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37話・ダンジョンの襲撃者2

 魔物と睨み合う中、パステが援護に合流し、オレとパステは魔物を屠りつつ、ミネットを守っていく。


 ミネットの足には逃げた際に襲われたのだろう、魔物から受けたであろう爪痕が刻まれている。

「大丈夫か、怪我してるじゃないか」

「大丈夫、無痛の指輪があるから、痛くないんだよ……それよりさ」とミネットが言葉を続ける。


 だが、予想外な事が起きた……オレの背後から刃が首に当てられる。


「ご主人様!」とパステが声を出した瞬間、オレの背後から「動かないでくれる?」っと声がする。


 オレの背後に居たのはミネットであり、剣を手にオレの首へと刃を向けている張本人だ。


「な、なんで……」


 質問に対して、ミネットは軽く笑ったように聞こえた。

「分からないよね? カシームって昔から、容量悪い甘ちゃんだもんね。でも、残念だわ」


「残念」っと言う言葉にオレは意味が分からず、質問を口にした。


「どういう意味だよ、ミネット!」


「ふふっ、本当はアンタを仲間割れに利用して、1人づつ、始末する予定だったのにさ……カシームって本当に使えないんだか──」


「黙れよ! ボクのご主人様を悪く言うな!」


 パステがミネットの言葉を遮ると強い殺気を放っている。


 そんなオレは未だに、信じられずにいた。


「他の奴らも動くなッ! 動いたらカシームを殺すよ!」

 戦闘が繰り広げられ、魔物を次々に討伐していく最中に響いたミネットの声に全員が動きを止めた。


 トトと戦闘を行っていたケルトは片腕を失っており、首にチャクラムが振り抜かれる寸前であり、慌てて、距離を取り、ヌビスと戦闘を行ったメルトは既に事切れていた。


 魔物と戦闘を繰りひろげていたシャドーも動きを停止し、ミネットへと視線を向けていた。


 皆が動きを止めるとシャドー目掛けて、鋭い槍が草むらから突き放たれる。

 シャドーの鎧の継ぎ目にしっかりと刺さった槍の先にはタタラの姿があり、見た事も無いような邪悪な笑みを浮かべていた。


「…………」

 刺された筈のシャドーが無言である事にタタラが違和感を感じたのか、槍を抜き再度構える。


「なんだコイツ、硬いし、血もでねぇじゃんか?」


 そんな呟きと同時に別方向からヤハネが姿を現し、剣で背後からシャドーに斬り掛かる。


「確かに硬いな! だけど反撃がないなら楽だよな」


 目の前の光景にオレは悪夢でも見ているんじゃないかと自分の目を疑った。

 しかし、それは現実であり、オレの仲間を元仲間だった同郷が襲っている。


「やめろ!」と声を上げるオレに「動くな、喋るなッ!」とミネットが怒鳴り声を上げる。


「ミネット……やめさせろ……君を殺したくない」


 オレの言葉と覚悟に対して、ミネットは鼻で笑った。


「頭、大丈夫? この状況でアンタの仲間は動けなくなってるのよ、命乞いするならわかるけど、殺したくない? バッカじゃないの! 死ぬのはアンタ達よカシーム!」


 その言葉にオレは覚悟を決めると、短剣を握っていた手を開き、短剣が地面に落下する。


「諦めたの? やっと理解出来たみたいね……でも、アンタは1番最後に殺すは、仲間が死ぬのをその目で見てなさい」


 そんな耳障りな言葉を無視しながら、オレはマジックバックに静かに入れた手で1つのアイテムを取り出す。

 最後まで悩んでしまった自分自身に嫌悪したけど、もう吹っ切れたよ──


 そのままミネットの腹部にそれを突き刺した。

 オレが取り出したアイテムは、大蛇の毒牙だった。

 多分、ミネット達は毒耐性を持っているだろうし、最悪、麻痺耐性もあるかもしれない。

 それでも腐肉耐性は無いだろう……


「触んなよ! 最後に私に触れたかったとか惨めなやつね、なんかしたんだろうけど、私は毒も麻痺も効かないし、無痛の指輪で痛みもないのよ。ダメージも身代わりの腕輪があるから問題ないわ。何しても無駄なんだよ!」


 オレはタイミングを見計らい、大声を上げる。


「皆、攻撃を再開して、反撃だよ!」


 オレの言葉にミネットが苛立ち、刃を再度オレの首に近づけようとするが、その手は動く事はない。


 ミネットは自分に何が起きているか気づかなかったのだろう、既に半身が腐肉効果によりボロボロになり始めており、オレの頭でミネットからは見えなかっただろうが、大声を出したと同時に毒耐性と麻痺耐性の指輪が着いた指は地面に落下していた。

 つまり、無痛の指輪の効果で自分の指が崩れていた事実に気づけなかったのだ。


 指輪を失った事により、ミネットは麻痺と毒、更に腐肉により、動く事が出来なくなっていた。


 そして、状況を理解したシャドーがヤハネに向けて、振り向きざまに大剣を斬りつける。

 咄嗟に回避したヤハネが尻もちをつき、慌てていると、タタラは事態が変化した事に気づき走り出す。


 しかし、タタラの前にアバスが立ちはだかると、槍を構えて突き放つ。

 そんな突きを軽くあしらうと、二本の大鉈が振り下ろされ、タタラの両腕を切断する。


「ぎゃあああ、手がぁぁぁー!」


「我は今、機嫌が悪いのでな……耳障りな雑音を消させて貰う」


「嫌だ、嫌だ、嫌だ! うわぁぁぁ!」


 そんな断末魔の後にタタラの首が飛ばされる。


 タタラがアバスによって首を刈り取られる最中、ヤハネは必死に命乞いをしていた。


「カ、カシーム、俺は反対したんだ、だから、悪かったから頼む、もうお前にちょっかい出さないから!」


 一瞬、シャドーがオレを確認するが、オレは「シャドー、やってくれ」と、口にしていた。


「や、やめ──」

 ヤハネの頭部から真っ直ぐに振り下ろされた大剣は力強く大地を赤く染めた。


 当然ながら、トトはケルトをあっさりと始末してオレの元に戻ってきた。


 オレの足元で体が朽ちて、黒く変色したミネットは未だに意識があるようだが、既に身代わりの腕輪も無痛の指輪も無くなり絶叫している。


「トドメやな!」と、トトがチャクラムを振り上げた瞬間、オレはそれを止めた。


「…………」無言のトトにオレは声を出す。


「オレが招いた結果だから、オレがケジメをつけるよ。トトごめん。ミネット……サヨナラだね」


「ガ……ジームゥゥゥだず……げで……じにだぐなぃ……」


 オレは短剣をミネットの頭部に突き立てると、ミネットは沈黙して、死を迎えた。


 オレはその場で立ったまま、泣いていた……一緒に冒険者を目指しながら畑を耕していた頃の三人の姿を思い出し、スキルがなくても諦めずに強くなろうと四人で約束した日を思い出してただ、泣いてしまった。


 全てが終わると、既にダンジョンには朝日がさしていた。


「カシーム、これも成長だ。泣けるならなけ」と、アバスに言われオレは静かに再度泣いた。


 トトとパステにも抱きつかれ、泣き顔を見られたが、その際の三人の顔は優しいものだった。

 その後はヌビスが「少し休まれた方が宜しいかと」と、言われボロボロのテントで眠りについた。


 少し休んだ後、ミネット達が装備していた装備品はその場ですべてシャドーとパステに頼み砕いてもらった。

 中には珍しいレアなアイテムで、“魔呼びの笛”や、“テイマーの笛”と言った魔物を一時的に操るアイテムもあったが、すべてダンジョンに放置する事にした。

 砕かれた装備やアイテムはゴミとかわらない、その為、誰も持ち帰る事はないだろう。

 ケルトとメルトを含む五人のギルドカードを回収し、その場を後にする。


 中断していた五階層の探索を再開する。


 ミネット達が魔物を操っていた為か出現する魔物は少なく、オレ達は問題なく討伐していき、草むらを掻き分けながら、このエリアを探索してから二回目の滝を発見する。


 滝の傍には、マーマン達が巣を作っており、オレ達は人型の魚達と戦闘を開始した。

 マーマンの武器は槍や矛がメインで、盾などはないが、代わりに網などを武器としている物もおり、滝壺にオレ達を引きづり込もうと他にも鎖や縄などが放たれてくる。


 戦闘は若干厄介であったが、問題なく討伐に成功した。ドロップ品が魚肉となっており、少し不安になったが、とりあえずマジックバックへとしまっておく。


 滝壺の中にはマーマンのコロニーがあり、そこからオレ達へと次々に攻撃を開始する。

 しかし、マーマンは陸地では思うように動けないようで、それを撃退していく。

 幾つか危ない攻撃もあったが結果を言えば大勝利となった。


 探索から二時間程でボス部屋に繋がる扉を滝の側で発見する事が出来た。


 前日からの皆の疲れもあり、安全エリアで一休みしてからオレ達は五階層のボス部屋の扉を開き、中に向けて進んでいく。




 

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