42話・ゴーレムとマスター2
やらかしたオレであったが、回復は早かった。エイルが回復呪文ヒールを発動し、意識が失われる前に無事に復活できた。
不味いが一気に、マジックポーションを飲み干していく。
オレは皆から、やはりという残念な表情をされたが、そのお陰で三体のゴーレムを短期間で手に入れる事に成功した。
スルトにも、魔力で防御できるように後々改良を加えるとして、倒れた事以外は何一つ問題なく進んでいる。
進んだ先は行き止まりであり、オレ達はこの数日間を過ごした上がり坂の通路を降っていく。
やはり、マークがあったのは、迷わないように他の冒険者がつけたものだったらしい。
だが、この数日は本当にありがたいものだった。魔力操作に三体のゴーレム、スルト、ヨルン、エイルが加わり、オレは同時にジョブが手に入ったしな。
そのまま、一気に分かれ道まで戻る道中にオレはゴーレムマスターの収納リングに魔力を流してスルトの盾を作成していく。
イメージを送ると、ゴーレム種の素材から勝手に作ってくれるのだから、本当に助かるよね。
そして、元きた道を戻ると言う事は倒したゴーレム達も復活しているという事で、リポップした魔物達をシャドーとアバスが中心に狩っていく。
分かれ道までで既に八体のゴーレムと出会い、一気に突破した為、流石のパステも息を切らしていた。
「やっぱり、数日分をいっぺんに相手するとかつらいよ」
「まだまだだな、パステ。我が前に出てやるから、休むがよい!」
通路から現れた九体目のゴーレムにアバスが斬り掛かり、その巨体をあっさりと砕いていく。
「ボクがこんなに苦労してるのに、あんな武器強化の異能なんて、反則だよ!」
「あはは、パステよ、我は強いのだ。だが、いつか、パステも我くらいには強くなれる。腐るなよ」
ゴーレムを討伐して最初の分かれ道に辿り着き、そのまま反対の道に進んでいく。
下り坂の通路は暗く、今まで輝いていた鉱石などがないのがわかる。
流石に暗闇を進むのは危険と考えたので、松明をマジックバックから取り出し、火を灯す。
通路を進むと前方に魔物がいる事に気づく。ゴーレム種かと思っていたが、そこに居たのは背中に鋭い水晶の針を無数に生やしたトカゲだった。
「パステ、鑑定を」っと、オレは指示を出す。
「あれは、ストーンリザードです。食べた鉱石によって強さが変わる魔物みたいです」
ストーンリザードは此方に対して、顔を向けると突然、炎を吐き出し周囲は真っ赤な炎の光で包まれていく。
しかし、それは此方にとって、ありがたいだけなんだよな……
「トカゲか、前に鉱山都市で皆が食べていたからな、今回は我も食うとするか」
「お、えぇなぁ〜なら、トカゲの丸焼きで乾杯しようや!」
「トト様、アバス様、真面目にやらねば、足元を救われますぞ……まぁ我輩もトカゲは好物ですので反対は致しませんが」
珍しくヌビスまで食料を見るような目でトカゲを見ている。
数分でストーンリザードは解体されてアバスの手でトカゲの丸焼きとして焼かれている。
背中の鉱石がドロップ品となり、それを削ぎ落とした後に今に至る。
巨大なトカゲの丸焼きから、次第に油が流れ出してアバスが焼けた部分を切り分けて、食事の時間になる。
ストーンリザードの肉は硬いが、噛みきれない程でもなく、硬めの鶏肉と言うべきか、濃厚な旨みが感じられる。塩コショウのみでも美味しく食べる事が出来た。
予想外の食事になったが、腹が満たされたので、このまま探索を再開しようと思う。
見てみれば、下り坂の先に僅かな光が見えている。
暗い通路を抜けた先には広い通路があり、左右に別れて広がっている。
右に向かうか、左に向かうかで話し合い、左に向かう事を決める。
なぜ左なのかと言えば、右側に冒険者が休憩したであろう、焚き火の跡があったからだ。
普通なら右に向かうのだろうが、此処はダンジョンなんだ、わざわざ、誰かのいる方に進む必要などないのだから、左に進む事に決まったのだ。
しかし、分かれ道からの流れを考えれば、警戒し過ぎな気もするが、まぁダンジョンに正解はないから悩むのはやめておこうと思う、とりあえずは悩まずに進んでいく。
しばらくして、オレ達の先に複数の冒険者達が陣取ってボス部屋の周りにテントを貼っている。
「なんだあれ?」
「うむ、どうやら、ボスの順番待ちと言うやつだろうか? どちらにしても、待たねばならぬようだな」
「アバスの言う通りなら、かなり面倒やなぁ、どうするんや?」
そんな会話をしていると、ボス部屋の前にいた冒険者の方からオレ達に向かって三人組が歩いてくるのが見えた。
すぐ側ばで来るとこちらを一瞥してから喋り出した。
「見ない顔だな? まぁ、誰でも関係ないが、ボス部屋は今、俺達【黒竜の息吹】が討伐中だ。諦めて帰りな!」
一番前にいた見るからに小物感が否めない冒険者の男が偉そうにそう語ってきた。
「まぁ、後ろの姉ちゃんを俺達に貸してくれんなら、好きなだけ待っても構わないがな!」
「そうだな、こんなガキと獣モドキなんかよりも俺達と酒でも飲もうや、にっひひひ」
後ろの二人も同じように、不快な言葉を口にしてくる。
何よりオレが許せないのは、パステ達を獣モドキと言われた事だ。
「黙れよ、おっさん。オレ達に構うなよ!」
「なんだと? 優しくしてやりゃあ、大人しく女置いて、失せろや餓鬼が!」
冒険者がオレに向かって掴み掛かろうとした瞬間、収納リングが輝き、ヨルンが突然、姿を現す。
何が起きたか分からなかったが、咄嗟にオレはヨルンに魔力を流して防衛を意識した。
「ぎゃあああ、イテテェェェェ!」と声がした瞬間には、ヨルンが冒険者の腕を有り得ない方向に曲げており、男は涙目で大声をあげていた。
無言のまま、ヨルンが更に男の腕をネジ上げようとしたので、慌ててストップを掛ける。
男の絶叫に後ろで見ていた二人の冒険者は何が起きたか分からずに慌てている。
騒ぎを聞きつけた他の【黒竜の息吹】のメンバーが次々に此方にやって来るのがわかる。
「いででぇ、お前らは終わりだ! 今此処には、パーティーとしてじゃなくて、クランとして来てんだからな」
その言葉が脅しで無いことはすぐに理解出来た。三十人を超える冒険者達が此方に向かって武器を構えているのだ。
「マジかよ。皆、帰還石を使うか?」とオレが口にした瞬間だった。
「逃がさねぇよ! 結界を急げ!」と相手冒険者が結界を発動させる。
足元が金色に輝き、その場に居た全員が光に包まれるとそれは消えた。
「カシーム、やられたな……あれは逃亡阻害の結界だ。帰還石はもう使えぬな」
【黒竜の息吹】はアバスの言葉にニヤニヤと笑みを浮かべているのが見える。
「さて、逃げれなくなったが、こっちは仲間がやられてんだ。つまり、慰謝料が必要だよなぁ?」
そんな事を此方に聞こえるように話している。
「つまりだ! 装備も命も貰って丁度くらいか……女は全員で可愛がって飽きたら、奴隷としてちゃんと売り飛ばしてやるから安心しな」
その言葉になんとも言えない不快感と嫌悪感が全身を駆け巡って行くのがわかった。
「──アバス、今さ、凄いイライラしてるんだ」
それが合図だったんだと思う、パステとヌビスが凄まじい殺気を放ち、シャドーが剣を抜く。
「お、お前らやる気かよ。あはは、なら全員まとめて殺してやんよ!」
【黒竜の息吹】も武器を握るのを確認して、オレ達は戦闘を開始した。
アバスは悩まずに鎧兵を全て召喚すると武器を手に動き出し、数の有利を確信していた冒険者は向かって来る鎧兵へと斬り掛かっていく。
オレも既に何も考えられず、ただ、怒りに任せてゴーレムを召喚していく。
「スルト、ヨルン、エイル、三人での初陣だよ」
自分でもわかる程に冷たい声だった。
スルトは新たな巨大な盾を装備してランスを前に構えると突進する。
巨大なスルトを前に後退りした冒険者から肉塊にかわり、その背後からヨルンとエイルが姿を現すと、回避した冒険者へと襲い掛かる。
オレはそんな三人と共に冒険者達へと攻撃を開始する。
ワイヤーを使い、魔物を切り裂くように、冒険者を切り裂いていく。
「くそ、バケモンだ! やばい、ラングがやられた! 助け、うわぁぁぁ!」
至る所から断末魔が聞こえるが【亜人の団】のモノは一つもなかった。
次第に減っていく【黒竜の息吹】のクランメンバー、そんな中にアバスの鎧兵を複数砕きながら、此方に歩いてくる数名の男女が確認できる。
「俺様のクランを滅茶苦茶にしやがって、随分と派手にやってくれたな? だが、やり過ぎたぞ小僧!」
オレにそう言いながら剣を構える男。
「アンタ誰?」
「なんだ、オマエ、俺様をしらないのかよ……オレはダーバン、このクラン【黒竜の息吹】のクランマスター様だよ!」
男がそう名乗った瞬間、ヨルンとエイルが男の左右から飛び掛かり、ブレードを前に向ける。
「けっ! そんな武器で俺様がやられるかよッ!」
ダーバンはそう口にして両手に装備した盾を構える。しかし、盾と同時にダーバンの腕が吹き飛ばされ、更に背後からスルトのランスが腹部を貫き、身体が真っ二つに割れた。
一瞬で、その場が静けさに包まれると我先に【黒竜の息吹】のメンバーが逃げようと走り出す。
しかし、それは叶わなかった……自分達で帰還石の使用を制限してしまった彼等に逃げる術などありはしなかった。
それにオレも逃がす気はなかった。
ただの虐殺と言うべきだろうか、命が次々に刈り取られては散っていく。
「お、お願い、私、何でもしますから……殺さないで……」
オレの足にしがみつき、命乞いをする女冒険者にミネットの姿が重なると更にイライラする。
そんなしがみつく女冒険者に、パステの金棒が無慈悲に振り下ろされる。
「ご主人様に触るなッ! オマエが触れていい人じゃない!」
まるで魔獣のような殺気を放ったパステの姿があり、オレは無言でパステを抱きしめていた。
「ごめん、パステ、大丈夫だから……」
「うん、ご主人様、ボク達がいるから大丈夫だよ」
すぐに戦闘は終了した。
総勢38名のクラン【黒竜の息吹】はこの日、ダンジョンに消えたのだ。
オレ達はいつも通り、大量のギルドカードを集めるとマジックバックへと放り込んだ。
凄い不快感と吐き気に我慢出来ず、その場で嘔吐していた。
初めての自分の意思で決めた虐殺は思った以上にオレの精神にダメージを与えていたのだと理解した。
アバスは「そのうち、慣れてしまうだろうが今はそれを受け止めろ。カシームは間違ってない」と言ってくれた。
【黒竜の息吹】のキャンプを確かめると【希望の星】のメンバーの遺体があった。
リーダーのダンテさんは首だけにされて、ナイフ投げの的にされていたのが分かり、怒りが再度込み上げてきた。
そして、奥の異臭を放つテントの中には、複数の女性達が全裸で鎖に繋がれていた。
吐き気がするようなむさ苦しい臭いと体液が混ざった臭いは不快なものだった。
そこには【希望の星】のメンバーだった女性の姿もあり、ずっと「殺して……殺して……」っと呟いていた。
他の冒険者であろう女性達を確認する。全員が強制的に奴隷化させられている事実が確認出来た瞬間、拳を握った。
「人間が人間をこんなに、酷すぎるだろ、意味わかんないよ……」
「ご、ご主人様……こんな時に言うべきじゃないだろうけどさ、話していいかな?」
確認するようにパステが声をかけてきたので、冷静に返事をする。
パステは女性達が違法な奴隷印で奴隷化させられている事実と違法な奴隷印は主が変われば奴隷印が刻まれていた時からの数日の記憶が失われる効果があると言う鑑定結果を告げてきた。
早い話が、女性達を奴隷として一度、所有者になり、記憶を消す事が可能であり、奴隷として、ボス部屋に入れば、帰還の魔法陣により地上に助け出すことができると言う内容だった。
悩んだが、一旦、女性達には眠り粉で深い眠りについてもらい。汚れてしまったその身体を綺麗に拭いていく。
傷などはエイルと回復ポーションにより、内と外を全て綺麗にしていく。
装備や服などは、キャンプに集められていた為、全てマジックバックに入れてきた。
綺麗になった女性達に謝りながら、奴隷としてオレは受け入れる事を選択する。
目覚めた女性達は、最初オレを警戒し、睨み付けながら殺気すら放っていた。
ただ、【黒竜の息吹】について説明を開始すると皆が泣き崩れていた。仲間が死んだ事実、記憶はないがその身を弄ばれた事実をその身に感じたからだろう。
読んで頂きありがとうございました。
ブックマークや感想、誤字など、ありましたらお願い致します。貴重な時間をありがとうございました(*・ω・)*_ _)




