38話・分かれ道の先に1
扉を開きボス部屋の中に入ると、以前に冒険者ギルドで話に聞いたトロールが此方に背中を向けて座っていた。
座る後ろ姿と同時にオレ達の目に入って来たのは複数の魔物だった肉の塊であり、それを無我夢中で食べ続けている。
何処から魔物を手に入れたのかは分からないが、トロールはオレ達を無視して食事を続けていく。
バリバリ、ガブガブと咀嚼音は不快でしかないが、食事中は攻撃してこないようなので、全員で一斉に襲い掛かる。
トロールに近づいていくと、片手に握っていた魔物の死体を振り向きざまに此方に投げてくる。
力強く握られて投げ放たれた肉の塊は、大砲の一撃とかわらず、回避するとボス部屋の壁に勢いよく叩きつけられて肉が周囲に飛び散っていく。
回避された事実に怒り、トロールはその巨体を起き上がらせると、ゆっくりとした動作で走っているオレ達に向けて両手を広げて雄叫びをあげた。
紫色の肌に四メートルを超える巨体にはその巨体に相応しい巨大な棍棒が握られており、ギョロリとした二つの黄色い瞳、頬まで伸びた口には、先程まで食べていた魔物の血が滴っている。
オレ達は既に武器を構えており、左右に飛んだアバスとシャドーが同時に斬撃を放ち、トロールの腕を左右から斬りつける。
アバス側の腕が完全に切断されるトロールが絶叫をあげ、それに続いてシャドー側の腕が宙を舞う。
だが、トロールは自己再生能力を有している魔物であり、オレ達の目の前で切断された筈の腕が再生していく。
「流石トロールと言うべきか?」
「アバス姐さん、回復が早いですよ」
シャドーがアバス姉からアバス姐さんと呼ぶようになっている事は置いといて、その凄まじい再生能力は本当にびっくりする。びっくりはするんだ……
「よいかシャドー! どんだけ斬っても復活する魔物等、中々出会えん、良い的だと思い、全力で叩ききれ!」
「はい、アバス姐さん!」
オレ達は初撃のみ、全員で攻撃したが、その後はトロールを相手にアバスとシャドーが鍛錬の如く、剣を振り、切り裂いては復活するトロールにこの二日間の鬱憤を晴らすように次々と斬撃を振り抜いていく。
他のメンバーも二人が気の済むまでやらせようと言う話になりオレ達はマジックバックに入れていたお茶と串焼きなどを取り出し、二人が満足するまでボス部屋のすみで時間を潰す事にした。
「ご主人様、この串焼き美味しいね。まだ暖かいし」
「だろう、商業の街の屋台で買ったんだが、また買っときたいよな」
「トト様、我輩は酒は……」
「ええやんかぁ、たまにはつきあいや、それともウチの酒が飲みたくないんかぁ!」
そんな具合にオレとパステはお茶と串焼きを食べ、ヌビスはトトの酒の相手をしている。
オレ達が軽く楽しんでいると、突然、バタンッ! っと、倒れるトロール。
回復が追いつかなくなり、トロールが限界を迎えたのだ。
アバスとシャドーが宝箱を握り、此方に戻ってくる。
いつものように宝箱を開いていく。
・トロールの財宝、金貨1500枚
・回復のハイポーション
・回復術式のスクロール
・帰還石──五個
トロールのボス宝箱からはスクロールがドロップした。
「まじか、スクロールがドロップしたよ……」
オレは予想外のスクロールドロップに驚きを顕にしていた。
スクロールは回復系だが、今いるメンバーは皆アタッカーであり、パステに関しては回復力半減のスキルがある為、使うのは保留として次の階層へと足を踏み入れていく。
六階層へと進んでいく。
幾つかのトラブルはあったが、数日で六階層まで辿り着いたオレ達は間違いなく強い、オレはまだまだだけどね。
むしろ反省ばかりのダンジョン攻略になってる気がするから気を引き締め無いとな。
六階層は、鉱石などが美しく輝く鉱山エリアだった。
所狭しに青白く輝く鉱石や赤く情熱的な強い輝きを放つ鉱石等が通路一面に煌びやかな世界を作り出していた。
幾つかの鉱石を砕き、マジックバックに記念としてしまっていく。
「しかし、綺麗だな? 採掘道具も持ってきたら良かったな」
「呑気やなぁ、まぁ気持ちはわからんでもないなぁ、この宝石一つで、幾らになるんや?」
トトの返答にオレも同意見だが、ピッケルや、つるはし等は手持ちにない、武器で採掘すると刃こぼれ等が恐ろしいので少し悩んだが、以外にもアバスがあっさりと悩みを解決させてくれた。
「我とカシームなら問題なく採掘出来るはずだな」
「え、どう言う事だよ、アバス?」
アバスは徐ろに壁へと手を当て、魔玉【鋼鉄】の異能を発動させる。
壁の表面に鉄の成分が集まりだし、他の異物が次々に地面に転がっていく。
鉄以外の鉱石が次々に壁から取れて落下していく様には本当に驚いたし、アバスの手に集められた鉄がつるはしの形になっていたのも驚かされた。
「掘り足りないのだろう、ならば、掘るしかあるまい!」
アバスの一言で、オレ、シャドー、アバスの三人で急遽、採掘作業を開始する。
鉄の塊である、つるはしは流石に重く感じる、異能を纏わせて使い勝手を良くしてるオレでもこんなに重いのだから、普通の鉄では無いのかもしれないな。
しかし、鉱石はかなり採取する事が出来てオレ達は満足するまで掘りまくり、やっと休憩を入れる。
見張りをしてくれていたヌビス達がお茶を用意してくれており、全員で温かいお茶で一服する事にした。
ダンジョンとは、思えない様なのんびりとした時間が流れていると、オレ達の居る通路に向けて足音が近づいてくる。
オレ達の元にやって来たのは六人組の冒険者パーティーだった。
オレ達に気づいた冒険者パーティーが得物を手に、身構えると、オレ達もつるはしをその場に置き、武器を構えた。
「すまないな、魔物かと思ったが、同じ冒険者で合ってるか……」
リーダーて思われる先頭の男性がオレ達に質問をしてきたので、警戒しつつ、返事を返す。
「商業の街の冒険者で【亜人の団】だ。貴方達は?」
「返事があって良かった。俺達はロルクを拠点にしてる【希望の星】ってパーティだ。俺はリーダーのダンテだ」
ダンテは自己紹介をしてくれてパーティーメンバーの人も最初は警戒していたが、今は落ち着いている。
「オレはカシームだよ。よろしくな」
「ああ、よろしくな、それよりも、その先に進みたいんだが、通って構わないかい?」
ダンテはそう言うとオレ達の先に続く通路を指さしていた。
「ああ構わないよ。オレ達は、休んでただけだしな」
「助かるよ。それじゃ、すまないが先に行かせて貰うよ。みんな行こう」
ダンテの声に【希望の星】のメンバーがオレ達の横を通り抜けていく。
オレ達は【希望の星】を見送ってから探索を開始する事にした。
「さっき、【希望の星】はあっちから来てたよな、つまり、あっちにボス部屋は無いって事だよな?」
「そうなるな、我らも、此方に進むのが正解だろうな」
アバスの視線は先程、【希望の星】が抜けて行った方向を見ている。
「なら、向かうとするか」
休憩を終わらせてオレ達も探索の為に歩き出すと、直ぐに分かれ道に差し掛かる。
「どっちに行くかな?」
分かれ道は片方が上がり坂でもう片方は下り坂になっている。
ヌビスは入口を見比べると片方にはマークが刻まれている事を告げた。
「此方には他のパーティーが進んだマークがありますね、迷った際に確認の為の物でしょうか、まだ新しいので【希望の星】の方々が付けた物やも知れませんな」
どちらが正解か分からないが、むしろ、反対側を他のパーティーが探索しているなら、オレ達はその反対を進む方が良いだろう。
「オレ達はこっち側に進もう、もし行き止まりなら、戻ってくればいいしな」
軽く話し合った後、オレ達はマークのない上がり坂の道へと進んでいく。




