鑑定したから間違いないよ」
「そうなのか?」
「うん、だって、所属にロルフの冒険者ギルドじゃなく、【黒竜の息吹】になってるからね」
その言葉にオレは悩まずに動いていた。ワイヤーを即座に操り、ギルド職員達の足を一斉に縛り、そのまま全身を拘束する。
邪魔者がいなくなった為、目の前にいる偉そうな男に歩いて行く。
突然の事態に慌てるが、そこは場馴れしてるのだろうか、直ぐに冷静に話し始めた。
「き、貴様! 冒険者ギルドにこんな事をして、ただで済むと思っているのか! 私を誰だと思っている! 私は──」
「黙ってよ……それ以上喋らないで」
既に最初のワイヤーを操ると同時にヨルンを呼び出していた。
男の背後にはヨルンが既に移動している。その首には、ブレードが当てられている。
「聞きたいのは、お前が【黒竜の息吹】の仲間かどうかだけだし、嘘をついたら分かるよね?」
急な展開に男の全身から汗が流れ出していく。それでも返答がない為、ヨルンに指示を出そうとした瞬間、奥から更に複数の男達を連れた女性が姿を現す。
「待ちなさいッ!」と女の声が聞こえた。
其方に視線を向ける。そこには緑色の長いストレートの髪に整った顔立ちの女性が立っていた。
青い瞳で此方を見つめる若い女性は冒険者だよな?
腰にはレイピアを装備していて、服装は上が長袖のしっかりとした服なのに対して下がショートパンツ、足元はロングブーツと、戦闘も考えての服装に見える。
「落ち着いてくれないか、キミ達が商業の街の冒険者なのは分かっているんだ。その男が失礼な物言いをしたのだろう、申し訳ないと思っている」
いきなりの謝罪に呆気に取られると、その女性は更に喋り続ける。
「私はロルクの冒険者ギルドの副マスターでカナリアです。その男は私の補佐をしているアグリと言います」
女性はギルドの副マスターらしい。そして、ヨルンに動きを封じられているの副マスターの補佐役だとわかった。
こんな奴が補佐ってやつなのか……
「てか、なんで、こうなったのか教えてよ」
「当然の質問ですね。実は数日前、帰還した冒険者から、帰還石の強奪があったという報告があり、調査をしておりました」
多分、四階層で聞いた話だろうか、それにしてもなんでオレ達を捕まえようとしたのかよく分からないな。
「それで、他にも同じ事が起きていないかをギルドで調査していたら、不自然なパーティーとして、幾つかのパーティーが上がりました。パーティー名は控えますが、カシームさんのパーティー、ミネットさんのパーティー、ダーバンさんのパーティーです」
聞き覚えのある名前ばかりで驚きを隠しきれないな、だけど、やっぱり納得いかないな。
「納得いかないといった顔ですね、まぁそうですよね。私も何故、カシームさんのパーティーが疑われてるのか、謎でしたから、そこで新たな調査をさせて頂きまして、その結果、この場に出向いた形です」
副マスターのカナリアは、オレ達が容疑を掛けられた内容を説明してくれた。
オレ達を調査対象に加えたのはアグリだった。
このバカ野郎は、オレ達を悪人として、捕らえて罪を全て擦り付けるつもりだったそうだ。
何故、そんな事をオレに話すのか、気になったが話し方から無実なのは分かってくれてるように見える。
「そうなんだ」っと、アグリに視線を向けた瞬間、カナリアが慌てて声を上げた。
「ま、待て待て! 話を最後まで聞いてくれ、私が来たのは、そこのアグリを拘束する為なんだ!」
慌てたからか、さっきまでの敬語も消えてるな?
「そうですか、でもオレ達が喧嘩を売られた事実は変わらないですよね? 売られた喧嘩は買うのが冒険者です」
「キミは……本気なのかい?」
先程までとまったく違う厳しい表情を此方に向けてきた。
「本気だとしたら?」
「カシームさん、舐めないでくださいね。これでも私はギルドの副マスターなんですよ。今はまだ、ギルド職員であるアグリを見捨てる訳には行かないんです」
「話し合いとか、多分、無駄だよな。やるならやるしかないだろ」
そこまで言って、アバスがオレの前に出る。
「落ち着け、カシーム。我も話を聞いて、苛立ちを感じているが、相手が立場を低くして話しているのだ。無下にする事はなかろう?」
「わかったよ。悪かったなカナリアさん」
モヤモヤしながら、ヨルンをリングに戻らせてから、ワイヤーを解除する。
動けるようになったギルド職員達が怒りを顕にした瞬間、カナリアが声を張り上げた。
「止まりなさいッ!」
ビクッと体を震わせたギルド職員達が黙ってその場に固まる。
「アナタ方も処罰対象だと忘れないように、アグリの指示でギルド職員としての正義を忘れた行動は擁護できる物ではありません!」
カナリアが連れてきた男達がアグリ達を拘束していく。
アグリはずっと「私を誰だと思っている離せ、離せ!」と叫び続けていた。
その場からアグリ達が連れてかれてから、オレ達はギルドで詳しく説明したいとカナリアに言われてついて行く事にした。
ギルドに到着してから、応接間に案内される。
因みにレネ達はカナリアに話して、ギルドが贔屓にしている宿屋へと案内される事に決まった。
少ししてから、扉が開かれるとカナリアともう一人、女性がいた。
見た目はカナリアよりも、若く見えるが落ち着いた雰囲気のせいで分からない。そんな二人はオレ達の前側の長椅子に腰掛ける。
「今回はすまなかったわね。私の監督不行届だったわ」
物腰の落ち着いた糸目の女性はそう言うと此方に頭を下げてきた。
「あ、いや、オレもカッとなってたから、その……ごめん」
「自己紹介がまだだったわね。私はシャナル、このロルクギルドのギルドマスターを任されてる者です」
「え、ギルドマスター!」
「ちょっと、カシームさん、静かに、落ち着いて、ギルドマスターも紹介の仕方がストレート過ぎますよ!」
「あら、カナリア? 自己紹介なんですよ、簡単でわかりやすいのが一番ですよ?」
なんか、マイペースな人だな、話が進む気がしないな。
「それより、説明をしてあげてください! カシームさん達も困ってますよ」
「そうでしたね、話をしなければなりませんね」とシャナルは両手を立派な胸の前で合わせる。
そこからの説明を要訳すると、ギルドで以前から不審な金銭の流れがあり、アグリを疑っていたがなかなか、尻尾を掴めずにいた。
そんな最中に、冒険者を捕らえようとする動きがあり調査をするとオレ達の存在が顕になる。
そこから過去に同じような事案が無いかを調べて複数の冒険者が同様に理不尽な理由で調査対象となっており、その全てがアグリの指示で拘束後に行方不明になっていたらしい。
更に調べれば、アグリと複数の職員が【黒竜の息吹】と親密な関係であり、今回のアグリ達の行動を理由に捕らえて尋問に掛ける予定だったそうだ。
既に【黒竜の息吹】のクランハウスには、令状を発行して調査が開始されており、証拠が見つかり次第、クランマスターであるダーバンの捕縛も視野に入れられているらしい。
「あの、話してる最中、悪いんだけどさ?」
「はい、カシームさん、どうなされたのですか?」
おっとりとしたシャナルさんの返事にオレはマジックバックからダーバンを含む【黒竜の息吹】のギルドカードを取り出してテーブルに置く。
「え?」っと、正面の美人二人がオレの顔とテーブルのギルドカードを上下する。
「オレ達からも話があるんだ」
そこから、ダンジョン内で見てきた事実とレネ達が何故、奴隷となったのかを説明していく。
ダンジョン内で【黒竜の息吹】がおこなった非道な行動、それにより身を滅ぼした事実、ダンジョンを皆で脱出する為に六階層のボスを討伐した事実を語った辺りで、カナリアから待ったが掛けられた。
「待って! なに【黒竜の息吹】を、クランを一つ潰したの! って、事は……このギルドカードはその討伐証明って事!」
「討伐証明って訳じゃないよ。他にもたくさん拾ったから」
ダンジョン内で拾ったギルドカードやミネット達のギルドカードを更に取り出してその場に並べていく。
「誰にも気づかれないのって悲しいから、とりあえず拾ってた」
オレが並べた数十枚のギルドカードにカナリアとシャナルは複雑な表情を浮かべていたが、「全て回収したい」と言われてオレは承認した。
そうして、更に説明をしながら、ギルドで時間が流れていった。
読んで頂きありがとうございました。
ブックマークや感想、誤字など、ありましたらお願い致します。貴重な時間をありがとうございました(*・ω・)*_ _)




