17話・ダンジョンからの歓迎1
宿の窓を開け、早朝の風を全身に感じながら《星見の丘》の食事スペースへと向かう、昨晩とは違い、ゆっくりとした時間が流れる室内で、焼かれたパンとスープ、カットされた果物をたべてから、宿屋を予定通りに出ることにする。
フロントで、部屋の鍵を返却して、代金を支払い、オレ達は軽く店主に頭を下げる。
店主さんは此方を確認すると優しく微笑みを浮かべていた……と、言っても、店主さんは顔が怖いせいか、なんとも言えないぎこちない笑顔に見える。
数日の間に二回目の利用ということもあり、顔を覚えてくれたのか、最後に店主さんから「また来いよ」っと軽く声をかけられ、オレ達は見送られるように宿屋を後にした。
久しぶりと言うには、あまりに早い再会だったが、しっかりと未開拓地でオレを狙う灰色山羊の群れもぶっ飛ばしていく。
そして、以前、落下したポイントを通り過ぎ、ダンジョン入口の真上に当たる部分に到着すると、アバスをトトの異能で縮め、トト自身も手鏡へと姿を戻す。
足元の岩肌に、異能で強化したクナイを突き刺し、外れないことをしっかり確認すると覚悟を決めた。
そこから一気に下に向かって飛び降りる。
本来ならありえない行動だが、ワイヤーにクナイを連結し、異能で強化したクナイを壁に刺し、しっかりと刺さった事を確認してから、下に向けて降りるを繰り返していく、最初は不安もあったが、ワイヤーをトトの異能で太くした為、目に見えて安定し、あっさりと目的のダンジョン入口まで降りる事ができた。
数日前と何ら変わりないと思っていたが数日前にはなかった物が入口にできている事に気付かされる。
入口の傍に以前はなかった石碑が出来ており、そこには、名前が刻まれていた。
刻まれた名前はダンジョンネームであり《傀儡師の遊び場》と書かれているのが確認できた。ネームの横には【D】の文字が刻まれている。
「前にはなかったよな?」
「これは、ダンジョンネームだな、ダンジョンの一層クリア後に生まれるダンジョンの名前だ、最初の段階では、名前がない為、未発見だという判断基準にもなるな、カシームは本当に何も知らんのだな……」
少し、呆れたような声でアバスにそう言われたが、オレは流石に知ってる方が不思議でならなかった。
「うーん……初めて聞いたよ、だって、ダンジョンって見つけたら直ぐにギルドに報告するのが義務だって習ったし、ダンジョンの名前なんて、誰か偉いやつが決めてると思うじゃん」
アバスは悩むようにヘルムの顎に手を当てる、それを見ていたトトが見かねてか、オレ達の会話に割って入ってくる。
「まぁまぁ、落ちつき〜アバスも、マスターを困らせたらアカンし、カシームもマスターなんやから、知らない事はこれから学べばえぇだけやって、せやろ?」
正直、そう言われて助かった、アバスの言い分もわかるし、勉強不足も自覚してる、だから、やっぱりオレが悪いと思う。
「そうだね、アバス! 知らなくてごめん、まだまだ、オレは知らない事ばかりだから、これからも沢山聞いちゃうだろうけど……」
「わかってる、幼いマスターだと分かっていたのだが、ついな、すまない、我も謝るので許してくれ」
お互いに謝ると、なんだが変な空気になっていて、トトがそれを見かねて再度、助け船を出してくれた。
「よしゃ! なら、ダンジョンに向かって、殴り込みやなッ! 行くで〜!」
オレもアバスもトトに感謝しつつ、ダンジョンへと進んで行く。
入口からダンジョン内部に入ると以前に感じた全身を包み込むような感覚を感じる。
この感覚はダンジョンが内部に入った存在を認識する為のものだとアバスが教えてくれた。
ダンジョンとは場所であり生き物である……
その体内に入った存在を自身の者だとマーキングする事により、階層を突破した者や命を失った者を認識し、時に褒美を与え、時にその魂を自身の糧とする、それこそがダンジョンであり、ダンジョンの宝箱とは、人という、贄を誘い込む餌であり、脱出用の転移魔法陣は生きて餌を逃がす事により、多くの餌を誘き寄せる撒き餌のような感覚なのだ。
改めてダンジョンについて聞いたオレは、何も知らなかった頃の自分自身をぶっ飛ばしてやりたくなる……一攫千金だなんて、喜ぶオレは間違えなく餌であり、贄だったのだから……そんな事を考えて苦笑する。
一階層……
トトは出てくるゴブリンとウルフを次々に撃退し魔石へと変化させていく。
悩むことない一撃を容赦なく振るうトトはまるで鬼神の如き強さだと言う他ない。
一階層に入り、僅かな時間で宝箱を二つ開き、マジックポーションとアルル草を手に入れ、予定より早く安全エリアへと辿り着いていた。
安全エリアで一旦休憩する事にして、トトに一階層のエリアボスの話をしていく。
話を聞いたトトは軽く頷くと何故かやる気をみなぎらしている。
「つまり、あれやな……ドカン、ボカンって感じにやってまえばいいんやろ? なら余裕やんか」
「まぁ、そうなんだけど、そこから先がまだ行ったことのない二階層だからね」
「そうだな、我とカシームも前回は周回のみで、二階層へは踏み込んでいない。その為、二階層からどうなっているか、分からぬのだ」
ダンジョンとは、一階層には確実にフロアボスがいるが、二階層以降は幾つかのパターンに分けられる。
・1、二階層にもフロアボスがおり、各フロアにボスがいるバトルダンジョンタイプ。
・2、迷宮型(迷路)普通よりも罠が多く十階層事にボスが現れる迷宮ダンジョンタイプ。
・3、幾つかのフロアを攻略後、数フロアごとにエリアボスが現れるバランスダンジョンタイプ。
ダンジョンのパターンは二階層以降にわかる為、一階層とは、比べ物にならない危険度を有している。
1──の場合、エリアボスを倒せば一階層同様に、転移魔法陣と次の階層への階段が現れる……そして、それはダンジョンの全フロアにボスがいるダンジョンで、バトルダンジョンタイプとなる。
2──の場合、ダンジョンの作りが複雑化し、階層が深くなる度に即死級の罠が増えていく、この迷路型タイプにダンジョンが変化していた場合は、ボスとの戦闘回数は極端に少なくなる為、ボスドロップの個数は減るが、ダンジョン内の宝箱の出現する数と遭遇率は、どのパターンよりも高くなる。
3──の場合、ボスエリアの出現が三階層、もしくは五階層のどちらかのパターンに分かれるタイプのダンジョン、宝箱の出現率とボス戦がバトルダンジョンタイプと迷宮ダンジョンタイプの平均と言われるバランスダンジョンタイプとなる。
二階層から仮に一番なってほしくないのは、迷宮タイプだろう、ダンジョンすべてが迷路になっていて、罠と魔物が次々にこちらを襲い、次の階層への階段は探索すれば見つかるが、脱出用の転移魔法陣はエリアボスを討伐しない限り現れないのだ。
仮に十階層まで辿り着けたとしても、そこに居るエリアボスが倒せなければ、本当の意味で、すべてが終わってしまう事すらあるのだから……
だからこそ、最初に二階層へ踏み込む際は命懸けであり、その事実を忘れ、考え無しに足を踏み入れたならば、ダンジョンからの手痛い歓迎をうける事になるだろう。
そんなオレ達は、一階層のエリアボスである砂の魔物を慣れた手付きで一刀両断していく。
慣れとは恐ろしいもので、まるで気楽に与えられた作業をこなすかのように、砂の魔物のコアを粉砕していた。
現れた階段を見つめる。階段の下は暗闇に覆われているように見え、その先がどのようになっているかは、上からは確認出来ないようになっている。
覚悟を決めるようにオレ達は階段の下へと歩いていく。
階段を一段一段、降りる度、不安や良くない考えが頭の中を駆け巡る。
そうして、階段を降りきった先、予想だにしない歓迎をうける事になった……コチラを鋭く睨みつける一体の巨大な魔物の姿があったからだ……