35話・バトルタイプダンジョン3
四階層のボスはスプラから聞いた通り、巨大な蛇であった。
長い体をくねらせながら威嚇している。
蛇型の魔物はその六メートルを超えた巨体を天高く伸ばすと、巨大な口を開き、水弾のように毒液を吐き出してくる。
慌てて回避をすると四方から一斉に攻撃を開始する。
その動きに合わせるように大蛇が巨大な尻尾を振り払い、皆が回避をすると、更にシャドーに向けて毒液を発射していく。
咄嗟に盾を構えて、毒液を受け流すと地面に落下した毒液から霧が発生して周囲に充満していく。
その光景に大蛇が勝利を確信したように口角を緩めたのが確認出来た。
だが、オレ達は既に毒への対策は済んでいる。
毒耐性の指輪が光だし毒が無効化されていく。
毒を直撃した筈のシャドーがなんら問題なく攻撃に参加する姿に大蛇は慌てて連続で毒液を発射していく。
全員がその瞬間を待ちわびていた。
「3発、4発、5発、今だッ!」オレの掛け声で【亜人の団】のメンバー全員が一斉に得物を構えて攻撃を開始する。
アバスが二刀流の大鉈を力強き大蛇の体に滑らせていく、無数の鱗が勢いのままに剥がされ、次の瞬間には別方向からシャドーが握った大剣を体内を貫くようにして、角度をつけて突き放たれる。
激しい攻撃に大蛇が頭を天高く伸ばした瞬間、腹部に目掛けて、パステが金棒を振り放ち、スキル【代償】を発動する。今までのダンジョン内で蓄積されたダメージが金棒に込められると、自身にも反動が返って来る事にもお構い無しに、全力で金棒を振り抜いていく。
グッガァァッンッ!っと、普通では聞けないような凄まじい音がボス部屋内に鳴り響いていく。
「グボッァァガッッ!」
なんとも言えない大蛇の声と同時に泡と血が混じった液体が、口から溢れ出して行く。
そのまま意識を失った大蛇がパステへと倒れ込んだ瞬間、ヌビスがパステの元に駆け寄り、一瞬で抱えるとその場から移動する。
オレはパステの一撃が放たれると同時に、駆け出すと、トトに異能を発動するように声を出し、黒い短剣を巨大化させる。
落下する大蛇の首に目掛けて、握った刃を振り抜くと、大蛇の巨体がビクッと、激しく動きその後、痙攣がおさまると首を失った大蛇は沈黙した。
それはオレ達の勝利を意味していた。
最初から対策を知っていた事と耐性があったからこそ、余裕の勝利に見えるが普通に強敵だと思う。
大蛇の戦力を考えたなら、オレと同い年で五階層に既に進んでいるミネット、タタラ、ヤハネの三人は本当に凄いと思ってしまう。
オレがそんな事を考えているとパステが声をかけてくる。
「ご主人様、何が問題でもあるの? どうしたの」
「いや、前にパーティーを組んでた奴らが五階層を進んでるって言ってたからさ、オレっさ、偶然アバスと出会ってから、トントン拍子に今を生きてるんだよな……もしも──」
「そこまでだよ! ご主人様の今はご主人様が選んだ結果じゃん、つまり、他と違う道を選んだからアバスさんやトトさん、それにボクと出会ってくれた訳で……だから、自分を悪く言わないんだよ!」
言いかけた言葉を遮られて、パステに慰められてしまった。本当は「もしも、違う道でも皆とあってパーティーになれたかな?」って言いたかったんだけどな……
会話が終わった辺りで、アバスが宝箱をこちらに担いで持ってきてくれた。
中身を確認する──
・回復ハイポーション
・大蛇の毒牙
・大蛇の肉
・魔石(中)
・帰還石──四個
大蛇の肉は、とりあえず、焼いたら食べれるらしいので後でアバスに調理をお願いしてみようと思う。
問題は、もう一つのドロップアイテムで、大蛇の毒牙だろう……これは突き刺した相手に猛毒を与える上に、麻痺毒、回復阻害、腐肉効果があるヤバイ物らしい。
因みに、この情報はヌビスから貰った情報だ。
生前に、ダンジョン以外の場所でも大蛇に遭遇して仲間と討伐した経験があり、大蛇の毒牙をドロップした事があるらしい、っと、言っても同じ大蛇の毒牙かは不明なので仮の情報になる。
詳しく鑑定をしたいが、今は無理なのでとりあえずは、保留アイテム扱いでマジックバックへと入れておく。
結局、五階層に入るまでに一日を使ってしまったが、寧ろ一日で五階層に辿り着いたと言うべきだろうか、オレ達は転送陣に乗り、五階層へと移動する。
出来ることなら、スプラさん達には無理をせずに帰還石を使って欲しいと思う。無理をすれば命が簡単に無くなるのがダンジョンだからだ。
オレ達は五階層に辿り着いた。
そこは自然エリアに似ていたが、湖や綺麗な滝といった物もあり、ダンジョンの中に居ることを忘れてしまいそうになってしまう光景だった。
空には鳥型の魔物が飛び回り、ジャングルってやつに見える。
水辺にあった平らな場所でテントを用意し、アバスとパステが料理を開始する。
オレはトトを連れて、湖の中にいた魚型の魔物を取りに向かった。
湖にいたのは、クレイジーフィッシュと言う肉食で魚型の魔物だ。
他には、ブラックシュリップといった巨大な海老の魔物などがいた。
新たな食糧として次々に討伐して、魚肉や海老肉などのドロップアイテムに替えていく。
ある程度の数を討伐した辺りでオレ達の背後から唸るような声が聞こえてくる。
直ぐに振り向くと、そこにはビッグジャガーが二体、こちらを狙って近づいて来ていた。
「デカイ猫?」
「アホかァ! マスターはあんなデカイ猫が居ると思うんかァ! ビッグジャガーや! ビッグジャガーッ! 牙と爪が武器の魔物やな」
そんな会話をしていると、突然、二匹のビッグジャガーが一斉に飛びかかってくる。
オレは黒の短剣を構えると、片手でワイヤー付きクナイを四本取り出し、投げるのではなく、そのままワイヤーを異能で操り、自分自身の手足と同じように操れる事を確認すると、目の前で飛び掛かってくるビッグジャガーに向けてワイヤーを操り防御と攻撃を同時に行っていく。
ビッグジャガーはワイヤーを必死に回避するも飛び掛かろうとしたタイミングからのワイヤーを使った攻撃であり、ワイヤーも四本あり、そのすべてが複雑に動く為、オレの攻撃を完全に回避する事は出来なかったようだ。
後ろ足に一度絡めたワイヤーは簡単には外す事が出来ず、前足を必死に此方に向けて繰り出し続けていたが当たる事はなかった。
オレがビッグジャガーの動きを封じている間にトトはチャクラムでビッグジャガーの牙を砕き、痛みで怯んだ隙に容赦なく首を弾き飛ばしていた。
動けなくしたビッグジャガーを短剣の一突きで絶命させ、オレ達は皆の元に戻る事にした。
テント前には、既に低いテーブルが置かれており、適当に切り倒したであろう木が椅子のように並べられている。
テーブルの上に置かれた人数分の器には、暖かそうなシチューが注がれている。更に野菜をちぎった物に塩コショウを馴染ませたサラダとパンが並べられている。
ダンジョンでのしっかりした食事に舌鼓を打ちつつ、その日は見張りを決めてから眠りについていく。
寝てる際も数回の魔物からの襲撃があったが無事に全て撃退し、オレとヌビスが見張りを担当した時間もビッグジャガーやウルフ等からの襲撃があり、この五階層は他のエリアよりも魔物の数が多い事を分からされた。
ダンジョン内に朝が来た。夜があり、昼があり、朝がある。まるでダンジョンとは思えない。
朝食を軽く済ませると探索を開始する。
多くの魔物を討伐していき、次々にエリア内にマークをつけていく。
広いエリアの為、目立つ場所にマークを刻みながら探索範囲を広げていく。
そんな最中、前方の草むらが僅かに揺れ、オレ達は警戒しつつ、得物を構える。
草むらから片足が前に出てきた瞬間、オレは呆気に取られた。
そこから出てきたのは、ボロボロな姿をしたミネットだった。
「ひっ!」っと、オレ達の姿を見た瞬間怯えた声を上げるミネット。
「ミ、ミネット? ボロボロじゃんか大丈夫か!」
オレは慌ててミネットに駆け寄ると事情を聞く事にした。




