33話・バトルタイプダンジョン1
準備が整ったオレ達は直ぐにダンジョンへと向かう為、ダンジョン受付へと移動を開始する。
ダンジョンの入り口は冒険者ギルドが管理しており、ダンジョン都市の中心に作られた巨大な石壁の建物の中に存在している。
外観は石壁に白い塗料が塗られていて、ダンジョンと言うよりも教会のような見た目を印象付けている。
先にギルドでダンジョンに入る為の申請を済ませてあるので、ダンジョンのある建物へと入っていく。
建物の入り口では四人程のギルド職員が冒険者顔負けの装備をして立っている。
軽く挨拶をすると、すぐにギルドカードの提示を求められたので人数分のギルドカードを提示する。
「問題ないみたいですね。ロルクのダンジョンは初めてでしょうから、無理はしないようにお願いします」
その後、軽くダンジョンに入るメンバーの名前を欠かされ、最後に職員が一枚の紙を取り出し、説明をする。
「こちらは、1週間ダンジョンから帰還がなかった際に救助依頼をするかどうかと言う物です。冒険者ギルドで冒険者に探索隊依頼を出す為の書類と言う事ですね。初回の探索や新人冒険者様方には必要かと思いますが」
説明を聞いて、オレ達は顔を見合わせる。
「必要かな?」と、とりあえず聞いてみる。
当然ながら、上手く行けば、ダンジョンで長い時間を過ごす事になる。
【傀儡師の遊び場】でも一週間を過ごした経験がある、だから、一週間と言う時間は正直、短い気がする。
「いや、オレ達は大丈夫だよ」
「左様ですか、ではご武運を……」
ギルド職員は軽く挨拶を終えると、別の職員がオレ達を建物の奥へと案内してくれた。
ダンジョン入り口までの通路を進んでいく、通路は大の大人が三人横並びで通れるくらいの広さであり、天井は、オーガがギリギリ通れるくらいの高さになっている。
壁にはヒカリゴケが使われていて、足元までハッキリと見えるのでありがたい。
辿り着いダンジョン入り口には、ギルド職員が見張りとして三人程いた。
奥に伸びるように開かれた穴があり、その奥はやはり暗闇で確認する事が出来ない。
「これが入り口か、なんか凄いな」
そんなオレの呟きに再度、ギルド職員が確認してくる。
「最後の質問ですが、本当によろしいのですね? 一度入れば、中から外に叫び声すらも漏れる事はありませんよ?」
「大丈夫だよ。よし、皆いくぞ!」
オレは皆に確認するとダンジョンへと入っていく。
入った瞬間、全身を包み込むような感覚に包まれていく。
やはりと言うか、ダンジョン初回のパステは恐怖を感じて身を震わせているのがわかる。
「大丈夫かパステ?」
「は、はい、ボクは大丈夫、ただ、変な感じがして、びっくりしたんだよ。ご主人様は大丈夫なの?」
確認するようにオレを見るパステ。
「オレは何度か別のダンジョンに潜ってたから大丈夫だ、寧ろ久々の感覚だからワクワクするよ」
パステ以外のメンバーは、やはりと言うか、余り気にしていないように見える。
ヌビスとシャドーもダンジョンに来るのは初めてかと思ってたんだけど……
「おや、旦那様、我輩になにか質問ですかな?」
オレの視線に気がついたのかヌビスが質問してきたので取り敢えず、聞いてみる事にした。
答えは単純で、生前に何度もダンジョンに潜っていた事実が語られ、シャドーは元より魔物であり、ダンジョンに対して何も感じないらしい。
二人の言葉に何故か、パステだけ、敗北感を感じだような拗ねた顔をしていたが、今はそっとしておく事にした。
一階層は聞いていた通り、ゴブリン等がメインになっていた。
しかし、なんの問題もなく探索をしていく。
既に開かれた宝箱や開かれた檻など【傀儡師の遊び場】と同じようなギミックの罠も確認出来た。
そして、何よりオレが驚いたのは人数による数の暴力だった。
最初の頃はアバスとトトの二人を加えた三人だったが、今では、更にパステ、ヌビス、シャドーが加わっているからだろう。
ボス部屋にあっさりと辿り着く事が出来たのだ。
今回は安全エリアで休む事もなく、オレ達はボス部屋へと向かっていく。
今までと違うのは、ボス部屋には巨大な扉があり、中は確認できない。
今までのボス部屋は壁に光のベールが貼られたような形であり、扉というのは初めて見るものだった。
武器を手に、全員に扉を開く事を伝え、巨大な扉を開く。
室内には一角の巨大な魔狼が身構えていた。
魔狼は此方を確認すると遠吠えを鳴らす。魔狼の影から無数のウルフが召喚されていく。
ウルフ達が一気な駆け出し、戦闘が開始される。
しかし、ウルフ程度だと、なんら問題もなく、蹴散らされていく。
そして痺れを切らした魔狼が動き出す。
口を大きく開き、牙を構えてパステに飛び掛かる魔狼。
オレが一瞬焦るも、パステは容赦なく金棒を振り被り、顔面に叩きつける。
立派だった角が一撃で吹き飛ばされ、魔狼は力無くその場に倒れ、黒い霧となって消えていく。
一階層は問題なく攻略出来た。むしろ、ボスというには今のオレ達からすれば少し強い魔物程度の物だった。
ボスドロップは、三点。
・回復ポーション
・解毒ポーション
・マジックポーション
各一本づつだった。一階層なのでこれくらいが妥当だろう。
全員の傷や疲労を確認して、問題が無いことを確認した後、オレ達は次の階層へと向かう。
このダンジョン【眠れる獅子】は階段が存在しない。帰還転移陣と色違いの転送陣があり、オレ達は転送陣に乗り、次の階層へと移動する。
二階層はウルフ系の魔物が主体であり、ゴブリンとスライム、ホーンラビットと言う角ウサギの上位種が出るエリアとなっていた。
恐らくは魔物達の方が可哀想になるレベルでオレ達は一気に突き進んでいく。
バトルタイプダンジョンである【眠れる獅子】はフロアの広さが狭く、探索時間も【傀儡師の遊び場】の半分程度の時間で済んでいた。
通路を塞ぐように溢れた魔物に対しても、魔玉の力を発動したワイヤーの前では紙をナイフで割くような感覚と変わり無かった。
シャドーとアバスの二人が前衛を務め、その後ろにヌビスとパステ、後衛をオレとトトの二人となっている。
それから6時間で二階層、三階層のボスを討伐する事になった。
二階層のボスはグリーンオーガで巨体から力任せに繰り出される攻撃もシャドーの防御スキルと挑発スキルでターゲットを取ってもらう事であっさりと攻略する事ができた。
・回復ポーション
・力の腕輪
・帰還石
・魔石(中)
ドロップアイテムは一階層より、いい物になっているので少しホッとした。
次の三階層はまさかのボス部屋前に飛ばされた。
「え、これって、扉だよな……」
オレは転送陣に乗り、辿り着いた先には既にボス部屋の扉が存在していた。
「うむ、我が思うに転送陣はランダムで次のエリアに飛ばすようだな」
アバスの言葉にオレ達は少し呆気に取られた。
「えっと、入っていいよな?」
オレ達がボス部屋に入ると、黒い毛の巨大な羊が待ち構えていた。
ボルトシープと言う、雷羊だった。獰猛な性格で羊なのに肉食、しかも羊毛に集めた電気で磁場を発生させて浮遊できる魔物だ。
羊毛には雷が纏われている為、室内にはバチバチと電撃の音がしている。
その姿から、オレ達とは相性がかなり悪い事がわかる。
アタッカーばかりで、遠距離攻撃は武具を使った物ばかりだからだ、正直、遠距離アタッカーがいたら良かったんだけどな。
オレが牽制の為に放ったクナイに稲妻が集まり煙をあげて、地上にクナイが落下する。
それを合図にボルトシープが声をあげて突進してくると、雷を纏った巨体が一直線に移動してくるとオレ達は慌てて回避する。回避する際に僅かな可能性を信じて、クナイを投げ放つ。
ワイヤーが着いてないクナイの為、本数が限られていたが、できる限り投げ放ち、隙を作ろうと考えたからだ。
だが、数本のクナイが稲妻に落とされる最中、一本のクナイがボルトシープまで到達した。
いきなり、羊毛に真っ赤な血が染み出し、痛むにボルトシープが暴れ出す。
「なんで、アイツにクナイが刺さったんだ!」
驚いてオレはそんな言葉をはいていた。
「ボサっとするなカシームッ! シャドーッ! ガードだ!」
アバスがオレに駆け寄り、手を引くと先程までいた位置に稲妻が襲い掛かる。
二発目の稲妻をシャドーがガードする。
オレはアバスに引っ張られながら、異能を込めたクナイを再度投げ放つ。
すると、放ったクナイがボルトシープに命中する。
「アイツ、雷を使ったあとは、少しの間に無防備になるんだ……」
「ほう、つまり、ヤツを倒すのは簡単だな」
アバスが突如、方向を変化させると振り向きざまにトトに向けて叫ぶ。
「トト巨大化させろッ!」とアバスは鉄製の笠を勢いよくボルトシープへと投げ放つ。
「よく分からんが、任しときッ!」
横向きに投げ放たれた鉄笠が巨大化すると、回転する事で鋭い刃へと変化する。
ボルトシープが稲妻を放ち、鉄笠を落とした瞬間、パステとヌビスが同時に駆け出し、顎下からパステが金棒を振り上げ、首に目掛けてヌビスが戦斧を振り下ろす。
上下からの一撃が決まった瞬間、ボルトシープの頭部が切断される。
パステとヌビスが着地すると互いに自然な笑みを浮かべていた。
三階層のボスが霧になり消える。
・回復ポーション──三本。
・麻痺ポーション──三本。
・雷耐性(小)の腕輪──二個
・帰還石──三個
・魔石(中)
こうして、オレ達は三階層を無事に突破したのだ。
オレ達は、次の四階層へと移動する。
移動した四階層は植物が生い茂るエリアになっていて、オレは上を向き、久々のダンジョン内の疑似太陽を眺めていた。




