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15・街の買い物と新人冒険者2

 前衛の三人が一斉に走り出すと、直ぐに武器を構え、真っ直ぐに向かってくる。


 向かってくるのは男性三人、動かない前衛のアックス持ちも男性であり、後衛が三人いるが、結界士以外は女性だろう。


 ある程度、基本のパターンがあるのだろう、一人、一人が間隔をあけ、反撃後の強襲を考えた動きに見える。

 先頭の剣士が攻撃範囲に入ったと判断した瞬間、ワイヤー付きのナイフを操り、一気に打ち放つ、両手から放たれたナイフをギリギリで回避した先頭の冒険者はニヤリと笑みを浮かべるが、直ぐにナイフに繋がれたワイヤーが冒険者の足に巻き付き、バランスを崩す。

 それに合わせて、二人目の冒険者にオレは買ったばかりのクナイに異能を纏わせ、投げ放つ、風を切るような音がなり、咄嗟に冒険者が剣を防御のため、ふりあげると、ガキンッ! っと、鉄と鉄がぶつかる音がなり、二人目の冒険者が反動で動きを止めた。


 一連の流れから、三人目の冒険者は一旦下がり、二人目の冒険者を起き上がらせる。

 その間に最初に走ってきた冒険者の元へと歩みを進める。 

 身動きは取れなくしてあるが、ずっと叫んでいたので、うるさく感じ、魔物用に雑貨屋で買った眠り粉を軽く顔面に投げつけて眠らせる。

 少なくとも半日は起きないだろう……


「これで先ずは一人、あと六人か、ねぇ、諦めてくれない? 正直、暇じゃないんだよね」


 その言葉が相手を更に怒らせたのか、体勢を立て直した冒険者達が武器を構える。

 一番後ろで魔法だろうか、呪文を唱えている女、それを守るように他の全員が守りを固める。


「早く詠唱しろ、リザ!」

「うっさいわね! 今やってるわよ!」


 なんか、焦って仲間割れみたいになってるから、とりあえず、前衛から倒すかな、先ずは双剣使いかな、さっきの動き厄介そうだし。


 オレは再度、クナイを握り【鋼鉄】の異能を発動させる。

 異能はシンプルでオレの手から離れた瞬間に磁石の用に反発させる事で反発力による高速の打ち出しを可能にしている。


 そんな風すら切り裂くクナイを次々に投げる、一歩歩む度に、一本、また一本と、放たれるクナイに対して、双剣使いは両手で防御をしようとするが【鋼鉄】の異能が付与されたクナイは硬度も強化されている為、双剣使いの剣がぶつかる度に刃が欠けていく。


「ふざけんな、なんだこの威力、リザ! 早くしろ、コイツやばいんだよ!」

「分かってるわよ、もう少しだから、黙ってよ!」


 双剣使いと向き合うようにクナイを投げていると、アックス持ちの冒険者がその巨大な斧を両手に握り此方に突進してくる。


「ウオリャッ! 散れや!」

 力任せに振り下ろされるアックスに技術やスキルのようなモノはなく、自身の腕っぷしだけで振っているのが分かる。


 だからこそ、振り下ろした後の動きが遅い、寧ろ、振り下ろした後は隙だらけであり、悩まずに黒の短剣で男の足を切りつける。

 出血し、痛む足を必死におさえながら、その場にジタバタと転がっているので、最初同様に眠り粉を顔面に投げて眠らせ、勿体ないが回復薬を傷にぶっかける。


「残り五人かな?」と言いながら、動きを止めている双剣使いに向けてクナイを投げ放つ。


 よそ見をしていた事もあり、双剣使いの肩に突き刺さるクナイ。

 その瞬間、双剣使いの肩が外れ、勢いで地面を転がり、結界士が作った結界に叩きつけられる。


「ヒッ!」っと、結界内からヒーラーの声が聞こえる。

 前衛の最後の一人である剣士が剣を構えて向かってくる。

 しかし、最初の一撃で既に戦意を失いかけているのが分かる。余程、最初の一撃が痛かったのか、オレが手を動かす度に警戒しながら視界が落ち着いていない。


「はぁ、怖いならやめなよ……本当の魔物だったら、待ってくれないよ?」

「うるせぇ! 死ねッ!」


 いきなり走り出す相手にオレはワイヤーを操り、盾の用にすると剣を受け止め、カウンターでワイヤーを前に押し返す。

 相手がよろめいた瞬間、ワイヤーの盾を全力で相手に叩きつける、吹き飛んだ冒険者が宙を舞い、地面に叩きつけられると気を失い動かなくなる。


 僅かな間に前衛を失った新人冒険者達は悪魔でも見るような目で此方を見ている。


「う、嘘でしょ……」とヒーラーの女性が膝をその場につくと、絶望の表情を浮かべ、結界士が苦笑を浮かべる。


 勝敗が決したと思った瞬間「よし、詠唱できたわよ! 喰らえ火炎豪球ッ!」と魔道士が声をあげ、オレに向けて巨大な火の玉が撃ち放たれる。


 その瞬間、「もう、我慢できん!」と、アバスが声に出すと本来の姿になり、大盾を構えると火炎豪球に向けて走り出す。

「せやね、やったれアバス!」と同時にトトが異能を発動し、盾とアバスの鎧を更に巨大化させる。


 火炎豪球を盾にぶつけるようにして、砕くとアバスが地面に着地する。

 角付きの兜に真っ黒の鎧と巨大な盾、更に取り出した成人男性程ある棘が無数についた金棒、シンプルにおっかない……


「本来なら、我もトトも出る気はなかったが……中級魔法を使うとは、やり過ぎだろう」


「せやな、ちぃっと、イラついてしまったわ、なんでウチらも参加させて貰うで、もちろん反論ないなぁ?」


 そこからは酷かった……結界士の結界をアバスが簡単に叩き割り、慌てて結界を張り直す結界士、それを無慈悲に再度叩き割り、また張らせるを繰り返すアバス……魔法職の女性に無限で引っぱたくトトの姿、それを見て泣きながら震えるヒーラー女子……


 最初は見物していた人達も次第に青ざめる光景であり、これがギルドで絡まれてから十五分も経たずに起こっている惨劇なのだから、なんとも言えない。


 そんな惨劇を終わらせたのはギルドから出てきたギルマスのモルバとミーネさんだった。


「な、何してやがるッ!」と叫ぶギルマスの声に見物人がビクッと体を震わせる最中、止まることなく、アバスは結界士が張った最後の結界を叩き割り、結界士は気を失う。

 トトは未だに、魔道士の頬を力任せに引っぱたき続けている……魔道士の頬は真っ赤に腫れ上がっているが、それでも未だにやめていない。


「コラッ! やめねぇぇか!」と再度、モルバが声を上げる。


「いきなり来てなんやねん? 今更どの面下げて止めに来てんねん、アホくさ!」と言いながら、容赦なく往復ビンタが続いている。


 そんな怒りに満ちたギルマスの視線がオレに向けられる。


「テメェのパーティーなら、今すぐ止めろッカシームッ!」


 そう言われ、トトはダルそうに掴んでいた魔道士をその場に落下させる。


「冒険者ギルドなら、新人冒険者の教育くらいしいや、次はウチらも手加減しやんし、なんなら冒険者ギルドだろうがなんだろうが、相手したんで!」


「くっ、はあ、わかった。新人冒険者の教育は見直してやる。だがな、あんまり調子こくなよ! 冒険者ギルドを相手にするって意味わかってんだろうな!」


「寧ろ、冒険者ギルドだろうが、なんだろうが、関係ないって言ってるんや! ウチらにちょっかい出すなやって話や!」


 何故か、ギルマスとトトが言い争いになり、オレはどうしたらいいか分からなくなった時、それを見ていたマロイが口を挟む。


「ギルマス、争いはダメですよ、落ち着いてください。冒険者には冒険者のやり方があるでしょ!」


 マロイを一斉に睨みつける二人、しかし、オレもマロイの意見には賛成だ。


「そうだよな、冒険者のやり方って言えば、争う以外は、飲み比べとかだよな」と口にしてみる。


 それにのったのはトトであった。


「まあ、ウチのリーダーがそう言うなら、ウチはそれでええよ」

「ふん、ならば、飲みで構わん! 早く行くぞ!」


 オレとアバスは外に残された新人冒険者達を泣きながら震えるヒーラーに任せて、ギルドに戻った二人の後をついて行く。


 その日、飲み比べは、夜中まで続き、トトとギルマスは何故か肩を組み、酒樽を次々に空にしていくのだった。因みに途中から眠くなってオレとアバスは先に家に帰宅した。

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