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25話・オークション会場1

 宿屋で一泊してから、食堂で朝食を済ませるとキチチルトンに教えてもらったオークション会場へと向かう。


 オークション会場は鉱山都市ラフジュアルにある商業ギルドの支部が管理する巨大な倉庫で行われるらしい。


 教えられた倉庫は聞いてた以上に巨大で入口には商業ギルドのギルド職員であろう男達がオークション参加者と出品者に入口の案内をしている。


 オレ達も参加者側に並び、順番を待つ、しばらくして、オレ達の番が来る。


「初参加の御客様でしょうか? 失礼致しますが、御紹介いただいた方の御名前を確認させて頂いてよろしいでしょうか?」


 紳士的なビシッとした服装に目元を隠すようなマスクを身につけた男性にそう言われ、キチチルトンの名前を伝える。


「確認出来ました。キチチルトン様の紹介ですね。ようこそ、商業ギルドオークションへ、良い品に巡り会えますように願っております」


 そう言われ、席の番号が書かれたプレートが渡される。プレートを服につけたのをギルド職員に確認されると、オレ達はオークション会場へと通された。

 室内は長椅子が並べられ、既に100人程の参加者が席に座っている。


 オレは席に座る前に商品の幾つかを先に見られると言う事で時間もあるのでオレ達は商品紹介を見て回る。


 全てを見れる訳ではないが珍しい金属を使った工芸品や魔物の骨格を使った置物など意外な物も見る事が出来た。

 そんな中でも目玉商品というのだろうか、明らかに警備の厳しくなっている商品が人集りを作り出していた。


 見てみるとそこには、一本のスクロールが結界越しに確認できる。紹介文を確認する。

 “雷のスクロール【疾風迅雷】”と書かれているのがわかる。

 下に最低出品価格が書かれているはずだが、スクロールには何も書かれていない。

 不思議そうに眺めていると、警備していた初老の男性職員が声をかけてくれた。


「オークション会場に来たのは初めてですかな? こちらの商品はオークションスタートまで、最低額を隠しているんですよ」


「なんで隠すんだ? 値段がわかった方がみんな、助かるだろ?」


「隠さないと他の商品が欲しくても、目的の物を買えなくなるからと考えて、諦める方も出るでしょう、 そういった方を減らすための対策でしょうか、むしろ、所持金で買えるか分からなくして、欲しいモノを買ってもらえるように、あえて値段を隠させてもらってると言うのがただしいですね」


 そんな説明を聞いた後、最後の展示商品のエリアに移動する。

 最後は物ではなく者だった。奴隷が一人、何とか入って座れる程度の広さをした檻に繋がれて並ばされていた。

 入口側から、家事や身の回りの世話をさせる為の女奴隷、男奴隷がボロだがしっかりとした服を纏って並んでいる。


「坊ちゃん、良かったら私を買いませんか、家事から買い物、夜のお世話までなんでも出来ますよ」

 そんな、女性奴隷の言葉にオレは軽く赤面して早歩きになる。


「いやいや、お坊ちゃま、私をお買い下さい、一通りの礼儀作法と武術も扱えますよ」


 次は男性奴隷だった、見た目から凛々しく見えたので好印象だが、奴隷を買うかは決めてない為、保留かな?


 檻の前を通る度にこんな感じに声をかけられるので、少し疲れたが他の下見にきた客は当たり前に無視して次の奴隷がいる区画に入っていく。



 次が戦闘奴隷と性奴隷と檻に札が貼られて区別された形になる。

 最初の入口付近の奴隷達と比べると少し違った異様な雰囲気が漂っているように感じた。


「何を見ている小僧?」「俺を買えば守ってやるぞ!」「お兄さん、私達をかわない〜」など、基本的に歓迎されていないように感じる、寧ろ、財布のような扱いをされてるようにすら感じてしまう。


 正直、ここまでにして、会場に戻ろうかとも思ったが、会場を目指すなら、このまま、最後の区画を抜けた方が早い為、諦めてそのまま進む事にする。


 奥の区画、犯罪奴隷と借金奴隷の区画になっており、正直、あまりいい印象は感じない、何処か陰湿で、怨みや妬みと言った負の感情と殺意と欲望が混ざりあったような独特な視線を感じさせる。


 まぁ、オレの仲間も大概だから、威嚇には威嚇をって感じで、まったく負けてない。


 そんな殺伐とした室内を移動していく最中、一番端に小さく震える存在に気づいた。

 よく分からないが、猫耳がみえる……獣人だろうか? 目が合った瞬間、いきなり叫ばれた。


「あ、キミは! あの時の、うぅぅぅ」と訳の分からない視線と声を掛けられる。


 ただ、その声には聞き覚えが何となくあるような気がする。

 軽く考えたがやはり分からないので、気のせいかと思い、歩き出そうとした瞬間だった。


「待ってよ! お願いだから、あの時の事は謝るから、ギルドでは、悪かったから、謝るから、話だけでも聞いてよ……」


 そんな悲しそうな呟きに移動しようとしていた足が止まる。


「ギルドって、あった事あったっけ?」と口にしてみる、だって、オレには獣人の知り合いなんかいないのだ。


「ボクだよ! ほら、七人で貴方からランクを奪おうとしたあの時のヒーラーですぅーーー!」


 そう言われて、再度確認するが、やっぱり印象にない……


「いやいや、だって、あの時、確かに新人と揉めたけどさ、獣人はいなかったって」


「実は……」っと、話はじめようとするので急いで移動しよう。


「まってぇお願いだからぁーーー!」と、半泣きになってしまい動けなくなった。


 それを見かねてか、トトがオレの背後から声をかけてきた。


「マスター? 話くらい聞いたればええやん、女、泣かせてサヨナラは、流石にようないで?」


 軽く溜め息を吐いてから、時間を確認するまだ、オークション開始まで時間もあったので、しぶしぶ、話を聞く事にした。


 話は一週間程前に遡る……


 獣人の名前はパステと言い、オレ達に絡んできた新人冒険者のグループの一人だったそうだ。

 ギルドの外とは言っても、いきなりの戦闘と周りに対するギルドの評判を下げる結果になり、かなりの問題になったそうだ。

 当然ながら、信頼もなく、後ろ盾もない新人であり、唯一あるのは、一時でも学園に通っていた上級市民だと言う高いプライドであった。


 そんな彼等は少し裕福な家柄である事実も相俟って自身が冒険者をせねばならない事実を面白く思っていなかったそうだ、その結果、見た目で勝てそうなオレに喧嘩を売り、ランクを手っ取り早くあげる方法を思いつき、あのような愚かな行動に出たそうだ。


 同情の余地はないな……


 しかし、パステの仲間だった六人は、戦闘後はギルドから叱られ、罰金と迷惑料を請求され、家に泣きつくも門前払いにされたそうだ。


 そんな中、リーダーだった男、オレに最初に倒されて眠り粉を叩きつけられた奴だ……そいつが愚かな提案を口にした


「俺達は戦ったのに、一人無傷なんておかしいよな? つまり、負けたのはパステ、お前のせいだ!」と、イチャモンをつけ、それに皆が同意したのだ。

 その結果、装備を無理矢理剥ぎ取られる事になった、しかし、それだけならまだマシだったそうだ。


 男は、パステが大切に身に付けていた母の形見である首飾りを次によこせと言われ、抵抗したが、仲間だった奴らに押さえられて、力任せに奪い取ったらしい。

 首飾りは、獣人だった母が差別されないようにとパステに渡した人化の術が付与されていた物だった為、術が解除され獣人の姿が顕になった。


「おい、獣人だ!」

「本当だ、騙してたんだ!」


 男の仲間達が騒ぐ中、男が声をあげる。


「黙れ! つまり、こいつを売れば、ギルドの罰金は何とかなるって話だよな?」


 恐ろしい発言だった、仲間を簡単に売ると言い放ったのだから、そこからパステは喋れなくなるまで殴られ気を失い、気づいたら借金奴隷として、多額の借金と身分を失ったそうだ。

 因みに、パステの母は既に他界しているそうだ、成人の儀を受けたくても獣人である為、受けれなかったパステは母の残した財産で学園で学ぶ道を選んだが、学費が足りなくなり学園を追い出されたそうだ。


 彼女は他の奴らとは少し状況が違うように思えた。


 そして、現在、オレの目の前で泣きながら此方を見ている。


「で、どうしたいんだよ?」


「づまり、ごべんなざい……ぢゃんと、あやまれでよがった、話きいてぐれて、ありがとう……」


 そう言うとパステは静かに頭を下に向けて無言になった。


「マスター……いくで、話は終わったみたいや……」

 何処と無く、強い口調で言われ、オレはオークション会場へと移動する。


 席に座るとすぐに、正面の舞台にライトが集められ、一人の男を照らし出す。


「皆様、ようこそ、お越し頂きました……商業ギルド、オークション会場を担当するバリスと申します。司会と進行も担当いたしますのでお見知りおきを」


 バリスと名乗った司会は、キッチリしたタキシード姿に目元を隠すような仮面をつけている。


 手際良く、商品が紹介され、次々に札があげられ、商品が裁かれていく。

 最初はアンティークや美術品などの部門であり、珍しい茶器や、魔物の剥製、宝石から、武器まで次々に商品が変わっていく。


 そんな中、オレは気になる商品を見つけたので落札する事にした。


 アンティークや美術品などの出品が終わると次の部門の商品が紹介される。


「次の商品からスクロールに変わります! 世にも珍しい物から、冒険者が気になる物まで、数多くの商品が出品されましたので、どうぞお楽しみください!」


 スクロール類の出品が始まると、周囲は攻撃系スクロールや相手の動きを止めるスクロールなど、多くの種類が紹介されていく。

 そんな中でオレが気になったのは、武器修復スクロールの二本セットだ。


 武器は修理するより、買った方が早く、更に安く済むため、武器の修復スクロール等はあまり人気のないスクロールだ。

 その為、余り物なのだろうか、二本セットで出品されている。

 しかし、最低出品価格が金貨15枚と高めであり、同じ金額があれば、そこそこにいい武器が買える金額だった。


「どなたか、いらっしゃいませんか……」司会のバリスも、一気に活気が失われた会場に焦り出すのがわかる。

 そこでオレが札をあげる。


「おぉー、他にいらっしゃいませんか! いらっしゃらなければ、若き青年の御客様の落札になりますが……」


 数秒の沈黙にバリスが声を張り上げる。


「おめでとうございます、こちらの商品はそちらの若き紳士が落札致しました!」


 会場からは落札に対して、拍手が起こり、オレの元に商業ギルドの職員が落札証明を素早く渡しにくる。


 そこからは、再度盛り上がりを見せ、目玉の雷のスクロール【疾風迅雷】が出品されて会場が白熱した。

 雷のスクロールは金貨800枚で落札となり、一回限りのスクロール部門では、この日の最高額となった。



 



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