41話・ゴーレムとマスター1
長い休憩が終わりを告げて、オレ達は本来のダンジョン攻略へと動き出した。
この三日間で新たにスルトを手に入れたオレ達は、坂を登って行く。
その間も魔力操作を完全に行う為、スルトを呼び出して、背中に跨る形で操っていく。
スルト自身にも意思がある為、魔力操作と言っても、アバスの鎧兵のように全てを支配するのではなく、あくまで指示を伝えるものだ。
「スルト、お前はオレに使われるのが嫌だったりするのか?」
「…………」
無言のまま、軽く首を傾げる素振り、どっちか分からないけど、嫌じゃないらしい。ただ、会話がないんだよな……
「焦ってもなんも並んて、それより、魔力操作が上手くなったら、追加でゴーレム増やしや?」
「トト、いきなりなんでそうなるんだよ?」
「分からへんのかいなぁ、ええか? 今のままやと、魔力あるんに使わない状態になるやろ、そんなん勿体ないやんか、それにゴーレムを操ればマスターはゴーレム使いにもなれるんやで?」
ゴーレム使いか、確かになってみたい気持ちはあるな。
「それになぁ、ウチらからしたら、マスターが安全に戦えるんが1番やねん」
結局、トトの意見にアバスを含め、全員が賛成していたので、アバスに頼んで暇があればゴーレムのパーツを加工して貰う事に決まった。
オレは新たにゴーレムを操る手段を考えながら魔力操作でスルトに魔力を流しつつ、自分の限界を調べる時間が続いていく。
道なりに進むと、広い空洞に辿り着いた。
空洞にはゴーレムが二体おり、片方はゴールドゴーレムだ。
金塊や金貨等をドロップするのでかなり美味しい魔物だ。
もう一体が問題だった、初めて見るタイプのゴーレムで水晶のように透き通った体をしている。
言うならクリスタルゴーレムって奴だな。
オレはスルトを使った戦闘をしたいと考えていた。
「オレが戦ってもいいかな?」
突然の発言にオレがパステが驚いていたが、アバス達は賛成してくれた。
「でしたら、我輩がサポートして、パステとシャドーがゴールドゴーレムを相手としましょう。アバス様とトト様は旦那様のサポートで如何でしょうか?」
「えぇー、ボクも戦うの!」
「ヌビス叔父貴! 分かりました!」
まって、本当にシャドーどうしたんだよ! この前から呼び方がなんかおかしいんだよ!
オレのそんな心の叫びは、声に出される事はなかったが、本当に気になるんだよな。
二体のゴーレムがある程度離れている事を確認して、オレ達は動き出した。
スルトに跨ったまま、一気に距離を詰めると、ヌビス達がゴールドゴーレムへと攻撃を開始する。
それと同時にスルトが武器を構える。
スルトの武器はランスを与えてある。採掘に使ったツルハシをアバスが加工した物で、ランスと言いながらも鈍器に近いだろう。
四本の足が力強く動かされ、手に握られた太く鋭いランスがクリスタルゴーレムへと向けられる。
クリスタルゴーレムも此方に気づくと、ランスを掴む為だろうか、太い腕を前に伸ばして待ち構えているように見える。
「スルト、行けっ!」
スルトはオレの言葉に更に速度を上げていき、クリスタルゴーレムの伸ばした腕に力強くランスを撃ち出していく。
巨大な掌にランスが振れた瞬間、オレはスルトのランスを握る手の内側を高速で回転させる。
高速回転したランスがクリスタルゴーレムの受け止めた手を削り砕いていく。
上半身を横に逸らして、無事な方の腕で拳を作ったクリスタルゴーレムはスルトの側面から力任せに打ち放ってくる。
ズガンっ!
オレを狙ったのだろう、一撃をスルトが急停止して、拳に合わせるように一歩後ろに移動してギリギリで回避に成功する。
回避された拳が地面に炸裂すると足元の岩が削り取られている。
岩で出来た地面を抉り取るような凄まじいパワーを目の当たりにして、ヒヤッとした。
それでもスルトの動きからすれば、回避は難しくない事が理解出来る。
クリスタルゴーレムの頭部をスルトの手が掴むと一気に力を入れて地面に叩きつける。
直ぐにランスを握り直したスルトが倒されたクリスタルゴーレムの背中からランスを突き立てて勝利する事が出来た。
「やったな、スルト。しかし、あのゴーレム、強かったな」
オレはそう言いながら、スルトに笑いかける。
既に数多のゴーレムを倒してきていた為、ゴーレム素材などがドロップする事は分かっている。それでもやはり、初めて見るクリスタルゴーレムのドロップ品には期待してしまう。
予想外だったのは、ドロップ品が宝箱だった事だ。
「あ、アイツ、ユニークだったんだ!」
宝箱がドロップして、オレ達は初めてクリスタルゴーレムがこの【眠れる獅子】ダンジョンのユニークボスだった事に気付かされた。
既にゴールドゴーレムを討伐していたヌビス達も此方に集まり、全員の視線が宝箱に向けられる。
「あれかぁ? また迷宮酒とか来るんかぁ〜そしたら、最高やんな」
やはりと言うかトトは既に大興奮でパステも鼻息を荒くして興奮しているのがわかる。
ヌビスとアバスは、状況を理解出来ていないシャドーに説明をしている。
とりあえず、宝箱を開いていく。
宝箱の中には複数のアイテムがあり、見た感じは迷宮酒は入っていない為、トトがすぐに頭を抱えてしまったが、中身の確認をしていく。
・ゴーレムコア【絶対服従付与】
・ゴーレムマスターのスクロール
・ゴーレム使いの収納リング
・鑑定の指輪【中】
まてまて、なんか凄いのが来たんだけど、これってかなり大当たりだよな。
流石のアバスも驚きを顕にしている、とくに鑑定の指輪【中】に関しては、本当のお宝ドロップだと口にしているのだから、凄すぎるんだろう。
オレからしたら、全て凄いんだけどね?
「ボクが思うに鑑定の指輪以外は、ご主人様の装備になりそうだねぇ、と、なると鑑定の指輪が問題かな?」
それはそうなってしまうのか? 別にオレがゴーレム系の装備を全て貰わなくてもいい気もするんだけどなぁ?
「オレ以外にも装備できるだろ? 別にゴーレム系の装備を一人占めする気はないぞ」
「わかってないよね……ご主人様は人族でリンクで皆から魔力が集まってるんだよね?」
「まぁ、そうらしいな……」
「でも、ボクやヌビスは獣人で魔力は身体強化とか潜在スキルに流れるからゴーレムなんて無理なんだよ。わかる?」
パステはオレに人差し指を真っ直ぐに伸ばしそう言ってきた。
それに頷くヌビスの姿もあり、オレは二人がゴーレムを使わない事を理解した。
「更に更にだよ? アバスさんとか、トトさんは精霊だよね? 精霊は基本、精霊魔力なのだよ──」
ドヤ顔のパステに質問する。
「精霊魔力って魔力と違うのか? 同じに聞こえるんだけど」
パステの額に苛立ちでピクピクと浮き上がる血管がわかる。
「アバスさんは、精霊魔力を純粋な魔力に変換して使ってるの、しかも、アバスさんは魔玉の力もあって鎧兵達を使えてるけど、普通はそんな魔力なんて、出せないんだよ」
「えぇー! そうなのか!」っとオレはアバスとトトの顔を見る。
「そうだな、我も、トトも、流石にゴーレムを操るなんて真似は出来んな、むしろ、リンクで精霊魔力が強制的に魔力へと変更されるカシームしか扱えないだろうな、シャドーに関しても相性があるからな」
結果、オレがゴーレム系の装備を貰う事になり、鑑定の装備は話し合いでパステが装備する事に決まった。
アバスが装備するか、パステが装備するかで二人が話し合い、アバスは戦闘に専念したいと言う事でパステに決まったようだ。
パステは、耐性付与の指輪が通されたチェーンに鑑定の指輪を通していく。
「ふふふ、これでボクがこの【亜人の団】の鑑定師だぁぁぁ!」
腰に両手を当てて、笑っているパステに早速、ドロップ品の鑑定をお願いしてみる。
「任せて、ボクも使って見たかったから、名前以外分からないアイテムを鑑定するのはワクワクだよ」
最初に鑑定された物はやはり、ゴーレムマスターのスクロールだ。
「これ、やばいよ、ご主人様。因みにこれさ、売る気なら、やめときなよ……間違いなく、厄介事になっちゃうよ」
意味深なパステの言葉に首を傾げるが、そのままパステは話し続けていく。
「このスクロール、ゴーレムコアに魔力を流す事で【服従】の効果を付与出来るのと、ゴーレム系のパーツとかを好きに加工できるみたい……やる気になれば、ゴーレム兵団が作れちゃうやつだよ!」
「そんなにヤバいのか!」
「っと、言っても、コアに流す魔力が半端ないから、普通の人だと、魔力不足で使えないパターンのやつね、まぁ、ご主人様なら問題無いかもだけどね」
そのまま、パステが語り続けてくれて、説明を要訳すれば、ゴーレムを作る際に人族では無理な魔力を消費して【服従】の効果を永続付与出来る。
更に、操る際に指示が伝わりやすくなるが、指示をする為に魔力が起動キーとなる為、大量に使おうとすると魔力枯渇を起こす恐れがある。
メリット、デメリットがハッキリしているのは助かるな。
次に、ゴーレム使いの収納リングだ。
このリングは、ゴーレムマスター専用の装備で、ゴーレムマスターを得ていない場合は普通のリングにしかならない。
効果──
・ゴーレムマスターがある場合、ゴーレムを幾つでも収納可能。
・ゴーレム系のパーツを収納、パーツ作成可能。
・ゴーレムを収納した際、修繕とメンテナンスが自動で可能。
・ゴーレムを収納した際に指示に使った魔力を主に返還する。
これもかなり、尖った装備だ。
最後はゴーレムコア【絶対服従付与】は、そのままの効果に思えたが、意外な事実が鑑定によりわかった。
このゴーレムコアの【絶対服従付与】は、好きな素材をゴーレムコアにする事が可能で普通なら出来ない物もコアとして使える。
例をあげるなら、さっきのクリスタルゴーレムのように、コアにクリスタルを吸収した物なんかも、普通なら作り出せないゴーレムだろう。
早い話が、【絶対服従付与】はコアの素材に対するものであり、新種のゴーレムを作成可能にするゴーレムコアだとわかった。
話を聞いて本当に驚いた。ダンジョンのヤバさを肌に感じた瞬間だった。
だが、効果にメリット、デメリットがわかった今、使わない理由はないだろう。
ゴーレムマスターのスクロールを使い、オレは【精霊士】と【ゴーレムマスター】を手に入れた。更にパステの鑑定で【奴隷の主】【獣人の族長】【亜人の理解者】【魔力を操りし者】【魔玉保持者】と色々な個人情報が追加されていると言われた。
これって、大丈夫なんだよね? いきなり犯罪者扱いとか、危険人物扱いされないよね?
そんな不安を感じながら、オレはゴーレムコアに一つの装備を重ね合わせる。
それは愛用していた黒い短剣だった。
「カシーム、本当に良いのか?」
「ああ、今のオレは余り接近戦も出来ないから、なら信じられる物で、ゴーレムを作りたいんだ」
オレの言葉にアバスが目を瞑り、僅かに考えているように見えた。
「そうだな。すまなかった……カシーム」
「アバスは、反対なのか? 反対なら、やめるけど?」
「いや、むしろ、手持ちの武器を何とかせねばならないなと思ってな、我とした事がすまなかったな」
アバスと軽く会話を終わらせた後、オレはゴーレムコア【絶対服従付与】に黒い短剣を吸い込ませていく。
黒い短剣が完全に吸い込まれるとゴーレムコアは、赤い物から黒い球体に変化していた。
そして、その場でオレは思い描くままに頭の中で想像した細身で高身長のゴーレムを作り上げ、両手には収納型の刃を作りブレードと呼ぶことにした。
そして、全身を短剣と同じ黒い鎧姿にしていく。
オレの描く攻撃型ゴーレムはスピードと攻撃特化型で魔力を流して装甲を強化した物にする。
全身が黒い鎧のゴーレム、スルトが巨人をモチーフにしている為、このゴーレムは龍のようなイメージと言うべきだろうか、名前をヨルンと決めた。
凄まじい魔力が吸い取られたが、魔力操作のおかげでオレは意識を失う事はなかった。
魔力回復ポーションを数本一気に飲み干すと、オレは更にもう一体のゴーレムを作成する。
作るゴーレムは、回復をメインにした物だ。スルトとヨルンが男をイメージしている為、回復役は女型にする事に決めた。
水晶のゴーレムから印象を受けた事もあり、美しく透き通った女性のゴーレムを作り出す。
人形のような丸い瞳に髪の毛を思わせる加工を加え、頭にはシスターの使う被り物をイメージして装着させる。
自衛の為、両手にはヨルン同様にブレードを忍ばせる。
装甲も軽くロングスカートタイプにして、可動域を殺さないように、部分部分に繋ぎを設けていく。
そんな事をしながら作っていき、最後に名前を決める。
名前は、エイルとした。
次の瞬間、オレは鼻血を出してその場に倒れていた。完全な魔力枯渇だった。
再度、オレはやらかしてしまったのだった。




