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19話・四階層の厄介者1

 三階層に降り立ったオレ達は階段付近の脇道に宝箱を発見する。

 見つけた宝箱の中には回復ポーション三本が入っており、このD級ダンジョンである《傀儡師の遊び場》で初めての回復アイテムをドロップしたのだ。

 それは同時に回復アイテムが出ることにより、食糧があれば長くダンジョンに潜り続けられる可能性がある事を意味していた。


「これなら、何回か周回したら、すぐに回復ポーションが溜まるな、やっぱ、ダンジョンは凄いな」

 浮かれるオレの顔はかなりニヤけて閉まっていたのだろうか、アバスから軽く注意がはいる。


「落ち着け、それに二階層以降は、宝箱の位置は変わらないが、中身がランダムに変化する。最初が回復ポーションでも、次からは薬草や解毒ポーションの場合もあるからな」

「え、って事は、罠になる可能性もあるのか!」


 オレの質問にはトトが素早く答えてくれた。


「ナイナイ、罠は罠の宝箱から、お宝はお宝の宝箱って何故か決まってるんよ、だから、危ないのは最初だけや、まぁ最初で最後の宝箱にならんようにせなあかんちゅ〜話が、開く側からしたら、まぁ、一番大切な話やけどな〜」


 知らない知識がまたひとつ分かったところで、三階層を歩いていく。

 二階層がグレートボアが余裕で移動でき、オーガが棍棒を振り上げられるくらいに天井部分が高かったが、三階層はそれに輪をかけて広くなっている。

 高さだけではなく、横幅も同様に広くなっていることから、複数のグレートボアなどによる突撃やオーガに至っては飛び掛って来る事も可能になっている事実に警戒を強めつつ歩いていく。


 やはり、っと、言うべきか、悪い予想ほどよく当たると、言うべきだろうか……警戒していたオレ達に向かって四体のグレートボアが駆けてきている、更に先頭の一体の背中には本来ありえないものが跨っていた。

 激しく爆走するグレートボアの背中にはオーガが乗っており、棍棒を振り回しながらこちらへと威嚇をするように「グアァッ!」っと雄叫びをあげる。


 一瞬、驚いてしまったが、すぐにクナイを無数に放ち、ワイヤーをグレートボアの足に触れる位置へとしっかりと張る。


 しかし、オレの考えを知ってか知らずか、先頭のオーガを乗せたグレートボアが大きく飛び上がり、ワイヤーを飛び越える。


 着地すると同時に、グレートボアの前足から“ボギッ”と、鈍い痛々しい音が鳴り、その直後、グレートボアが前のめりに倒れる。

 当然ながら、乗っていたオーガも前に投げ出されるが、無事だったのか直ぐに立ち上がる……しかし、そのすぐ後ろから、ワイヤーで足を切断されたグレートボア三体が勢いよく転がると、立ち上がったばかりのオーガ目掛けて、勢いよくぶつかっていく。


 一瞬の出来事だったが、オーガはグレートボア三体により、壁に叩きつけられ絶命した。

 そこから、四体のグレートボアにトドメを刺し、オレはなんとも言えない気持ちに襲われていた。

 その気持ちを代弁するようにトトが呟いた。


「なんか、ついてないやつやったな……」

「なんとも言えないよね……」


 そんな不思議な光景を前にして止まっていたオレ達に、アバスが声をかける。


「早く魔石を回収するぞ? 放置すれば、ダンジョンに吸い込まれてしまうからな」


 三階層での戦闘は以外にもオレに有利なモノになっていた。

 魔物の殆どが綺麗にワイヤーの餌食になっていくのだからなんとも言えない。

 オーガに至っては、もう少し知能が高ければ、ワイヤーなどに引っ掛かる事もなかっただろうに……しかし、そうなると、最初のオーガだけは、他のオーガよりも賢かったのではないかと、不思議と感じてしまう、あのオーガだけは罠をグレートボアに飛ばせていたからだ……まぁ、グレートボアとオーガの体重を飛び上がった足が支えられなかったのは見てて、本当に残念に感じざるを得ない。


 三階層の魔物は、グレートボア、オーガ、スライムに加えて、ゴブリンライダー(ゴブリン+ウルフ)、オーガライダー(オーガ+グレートボア)? となっていた。

 結局、苦戦するような戦いはなかった、どれも数と力で突進するものばかりであり、ワイヤーを使えば楽に勝利する事ができたからだ。


 四階層へとそのまま降りていき、すぐに魔物がオレ達を認識したように集まってくるのがわかる。

 集まってきたそれは、ゴブリンの大群だった、違うのは、ボブゴブリンやゴブリンナイト、ゴブリンウォーリアといったゴブリンの上位種達であった。


「ふむ、我が思うに、この階層はゴブリンの巣みたいだな……」


 アバスの言葉を聞いてトトが両手を自身の腕に絡めながら、身を震わす。


「ゴブリンの巣って、あれやん、ウチ、捕まったら、ヤバいやつやん! 大人限定の喜ぶパターンになるやつやんか! あかん、カシームにはまだ早い世界や〜あ〜いやや〜」

 再度、体をくねらせて、よく分からない事ばかり言いながら絶叫している。


 その声が更なるゴブリンを呼び寄せる結果となり、通路を埋め尽くすような緑色の小鬼達が下卑た笑みを浮かべ、手にしている無数の武器が歩く度、地面にすれて嫌な音を鳴らしている。


 大量のゴブリンを前にして、さっきまで体をくねらせていたトトが悪ふざけをやめ、ゴブリンへと視線を向ける。


「はぁ、ホンマにゴブリンは嫌いやねん……アイツら、一匹いたら、千匹は出てくるやんか……ホンマにいややわぁ……」


 トトはそう言いながらチャクラムをホルダーから抜き出す。


「とりあえず、ヤツらの数を減らさなアカンなぁ……」


 そんなトトの言葉に、アバスも同様に大剣と大盾をしっかりと構え、トトと共に前に出る。


「カシーム、前衛は我とトトが吹き飛ばす、開いた先、ゴブリンの指示役がいるはずだ、ヤツらは複数の部隊が集まっただけの存在だ。指示役が死ねば、ヤツらはバラバラに行動を開始するだろう」


 アバスの説明を聞き、すぐにオレは指揮を行っているであろう、ゴブリン隊長を見つけた。


 そして、アバスが先に動き出した、盾を前に構え、一気に突進する。


「フギャ? ヒガっ!」と、驚いたような声を上げるゴブリンにアバスの盾が叩きつけられ、乱暴に大剣が振り下ろされる、振り下ろされた大剣が大地に触れたと同時に回転を加えられた大剣が横に振り抜かれ、数秒の間に、ゴブリン達を肉塊へと変化させる。


 アバスの一撃が決まった瞬間にトトがその上を勢いよく飛び越えると、チャクラムを両手に握り、舞い踊る。

 チャクラムが振り抜かれた瞬間、触れたゴブリン達が炎に包まれ、更に片方のチャクラムに触れたゴブリンは風の刃に全身を切り刻まれていく。

 左右にアバスとトトがバラけると、本来見えていなかったゴブリン達の先に、身を隠していた筈のゴブリン隊長の姿が顕にされていた。


「いけぇぇぇッ!」

 オレは全力で大量のナイフをゴブリン隊長へと投げ放つ。

 それを確認したトトがすべてのナイフを巨大化させていく、凄まじい速度で投げ放たれたナイフは速度をそのままにアバスの大剣と変わらぬサイズに変化しており、大剣になったナイフはゴブリン隊長とその周囲を守っていたゴブリン達を切り裂いた。


 ゴブリン隊長を失った先頭の部隊が混乱すると僅かに統率がとれていたゴブリン達が慌てだすのがわかる。

 そんな有象無象になったゴブリン達をアバスとトトが一気に排除するとオレは一気に二人の元に向かうとワイヤーを操り、ゴブリン達にそれを叩きつける。

 叩きつけらたワイヤーがゴブリン達を切り裂き、それを合図にアバスが駆け出していく。


 しかし、数で戦うゴブリンはしぶとく、更に上位種達が戦闘に参加していくと、アバスはマジックバックに手を伸ばした。

 マジックバックから、取り出したのは、砂の魔物との戦闘時に大量に手に入れていた鎧兵達であった。


「数には数で戦わせてもらう」そう口にした瞬間、アバスの周囲にフルアーマーの鎧兵が武器と盾を手に姿を現し、ゴブリンへと攻撃を開始する。


 それから、一時間程の戦闘が終わると、無数の上位種達がその場に倒れており、他のゴブリン達はアバスの操る鎧兵達により蹂躙されていた。

 鎧兵に刺さった剣や矢がその激しい戦闘を物語っていたが、操り人形とかわらない鎧兵からすれば痛くも痒くもなかったのだ、しかし、中には頭部を完全に鈍器のような武器で潰された鎧兵や縦から切り裂かれ動かなくなっている鎧兵も存在していた。


 ダンジョンに入る前は、たかがゴブリンと考えていた、数が厄介だが、負ける事はないだろう、何故なら数以外は初心者でも何とか倒せるくらいには最弱とされる魔物だと認識していたからだ……

 フルアーマーの鎧兵は生身の兵とは違う、関節を刺されようが、首を落とされようが、アバスの指示で動く存在、言うならば操り人形だからだ。ゴブリンに負ける筈がないという、考えは今も変わらない……鎧兵と比べたならば、ゴブリンはやはり弱いのだ……

 しかし、アバスの操る鎧兵の幾つかが受けた無惨な傷痕がその認識を改めさせるには十分な程にゴブリンという存在の強さを物語っていた。

 

 一時間という長くも短い時間は、オレにゴブリンという新たな恐怖を植え付けたと言えるだろう。


 四階層を探索し続ける事、約六時間、最初の戦闘後に休憩や、魔物(ゴブリン種)との戦闘を含めれば既に四階層に降り立ってから九時間以上が過ぎてしまっていた。

 他の階層を数時間で攻略してきた事を考えれば、あまり変化はないように見えるが、一度の戦闘時間が他の階層と比べて異様に長いのだ……一回の戦闘に30体~50体の群れで現れ、戦闘に負けそうになれば逃げていくが、待ち伏せに奇襲、仲間を呼んでの再戦と、とにかく厄介でしかなかった…… 

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