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32話・ダンジョン都市ロルクにて2

「止まって、止まってください!」


 門兵の1人が大きく手を振り、オレ達に向けて駆け寄りながら声をあげている。

 言われた通りにオレ達は止まり、すぐに巨大化させた笠をトトに元のサイズに戻してもらう。


 此方が指示に従った為か、門の方で待機している門兵達も構えていた槍を下ろしたのがわかる。


 近づいてきたのは、槍を手にした皮鎧を装備した細身の青年だ、俺より年上の黒髪お兄ちゃんって感じかな? 僅かに緊張しているのが表情から分かる。


「えっと、すみません。私はカサナ。ダンジョン都市ロルクの防衛兵をしています。ダンジョン都市ロルクに来られたのかを確認したいのですが?」


 カサナと名乗った門兵にオレ達が冒険者である事を説明する為、ギルドカードを提示する。

 ギルドカードを確認すると、すぐにカサナが門で待つ、仲間に合図をおくった。


「ありがとうございます。確認が取れたので、あとは門の前で順番をお待ちください。時間的に早いのですぐに中に入れるはずですよ」


 明るく説明をしてくれるカサナにとりあえず、道中で捕まえた男について聞いてみた。


「あのさ、こいつなんだけど、いきなり夜中に襲われてさ、騎士団かギルドなんかに渡したいんだけど、できるか?」


 ぐったりしたワキューレをカサナに見せると、すぐに他の門兵に合図を送り、数名の門兵がオレ達の周りに集まり出す。


「こいつは、淫魔使いのワキューレだな?」

「ああ、間違いないな……しかし、どうやって?」


 兵士達が不思議そうに声をあげている。どうやって倒したのかを細かく聞かれたが、とりあえず、落ち着いてもらう事にして、その後、ゆっくりと話していく。


 簡単ではあるが、ワキューレとの戦闘について語り、大量のサキュバスとインキュバスを討伐した内容を伝えた。


 話をしていると、オレ達の元に門兵の一人がかけて来る。


「お待たせしましたな、無事に確認が終わりました。ギルドカードに次から簡単な確認で入れるように印を打ちましたので確認をお願いします」


「どうやら、話は個々までですね。あとは我々が護送しますので、昼過ぎにロルクの冒険者ギルドに寄ってみてください。ワキューレは懸賞金が掛けられていたはずですから」


 また賞金首か、以外にこの国物騒なんじゃないかな? まぁ冒険者は騎士団みたいに賞金首を探すより、ダンジョンなんかの方が儲かるから仕方ないか。


 軽く挨拶をして、オレ達はダンジョン都市ロルクへと足を進めていく。


 入り口の巨大な門を潜り、中に入ると外からも聞こえていた賑やかな商店などが並び、入口付近から三方向に通路が伸びている。

 焼き串屋からは甘辛いタレが肉に絡み、少し焦げた香りの中に肉汁が溶け込んだような香ばしい匂いが鼻から胃袋へと駆け抜けていく。

 人々が野菜や果実を取引しながら、値引きで声を上げていたり、装飾品をじっくり見る女冒険者など、まるでお祭りにでも来ているかのような賑わいに、オレは驚きを隠せずにいた。


「カシーム、後ろが使えている。先に進んでくれ、入り口で止まるのは良くないぞ」

「あ、ごめん、アバス。なんか、商業の街(カムロ)と全然違うからさ……」


 一旦、その場から中央の通りを真っ直ぐに進んでいく、噴水のある広場にたどり着くとそこでオレ達は休憩をしつつ、朝食を露店で買って食べる事にする。


「とりあえず、ダンジョンに入る為にギルドに行かないとだよな……昼まで暇だよな」


「そうやね。マスターは、ダンジョンに何日潜るつもりなん?」


 トトは肉の串焼きを食べながら、質問してきたので、少し考えてしまう。


「そうだね、先ずはダンジョンの情報を聞いてからかな、ダンジョンの前情報を調べてなくてさ」


 オレの発言にアバスがいつもながら、困ったような表情を浮かべている。今までが鎧だったから表情が分からなかったが人化後のその表情はかなり厳しい気がする。


「カシーム、情報収集は基本中の基本だろう」


 アバスは分からないオレに説明をしてくれた。

 先ず、オレ達のいるダンジョン都市ロルクの【眠れる獅子】ダンジョンは、バトルタイプダンジョンであり、各フロアにボスが存在し、各エリアでの宝箱は期待できない。

 ボスドロップのみが旨みのダンジョンであり、回復役か回復ポーションがないとかなり厳しい場所になるそうだ。


 このバトルタイプダンジョンには他の冒険者もいる為、魔物よりも冒険者に注意しなければならない事実とダンジョン内で冒険者と出会っても信じてはならないそうだ。

 ダンジョンでは、冒険者からの略奪行為もあり、見ず知らずの冒険者などを見かけても近づかず、関わらない事と言われた。


「なんか、あれだな、冒険者のが魔物より危険って変な感じだよな」


 そんな呟きに、アバスは複雑な表情を浮かべた。なにか言いたいことがありそうな表情に思えたが、敢えて無言の為、こちらからも何も聞かない。


 食べ終わると時間を確認してから、ギルドへと向かう事にする。

 ギルドでもう少し情報を手に入ればと思っていたが、ギルドではワキューレの賞金を貰えるのみで、期待した情報は手に入らなかった。


 ただ、ギルドに立ち寄ったお陰で、ダンジョンに入る際にギルドの許可が必要な事実が分かり、オレ達【亜人の団】は無事にダンジョンへの入場許可を手に入れる事が出来た。


 その際に、パーティーメンバーがリンクする必要があり、パステやヌビスは獣人の為、パーティーリンクができるかを危惧していたが、奴隷となったパステは人と言う枠からは外れており、元々獣人は人のリンク枠に居ない事実を知ることになった。


 その為、心配していたパーティーについても問題なく、パステ、ヌビスをパーティーとして登録する事が出来た為、改めて【亜人の団】は六人パーティーとなったのだ。


 そこからは、ダンジョンに向けて移動していく。

 ダンジョン都市だからだろうか、冒険者だけでなく、獣人や爬虫類の亜人や数は少ないがドワーフの鍛冶屋なんてのも見る事ができた。


 少し、ドワーフの武器やなんかは興味があった。

 しかし、新しい武器を買うよりもサキュバス達と戦った際に睡魔に襲われた事で異常耐性の付与された防具、もしくはアクセサリーや装飾品が欲しくなった。


 オレとパステ以外はみんな異常耐性が身についているようで、足でまといにならない為にもダンジョンに入る前に手に入れたいと考えている。


 早速、防具屋へと足を運び、異常耐性付与の装備を探していく。

 一店舗目は、盾や鎧がメインの店で異常耐性の付与された装備は売っていなかった。


 更に探しながら、次の店に入ろうとした時、扉が先に開けられる。

 目の前には三人の冒険者が立っていた。


「あれ、アンタ、カシームだよね? 商業の街(カムロ)以来だね」

「なんだ、お! まじにカシームじゃんか。お前もロルクに来てたのかよ」

「冒険者を続けてたんだな。無事で良かったぜ」


 三人の冒険者はオレと同じ成人の儀に参加していたメンバーで商業の街(カムロ)にいた時に何度かパーティーも組んだ事のある友人だった。


 商業の街(カムロ)での彼女らの印象はこんな感じだろうか?


 女冒険者──ミネット。


 12歳、青い瞳に整った顔、金髪の髪を後ろに縛っており、仲間思いな性格で負けず嫌い、短剣と弓を装備していて、後衛を務めると同時に全体の指示をするリーダーをしていた。


 男冒険者──ヤハネ。


 12歳、黒髪の坊主苅で盾と剣を装備した前衛の戦士、魔物狩りの時も一番に突撃するアタッカー気質の性格。


 男冒険者──タタラ。


 12歳、金髪の短めな髪で槍使いを目指して成人前から槍を振るっており、冷静でしっかり者な性格。


 そんな彼等とは、二ヶ月前に商業の街(カムロ)で別れて別々な冒険者としての道を進んでいた。


 実際に二ヶ月前、オレはミネット達からパーティーとして、商業の街(カムロ)を旅立とうと誘われた事もあった。

 しかし、当時は婆ちゃんの事もあり、旅立つのは難しかった為、パーティー加入の誘いを断っていた。


「いやぁ、あのカシームがロルクにねぇ、なんかのおつかいクエストなの?」


 ミネットが笑顔でそう聞いてきたので、オレは素直に返答した。


「いや、ダンジョンに潜ろうと思ってきたんだ」

「え? そうなんだ。なら私達と来ない? 私達、今ね、五階層に挑んでるんだよ。今はアイテムが切れたりして、一旦戻って補充ってわけ、どう?」


 オレが誘われた瞬間、アバスとトトが睨みつけるような視線をオレの背後からミネット達に向けていた。


「悪いなぁ、マスターはウチらのパーティーリーダーやねん」

「すまないな、カシームは我の相棒だ、勝手にはやれんな」


 その背後からもパステが威嚇するように立っており、ヌビスとシャドーはそんな三人を見守るように立っている。


 いや、止めようよ……シャドーは仕方なくても、ヌビスならとめられるよね?


 ミネット達もほら、なんかビビってるし……


「落ち着いてよ! ミネットごめんね。オレもオレで今はパーティーがあるんだ。だから一緒には行けないや」


「え、えぇ、そうみたいね……まぁ、私達は行くわ、カシームも頑張ってね」


 逃げるように三人が走って消えていく。本当に可哀想な事をしちゃったなぁ、あんなに怒るなんて、やっぱりオレって信用されてないのかな、ハァ……


 懐かしい友人との再会はあれだったけど、とりあえず、探してる装備を手に入れないとな。


 店内に入ると、装飾品の多い店だと直ぐに理解出来た。棚に並べられた指輪と腕輪、どれも効果付与がされている物ばかりだった。


 その中から、状態異常耐性が付与された物を探す。


 睡眠耐性、毒耐性、麻痺耐性、呪い耐性、精神耐性、多くの耐性付与されたアイテムが並んでいる。

 しかし、どれも単体の付与のみで、複数耐性が付いたものはなかった。


 ・睡眠耐性の指輪──金貨二十枚。

 ・毒耐性の指輪──金貨十五枚。

 ・麻痺耐性の指輪──金貨三十枚。

 ・呪い耐性の指輪──金貨九十枚。

 ・精神耐性の指輪──金貨十枚。

 

 オレは悩んだ、本来欲しかった睡眠耐性はあったが、呪い耐性や麻痺耐性といった物があったからだ。


 実際にアバスの元主は呪いによって命を落としているからだ。


 確実に必要なのは、睡眠耐性の指輪二つ、オレとパステは睡眠耐性がないのは確実だからだ。

 残りの耐性に関しても、絶対に必要だと思う。


 全ての指輪を買うと金貨990枚となり、金額的な問題はないただ、指につけるとなると、数が多すぎるのだ。

 一個一個はシンプルな作りだが、全ての指につけるのは、流石にあれだし、サイズなんかも合わせないとならない。


 悩んでいたオレは一つの商品に目が止まる。


「なになに、接続の鎖?」


 オレが手に取ったのはネックレスに使うようなチェーンだった。

 効果は、チェーンに通したアイテムの効果を随時発動させると言うもので、本来は魔導具なんかに繋いで両手を使えるようにするアイテムらしい。


 金額は十本セットで、金貨八枚となっている。


「これだ!」っとオレは閃くとすぐにトトを呼び、支払いの為に金貨の入った袋を取り出してもらう。


 以前、商業の街(カムロ)の魔導具屋【笑うサ・メーノ】でサムーノからお釣りとして貰った1000枚の金貨が入った袋から2枚金貨を取り出し、残りを支払いカウンターへと置く。


「え、あ、あの、少々お待ちを!」と店員が金貨を数える魔導具で確認し、オレ達は店を後にした。


 一旦、広場に移動してから、買った指輪を種類ごとにチェーンに一個づつ通していく。


 人数分が完成すると、オレは全員に一個一個渡していく。


「マスター! あ〜大切にするわぁ!」

「我にもあるのか、カシーム感謝するぞ」

「おぉ! ボクに、ボクにこんないい物を、ご主人様〜ボクってば、ずっとついてくんよ!」

「まさか、我輩にまで、確りと装備として登録させていただきます。旦那様、感謝致します」

「カム兄、いいの! カム兄ありがとう!」


 全員の喜ぶ顔にオレも笑ってネックレスを装備する。


 このネックレスはオレ達【亜人の団】のメンバーの証であり、絆だな。



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