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16話・鉱山都市《ラフジュアル》の夜

 ギルドでの長い一日が終わり、目を覚ますと夜中に帰宅したのかトトがオレの横でぐっすりと眠っていた。

 室内に広がる酒の匂い、帰ってそのまま、寝たのであろう、トトの体をさすり起こしてから、水場で水浴びをさせて、目を覚まさせる。


 酒が抜けたトトはマジックバックに入れてあった焼きウサギを朝食として食べていく。


 賑やかに食事を終えると最初の目的通り、荷物をまとめる。

 数週間分の食料もしっかりマジックバックに入れた。他にも使えそうな物を入れていき、準備を整えていく。


 今回はソロではない、仲間がいる、だからオレ達は朝早くから、鉱山都市ラフジュアルへと向かう。


 門番のオッチャンにギルドカードを提示して、見送られながら、普段使う森とは反対側にある砂漠へと歩いていく。


 朝の砂漠を初めて進む、やはり熱いし、喉も乾く……大量に水をマジックバックに入れていると言っても、飲み続けてしまう、額からは大量の汗が滝のように流れだしている。


「カシーム? 提案だが、我が盾を異能で浮かばせて砂漠を滑るのはどうだ」


 予想していなかった使い方だが、それを想像したら、かなり面白そうに思えた。


「ならそうするか!」


 トトとオレは盾に乗る用意をする。アバスは以前の用にトトの異能で縮小化するとオレの肩に乗っかる。


 オレの異能は鉄を操る事にたけているようだ、トトは大盾を更に巨大化させるとオレ達は大盾に野宿用の敷物をしき、三人で盾に乗る。


 盾が浮き出すと砂漠を高速で盾が動き出す。


 砂の上を走る巨大な盾、異様な光景と言えるだろう、そんなオレ達の前に砂が窪み、僅かな振動が砂を震わせる。


 まるで砂を飲み込む用に突如姿を現したのは、砂漠では一番会いたくない魔物であり、ランクで言えばDランクに分類される“砂漠の掃除屋”サンドワームだった。

 体温の低下により活動を停止する為、夜の砂漠では出会うことの無い魔物である。

 しかし、太陽の下では、その5メートルを優に超える個体も確認されている。今まさに、オレ達の前に姿を現した個体も4メートル程はあるだろう、顔と言うより、口と表現する方がわかりやすい見た目、口のサイズは2メートルはあるだろう、複数の棘状の歯が無数に内側に広がっている。


「でけぇ、あれってやっぱりオレ達を食べようとしてるんだよな?」

「そうやね? まあ、相手から見たら、ウチらは活きのいいご馳走に見えてるんちゃう?」


 会話をしている最中もサンドワームはこちら目掛けて、その巨体を突撃させる。

 盾を操り、回避するとサンドワームがそのまま地中へと潜り、再度、後方から勢いよく飛び出し此方を丸飲みにしようとしてくる。


 後ろから砂漠を飲み込みながら、凄まじい速度で此方に追いつこうとするサンドワームに恐怖しか感じない、もしも、最初に鉱山都市ラフジュアルへ向かう際にミーネさんからの忠告を聞いてなかったら……そんな事を考えてしまう。


 しかし、逃げてばかりはいられないと、言う事で盾の操作をアバスに託し、オレは束で買ったナイフに異能を流し、全力で後方から追跡してくるサンドワームへと投げ放つ、ナイフが口内に入る瞬間にトトが異能を発動させ、ナイフが巨大化し、サンドワームの口から地上に出ていた体を切り裂き、激しい叫び声を上げながら、その全身を天高く伸ばし、後ろ向きに倒れていく。


 一旦、その場に止まり、サンドワームが絶命したことを確認するとオレはサンドワームをマジックバックへとしまう。

 サンドワームの初討伐となり、安堵のため息をついた。


 上手く勝利はできたが、一人ではまだ敵わないだろう事実に、砂漠が改めて危険なのだと再確認した。


 砂漠での初戦を終えてからも、複数の魔物と戦闘になったが、出てくる魔物は砂サソリや最初に倒したサンドワームよりも小型の個体を数体討伐していた。


 砂を高速で移動しながら、討伐した魔物を回収していく。

 戦闘そのものは、アバスとトトのサポートがあり、本当に助かった。砂漠の魔物は思いのほか防御力が高く、オレやアバスの【鋼鉄】の魔玉が合ったからこそ、楽に感じたのだと分かる。


 予定より早く砂漠を抜ける事ができた為、夕暮れまでに鉱山都市ラフジュアルへと辿りつく事ができたのだ。


 既に門を閉める用意をしていたのであろう、門番に慌てて声をかける。


「待って、オッチャン! オレらも入るよーーー!」

「お、この前のガキじゃないか? もう戻ってきたのか? 早く入りな、仲間さんもほら、中で身分証かギルドカードを確認させてもらうよ」


 ギリギリで鉱山都市ラフジュアルへと入る事ができた。

 門番の控え室に通されると直ぐにギルドカードを提示する。

 オッチャンはギルドカードを確認した途端、驚きながら、此方を見る。


「お前さん、この前はFランクだっただろうに……いきなりDランクか……いやぁ、驚いた」

「まあね。まぁ仲間が出来たからな!」

「そうか、良い仲間と巡り会えたんだな」


 優しい言葉でそう語るオッチャンはオレ達のギルドカードの確認を終えると挨拶を済ませて、鉱山都市ラフジュアルの街を歩いて行く。


 当然だが、オレ達が泊まる宿はもう決めている。

 宿屋&食事処《星見の丘》を目指して、歩いて行く。

 宿屋の扉を開くと以前と同じように帳簿に名前と人数を記入する。

 以前と違うのは、今回は三人用の大部屋を頼み、朝食も頼むことにしたので、全て合わせて金貨1枚を払い、部屋へと一旦向かう。

 室内を確認してから、みんなで街に夕食を食べに向かう事にした。

 宿屋で食べても良かったのだが、食事スペースは既に多くの客で溢れており、今から待つのもあれだなと感じ、外に食べに行く事になった。


 夜の街並みは朝とは違い、酒の香りが街中に広がり、朝開いていた店が閉まり、バーや飲み屋、優美な姿の女性が客引きをするような店が看板を灯し、歩く炭鉱夫や旅人、冒険者等に声をかけている。


 当然だが、オレ達が向かうのはちゃんとした飯屋だ……成人してても、そう言う店は入った事がない、興味が無いかと言えば、嘘になるが……行けるわけない!

 オレの腕は既にトトにしっかりとガードされているし、アバスの姿が客引きを確実に遠ざけているからだ。

「カシームはウチのマスターなんやから、あんなンに惑わされたらアカン……ふふん〜」


 こんな感じでトトのガードは鉄壁になっている。


 賑やかな飲み屋街を抜け、静かな通りに入ると一軒の飯処を見つけ中にはいる。

 こじんまりとした店舗で外観には猫の絵が書かれている。

 看板には──“ニャンニャン”と書かれている。


 他に店舗も空いていない為、その店に入る事を決めた。

 店の中は静かな雰囲気に複数のランプが天井から吊るされている。

 香草を焚いたような優しい香りが店内に広がっている為か、身体の中に広がる香りに安らぎすら感じている。


「いらっしゃい、空いてる席に座ってくださいな」

 お婆さんがそう言うとオレ達は席へと移動する。


 席は各テーブル事に個室のように分けられており、別の席が見えないようになっている。


 奥の厨房にはお爺さんが既に中華鍋を振るい、豪快に炎を使いながら手際よく調理をしていた。


 席を決めて座ると二人の少女がメニューを運んでくる。瓜二つの容姿、可愛らしい顔で髪を左右別々に束ねている。

 ニコニコしながらぺこりと頭を下げると、メニューを置き、パタパタと厨房側へと掛けていく。

 メニューを開くが聞いた事のないメニューや、想像が出来ないメニューに関しては、お婆さんに質問をする事にした。


 頼んだメニューは──


 ・砂鳥の唐揚げ──2皿 2皿で銀貨1枚

 双子ちゃんのオススメらしい。

 ・ナッツの香草炒め──1皿 銅貨5枚

 ・砂漠トカゲの甘辛炒め──2皿 2皿で銀貨2枚と銅貨5枚

 ・旨辛餡掛け丼──2皿 2皿で銀貨1枚と銅貨6枚

 ・お酒──1本 銅貨8枚

 

 アバスは食事を食べない為、二人分の注文をする。酒はトトが水として飲むそうだ……見た目は違うがドワーフといい勝負には酒が好きなんだよな……とりあえず料理が楽しみだ。


 厨房から軽快な鍋が振るわれる音がなり、食材が次々に炒められる音と混ざり合う香りが鼻をくすぐり、口の中に味が想像されると、次第に腹の虫がなり始める。

 カンカンっと、鍋から皿に盛られる音がなり止むとお婆さんと小さな少女が二人の三人で次々に湯気をまとった料理をテーブルへと運んでくる。


 並べられた料理がすべて揃うと、食事を開始する。


 砂鳥は身がシャキシャキとしていながら、揚げられた香ばしい衣とあいまって、口に肉汁と旨みが一気に広がっていく。


 次に砂漠トカゲ、肉は柔らかく、甘さに唐辛子の辛味が口に広がり、タレが肉と絡まると更に美味さをましていき、口に運ぶ度に口内で肉が溶けて消えていく。


 2品を食べ進めるとナッツの香草炒めを口に運ぶ、ポリポリとした心地いい食感、旨みの強い香草と混ざり合い、口の中をさっぱりとさせてくれる。


 最後に食べた甘辛餡掛け丼は砂漠トカゲの肉をつかっており、ネギや薬味を一緒に炒めているのだろう、餡にも旨味と香りが絡み、米にかけられたそれはスプーン、1杯、1杯が幸せを口の中へと広げていくのを全身に感じていた。


「美味いな……スプーンが……とまらないよ〜」

「確かに……旨いわァ……酒も最高〜やめられんわァ〜」


 初めて食べる料理に舌鼓をうち、オレ達は大満足のまま、店を後にする。

 因みに支払いは金貨()と銀貨()枚になった。本来はここまで高くなる予定ではなかったが、トトが追加で酒を頼んだのが理由だ……最初の酒が余りに美味かったのか、更に7本追加し、次々に追加しようとするので待ったをかけた。

 ギルマスとの飲み比べの際の光景を考えれば、止めないと全財産が酒に消えてしまうだろうと、静かに確信した。


 それから「飲み足りない」と駄々をこねるトトをアバスにかついで宿へと運んでもらい、皆で眠りについた。


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