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14・街の買い物と新人冒険者1

 昇格試験を終えた次の日、オレ達は所持金もトトにより、ガッポリと増えた為、朝早くからみんなと買い出しに出ていた。


 今日、向かうのは雑貨屋と調味料などの店だ。よく良く考えれば、今まではマジックバックなんてなかったから、鞄に詰められる物ばかりで出先で調理をしよう、なんて、考えもしなかった。

 しかし、冒険者なら野宿の際にも調理が出来れば何かと助かる為、今回は鍋やフライパンなんかを見に向かう事にしたのだ。


 しばらく《カムロ》の街を歩き、適当な屋台で串焼きとパンを買い、食べ歩きで朝食を済ます。

 行儀がいいとは言えないがこれが一般的な街歩きと言うやつだろう。

 オレ達は最初に雑貨屋で大きめの鉄製の鍋とフライパン、木製の皿と器など人数分を選び購入する。

 アバスは自分は食べないからと言っていたが、やはり人数分ってのは、気持ち的に大切だと思うので、しっかりと購入した。


 そこから、スパイスと香辛料、調味料などを扱う店に立ち寄る、目的は塩と胡椒などを購入するためだ。


 調味料とスパイスの店【ラブ&スパイス】に到着すると、扉を開く。

 店内は無数の嗅ぎなれない匂いと、薬草のような香り、甘い香りと複数の香りが店内に置かれた植物や種からただよい、独特な雰囲気を出している。

 味付けという概念が今まで乏しかったからだろうが、みんなで食事をする度に、美味さは必要なのだと改めて理解するようになった、その為、少し高いが胡椒なども買うことにしたのだ。


 マジックバックの中に次々と商品がしまわれていき、次の店を見る為にその場を後にした。


 普段なら立ち寄らないような店や、服屋にお菓子屋とアバスとトトが仲間になってから明るく楽しい時間が過ぎている気がする。


「お兄さん、お兄さん! ウチの店も見てってよ〜安くしちゃうよ〜!」

 街のバザーを見ていると、元気のよい声に呼び止められる。


 声の女性は丸い耳を生やし、和服というのだろうか? 見慣れない生地の服を着ている、ふわふわそうな尻尾が和服の後ろ側から飛び出しており、頭には耳を隠す為だろうか、大きな笠を被っている。

 全体的に小さい印象を与える容姿、見るからに人ではないのがわかる。

 世に言う獣人なのだろう。


「いやぁ、止まってもらって助かったよ〜他の奴らはみんな歩いて行っちゃうんだよ、本当に悲しくて泣きたくなっちゃうよ」



 周囲を見渡し、オレ?っと自分に指を向けると、声をかけてきた女性が首を縦に“うんうん”っと動かす。


「改めて、止まってくれてありがとうね、今日はあまり人が止まってくれないから本当にやんなるわ〜プンプンだよまったく! あ! 先ずは名前を聞かないとだった! 初めまして、オイラはクーだよ。クーちゃんッて呼んでね〜」


 そんな、クーの店には、クナイと言うナイフに似た武器や、まきびし、鉄製の傘など、聞いた事のない物が沢山並んでいる。


 詳しく聞けば、和国からこの《砂の国=サンワール王国》に商売にきた商人だと言う事がわかった。

 気ままな旅商人をしていたが、路上販売が簡単に許可される《砂の国=サンワール王国》なら、店舗を構えなくてもよいと知り、販売拠点としたそうだ。

 そんな商人のクーには、他に二人仲間がおり、鍛冶場を家として借りているらしい。


 鍛冶場では二人の仲間が和国の武器を作り、クーが販売するという形を取っている。


「それで、儲かるの?」

「いや、全然! お客さんはみんな、見ても買ってくれないのよ〜うわぁーん、だからお願い、少しでいいから、買っておくれよーーー!」


 オレの腕をしっかりと掴み、泣きそうな目で必死に懇願される。


「わかったよ、だから落ち着いてよ」

「おぉ〜買ってくれるのかい! 流石だよ優しいよ、世界一だよ〜うわぁーん!」


 とりあえず、クナイを握り、重さや握り心地を確かめる、クナイにも複数のサイズがあり、普通のナイフ程のサイズから、小さな果物ナイフのサイズまで色々なサイズが置いてあり、そこから自分に合ったサイズの物を見つけると、それを購入することにした。


「ありがとうねぇ、お兄さん、また来てくれたら嬉しいよ〜仲間にもいつか合わせてあげたいし、絶対また来てね〜約束だよ〜!」


 元気に見送られ、クーの店を後にする。思っていたよりもよい武器が手に入ったのは嬉しかった。

 オレの買い物の他に、アバスも金棒という武器と、角の生えた兜を購入していた。

 盾持ちの相手をする際などに使うらしい。ヘルムの上からも付けられる角付き兜を想像したら、オーガみたいに見えなくもないな……などと思う。


 オレ達は装備、食料、その他の必要な物品をすべて買い終えると冒険者ギルドへと向かう。


 アバスとトトの二人はギルドでは目立つので、一旦、本来のと手鏡に戻ってもらい、ベルトにつけた袋に入れる。

 マジックバックに入れなかったのは、精霊は生物扱いになる為、入れられないからだ。

 因みにアバスは鎧のまま、トトの異能で小さくしてあり、アバスはまるで玩具のようになっている。


 ギルド内に入った途端、やはりと言うべきか、注目を集めていた。

 オレと同じFランクだった者からは睨まれ、同時期の未だにGランクの者からは嫌悪感の混ざった視線が突き刺さる。


 だが、一番、強い視線を向けていたのは、ギルド戦で対戦した【蒼い山脈】であった。

 リーダーのマロイが無言で目の前まで歩いてくるとオレと向き合う形になる。


「おう、今日は一人か? 他の二人はいないのかよ、まあ、いいか……しかし、この前はやってくれたな、お陰で俺達は新人に負けた悲しいパーティーになっちまったぞ」と笑いながら語りかけて来たのだ。


「あ、えっと、試験ありがとうございました!」

 一瞬、驚いたが、笑いながら、背中を叩くマロイさんからは、一切の悪意も感じられなかった。


「俺達、蒼い山脈に勝ったんだから、もっと堂々としてくれ、いきなり済まなかったな。顔を見たら挨拶くらいしたくてな」


 そう言うと、マロイは仲間達の待つ席へと戻って行く……ギルド内はマロイの挨拶で一旦落ち着いたように見えた。

 しかし、そんなオレ達に更に文句を言う男達がいた。


「ふーん、あんなのがDランクになれるのかよ? なら、俺らも簡単になれるんじゃね!」

「あはは、違いねぇな、あんなチビがいて慣れるなら、俺らも昇格試験やりたいよな」


 わざわざ聞こえるように声を上げて笑う見慣れない顔の冒険者達、新人のパーティーだろう、少なくともオレは見た事がなかった……歳はオレよりも少し上に見えるが、なんで今まで見た事がなかったのかは謎だった。

 成人して直ぐに冒険者になったのなら分かるが、明らかに彼等は15.6歳に見える……会話からも明らかに年上だろう、つまり、学園落ちした奴らなんかな?


 学園落ちは、成人してから学園に通えるくらい金がある家の生まれだ、たが、学園も金が掛かるし、成績が悪ければ留年もあるらしい……因みに留年二回で退学だと言う話だ。

 つまり、コイツらは金が払えなくなったか、留年して学園を追い出されたってところかな?


 嫌味な大声を無視しながら、オレ達はカウンターへ向かい、ミーネさんに二週間程、鉱山都市ラフジュアルへ向かうと伝えた。


鉱山都市ラフジュアルへ? 最近向かわれてましたが……もしかして、拠点変更ですか……」


 元気なく質問をするミーネさんの姿に、オレは首を傾げる。


「違うよ、鉱山都市ラフジュアルに行くのは、前に色々見たかったけど、ゆっくり見れなかったからさ、ゆっくりみたくて」


 嘘は言ってない、実際に鉱山都市ラフジュアルに行くし、ゆっくり見れなかったダンジョンをゆっくりみたいだけだ。


 実際、二週間では足りないだろうが、伸びたら、その時はその時だな。


 そんな会話が終わろうとした時、やはりと言うか、やっぱりと言うか、新人冒険者達が此方に向かって歩いてくる。


「おい、チビ! お前がDランクって本当かよ?」

「チビがDなんてありえないよなぁ?」

「俺ら、今すぐDランクになりたいんだわ、だからさ、今すぐ勝負して俺らにそのランクくれよ、お前もそうしたんだろ?」


 三人の新人がオレを囲むように話しかけ、逃げられないようにその後ろに四人の仲間が退路を塞ぐ。


 ミーネさんが慌てて、止めようとするが、それをオレが止めた。


「わかったよ、なら、外に出ようよ、ギルド内は戦闘はご法度だならさ」


 オレの言葉に笑みを浮かべる冒険者達はミーネさんに問いかける。


「聞いたよな? 勝ったらDランク頼んだぞ!」

「あははは、楽勝でDランクとか冒険者、まじに楽勝だな」

「全員でDになったら、クエストより、ダンジョンで儲けようぜ!」

「いいな、Dならガッポリ儲かるからな、あはは」


 まるで勝利を確信したような会話に正直、イライラする……でも、必死に我慢する。


 外に出ると直ぐにオレは冒険者達から距離をとる。


 相手は七人で武器を既に握っている。

 前衛の四人、剣が二人、アックスが一人、双剣が一人。

 後衛には魔術士が一人、ヒーラーが一人、結界士が一人であった。


 タンクがいないアタッカー多めのパーティーであり、後衛を結界士が守り、火力魔法と回復魔法をサポートとして、使う形になっているのが分かる。


 はたから見たら1対7であったが、本来は3対7であり、更に相手は此方をただの子供と油断してくれている。

 痺れを切らした前衛の剣士二人と双剣使いが駆け出し、武器を構えて一直線にオレへと襲い掛かってくる。



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