40話・分かれ道の先に3
ふわふわとした夢の世界から意識がハッキリとしていく感覚、目が覚める時、特有のスッとした感覚に意識が包まれた瞬間、オレは柔らかい感触を頭の後ろに感じていた。
「目が覚めたんだね。ご主人様、ずっと寝てたから、皆で介抱してあげたんだよ。まぁ、ボクのタイミングで目覚めるなんて運命かな! ふふふ〜」
よく理解出来ないがパステが頭上からオレを見下ろす形になっており、ストレートにその表情が確認出来た。ストレートの意味は、あえて言わないが、真っ直ぐに顔が見えるとだけ、言っておこう……
「何を言うとんねん? ついさっきまでウチがマスターを膝枕してたやんか! つまり、パステ、アンタの膝が柔らかさがたらんかったんや!」
「そ、そんな! つまり、起きたんじゃなく、起こしてしまったって事です!?」
賑やかな会話が頭上で繰り広げられていくと、不意にアバスの声が混ざってきた。
「ヌシら、そんな事を言ってないでカシームに飯を食べさせてやってくれ、昨日から食事も取らずに魔力を使い果たしたんだからな」
その言葉に直ぐに起き上がろうとするが身体が怠く、起き上がるにも力が入らない……むしろ、声が上手く出ない事に今更気付かされる。
「カシーム、暫しの我慢だろうが、今は介抱してもらうのだ。飯を胃に流し込み、集中しろ」
アバスの言葉を聞き、何とか口を開く、次々にトトとパステから野菜のスープが口の中に入れられていく。
火傷しないように冷ましてあるのか、飲みやすく、そこにパンがちぎって浸されている為、パン粥のように食べやすかったのは本当に助かった。
食事があっさりと終わると、アバスが立てかけられた様に座らされたオレの横に腰掛ける。
「カシーム、お前には話してなかったが、魔力を自身に感じた事はあるか?」
質問されたが、未だに上手く声が出せる気がしないので首を左右に振る。
「そうか、ハッキリ言えば、お前は魔力がかなり多くなっている。理由は分かるか?」
最初同様に、分からない為、再度同じように首を動かす。
「ならば、何故、人がリンクなどを使ってパーティーを組むのか、そこから話さねばならんな」
パーティーリンク──
冒険者パーティーを組む際に互いの存在を認識し、居場所等が何となく把握できたり、ダンジョンに入る際にもリンクでパーティー確認が魔導具で行われる。
大会などではリンク者を特定する魔導具により賞品の所有権が決められたりと冒険者パーティーは当たり前に使う事が出来る。
何故使えるかは分からないが、自然と誰でも使える潜在能力のような物だ。
しかし、人間以外の種族を一人しか加える事が出来ず、二人目の種族をパーティーに加えるとリンクが発動しなくなると言う問題も存在する。
その為、獣人を含む亜人種などはパーティーに入れない事も多々あり、亜人種は亜人種と、人は人族とパーティーを組むのが一般的になっている。
しかし、アバスからは予想外の説明を聞かされる事になる。
アバス曰く、人族が他種族とリンクを組めないのは、本来の最低魔力値が低く、亜人種の魔力量に対して耐えられなくなり、リミットが再構成される為、亜人種が最低ラインとなり、人族の魔力量を感知しなくなるからだそうだ。
魔力量が多い魔導師などなら、パーティーリンクに引っかかるかもしれないが、それ程の魔力量を有する者がリスクを天秤に掛けてまで試す事はない。
獣人ならば、その膨大な魔力を体力強化や筋力強化に自然と使っており、魔力量が少ないと誤認されやすいが、目に見える魔力よりも身体面に使われている魔力が多いのだ。
異能を容易く操るアバスやトトもまた、魔力量は凄まじく、魔物であったシャドーも例外ではない。
またここにきて、人化の術やスクロールについても新たな話を聞くことができた。
人化の術は、本来、人の形になるだけでなく、リンクを持たない者に基本の潜在能力であるリンクを与える為の物であり、オレは意図せずにアバスやシャドーに人化のスクロールを使いリンクを付与した事になっていた。
だから、シャドーの時もアバス本人の時も人化のスクロールを拒まなかったのだと納得させられた。
話が逸れたが、パーティーリンクについて、他にも幾つかの特権がある。
それは、リンクした者は力を共有する事と一点に集中する事が可能になると言う事だ。
俗に言う英雄譚などで、「仲間の思いが一つになった」等と書かれているが、それがリンクの一点集中の力らしい。
そして、共有はパーティーリンク中は、仲間の力を僅かに分け合う事らしく、オレは五人から力を与えられ、人族では有り得ない程の魔力と筋力を既に手に入れていると言われたのだ。
たが、幾ら強くなっても基礎が出来ていないのだ、美味い食材を使っても、調理法を知らず、台無しにするのと同じような物で、今のオレは与えられた力が制御しきれていない為、ゴーレムに過度な魔力を流し過ぎて魔力枯渇になったらしい。
人族でもゴーレムが作れると言うのだから、本当に馬鹿げた魔力量を注いだようだ。
話を聞きながら、次第に動かせるようになった手を強く握る。
「ア……バス、上手く……なりたい」と掠れる声でオレは懇願した。
「うむ、任せよ。我だけでなく、我らがカシームの力となり、支えよう、お前が我らの主であるのだからな」
アバスから初めて、主と言われて、少しだけ、不思議な感覚になった。
「仲間だよ、アバス」と、自然に返すオレがいた。
最近、自然と成人したばかりのオレでは無いような、大人のような思考や発言があったのも、皆と繋がり、思考等がリンクしているせいなのかもしれない。
理解力が増した事は本当に有難いし、言いたい事が理解出来るから本質が見えてくるんだと分からされる。
「なあ、カシーム。我はあの日の出会いを運命だと思っている」
「オレもだよ」
壁にもたれかかったまま笑うオレ達を見てトトとパステがむくれているのが顔が見えた。
「マスターは、女たらしやな!」
「だよだよ、ボク達のご主人様は、たらしだよ!」
耳が痛くなるように言われても嫌な気はしないな。
「オレはたらしなのかもな、でも皆といられるならそれでいいや」と今できる全力で笑った。
ヌビスとシャドーもそんなオレ達の会話を優しい顔で見ていた。
体力が回復した後は、アバスとトトによる魔力操作の基礎を叩き込まれていく。
今までは乱暴に魔力を扱っても枯渇する事がなかったが、ゴーレムを操るなら、魔力操作は絶対に必要だとハッキリ言われたからだ。
その為、アバス、トトに挟まれながら、手を繋ぎ、オレは円を描くように座っている。
「もう一日かけて、魔力操作の基礎を叩き込む。皆にはすまぬが、カシームの為だ我慢してくれ」とアバスが言うとメンバーの皆はあっさり了承してくれた。
最初は魔力の流れってのが本当に分からなかった。だって、そうだろ? 指を動かす時に頭で動かしたいと思っても動かないように、魔力も考えるよりも、自然に出来て当たり前なのだそうだ。
だから、今のオレは立てても歩き方が分からない赤子みたいな物であり、二人に手取り足取りで学ぶ他ないのだ。
「カシーム、もう少し強く、魔力を流すようにイメージしてみよ、だが、強く流し過ぎては無駄になるから注意しろ」
「大丈夫や、ウチが流れをサポートしたる! ただ、感覚はしっかりモノにしいやぁ〜」
数分が、十分になり、数十分が、一時間になっていく、一日の中でこれ程、自由に体を使えない感覚になる日が来るなんて考えもしなかった。
それでも、確実に魔力操作の基礎は手に出来た気がする。
掴まり立ちから数歩、歩いては尻もちをつくような感覚なのだろうが、オレは自身の魔力を感じられるくらいには魔力を理解する事が出来たのだ。
本来、人族が精霊や妖精などから魔力を流されれば、数日は魔力酔いで動けなくなるそうだ、オレは知らずにパーティーと言う形でゆっくりと慣れていた為か、魔力酔い等にはならなかったのでホッとしている。
仮に三日も動けなくなったら、皆に合わす顔がないからね。
結果だけ言えば、魔力操作は出来るようになりました、代わりに全身激痛で酷く、魔力を感じる為に魔力器官を無理矢理拡張した結果だった。本来ここに魔力酔いが重なると考えたら、まだマシだろう。
結局オレの都合でゴーレムに一日、魔力操作に一日、動けなくなり一日、三日間もの大切な時間をメンバーに使わせてしまった。本当に反省しかないや……




