31話・ダンジョン都市ロルクにて1
前日の報酬をギルドでしっかりと頂き、オレ達はすぐに王都に向かう街道へと向かう事にした。
ギルドでは、やはりかと言う程度に騒ぎになっていたが、朝からヌビスを含む二人が冒険者ランクをEランクに昇格された。討伐部位だけでも更に上げれたが、昇格試験があり、朝のギルドに昇格試験ができる人材が居ないため、諦めてEランクで我慢してもらった。
本来なら、昼まで待っても良かったが、三人は「旦那様を待たせる訳にはいきません」と言うヌビスの言葉に同意したためだ。
王都・ゴルゴディア
カムロから馬車で三日、歩けば10日くらいの距離にあり、オレ達が向かうのはその道中にあるロルクの街だ。
【眠れる獅子】と言う【D】級ダンジョンがある街で昔は小さな村だったようだが、ダンジョンが見つかり、次第に大きくなったダンジョン都市の一つであり、冒険者は、ダンジョン都市ロルクと読んでいるらしい。
馬なら、一日半の距離だが、今回は買ったばかりの笠を利用する。
砂漠でやったように、トトが笠を巨大化させ、アバスが笠を浮かす係を勤め、オレが高速で移動させる為に磁力を操っていく。
巨大化した笠は馬車よりも早く、凸凹の道も浮かしている為にまったく問題ない。
途中で、前方を走る馬車等を見つけた際は仕方なく前方に移動し、騒ぎにならないように軽く挨拶をして移動を続けていた。
流石に魔物扱いされて、ギルドや騎士団が来たら言い訳出来ないから、そこら辺はかなり気を使って移動している。
そんなこんなで、川辺の開けた場所で日が暮れる前に野宿をする事を決めるとテントを広げ、川で魚を釣ると、焼きウサギやスープ等と共に魚も焼いていく。
楽しい夕食の時間になる。
ここまで充実しているのはやはり、アバス達の存在が大きいだろう。
しかし、こんなのんびりした時間も、複数の唸り声により、台無しにされた。
オレ達のテントを囲むようにして、ウルフの群れが姿を現した。
リーダーであろう大きなウルフは魔狼と言うウルフの上位種だ。
姿を現した魔狼に対して、ヌビスが一歩前に出る。
「パステ、シャドー、実戦のチャンスですから大切にしてください」
存在に気づいていて、敢えて近寄らせたのがわかる口調にオレはアバス達と傍観を決め込む事にした。
危なくなる事は無いだろうし、仮に危なくなっても今のオレ達からすれば問題ない相手だからだ。
最初にパステが前にでて、そのサポートにシャドーが回る。
パステの手にはアバスが使っていた金棒が握られている。
回復役を諦めた為、前日の夜にアバスが渡したものだ。
素手よりも遥かに強力な一撃が可能になるだろう。それにアバス本人は既に新しい武器を手に入れている為、あまり使う機会もないのだからパステが使うのが一番だとオレも思う。
そして、シャドーもアバスから引き継いだ鎧と大剣、大盾を装備しており、パステとヌビスが特訓していたように、アバスと稽古をしてやっと使いこなせるようになっている。
元々リビングアーマーだった為、鎧や装備の重さに影響されない事実も大きい。
前方から魔狼が雄叫びをあげると一斉にウルフの群れがパステとシャドーに向かって駆け出していく。
ウルフに対して、金棒が力強く放たれ、横払いがウルフの顔面に炸裂すると弾き飛ばされたウルフが他の一体に叩きつけられる。
シャドー側も一斉に飛びかかられたがフルプレートの鎧に牙や爪は通らず、盾ではじき飛ばしたウルフに大剣を振り下ろし、ウルフを一刀両断していく。
流れるようにウルフを駆逐していくと、魔狼が怒りを顕にするように声をあげる。
すると、オレ達の背後から数匹のウルフが接近する足音が聞こえる。
茂みを凄い勢いで移動しているのだろう、隠れて奇襲と言う考えを捨てたのか、此方に一直線に向かってきている。
オレが黒い短剣を構えようとした時、ヌビスが背後に移動してくる。
「旦那様、吾輩が相手を致しますので、ご安心を」
一斉に飛び掛るウルフに何処からか取り出した戦斧を軽々と振り回し、飛び掛るウルフの首が空中で切断され、地面に胴体が力無く落下していく。
戦斧に付着した魔物の血を振り払い、ヌビスは、次のウルフに構える。
そんな攻防が数分過ぎる頃には、魔狼と僅かなウルフが残るのみとなっていた。
魔狼が唸りながら、撤退しようとした瞬間、パステが魔狼へと飛び掛り、金棒をフルスイングする。
魔狼が吹き飛ばされ、動かなくなると残ったウルフ達は一目散に逃げていく。
群れのリーダーを失ったのだ、もう害は無いだろう。
「逃げられた! ごめんなさいだよ」
申し訳なさそうに耳を垂らすパステは少し甘やかしたくなるな。
「大丈夫だよ。それより見張りを決めて、寝よう、最初はパステ達が休んで」
「いやいや、ご主人様が休むべきだよ」
パステの意見にヌビスやシャドー達が頷き、結局、見張りはアバスとシャドー、ヌビスとトト、パステとオレの順番で行う事になり、一組、二時間の見張りで交代する事になった。
テントの中で横になるとパステと目が合う。
「あの、ご主人様。ボク、頑張るから……」っと呟かれて、布団を被ってしまった。
そんなオレの背後から、トトが「可愛いなぁ、マスターも罪な男やな」っと小さく呟かれた。
からかわれてるのだろうが、なんか意識してしまうよな、
次の見張りがテントから外に移動するとアバス達が交代でテントに入ってくる。
「どうしたのだ、カシーム、まだ起きていたのか?」
アバスにそう言われ、軽く手を振る。
「なんか寝れなくて、あはは……」
「オナゴと床をともにすれば、最初はそんなものだ。寧ろ、正常にして健全か、ういな」
そんな会話をしていると、アバスが近くに歩み寄ってきて、突然、横になるとオレを抱きしめてきた。
「落ち着けばよい、緊張は体に要らぬ負荷をかける。今は何も考えるな」
そう言い、アバスはオレを抱きしめたまま、目を瞑っている。
その様子にアワアワするシャドーは両手で顔を隠すと反対向きに横になっている。
いや、シャドー、止めろよ!
そんな事を考えていたが、不思議と睡魔が広がり、オレは眠気に襲われていく。
「ーム、カシーム! パステ! 起きよ、ヌビス、トト、我が前に出る!」
睡魔に襲われ意識が飛びそうになった時、名前を呼ばれる声に意識が戻る。
目が覚めると、テント内でヌビスと女の魔物が戦闘を行っており、トトは男の魔物と戦闘をしていた。
「やっと起きたんか、マスター寝坊やで!」
トトが男の魔物を蹴り飛ばすと、そう言い、状況を説明する。
「こいつら、サキュバスとインキュバスや! 見張りがアバスやったから、すぐに気づけたんやが、数が多すぎんねん」
トトと会話をしていると未だに目覚めないパステにインキュバスがテントの外から接近してくるのがわかった。
テントをすり抜けるように顔を出したインキュバスに慌てて、オレはパステに駆け寄ると、握った短剣でインキュバスの顔面に目掛けてその刃を振り抜いた。
「グアッ!」っと、顔に手を当て、傷を押さえながらテントの外に向かって逃げ出していく。
「しかし、なんで、こんな集んねん! 意味が分からへん」
トトはすぐにパステを片手に担ぐとテントの外へと移動する。
オレも外へと飛び出し、その状況を見て息を飲んだ。
テントの周りを十数体のサキュバスとインキュバスがニヤニヤしながら空中で見つめているからだ。
「なんでこんなに! 」
「カシーム、目覚めたか、見張りを任されたのに済まぬな、いきなり奴らが現れたと思ったら、テントに攻撃されてな」
アバスとシャドーが見張りをしてから、一時間もしない間の出来事であり、トト曰く、オレとパステを狙っていたのか、最初に睡眠スキルで眠らされていたらしい。
「いやぁ、実に厄介、早く素敵な夢の世界に行ってくれませんかね?」
低い男の声にオレ達は周囲を確認する。
サキュバス達がケラケラと笑う姿にイライラするが、そんなサキュバス達の奥で、宙に浮かぶ黒いローブ姿の男がいる事に気づく。
「まさか、自己紹介をする事になるとは、だが褒めてあげよう、私の可愛い手下達に襲われて今も眠らずにいるのだからね。私はワキューレ。淫魔使いにして、淫魔の支配者を自負しているのだよ」
そんな会話をしている最中、ヌビスが突然動き出し、天高く飛び上がる。
戦斧をしっかりと握り、ワキューレ目掛けて、振り下ろす。
「わ、まて! きゃあああ!」
数匹のインキュバス達がワキューレを守るように前に出て、ヌビスの一撃がギリギリで逸らされる。
しかし、それに便乗したトトが巨大化すると、その巨大な手を振り上げると大きく広げた手のひらを地面に向けて振り払う。
ドシャンッ!
地面に叩きつけられたワキューレとサキュバス達の姿があり、サキュバス達は今の一撃で黒い霧に変わっていく。
地上で気を失っているワキューレを捕らえると、夜中であったが、オレ達はテントをマジックバックに片付けて、暗い夜道をダンジョン都市ロルクに向けて移動していく。
当然ながら、途中で目覚めると面倒臭いので、眠り粉を使い、長い睡眠を強制的に取って貰う事にした。
こいつはいったいなんなんだろう……それと、夢でもアバスやパステにドキドキした事は言えないな。
眠い目を擦りながら、オレ達は朝日が顔を出すと同時にダンジョン都市ロルクを目視で確認できる所まで辿り着いた。
ダンジョン都市ロルクには24時間、門兵が見張りをしているようでオレ達の存在に気づいた数名が警戒したように此方に視線を向けているのがわかる。
まあ、当然だよな、デカイ鉄製の笠に乗った連中なんて、オレでもヤバい奴だと思うもん。




