34話・バトルタイプダンジョン2
四階層って何処も自然エリアになるんだろうか? 【傀儡師の遊び場】もゴブリンエリアで木々が生い茂ったエリアだったしな。
そんな自然エリアで最初にオレ達を出迎えたのは、蜂型の魔物だった。
ポイズンビーの群れだ。一匹が小型犬くらいのサイズがあり、麻痺毒を針から敵の体内に流し込み、生きたまま食糧にするヤバイやつだ。
一般的な倒し方は、火炎魔法が使える魔導士を仲間に加えるか、火炎スクロールを使い、突破と言う方法、他には虫除けの草をいぶして、弱ったところを撃退するなんてやり方もある。
ただ、オレ達はそんな物は持っていない為、結局、力技になる。
オレのワイヤーを自在に操り、ポイズンビーを数匹づつ撃ち落とし、シャドーが盾を上手く使いポイズンビーを叩き落としていく。
アバスも、二本の大鉈を両手に握り、一気に駆け出していく。
大鉈はゴブリンタイタンが使っていた物だ。
なぜ、二本あるかと言えば、以前オークションで買った復元のスクロールを大鉈の欠片に使用したからだ、欠片でもあれば復元可能であり、その結果、二つの欠片から二本の大鉈を復元する事に成功していた。
シャドーに大剣と大盾を譲ったアバスの新たな武器は凄まじく、風を引き裂くように一振り、一振りがポイズンビーを屠るのに十分な威力を出している。
結果、ポイズンビーの大群を蹴散らし、すぐ側にあったポイズンビーの巣を見つけて、討伐する事になった。
ポイズンビーの巣穴で蜂蜜を大量に手に入れ、空き瓶に次々と入れていく。
美味しそうな香りをしているが、一度加熱して不純物と毒素を取らなければ食用には使えないので味見はお預けになった。
巣には、幼いポイズンビーの幼生体が大量にいた、オレが知る虫の蜂は芋虫なんだが、ポイズンビーの幼生体は、ぬいぐるみの様な見た目で流石に倒す事を躊躇してしまっていた。
寄り道になってしまったが、間違いなくドロップアイテムよりもいい物を手に入れられた。
しかし、自然エリアは通常のエリアよりもやはり広く感じる。
道らしい道がない為、手探りでの探索になり、迷えば確実に遭難するだろう。
何より、この【眠れる獅子】は階段と言う概念がない為、ボスを倒す以外は帰還石を使う以外に途中で脱出する事が出来ないのだ。
ダンジョンで死ねば、装備はそのままに肉体や骨はダンジョンに吸収される事になる。
探索中にボロボロの装備と錆び付いた剣を見つけた。それはまさにダンジョンでの死を意味していた。
装備と錆び付いた剣を一箇所に集め、剣をその場に突き刺す。
「ご主人様……」
心配そうにオレを見つめるパステ。
「大丈夫だよ。ギルドカードだけは、持っていこう……この人が生きた証だからね」
オレ達はこの四階層でこんな防具や武器を幾つか見つけては、墓を作るようにして移動していった。
正直、ギルドカードが見つかる度に、色んな気持ちが込み上げてきた。
彼等はギルドの忠告をオレ達みたいに断った結果、死んだ後も放置されていたのだろう、他の冒険者も金目の物は持ち帰り、ギルドカードは放置したのだろう、そんな事を考えていた。
「カシーム、グラスホッパーの群れだ」
アバスの指差した方向を確認すると空を黒く染めた大量のバッタの姿があった。
「凄い数がいるんだけど!」
「ああ、一匹、一匹は弱いが、数が厄介だ、一旦隠れるぞ。流石に相手をするのは面倒だ」
アバスの指示でオレ達はバッタから身を隠す。
バッタ達はオレ達の頭上を羽音を響かせながら、数十秒かけて通り抜けていく。
向かった先は、先程、倒したポイズンビーの巣があった方向だった。
「やり過ごせたようだな。我も焦ったが、皆、大丈夫か?」
オレも他のメンバーも無事であり、アバスの言葉に頷いている。
「なんで奴ら、見逃していったんだ? オレ達が分からなかったのかな」
その質問にはヌビスが答えてくれた。
「旦那様、奴等は、ポイズンビーの幼生体を狙って移動したのでしょう、昆虫型の魔物は縄張りと言うより、弱った物から狙うものですからね」
つまりはオレ達が倒したポイズンビーの巣に向かったのだ。わざわざ、幼生体を始末する必要ないと放置した結果だった。
しかし、オレ達にポイズンビーを助ける義理はない、無いはずなのに……
「ごめん、アイツらを倒したいんだ!」
オレは馬鹿だと思う、むしろ仲間を危険に晒す選択をしている。間違いなくリーダー失格だ。
「本気か、カシーム?」
「まじか! マスター?」
そんな言葉がアバスとトトから聞こえて来たが、オレが頷くと二人とも悩まずに、踵を返すと直ぐに移動を開始する。
オレ達がポイズンビーの巣に辿り着いた時、既に大量のグラスホッパーの群れが巣立った場所に噛みつき、幼生体を襲っていた。
オレ達は直ぐに戦闘態勢に入ると、各自がグラスホッパーの群れを相手に攻撃を開始する。
次々と襲い掛かるグラスホッパーの群れであったが、さほどのダメージはなく、寧ろ、数のせいで討伐が終わらない事が問題であった。
無限に思えたグラスホッパーの群れをオレ達は無事に討伐した。
「ハァハァ、ご、ご主人様、疲れたよ〜」
「ああ、悪いな、オレも疲れた」
パステと一緒にその場で横になって勝利を噛み締めていると生き残ったポイズンビーの幼生体が巣から移動を開始していくさ中だった。
「オレ達が、ポイズンビーを全滅させなかったら、あの巣は無事だったんだよな……なんか悪いことしたなぁ」
「なにを言ってんねん! えぇか、マスター! 奴らもウチらも命掛けてんねん! 寧ろ、助けたったんやて普通ならありえへん。感謝されるんならわかる! 責められんるんはお門違いやっちゅうねん」
トトに活を入れられ、オレはその場で起き上がり、皆に頭を下げた。確りと謝って皆が許してくれた事に安堵したのは言うまでもない。
その後で、アバスからグラスホッパーを討伐しなければ、後に魔物と戦闘があった際に挟み撃ち、もしくは、戦闘後に奇襲にあっていたかもしれないと言われ慰められた。
どちらにしても、オレは仲間を危険に晒した事実は変わらないのだから、自分の甘さを反省するばかりだった。
そこからは動物系の魔物もおりウルフやビッグベアといった魔物と戦闘になったがウルフの群れは問題なく討伐した。
初めて見る魔物でビッグベアは三体で出てきたが、力が強く獰猛な魔物だったが、アバス、ヌビス、シャドーの三人が各自で戦闘を行い、連携を崩すと楽に討伐する事が出来た。
その後、やはりと言うか洞穴の中に安全エリアとボス部屋があり、一度安全エリアで一休みと食事を済ませる事にした。
食事をしていると、一組の冒険者パーティーが安全エリアへと入ってきた。
「え!」っと驚いたように声を上げる冒険者の男。
その声にオレ達も即座に振り向き、武器を構える。
男は慌てて両手を上に上げる。
「ま、待ってくれ、こっちに戦闘の意思はない。頼む中に入れてくれ」
男はそう言うと軽く頭を下げた。狭い安全エリアでは先に入っているパーティーの許可がなければ、後から来たパーティーは諦めるのが鉄則になっている為、男は必死に懇願してきた。
オレ達はそれを了承すると男は直ぐに仲間を中に呼んでいく。
四人パーティーなのだろう、最初に入ってきて、仲間に待ったをかけた事から、リーダーなのかな?
入ってきた男はスプラと名乗り、中に入ってきた仲間達は酷い怪我をした女性が一人、あとは幼い冒険者の男と女が各一人だった。
何があったのかを確認するとビッグベア五体に襲われ、二体を倒したが、その際に仲間の女性冒険者が怪我をしたそうだ。
マジックアイテムなどを使いなんとか逃げ延びたが、再度遭遇すれば勝ち目がないと考え、森でビッグベアをやり過ごしていたらしい。しかし、女性冒険者の傷が酷く、一旦安全エリアへと逃げて来たそうだ。
「帰還石はないのか?」
オレの質問にスプラは首を横に振った。
「私達も冒険者だ、帰還石のようなアイテムを普段は所持しているんだ。だが──」
スプラは、そこから恐ろしい事実を語った。
三階層でボス部屋の前で倒れていた冒険者と出会い、その冒険者の男から仲間がやられ、助けて欲しいと頼まれたのだ。
悩んだが、見捨てられないとその冒険者を含めてボスに挑み、勝利した瞬間、一瞬の隙をつかれて財布袋と帰還石の入った袋を取られてしまい、帰還の魔法陣で逃げられてしまったそうだ。
直ぐに後を追う為に走り出したが、既に帰還の魔法陣は光を失っていたのだ。
男は別パーティー扱いであり、帰還の魔法陣は転送陣と違って1パーティーが通れば、再度ボスを討伐する迄使えない更にバトルタイプダンジョンの為、ボス部屋からは前にしか進めず、結果彼等は四階層に来る他なかったのだ。
スプラ達からアイテムを奪った冒険者はスピード特化のアイテムを装備したシーフだろうとアバスも口にした。
とりあえず、オレ達はマジックバックから回復ポーションを取り出し、女性冒険者へと使っていく。
その光景にスプラは驚きながら、感謝していた。
「ありがとうございます。無事にダンジョンを出たら直ぐに代金は払わせて貰います」
他の幼い冒険者二人もオレに頭を下げている。
因みに幼い二人の冒険者はオレの一つ上の冒険者で男がミロ、女の方がココ、傷を負った女性冒険者はカルアと言うらしい。パーティー名は【勝利の杯】だそうだ。
とりあえず、オレ達は【勝利の杯】に対して、これからどうするかを質問した。
スプラはボスと戦い、帰還を目指すと口にした。
四階層のボスは蛇の魔物で毒液を噴射するが五回噴射すると十分間は巨体を使った攻撃になり、再度五回毒液攻撃を繰り返すそうだ。
話を聞いてからオレ達は顔を見合わせてから、簡単な食糧と帰還石を四つその場に置き、安全エリアを後にする。
「ま、待ってくれ、私達は戦うつもりだ!」
「構わないよ。それにやばかった時に仲間全員で逃げるのも大切なことだからさ。また話そうなオッチャン」
オレ達はその足でボス部屋へと向かって歩いていく。
「ホンマに甘いなぁ〜 マスター、そんなんやと詐欺師に引っかかんでぇ?」
「まぁ良いじゃないか、我はそんなカシームもカシームらしいと思うしな」
「ですね、ボクにも優しかったし、やっぱりご主人様は最高にカッコ優男だよ〜」
女三人が好き勝手言う中で、やはり甘いかなと思ってしまうが、あのまま、見捨てたら多分後悔しただろうから、オレに後悔はない。
辿り着いたボス部屋の扉を開き、オレ達は中に入っていく。




