39話・分かれ道の先に2
進む道を決めてからは早かった、上がり坂をただ、ひたすらに進んでいた。
六階層に入ってから最初に出会った魔物はストーンゴーレムだった。
デカイ巨体に太く頑丈な腕、厳つい岩の頭はヘルムの様な形をしていて少しカッコよく見える。
「アバス、あれ格好良いよな!」
「落ち着け、見た目のセンスは認めるが、あれは敵だぞ、カシーム」
「分かってるけどさ、あんなのを作れたら格好良いよな!」
そんな会話をしているとシャドーから──
「アバス姐さん! カシーム兄貴! 手伝って下さいよ!」と、声がかけられる。
「いっけね、今行くよ!」
オレとアバスも加わり、ゴーレムを討伐していく。
この階層の魔物はゴーレム種であるようで、ストーンゴーレムや、ブロックゴーレム、ダイヤモンドゴーレムなど、数多の種類を確認することが出来た。
そして、どのゴーレムもロマンの塊と言うべき見た目でオレはゴーレムが欲しくて仕方なくなってしまっていた。
「ゴーレムってさ、何とかならないかな?」
オレの「何とかならない」の言葉にヌビスが軽く首を傾げ、顎に手を当て思考する。
「ゴーレムにはゴーレムコアが御座います……コアさえあれば……ゴーレムは作れますが、操るとなると話が変わってまいりますな」
ゴーレムコアを手に入れても、ゴーレムを操れない事実を教えられてなんとも残念な気持ちになったが、それは普通のゴーレムに限った話であり魔玉の異能を発動させて、操るゴーレムならば問題は無いだろう。
ただ、オレはアバスみたいに上手く鎧を操れない事も考えると課題が山積みな気がする。
しかし、そんな悩みを吹き飛ばすように次から次にゴーレムが出現し、幾つかのゴーレムコアをゲットする事が出来た。
ゴーレムコアには、ゴーレムを生成する為のアイテムであり、一度使えば失われるタイプのアイテムなのだ。
自分好みのゴーレムを作製しようと考えたら、色々試したいがそんな数のゴーレムコアは絶対に手に入らないだろう。
誰かが言ってたが、ゴーレムコアを使って美しい造形の人形を動かしたり、四足歩行の魔獣型のゴーレムが作られたりとゴーレムには男のロマンしかないのだ。
ただ、問題はやはりヌビスの言う通り、自由に言うことを聞かせるのが難しい事実だろう、【人形使い】のジョブがあれば、ある程度のサイズのゴーレムを使えるだろうが、オレ達にそんなジョブ持ちはいないのだ。
つまり、ゴーレムを作っても、敵にしかならないのだ!
「おい、カシーム? 何を難しい顔で悩んでおるのだ」
アバスの言葉に現実に戻されたオレは改めて目の前に集まる十体程のメタルゴーレムに溜め息を吐いた。
「コイツらが自由に使えたら、オレもかなり強くなれるのになぁ」
「詰まらぬ事を考えるな、それに鎧兵を操るのに必死のカシームではゴーレムは荷が重いと思うがな?」
「わかってらい! でもなんか、中身が無いのが変な感じで上手く動かせないんだよなぁ」
そんな事を話しながら、オレ達のゴーレム狩りは続いていき、気づけば12個のゴーレムコアをドロップしていた。
どうしてもゴーレムを作りたい……一体くらいなら、いいよね……とか、思うけどミネットの件で迷惑をかけたし、今は良くないよね……はぁ。
色々と考えてるのは成長だってアバスが言ってたけど、悩みすぎて頭が痛くなりそうだな。
「ご主人様、何を難しい顔してるの? 似合わないよ」
「パステ、あかんて、そんなストレートにいぅたら、流石のマスターも傷つくやん、ぼちぼち聞かなアカンで、マスターどないしたんや? 聞いたるから話してみ」
人の悩んでる姿に言いたい放題なんだけど、無言とか無視よりはずっと助かるかな、とりあえず、トトの言葉に従って自分の考えを話してみる事にした。
「ふむふむ、つまり、マスターは、ゴーレムを作りたいんか、作ったらええやん?」
意外にもあっさりそう言われると、パステがアバス達に休憩を申し込み、その場で休憩が開始される。
休憩を理由にトトがオレの考えをメンバーに話し出したのは予想外だった。
「ちゅうわけで、マスターが少し時間欲しいみたいなんやわ、ウチは構わへんと思うねんけど、皆はどうやろ?」
「我は構わんぞ。カシームはずっとゴーレムと悩んでたしな」
「ボクも構わないよ、むしろ、ゴーレム作りたいとか、ご主人様ったら可愛いです。ふふふ」
そんな感じに皆からは許可が貰えた。その為、急遽、ゴーレム作製の時間がオレに与えられる事になった。
正直に言えば、嬉しいが、少し申し訳ない気持ちもある為、なるべく、早く作るように考えていく。
メタルゴーレムの素材を一度、アバスに頼んで形を変化させて貰う、オレが出来たら良かったが、上手く加工が出来なかった為、アバスに頼む事になり、重厚な鎧兵を思わせるボディが完成し、頭部は以前アバスが使っていた兜を使わせて貰い融合するようにメタルゴーレムの頭部と混ぜ合わせていく。
瞳部分を単眼にして上からツノ付きへルムを重ね合わせる。
腕はメタルゴーレムの物をそのまま流用していき
、脚部を四足にする為、馬の様な形の足を作り出して貰う。
全てのパーツを組みあわせながら、各パーツに異能に反応しやすいように内部を鉄素材で作った骨組みで埋めていく。
幸い、足りない部分の鉄などはダンジョンの壁等から拝借し、軽い休憩の筈が、一日がかりのゴーレム作製になってしまった。
しかし、ゴーレムの形が次第に見えて来ると、パステ、トト、シャドーが瞳を輝かせ、アバスとヌビスも満更ではない表情を浮かべていた。
そして、オレのゴーレムが完成した。
ゴーレムコアを心臓部に嵌め込むとコアを中心に光が駆け巡り、ゴーレムが動き出す。
「カシーム! こやつを制御しろ! お前のゴーレムなのだろう!」
アバスの声に直ぐに異能を発動して、ゴーレムコアに異能を同調させていく。
それは凄まじい力でオレの制御を振り払おうと抵抗しているのがわかった。
わかったからこそ、オレはただ強く意志をコアに流し込んでいく。
「オレがお前の所有者だ! 大人しく従えぇぇぇッ!」
ゴーレムコアから次第に力が抜けていくのを感じる。そして、声が聞こえた『主に従う……名を要求する』
「なら、お前はスルトにするよ。宜しくなスルト!」
満面の笑みを浮かべてそう口にすると急な眠気に襲われた気がする。
フラフラする身体が意思に反して倒れそうになると、スルトが手を伸ばし、オレを支えてくれた。
なんか、言えばいいのに、無口なヤツだな……
「ありがとうな、スルト……」
オレはそのまま、意識が遠のいていくのを感じながら眠りについた。
薄れ行く意識の中でアバス達の声が聞こえた。
「ふむ、カシームは魔力枯渇か、無理をしたようだな……」
「せやね、まぁウチらからしたら、ホンマに凄いマスターなんやけど、自覚が無いからなぁ、目覚めたら色々教えたらなやな……」
そこでオレの意識は完全に夢の世界へと途切れて行った。




