表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/51

4話・ダンジョンの憑依精霊アバス

 松明に照らされた通路の先に、動くモノがあり、カシームは直ぐに短剣を握る。

  ゆっくり近づいて行くとそれは突然、カシームへと駆け出してくる。


 片手に石を研ぎ作ったであろう鋭い石のナイフを手にしたゴブリンがカシームに向けて襲い掛かる。

 咄嗟に回避したがゴブリンの石ナイフはカシームの腹部を軽くかすり、服には小さく血が滲み出していく。

 後ろ側に駆け抜けたゴブリンは方向転換する。

「ぐがあああッ!」っと、声を出しながら再度、石ナイフを手に飛び掛かってくる。


「てぇ、うわぁぁぁッ!」

 飛び掛かって来たゴブリンに向けて足を前に踏み込み、短剣を突き出し心臓目掛けて力一杯押し込んでいく。

 ゴブリンは悲鳴にも似た断末魔を放ち、カシームの力一杯の一撃はゴブリンを押し込む様に壁まで叩きつけると壁に背中をつけた状態でゴブリンは力無く石のナイフを手から離す。


 その後、カシームはゴブリンの首を切り落とし、魔石を回収すると再度、ダンジョン内部を歩いていくのだった。


 そして、現在……ダンジョンで数体のゴブリンとウルフを倒したカシームは傷の痛みに耐えながら歩みを進めていた。


「本当にまずいかもしれないなぁ、体が痛すぎるし、だんだん、魔物が強くなってる気がするし」


 独り言を呟きながら、ダンジョンを歩くカシーム、一度は戻ろうと考えたが入口に向かう途中で倒したゴブリン達がダンジョンから生み出され、復活する姿を見て、それを断念せざるを得なかった。


 既に複数の低級魔物を倒していたが、再度、同じ数の魔物を相手にする事は困難であり、それならば、まだ単独で向かってくる可能性がある先を目指した方が生き残る確率が高い感じ、更に言えばダンジョンにあるとされる宝箱さえ見つかれば、回復アイテムが手に入る可能性があると幼いカシームも理解していたからだ、しかし、今、その決断を後悔していた。


 ダンジョン内にて、すでに見つけた宝箱は三つ、一つは通路に無造作に置かれており、中にはアルル草の束が入っていた、二つ目は通路に脇道があり、その先に存在していた。

 二つ目の宝箱の後ろには二体のウルフが入れられた檻があり、宝箱に触れようとした瞬間に檻が開き、戦闘となった。

 中身は緑色に輝く液体の入った小瓶であり、それはマジックポーションだ、本数は一本であり、お宝としても微妙という他ない。

 最後の一つは、二つ目と同じように脇道の先に存在していたが、カシームは開く事を断念した。

 理由は、宝箱の後ろの檻が八つもあり、無理だと即座にその場を後にしたからだ。


 結果として、回復アイテムは何も手に入れられないまま、ダンジョンを更に移動し続けていた。


 ダンジョンに潜ってから数時間、カシームに限界が近づいていた。


 そんなカシームの目の前に、突如、ダンジョンに似つかわしくない装飾が掘られた構造物が目にはいる、入口であろう、その先には広い闘技場のようなスペースが広がっていた。

 しかし、カシームが驚いたのは、その手前にあった光の壁であった。

 薄っすらとベールのように入口に掛かった部屋が存在している。


「安全エリアだ、助かった……」


 安全エリア・・・ダンジョンにランダムで存在するセイフティーエリアだ。

 例外として、各フロアボス前とダンジョンボスフロア前に必ず存在している。


 急ぎ安全エリアに入ろうとした時、カシームの視界にダンジョンには似つかわしくない物が目に飛び込んでくる。

 小さな布袋であり、一見すると自身が身につけている財布袋のようにも見える。

 警戒しながら、その小さな布袋に近づき拾いあげるすると何処からか声が聞こえた。


「ダレだ……誰かいるのか?」

 その声にカシームは周囲を見渡し短剣を握る。


「誰だ! 誰かいるのか!」

  カシームの大声がダンジョンに響く。


「バカヤロウ、早く安全エリアに入れ! 魔物が集まっちまうぞ」

 そう声がして、カシームは慌てて安全エリアの中に走り込む。


 安全エリアの前をウルフが数匹走り抜けて行くのを室内から確認するとカシームは深い溜め息を吐く。

 安全エリアは魔物からは見えない、入れない訳ではないが、魔物が安全エリアを認識しない限りはただの壁にしか見えず、認識しない限り触れても壁と変わらないので入る事が出来ないのだ。


 一呼吸を置いた直後、カシームの耳に再度声が響く。


「オイ、大丈夫か?」

「え、あ、うん……えっと……」

 再度、周囲を確認するも、誰の姿も確認できない。


「こっちだ、オマエさんの手のなかだ」

そう言われ、カシームは自身の手に握りしめていた小さな布袋に視線を向けた。


 視線の先の小さな布袋には口と目があり、しっかりとカシームを見ながら話をしている。


「うわぁ!」慌てて小袋から手を離すと距離をとる。


「落ち着けよ? 敵じゃないからよ、それにまずは傷を治せよ、ボロボロじゃないか」

 そう言うと、袋の頭が開き、中からポーションと薬草がその場に現れる。


「これって、いいのか?」

「構わない、むしろ、今から話を聞いてほしい、その為にやるから聞いてくれないか?」


 カシームがポーションと薬草を受け取ると使い方を最初に説明してから、自己紹介が開始される。


 布袋の名前は アバス 魔物ではなく、憑依精霊であり、カシームに自身の主だった存在の最後の姿を見たいと懇願したのだ。


 アバスの主だった男は冒険者であり、このダンジョンを発見した最初の人物であった。

 未開拓エリアの調査中に偶然、ダンジョンを発見し、内部の調査を開始した。

 装備もアイテムもしっかりと持っており、新発見のダンジョンでも一階層の調査ならばなんら問題ない存在であり、順調に一階層の調査を進めていた。

 しかし、一階層のフロアボスの部屋に入った時、異変が起きた。


 宝箱の一つを開いた際に掛けられた呪いが一気に強化され、冒険者の男を蝕んだのだ。

 呪いが掛けられた当初は大した影響が無いため、普段からソロ冒険者として活動していた事もあり、問題ないと判断していた男は、フロアボスを討伐後に地上の何処に転移されるのかを確かめるべく、ボス戦を強行したのだ。


 しかし、突然の呪いの加速に男は実力を出せず、アバスを自身が殺される瞬間に入口目掛けて最後の力を振り絞り投げたのだ。

 男が息絶えた瞬間、ボスフロアの入口を塞いでいたバリアが消え、アバスはダンジョンの通路へと投げ出されたのだった。

読んで頂きありがとうございました。


ブックマークや感想、誤字など、ありましたらお願い致します。貴重な時間をありがとうございました(*・ω・)*_ _)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ