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23話・まさかの真実

 四階層で、テイマーゴブリンを討伐した後、オレ達は未だに闘技場にいた。

 ボスが居なくなったボス部屋は室内に冒険者が居る限りボスは現れず、また部屋の入口も封鎖された状態になる。

 討伐さえしてしまえば、安全エリアよりも、安全な場所へと変化するのだ。


 改めてオレ達は、今後どうするかを話し合う事にしたからだ。


 早い話が、四階層でこの強さなら、ここから先の階層も何とかなるとは思う、ただ何とかなるのは、階層のみであり、イレギュラーのユニークボスや、エリアボスといったそれに勝てるかと言われれば不安が残るのも事実だ。


「我は、一度、帰還する方がよいと思う」

 アバスから、帰還した方がいいと言われ、オレとトトもそれに賛成する。


 結果だけ言えば、三人とも帰還するべきと考えていた。

 今のままでは、更なる階層に対して不安が残るからだ。

 話が終わった後、その場で食事を用意する。

 ボス部屋で焚き火に鍋をかけて料理をするアバスは本当に不思議だが、巨大な鎧姿からは想像できない手際の良さは流石だと言える。


 オレができるのは、床に取り出した敷物を引き、トトと共にアバスの料理を待つことだけだった。

 見張りもいらないし、警戒もしなくていいボス部屋の中で渡された食事を食べる。

 因みに、トトは迷宮酒を開けようとしたが、普通のお酒で我慢して貰う事にした。信用はしているがオリジナルまで飲んでしまう気がしたからだ。酒に関して、トトの信頼度は半減する……。


「なあ、アバス? 前からオークションって言ってるが、オークションってどうやって参加するんだ」


 食事が終わり、落ち着いたタイミングで質問する事にした。


「オークションは、冒険者ギルドのあるカムロや王都ゴルゴディア、他にも様々だな本来なら王都のオークションに出品したいが……王都のオークションに出品できるものは限られているからな」


「つまり、《カムロ》に戻ってからオークションの情報を手に入れる感じか?」


「まぁ、情報だけなら鉱山都市ラフジュアルでも聞けるから大丈夫だ、それに上手く行けば鉱山都市ラフジュアルのオークションに出品ができるやもしれん」


 アバスとの会話を終える頃、トトのヤケ酒も飲み終わったのか、「迷宮酒〜」と、言いながら眠っていた。


 目覚めてから、オレ達は長かったダンジョンでの生活を終えて、帰還用の転移陣へと向かう。


 ダンジョンに入ってから既に五日程が過ぎている。商業の街 《カムロ》を出てからを考えれば既に七日目であり、予定の二週間からすれば半分の時間で四階層しか進めなかった事になる。

 【D】ランクダンジョンの難しさを改めて感じる結果になった。

 それと同時に初回ドロップやユニークといったボスの存在がどれ程、危険であっても冒険者が挑み続ける理由もわかった事は大きな収穫だったと思う。


 転移陣に足を踏み入れ中に全身が入った瞬間、急に足元から全身に強風が吹き付けられる感覚に襲われる。


 次の瞬間にはダンジョンの出口へと移動していた。


「本当に外に出れたんだな……初めてだから、なんか変な感じたけど」

 オレはまじまじと全身を見回して手足を動かしている。

「落ち着け、カシーム。ダンジョンの転移陣で死んだりした者はいない」


 ダンジョンを出てすぐに鉱山都市ラフジュアルへと進んでいく。

 来た時とは違い、岩肌にある狭い通路を進んでいく。残念ながらやはり灰色山羊(グレーゴート)達からの歓迎と言うなの襲撃があったが、あっさりと素材になってもらう。


 結局、ダンジョンを出てから一日かけて、未開拓地から鉱山都市ラフジュアルに戻った。


 戻ってまず、いつもの宿屋&食事処 《星見の丘》へと向かい部屋を取る。


 部屋に移動してベッドに寝転がるとオレはそのまま、眠りについていた。


 気づけば、既に夜だった。

 室内にはアバスが胡座をかいて座っており、トトの姿はなかった。


「起きたのか?」

「うん、アバス、トトは?」

「あやつは、食堂で酒を飲んでいるはずだ、まぁ……金貨は数枚だけ渡して、あとは我が持っている」


 一瞬、沈黙したが直ぐに理解出来た。


「確かにトトなら、全部飲んじゃうかもな」

「我も同感だ」


 トトの事を話しながら、オレはもう一つの質問を開始する。


「アバス、あのさ、嫌ならいいんだけどさ……」

「どうしたのだ? 改まってなにかあったのか」

「いや、人化の巻物を使う気はないか?」


 オレの言葉にアバスが不思議そうに視線を向けてから首を軽く傾げる。


「意味が分からないが、我にそれを使わせたいのか?」

「うん! だってさ、アバスだって一緒に食事したり、お酒のんだり、歩きながら屋台にいったりとかさ、やっぱり一緒にしたいじゃんか」


「ふふ、まさか、理由が飲み食いとは、我も予想してなかったぞ。だが、確かに興味はある。だが本当に良いのか? 一度使えば無くなるのがスクロールなのだぞ?」

「構わないよ! だって、オレ達が集めたアイテムなんだしアバスが使うなら問題ないさ」


 アバスに人化のスクロールを発動する為、アバスの前に立つ、初めてスクロールをしようするからだろうか、すごく緊張する。


「いくよ」

「ああ、頼む」


 返事を聞いてから、オレはスクロールを開く。

 開かれたスクロールに「対象、アバス」と口にした瞬間、眩い光がアバスを包み込む。


「アバスどう? 身体に変化はないか」

 光がおさまった後、室内には煙のようなものが充満してからゆっくりと消えていく。

 その時、ガタ、カシャン、と鉄が地面に落下するような音が数回続き、オレは慌ててアバスに駆け寄る。


「アバス!」

「大丈夫だ、安心しろカシーム」といつもの口調で返事が聞こえるだが、その声に違和感があった。


 全ての煙が消えさった時、オレは自身の目を疑った。


 そこには散らばった鎧と共に、淡い赤色の髪を腰まで伸ばした細身の美しい女性が座っていた。

 目のやり場に困ったのは、その女性が一糸まとわぬ姿であり、膨らみがない胸部などを隠すこと無く胡座をかいて座っていたからだ。

 目を逸らした瞬間、何故か、オレの顔を女性の両手が掴み、正面を向けられる。


「どうしたのだ、カシーム?」

「え、いや、アバスなんだよな?」

「うむ、我はアバスだ」


 目をつぶったまま、会話が続くと本当にアバスなんだと改めて確認する。


 しかし、そこには再度、何も身に付けない女性の姿があり、オレは慌ててベッドに敷かれていたシーツを剥ぎ取り手渡す。


「とりあえず、巻いて!」と、慌てるオレにアバスがそそくさとシーツを身に纏う。


「巻いたぞ?」


「ああ、ありがとうな」


 激しい鼓動を深呼吸で抑えつつ、本題に入ろうとした時、アバスの顔を見る。

 美しい顔にバランスのとれた目鼻立ち、片目を前髪で隠しているが、綺麗なレッドアイだとわかる。


「アバス、女だったのかよ!」

 驚いて声をあげたオレに不思議そうな表情を浮かばられた。


「我は精霊だ、性別は所有者により変わる。男の所有者ならば女、女の所有者ならば男になる。問題はなかろう?」


 アバスの説明は随時行動を共にする為、性別が変わるそうだ。アドバイスや助言の際など、異性の方が良い場合もあるかららしい。

 実際に、ダンジョン内でも、アバスの家事には助けられているからか、否定出来なかった。


「簡単な話だ、異性の思考を主に伝えるのも、我らの役目だからな」


 そう言うと前髪で隠された片目を見せてくるアバス。


「視界は体のモノを使えるから問題ないが、本体はこちらだからな」


 片目が義眼のようになっており、そこには魔玉が綺麗にハマっているのがわかる。


 一瞬、驚いたが冷静に考えながら話を進める事にした。


 そこから確認出来たのは、今まで通り鎧は使える、使う際、何故か鎧の中で女性のまま浮いているが手足は自在に動かせるようだ。

 鎧を一人で身につけるアバスはまるで服を着るように装甲をつけていった。更に大盾と大剣を軽々と持ち上げてみせた。

 むしろ、全身鎧じゃなくても筋力が変わらない事実にオレは驚いた。


「とりあえず、明日は服とか必要なモノを買いにいこう、流石に裸で鎧を着るのはダメだからな」

「人化を解除すれば問題ないが?」

「いざって時に服がないと困るし、人の姿で何とかなるなら、その方が色々便利だからな」


「そう言うものか?」と言いながら、フルプレートの黒鎧をいつものように身に纏っていた。


 何とか話を終わらせた頃、トトが部屋に入ってくる。


「アバス〜 マスターは起きたんか?」


「トト、寝ちゃってた、ごめん」


 軽く頭を下げるとトトは下で夕食を食べようと言ってから先に下へと降りていった。


「アバスも行かないか?」

「我は、いや、今日はまだ慣れぬからな、遠慮しよう、だが、明日は一緒に食べてみたいな」


「だな」とオレはニッコリ笑い、トトが待つ食堂へと向かった。





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