30話・旅の準備
久々に足を運んだ冒険者ギルド、オレは何故かミーネさんに凄い勢いで歓迎された後、訝しげな視線に晒されていた。
「つまり、新しい奴隷を買って、他にもいきなり仲間を増やして、冒険者登録したいって事ですね」
通常通りの笑顔に似合わない冷たい眼差しと棘のある口調、その様子をトトが笑っている。
「登録するのは、そちらの獣人の二人と赤髪の方でよろしいですか?」
業務的な質問だったが、オレ達は質問内容に対して、すぐに否定した。
「違うよ、アバスはもう登録してるから、獣人の二人とシャド(シャドー)の登録だよ」
因みに、シャドーだと、なんかあれなので、シャドと名乗って貰うことにしている。
オレの言葉にミーネは鎧姿のシャドーを見てから確認する。
「アバスさんは、そちらですよね?」
「いや、アバスは我だ。ミーネよ。コヤツは我の弟のシャドだ」
「えぇーアバスさん、え、えっと、女性だったんですか!」
驚き立ち上がるミーネさんを落ち着かせつつ、会話を進め、とりあえず納得してもらう。
その後、ミーネさんと軽く雑談してる間にパステ、ヌビス、シャドーの三人がギルド登録を済ませると、すぐにクエストボードに向かっていく。
いくつかの依頼を剥がすとギルドカウンターに向かっていく三人。
カウンターにはミーネさんと同じ制服姿の女性職員がおり、手馴れた手つきで説明をしている。
「角ウサギの討伐クエストですね。何体でも討伐部位を持ってきて頂ければ買取り致します。このクエストでよろしいですか?」
「構いません。寧ろ、本当にいくらでも宜しいのですね?」とヌビスが質問をしている。
話が終わるとヌビスは軽く頭を下げて、オレ達の元に戻ってくる。
「申し訳ございません、魔物の討伐クエストを受けたので一度、討伐部位を取りに戻っても宜しいでしょうか?」
「構わないよ、なんならオレのマジックバックを持ってけよ。沢山溜まってたはずだからさ」
「御意、他の素材はどうなさいますか?」
「そうだな、とりあえず、全部売っちゃうか」
「かしこまりました。それではすみませんが、パステ行きましょう」
「はいです! ご主人様行ってくるね」
二人が移動するとアバスが「シャドも行ってこい」といい、シャドーが二人の後を追っていく。
その間にオレはギルドにパーティー名の登録を済ませる事にした。
パーティー名【亜人の団】と登録する。
パーティー名を見たミーネさんは驚いていたが、オレはお構い無しにそのまま登録を済ませる。
「本当にいいんですか、あのパーティー名だと、普通の冒険者からのパーティーイメージがあまり良くないですよ?」
「構わないよ、だって、オレの仲間は今いるみんなだからさ」
そんな会話をしていると、ギルドの入口が騒がしくなる。
入ってきたのは、ヌビス、パステ、シャドーの三人と腕を後ろに縛られ、首を縄で繋がれた顔面がボコボコにされた数人の男達だった。
「戻りました。騒がせて申し訳ありません。あの者達がパステに絡んできまして、少し仕置をさせて頂きました」
ギルド職員が慌てて、男達に近寄ると予想外の発言をした。
「この人達、人攫いで賞金かけられてる賞金首ですよ……しかも、元Dランク冒険者の人までいます……有り得ません」
「はて、二人を捕まえたので、ついでにゴミの親玉も捕まえようとしたのですが、余りに暴れるので、気絶させてあります。連れて来られない奴らは放置してきましたが確認致しますか?」
その言葉に、ギルド職員達が慌てて、装備を整えると、ギルマスのモルバもマスター室から姿を現す。
「ハア、またお前らか、まぁいい、確認の為にミーネをつける。カシーム、ギルド依頼だ、ミーネ達の護衛とお前の仲間に案内を頼む」
話を聞いたヌビスが、目的の場所へとオレ達を案内する。
案内されたのは、一般的な一軒家であり、入口の前には数人の男達が気絶している。
室内は至る所に斬撃の跡と激しい打撃痕が無数に存在し、奥の部屋には気を失って白目を向いたガラの悪い男が倒れていた。
すぐに拘束された男達がミーネさんの指示で外に運ばれていく。
ギルマスから連絡をもらった騎士団が既に外に到着しており、ミーネさんが受け渡しのやり取りを行い、男達は連れて行かれる。
オレ達がミーネさんやギルド職員とギルドに戻ると、やっぱりか、と、言うべきギルマスからの呼び出しが待っていた。
モルバは既に自室で待っており、オレ達が入ると此方に視線を向けた。
「先ずは、人攫いの討伐に感謝するぞ、それと、お前らは、なんなんだ?」
オレ達を見るギルマスの目は鋭く警戒しているのがわかる。
そこから、僅かな沈黙が流れるとモルバは軽く溜め息を吐き、口を開く。
「お前の仲間が倒したやつは、賞金首だ、ランクで言えばC級クラスだ。お前の仲間はいきなりCランクのクエストをあっさりくりやしやがった。どうなってんだ」
モルバが頭をイライラしながら掻きむしると、再度溜め息を吐いてから、冒険者ランクについて話し出す。
「とりあえず、三人はGランクからFに昇格だ……他にも調整が入るが半年以内にDランクまで上げにゃならん、仕事と調整と……ハア、まぁそんな感じだ、あとお前ら【亜人の団】のパーティーランクをDに決めたからな」
全体の話が終わると、ギルドカウンターで討伐報酬が出ると言われたのでオレ達は挨拶を済ませてギルドカウンターへと向かう。
賞金首の報酬はそこそこに高かったが、今のオレ達の所持金を考えるとあまり喜べる額ではなかった。
ただ、ギルドに寄った結果が、これなのだから、なんとも言えない。
とりあえず、人数が増えてオレ達【亜人の団】は本格的に行動を開始する事になる。
開始すると言っても先ずは、三人のランクアップの為に、簡単なクエストをこなしていく事になるだろう。
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一夜明けてから、朝イチのギルドに討伐部位を大量に持ち込む。
・角ウサギの角──188本
・角なしウサギの毛皮──596枚
・灰色山羊の角──68本
・灰色山羊の毛皮──34枚
・グレーウルフの牙──296本
・グレーウルフの爪──190本
・グレーウルフの毛皮──24枚
討伐個数に対して、砕けた討伐素材などもあるが、これだけの数の討伐部位があれば、問題なく三人はランクが上がるだろう。
報告カウンターは朝から、てんやわんやしてしまい、討伐報酬と素材金額は明日受け取りとなり、オレ達はギルドで適当なクエストを確認していく。
出来るなら、今抱えている他の素材も捌いてしまいたい為、グレートボアやオーガなんかも出るクエストが欲しいが、やはりクエストとしてはそういった魔物のクエストは存在しなかった。
少し悩んでクエストボードを確認していると、他の冒険者達の会話が聞こえてくる。
「聞いたか、王都に向かう途中に【眠れる獅子】のダンジョンがあるだろ? 新たな階層が見つかったらしいぞ」
「聞いてるさ、まぁオーガにゴブリン、ボスにトロールだろ? オレ達じゃ、ボス部屋で終わりだろ」
「あはは違いねぇな」
オレはその会話から、クエストではなくダンジョンに向かう事を考えていた。
本来の攻略対象は【傀儡師の遊び場】なのだが、他のダンジョンに一度も潜った事が無い事を考えるとやはり、一度は潜ってみたい。
オレはそう考えるとすぐにクエストボードから離れ、王都迄の地図を冒険者ギルドで購入する。
因みに冒険者ギルドでは、他にも色々な国に向かう為の地図が売られている。
オレの考えを理解したのかアバスが直ぐに野宿用のテント等を買いに行こうと話しかけてきた。
流石アバスと言うべきか、オレの考えをしっかり分かってくれてるあたりは本当にありがたい。
早速、買い物という事で魔導具屋【笑うサ・メーノ】へと向かう。
入り口から店内に入ると、昨日、オレの相手をしてくれたサムーノが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、お客様、本日は如何なさいましたか?」
偉い上機嫌な笑顔だな。
「今日は野宿用のテントなんかが欲しくてさ」と言うと直ぐに、案内された。
テントにも色々な種類があり、テント内に拡大が付与された物や、運ぶ際に重さが感じない物と用途により分かれている。
そんな中から、オレ達は拡大の付与がされたテントを買う事に決めた。
テントを決めてから、寝袋や折りたたみ式のテーブルなど、必要になるであろう物を次々に選び、買い物をあっさりと終わらせる。
当然ながら、サムーノと店の店員さんに盛大に見送られる事になったが、必要な物が全て集まるのは本当に助かる。
魔導具屋【笑うサ・メーノ】を後にしたのち、オレが向かったのは、クーの露天商だ。
「やぁ、クー。相変わらず暇そうだね」
オレの声に嬉しそうにコチラを向くクー。
「おぉ〜 カシームじゃんか〜来てくれたんだね。オイラに会いたかったのかい! 照れちゃうぞ〜」
「あはは、会いたかったよ。それと今回は前に見た、鉄製の笠を買いたくてさ、前に軽くしか説明が聞けなかったけど、説明を聞いていいかい」
「おう、任せて、この鉄製笠は雨にも強いし、錆びないように色々な金属が混ぜてあるんだよ。しかも、かなり丈夫なんだ!」
ドヤっていう顔で商品の説明をするクー。
「なら、それを人数分貰えるかい?」
「いいよ〜売れなかったから、嬉しいよ〜他に欲しいモノはあるかい?」
「なら、幾つかクナイを貰えるかな」
クーの露天商で幾つかの商品を買い、これで準備が整ったかな、明日の朝、ギルドに向かって討伐報酬を受け取ってから【眠れる獅子】ダンジョンに向かうことにしよう。
たまに思うが、オレ、冒険者より探検家みたいだよな、クエストとかあまりやってないしな……




