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21話・四階層の厄介者3

 最後にオレだけでも仕留めようって事か、畜生……


 オレは既に声を出すことすら忘れて、向かってくるゴブリンタイタンに向き合うと振り下ろされた鉈に黒の短剣(ロングソード)を振り上げる。


 ガギッン!っと、激しい音がなった瞬間、刃が砕け宙を舞った刃が地面に突き刺さる。


 アバスとトトが言葉を失った瞬間、ゴブリンタイタンが膝を付き、その場で息を切らせながら笑った。

 満足そうに歯をむき出しにしながら、笑ったのだ……限界だったのだろう、息は絶え絶えとなり、声すら出さず、その場を微動だにしない。


 その手に握られた鉈は無惨に中間から砕けており、オレはゴブリンタイタンへを見下ろす形になっていた。


「本当の終わりだな……ゴブリンタイタン」

 握った刃をゴブリンタイタンの首目掛けて振り下ろすと、地面にゴブリンタイタンの頭が転がり血が吹き出す。

 この瞬間、ゴブリンタイタンに勝利したのだと身体が震えた。


「マスター! 大丈夫か、ホンマにホンマにやったんやな!」

 半泣きのトトに抱きしめられるとオレは安堵からか意識が遠のくのを感じた。


 次に気づいたのはアバスの背中であり、トトとアバスは探索を再開しており、移動している最中であった。

 オレ達の周りには鎧兵達が盾と剣や槍を手に並走している。


「ア、バス、トト……ごめん、もう大丈夫だから」

「まだ寝てろ、来るなと言ったのに無理しおって」

「せやで、アバスの言う通りに今はもう少し休んどき、まぁ揺れるやろうが、そこは我慢やな」


 背中に背負われ、オレは感謝の気持ちを感じながら、言われるままに休むことにした。


 敵の気配が完全に消えてから、オレは降ろされると、状況確認をする。


 ゴブリンタイタンに勝利した後、他のゴブリン達はゴブリンタイタンの返り血に(おく)したのか、警戒しながら様子を窺っていたが諦めたのだろう、今は気配がしない事実を伝えられた。


 ゴブリンタイタンから魔石、砕けた大鉈、砕けた鉈の刃、不思議なスクロールが二本、迷宮酒がドロップ品となっていた。マジックバックからアバスはそれらを取り出すとオレはそれを確認する。


 不思議なスクロール──白紙のスクロールで使用者の名前を記入するとランダムでスクロールの内容が決められる。所有者が名前を書いた際に他者は使えなくなる為、偽物も出回る事があり、売る際は鑑定証明が必要になる。

 

 迷宮酒──エリアボス以外に存在するレアであるユニークボスからドロップする事がある最高級酒、地上では作れない深い味は一度飲んだ者の心に刻まれて忘れられる事はないらしい。らしいと言うのはオレみたいな駆け出し冒険者はもちろん、上級貴族すら一生に一度、飲めるか飲めないかの代物であり、ドロップしても、直ぐにオークションなどに回されてしまうからだ。


 他のゴブリン達については、魔石等はできる限り剥ぎ取り、あとは地面へと吸収されたと説明される。

 すべては手に入らなかったとアバスは苦笑するように語った。


 オレが気を失っている間に、アバスが鎧兵を異能で操り、守りを固めて移動を開始したのであった。


 そこから、オレ達は数時間を探索に使い、小さな湖を見つけると、そこでゴブリンタイタンの血をなるべく洗い流す。

 その際、トトに視線を向けないように気を使っていたが、何故かトトが背中から抱きついてくる。


「マスター、腹の傷は綺麗に消えたんやなぁ、ホンマに良かったわぁ〜ちゃんと血を洗い流さなアカンで〜ゴブリンの血はホンマに酷い臭いやからなぁ」


 そう言うとトトは褐色の美しい肌をしっかりと湖につけてから銀髪の髪を洗う。

 その間にアバスも普段使っている黒い鎧を湖に沈め、鎧兵と同じ鎧を操りオレ達の服を洗ってから焚き火をつける。

 辺りから木を切り出すと物干し竿を作り、オレ達の衣服を乾かす為に干していく。


 水浴びを終えてから、オレ達は一旦、ボアの毛皮を身にまとい、焚き火にあたる。


 アバスはオレ達が身体を乾かしている間に、マジックバックから鍋を取り出し、持ってきた水と食材を入れ、ダンジョンで手に入れたボア肉を入れた煮込み料理を作り、塩コショウで簡単な味付けを済ますとパンと煮込みの盛られた木製の皿が渡される。


 鎧兵達が見張りをしている間に食事を済ませ、服がある程度乾いてから、服を着て探索を再開する。


 それから数回の戦闘があったが、敵は下位ゴブリンばかりであり、中級のゴブリン隊長がリーダーとなっていたが、ゴブリンタイタンとの戦闘の後では敵ではなかった。

 鎧兵達の活躍もあり、次第に探索範囲が狭まっていく。


 そうして、ダンジョン内で一日を終える事になる。


 見張りは睡眠を必要としないアバスと鎧兵がしてくれる事になり、簡易的な木と葉っぱで作られた寝床で休む事になる。ただ、このエリアには夜がない為、木と葉で作られた天井から見える擬似太陽の光をみて眠るのだった。

 目覚めると眠ったハズなのに何とも言えない感覚がそこにあった。


「うーん、アバス、ありがとう、しっかり休めたよ」


「そうか、ならよかった。既に朝食ができているから食べてくれ」

「ありがとうな、アバス」


 アバスに挨拶を済ますと同時にトトが伸びをしながらテントから姿を現す。


「おはようさん、ふぁ〜、よう寝たわぁ」


 相変わらずのマイペースだな、まぁそのマイペースが逆に助かるんだけどな。


 ダンジョン内で当たり前に仲間がいる事実を有難いと感じるのは変な事じゃない、ダンジョンとは死が隣り合わせであり、ダンジョンを出た際に入った時の仲間が、そして自分自身が同じように外に出られるとは限らないのだから──


 探索を再開して、森林エリアを抜けた先、岩肌が目立つエリアに差し掛かる。その奥にまるで鬼が口を開いたような不気味な形の通路を見つける。

 通路に入ると四階層に降りてきた際に通ったダンジョンの通路と同じものだとわかり、その先には安全エリアがあった。

 しかし、安全エリアに辿り着いた時、むしろ、ここからが本当の戦いなのだと感じた。オレ達がこれから戦う相手がゴブリンタイタンよりも強い魔物の可能性があるだから……


「カシームよ、悩んでいるのか?」

「あはは、アバスには、やっぱりわかるんだな」

「いやいや、アバスだけやないて、ウチやて、気づいてるわ!」


 オレは悩んでいた内容を話すと二人はただ笑って背中を叩いてくれた。


「安心しッ! 絶対に三人で敵をぶっ飛ばして、迷宮酒で乾杯するんやからな!」

「三人で勝つのは同意だな、だが、迷宮酒はオークションへと、我は考えているんだがな?」

「えぇーーー! そうなん、アバス、アンタ、殺生な事考えるなぁ……せっかく乾杯しよう、思ったんに!」


 そんなダンジョンから帰還した後の事を話しながら、アバスが二つのスクロールを取り出してオレに見せてきた。

 ゴブリンタイタン戦で手に入れた不思議なスクロールである。


「戦力になるかは分からぬが、どうする?」


 アバスのどうするは、所有者として名前をスクロールに刻むかという質問だ、仮に刻まなければ、高値になるかもしれないが、今のオレに対する質問の意図は多分、所有者として名を刻み良い内容なら自身に使うか、という意味だろう。


「売るのは諦めて、名前をスクロールに刻むつもりだよ。でも二人はいいの?」

 トトとアバスに視線を向けると、二人は構わないという感じに軽く頷いてみせる。


 そして、二本のスクロールに名前を記入する。

 記入した直後、スクロールがゆっくりと震えだしたかと思うと輝き出した。輝きがおさまると同時にスクロールが一旦開き内容が明らかになる。


 明らかになったのは二本の巻物が戦闘に使えるものでは無いという事実だった。

 一本目は人化の巻物であり、二本目は復元の巻物であり、今は使わないだろうというのが三人で話した結果だった。


 ・人化の巻物──人に変化するスキルが手に入る。使えるように理解させるのは大変だがテイマー、獣使い、他多数のジョブ持ちからも人気の巻物。


 ・復元の巻物──使った事のあるスクロールをこの巻物に復元できる。ただし、内容はランダムで決まる。


 とりあえず、無事にダンジョンを出たら、アバスに人化の巻物を使ってくれないか聞いてみようと思って る。

 アバスの鎧もそうなのだが、やはり目立つからな……


 楽しくも短い時間が過ぎていく、オレ達は再度、装備品とアイテム、すべての状況を想像し、アイテムバックからだして置く物も含めてしっかり話し合うと、四階層、安全エリアの先に存在していたボス部屋へと向かっていく。


 

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