18話・ダンジョンからの歓迎2
見慣れない魔物だった……ボア種だろうか……でも、オレの知ってるボスは大人と同じくらいのサイズだ。
しかし、オレ達の目の前で堂々と此方を見ているそれは三メートルはあるだろうか……
ギザギザの歯は鋭いノコギリのように見え、口の横から生えた二本の立派な牙、全身が紫色の毛皮に覆われており、四本の足はその巨大を支える為であろう、太く分厚い蹄があり、地面が窪んでいる事実は、その体積がどれ程凄まじいのかを物語っている。
あと一歩、たった一歩、踏み出せば二階層になる……つまり、今、目の前の化け物が攻撃をしてこないのは、オレ達が階段という安全地帯にまだその身をとどめているからだ。
オレの頬を汗が流れ落ちようとしていた時、アバスとトトがオレの方を見て軽く笑う。
「マスターなんやから、ウチらを頼りや〜」
「だな、倒し方を今から見せる、しっかり見ていろカシーム」
そう言うとアバスが先に二階層へと足を踏み入れる。
アバスを認識したボア種の魔物は、その巨大な足をアバスへと振り上げると、力任せに前足を振り下ろす。
振り下ろされた前足をアバスは全身で受け止める。
「力はあるようだが、我は力でも負ける気はないのだよ!」
最初の勢いを受け止めた後、アバスは両手でボア種の足を横に向けて力任せに引っ張り、その巨体を転倒させる。
「さて、倒れた巨体で起き上がれるのか?」と、アバスが呟く、既に力任せに倒されたボア種は前足を痛めたのか、上手く起き上がってこないのがわかる。
倒れたまま起き上がれないボア種を上から覗き込むアバスとトトはニヤリと悪い笑みを浮かべているように見える。
動けないボア種に対して、容赦なくトトが牙にチャクラムを振り下ろす、振り下ろした瞬間にチャクラムが巨大化し、立派な太い牙が砕けるようにして切断される。
「プギャァァァ!」と痛みに悶えながら絶叫をあげるボア種、しかし、トトはまったく気にしない素振りでもう片方の牙を叩き砕く。
「さて、アンタ、もう〜牙ないでぇ〜さて、牙が無くなったあとは何処を切るか悩むなぁ?」
屈託のない笑顔を浮かべるトトにボア種が本能から恐怖を感じているように見える……手足をバタつかせ、尻尾は完全に諦めたようにだらんと地面にくたびれている。
二階層、入口から遭遇したボア種はその後、ダンジョンへとのみ込まれ姿を消した。
単純な力技になんの参考にもならなかったが、巨大な敵でも仲間がいたら大丈夫だという事実を実際に見せてくれたんだとオレは思う事にした。
しかし、この魔物との出会いで二階層の魔物が一階層よりも、かなり強力なモノになっている事実が分かり、オレ達は警戒しながら二階層を進む。
そして、正面から次の魔物が姿を現す。
現れたのはデカイ棍棒を手に握った人型の魔物であり、発達した筋肉、頭には二本の角、痛覚の存在しない戦う為にのみ進化した存在、そうオーガだった。
オーガはこちらに気づくと、棍棒を構えて襲ってくる。
距離があるうちにオレはクナイに異能を纏わせるとオーガ目掛けて投げ放つ。
最初の一本を棍棒で払った瞬間、オレは更にもう一本のクナイを勢いよく投げ放つ。
二本目も同様に打ち払われると、すぐにワイヤーを強化し刃物と変わらない鋭さに変化させる。
オーガがクナイに付けられたワイヤーに足が引っかかった瞬間、オーガはその場に倒れ込む。
何が起こったか分からないのであろう、オーガはその戦闘本能の高さから痛覚がなく、腕が無くなろうが、槍が体を貫こうが、決して止まることはないのだ。だからこそ、足が切断された事実にも痛みがなくその事実が理解出来ていないのだ。
片足を失っても腕の力だけでこちらに向かって来ようとするオーガに即座にクナイで周囲を囲み、ワイヤーでオーガを解体する。
「カシーム、勝てたな。立派な勝利だ」
「やったなぁ、流石やんか! ウチらのマスターなんやし、まぁ当然ちゃ、当然なんやけどな」
「ありがとう二人とも、でもやっぱり実力不足だって感じるよ、もし、足が上手く切断出来なかったらって思うと正直おっかないな」
そんな情けない言葉を発した瞬間、オレの背中を軽くアバスに叩かれる。
「恐怖を知らねば、蛮勇に成り下がる、今の恐怖は力と経験になる。恥じるな、カシーム」
「うん、わかってるよ、弱いから強くなれるし、死に急ぐような冒険者になる気はないからね」
オレは拳をしっかり握り、自分がまだまだ弱い事実を再確認する。
そのまま、二階層を進み、魔物の種類を確かめていく、最初に現れたボア種はグレートボア、次はオーガ、そして今目の前にいるのは、複数のスライムだった。
二階層はこの三種類が基本になっているのだろう、スライムは他の二体とは違い弱い方の魔物だった、しかし、数でその弱さを補い、一斉に加速しての体当たりは油断出来ないものだった。
だが、盾持ちのアバスがいることで戦闘での防御には不安はなく、スライムの群れをあっさりと攻略した。
ダンジョンを進み、オーガとの再戦を数回行う中で、オレはワイヤーとクナイを使い、確実にオーガを仕留め、グレートボアに関しては、突進してくるボアに黒い短剣を流し込むように刃をあて、傷口から鉄分を収縮させ、内側から組織を破壊していく。
成功するまでに、数十回の挑戦と多くの失敗があったが、何とか使いこなせるまでに異能を使えるようになっている。
二階層の魔物を問題なく討伐できるようになり、オレ達は安全エリアを発見する。
一旦安全エリアへと入り、休憩をはさみ、軽い食事と休養を済ませると二階層のエリアボスが居るかを探して探索を再開する。
しかし、オレ達の前には、下に向けて伸びる階段があった。
「つまり、このダンジョンはバランスタイプって事か……」
「そうなるな。数回層はこのような形になるだろうな、上手く行けばあと二階層でエリアボス、最悪は四階層後にエリアボスになるだろう」
そんなアバスとの会話を終えると覚悟を決めて、三階層へとオレ達は降りていく。