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22話・四階層の厄介者4

 エリアボスの部屋はやはり闘技場タイプだった。入口からは、やはり室内を確認する事は出来ない。

 広い入口にはバリアのような幕が張られている。


 オレ達は既に覚悟を決めている為、入口を見つめた後に中に入る。

 ボス部屋は一階層とやはり同じ作りだった。しかし、違うのはボスであろう魔物の姿が見えないことだ。


「ボスはどこだ?」

 覚悟を決めて入った為か、オレは呆気に取られたような声を出していた。


「ケケケッ」っと、声がする。


 直ぐに声の主を探すと闘技場の一番奥に人影を見つけ、慌てて武器を構える。


 ゆっくりとコチラに向けて歩いてくる人影は、顔を覆うようにフード付きのマントをつけており、身長から通常のゴブリンのように見える。


「敵はゴブリン?」

 オレは再度、気の抜けたような声を出していた。


 だが、目の前のゴブリンの口から口角が上がったのがわかる。


 そして、ゴブリンが片手を前に伸ばす。


「来るぞ、カシーム!」

 アバスの声を発したと同時に地面に赤黒く輝き円が描かれると無数のゴブリンとウルフが数十体姿を現す。ゴブリンが20体、ウルフが15体、それが一斉にオレ達へと向かって襲い掛かってくる。


 襲ってきたゴブリンをアバスが横払いを即座に振るい。トトとオレがその背後に攻撃する。


 しかし、数十体のゴブリンとウルフが相手となるとアバスも急ぎ、鎧兵を召喚し闘技場が乱戦になる。

 オレも短剣を片手にゴブリンを突き立て、クナイをうち放ち、それに合わせてワイヤーをゴブリンとウルフに鞭のように振るう。


 無数のゴブリンとウルフが絶命すると即座に黒い靄となって消えていく。


 それを確認したアバスがオレ達に敵の正体について教えてくれた。


「やつは、多分、ゴブリンテイマーの上位種、ゴブリンの魔物使い。つまり、モンスターテイマーだろう」


「魔物が魔物を召喚してるってこと?」

「ああ、モンスターテイマーは見た目は普通のゴブリンと変わらないが、高ランクの魔物だ、自分よりランクの低い魔物を召喚する事のできる厄介な奴だ」


 説明を聞きながら、召喚されたゴブリンとウルフをすべて倒すと、イラッだったようにテイマーゴブリンが声を上げながら、足をバタつかせその場で飛び跳ねる。


 地面に再度、赤黒い円が描かれ、最初よりもデカイ円からグレートボアとオーガが姿を現し、最初同様にオレ達に襲って来る。

 相手は持久戦狙いなのだろうか、次々に魔物を召喚していく。

 ゴブリン、ウルフ、グレートボア、オーガと、数が増えていく。


 次第に一箇所に追いやられるオレ達にテイマーゴブリンはその場で腹を抱えて笑い手を叩いている。


 しかし、オレはそんなテイマーゴブリンが腰から小瓶を手に取り飲み干す姿を見逃さなかった。

 腰に縛られた小瓶は残り一本であり、その色からマジックポーションだと判断した。


「アイツ、マジックポーションを飲んでやがる!」


 オレの言葉にアバスとトトがテイマーゴブリンを確認する、トトは苛立ちを顕にしていたが、アバスは逆に冷静だった。


「つまり、やつは魔力を使って魔物を召喚しているわけだな、ボスだから、最悪、無像に召喚される事も覚悟していたが……ならば、倒し続ければ問題ないな」


 問題ないと言うアバスにトトが軽くため息を吐く。


「問題ありやろ! 今で三回目の召喚なんやで、それがあと二回もあるんや、鬼畜の鬼畜やろ、こんなん!」


「むしろ、シンプルなら問題ない、奴に限界がある事実がわかったなら、負ける道理がない」

 

 二人の意見にオレも同意だ、マジックポーションが残り僅かなら手はある!


「アバス、トト、一気にアイツを何とかする方法があるよ」


 オレは迫り来る魔物達を倒しながら、そう口にする。戦闘中の二人が一瞬、此方を確認するように視線を向けてから話し出す。


「トト、アバスの大剣を最大まで巨大化させてくれ、できるか?」

「あぁ、できんで? ただ、それやとアバスでも、流石に扱われへんやろ!」

「確かに、異能を発動した我でも最大にされた大剣となれば、簡単には操れんぞ」


 ゴブリンとオーガを斬りふせたアバスはそう語りながら、オレを一瞥(いちべつ)する。


「オレもアバスの剣に異能を発動する。アバスは鎧に力を全力で込めてくれ、剣の重さを何とか反転させて見せるからさ」


「本気なのか? 失敗すれば、魔物達に我々三人が一斉に襲われるんだぞ?」


「付け焼き刃やな、まぁ、オモロイな! まともに戦ってたら、こっちがもたんしな。アバス、しゃあないって、一発やったろや!」


 三人で笑った。覚悟は既に決まっていたからだろうか、オレ達はギャンブラーじゃないし、神に祈ったりもしない失敗すれば、間違いなく大きな痛手を食らうことになる、それでも三人なら出来ない訳が無い、そんな自信をオレは持っている。


 既に四回を超える魔物召喚が始まる。

 テイマーゴブリンはオレ達が話し合ってる間もそのニヤけた面を崩すことなく、勝利する瞬間を待ちわびているように上機嫌に見える。


「あの顔、ムカつくよな、しっかりと一発入れてやらないとな!」


 二人が頷き、オレ達も行動を開始する。


 アバスが前衛へと向かい、魔物の群れを斬り払うとその背後からオレとトトがサポートに周り、アバスが大剣を全力で振れるだけのスペースを確保する。


「いまだッ!」


 オレの声にアバスが足を前に踏み出し、両手に力を込める。

 巨大な大剣が横に振り抜かれる瞬間、トトが異能を発動し、大剣が闘技場の壁ギリギリまで巨大化する。

 それに合わせて、トトはオレが大剣の下に放ったクナイも巨大化させる、大剣とクナイに反発するように磁場を付与すると地面から浮いたクナイが大剣を浮かせながら加速させる。

 加速したクナイとアバスの大剣が魔物の群れを薙ぎ払う。

 風圧に耐えながら、オレは直ぐに駆け出していく。


 土煙が舞い上がる闘技場、オレは勢いよく飛び上がると、土煙の中から、数本のナイフとワイヤー付きクナイをテイマーゴブリンへと投げ放つ。


 オレの存在に気づいたテイマーゴブリンが慌てて赤黒い円を作るとゴブリンシールドが二体召喚される、ナイフに対して、盾を構えるゴブリンシールド。

 しかし、異能が掛けられたナイフがシールドを貫通していく。

 惜しくもテイマーゴブリンを仕留める事は出来なかったが、目的であったモノは何とか出来た。


 一連の流れの中で、パリンッ! と落下した小瓶が割れる音がオレの耳に響く──最後のマジックポーションを破壊した。


「キギャア! ゲアガギギギャアッ!」


 怒りを顕にするテイマーゴブリンの姿がそこにはあった。


 オレは直ぐに着地すると再度テイマーゴブリンへと視線を向ける。

 再度、攻撃をしようと考えた瞬間、今までよりも巨大な赤黒い円がテイマーゴブリンを中心に現れ、それは黒い光の柱のように闘技場の天井へと禍々しくのびていく。


「なんだこれ……」

「カシーム! 一旦下がれッ!」


 アバスの声に急ぎ、下がり、二人と合流する。


 次第に赤黒い輝きが失われ、姿を現したそれは、オレの全身を震わせた。


「嘘だろ、タイタンゴブリンだよな」


 オレはそう呟いていた、出来るなら、アバスとトトのどちらかに否定して貰えたら良かったが二人は無言で武器を構えている。


 オレ達の前に現れたゴブリンタイタンは、全身が緑色でありながら、赤と黒の燃えるような柄の線が腕に刻まれている。


「魔物合成か……」

 不意にアバスが呟いた。


「魔物合成?」

「ああ、あれは奥の手ってやつだな、自身の身体に魔物を合成させて強化する方法だ。リスクは一度合成すれば、元の姿には戻れないことだな」


 そこから口早にアバスの説明が続いた。


 魔物合成は術者と魔物を合成させるスキルで、テイマー系ならば、人間でも長い年月をかければ取得出来る。しかし、一度合成すれば、合成した者の姿になり、元の姿には戻れなくなる。

 リスクと言えば、リスクだが、本来、魔物でありゴブリンであるテイマーゴブリンならば、同族を合成すれば、元の形には戻れるのでリスクとも言えない。


 術者と魔物の能力を持つ事で更なる力を手に入れたテイマーゴブリンは再度ニヤリと笑った。


 テイマーゴブリンを新たに呼ぶなら、テイマータイタンだろうか、しかし、先程まで高みの見物を決め込んでいたテイマータイタンは最初から握られていた棍棒を地面な打ち付けると雄叫びを上げてこちらに向かって襲い掛かってくる。


 棍棒を手に襲い掛かるテイマータイタンにアバスが大剣を合わせると振り下ろされた棍棒と大剣が激しくぶつかり合う。


 しかし、力比べとなった瞬間、オレはある疑問を感じた。

 それはアバスとテイマーゴブリンの力比べでアバスが明らかに押しているのだ。


 最初こそ、勢いがあったテイマータイタンであったが、数撃の打ち合いでアバスに押され始めているのがわかる。


 アバスもそれを即座に理解したからだろうか、斬撃の速度が次第に加速し、それに対応するテイマータイタンが次第に押されていく。


 勝てないと理解したテイマータイタンが棍棒をアバスに投げつけると慌てて距離をとろうと後方に走り出す。


 それを見た瞬間、トトが駆け出していく。


「雄なら、逃げんなやッ!」と、声をあげた瞬間、トトは自身の体を巨大化させる。


 三メートル程のサイズになったトトが逃げ出したテイマータイタンの元に駆け出すと、飛び上がりざまに長い足からの回し蹴りがテイマータイタンの脇腹に直撃し、テイマータイタンが壁まで吹き飛ばされる。


「トト、デケェ……」とオレは目の前の光景に口をあんぐりとあけ、呆けていた。


 オレ達は既にユニークボスであるゴブリンタイタンと戦っていた為、テイマータイタンに最初こそ危機感を覚えたが、実際は姿や筋力だけの偽物であり、経験や力の使い方が分からないテイマータイタンにアバスが負ける訳がなかった。


 壁に叩きつけられ、ぐったりしたテイマータイタンにアバスが大剣を振り下ろし、エリアボスの討伐を完了したのだ。


 テイマーゴブリンがタイタンの姿のまま消滅すると宝箱が姿を現す。

 ボス討伐で現れる宝箱はダンジョン内に配置されたそれとはサイズも見た目も違う、普通の宝箱が木製ならば、ボス宝箱は装飾が施されており、明らかに高級感が溢れている。


 直ぐに三人で中身を確認する。


 ・複製のスクロール──発動すると決めた対象と同じ物を作り出す。生物など魂が宿っているモノは複製不可。


 ・テイマーの指輪──テイマーとしてのジョブが手に入る指輪、指輪を外さない限りテイマーとして、魔物を一体テイムできる。外した場合、テイムした魔物は指輪に封印され再度装備で召喚可能。


 ・奴隷の首輪──付けられた者が絶対服従となる首輪、同意無しで使った場合、時間で劣化、最悪はロストする。同意がある場合、破壊耐性付与が発動する。使う際に注意。


 この三つが初回限定ドロップ品のようだった。

 特別な条件で出現するようで使い捨ての対象指定鑑定スクロールと一緒に入っていたからだ。


 普通は初回限定は一階層のみだが、イレギュラーのユニークボスであるゴブリンタイタンがいた為、通常とは宝箱が変化したのだろうとアバスは語った。


 ・身代わりの腕輪──四個

 ・マジックポーション──四本

 ・帰還石──四個

 

 新たに手に入れた帰還石は強制的にダンジョン入口に転移させる使い捨てアイテムだ。

 ダンジョン攻略の際には絶対に必要になるアイテムでオレ達は所持してなかったのでかなり有り難い。


 ただ、奴隷の首輪やテイマーの指輪など、どうするか悩む物ばかりだ……何故二つのアイテムだけ困っているかと言うと、複製のスクロールはトトが欲しがり、渡した途端に迷宮酒を複製したからだ。


「ウチの可愛い迷宮酒ちゃん〜うひょ〜」と、今も舞い上がっている。


 当然、トトは複製側となる。オリジナルの迷宮酒をオークションに出す為だ、複製品はオリジナルと変わらないが鑑定をすれば複製だとわかるからだ、複製品をオークションに出せば最悪は詐欺で捕えられる可能性もあるのでトトも納得してくれている。




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