13話・冒険者パーティー試験2
武器屋から防具屋へと移動して直ぐにオレはトトの防具についてジルさんにメモを渡す。
「ふむふむ、チャクラムのホルダーか、軽い方がよさそうだな、軽量型なら多分在庫があるはずだ。待っててくれ」
少し待つと、ジルさんが二つの皮のホルダーを持って戻ってくる。
「少し小さいか? アニキのチャクラムはデカいからなぁ」
確かにトトが買ったチャクラムを入れるには持ってきたホルダーは少し狭く見えた。
しかし、トトは逆にそれが気に入ったようで購入を決めた為、オレも欲しかった物をジルさんに頼み用意して貰う。
オレが頼んだものはワイヤ付きのあのボックスだった。
不思議そうにジルは首を傾げたが、問題なく買い物を終える事が出来た。
アバスにも、必要な物はないかと聞いたが、アバスは特にないという事で今回は何も買うことはなかった。
トトは自宅に一旦戻ると直ぐに小さいチャクラムホルダーを取り出し、オレ達に自慢げに異能を発動してみせる。
「ウチの異能は物を小さくしたり、元のサイズに戻せるちゅうやつやねん!」
するとチャクラムがホルダーへと入るようにサイズが変化する。
さっきまで入らないであろうと思っていたチャクラムがあっさりとホルダーへと吸い込まれていく。
「ウチはどんなもんも自由自在や! ドヤ! ごっつええ感じやろ!」
鼻高々に笑うトトにオレ達も自然と笑みが生まれる。
午前中に買い物を済ませた後、オレ達は新たな装備を試す為に昨日同様に《獣の森》へと移動する。
勿論、ウサギ狩りが目的ではない。ウサギが減った事で特訓に最適な草原エリアとなった為、そこで実戦練習の為、アバスに鎧兵を操ってもらい、模擬戦を行うのが目的だ。
ルールは、戦闘不能状態にするか、動けなくなったと判断したら終了となる。
トトの戦闘スタイルはとても面白いものだった、向かってくる鎧兵に対して、チャクラムを構えると舞い踊るようにして攻撃を回避して鎧兵の背後を取ると鎧と兜の間に、チャクラムを滑らせるように流し切ると兜が落下し、一人……また一人……と、戦闘不能扱いにしていく。
瞬く間に鎧兵が倒されると、次はオレの番になる。アバスと同じように魔玉【鋼鉄】を使い、鎧兵を何とか一体操ると、アバスとの模擬戦を開始する。
当然、結果は惨敗だった……アバスからは、魔玉の制御がまだ出来ていないと言われ、鎧兵を操るのはまだ無理だと分からされ、散々な結果になった。
だが、こうなる事は想像出来ていた、あわよくば、なんてのは、無いって分かってたからこそ、大量の小さなナイフを買い、全てのナイフをワイヤーに連結させてある。
ナイフ本体はマジックバックに入れてあり、マジックバックからはワイヤがそのままボックスに繋がっている。
「アバス、次はオレの攻撃を見て欲しいんだ」
「構わない」と言うと大盾を構え、コチラにゆっくりと視線を向ける。
トトが試合開始の合図を出すと、オレは左右に付けられたワイヤー付きナイフをマジックボックスから取り出し、両手に五本づつ、ナイフを握り、それを一気に投げ放つ。
アバスは即座にナイフを盾で弾くと、そのまま此方へとその巨体を走らせる。
次第に距離が縮まる、しかし、冷静にできるだけバレないように、オレは魔玉を使い、ワイヤーに意識を集中させる、ナイフと繋がったワイヤーがまるで自身の手足のような感覚になり、アバスの手足に数本のワイヤーが絡みついていく。
そんなアバスは盾と大剣を使い、何とかワイヤーを切断しようとするが、オレは更にワイヤーを大剣へっ絡めていく。
何とかアバスの動きを封じられたと思った瞬間、オレは力いっぱいに振り上げられたアバスの腕に引っ張られるとオレは降参する他なかった。
「悔しい〜なんで、上手くいかないかな」
「勝てぬ理由か、カシームは力がまだ足りないからだろうな、簡単に動かされてしまうからな」
力不足の一言だった、どうしたらいいか悩みながら、アバスとトトの模擬戦を見ることになる。
やはりと言うべきか、アバスとトトの戦いは見ていてワクワクするような感じがした、どちらも敵として、全力でぶつかり合い、僅かな隙に全力をぶつけていく。
夕暮れまで続いた模擬戦、その場で倒れるように横になり、オレは両手を広げて空を見ていた。
「まじに、二人とも強すぎるだろ〜!」
そう、オレは一勝も出来なかった……
アバスには力で負けて、スピードで仕掛けるも防御に阻まれ、最後まで勝つことが出来なかった。
トトも同様に、攻撃を一切当たらず、首にチャクラムを数回当てられ、降参させられる結果となっていた。
二人からのアドバイスは、素早さが必要であり、せっかくワイヤーがあるなら、ワイヤーも切断用の武器として使う方がよいと言う内容だった。
アドバイスを自分の力にするべく、二日目はワイヤーを自由に操る為の特訓を行い、一日が終わっていた。
三日目になり、オレ達は指定された闘技場へと向かっていた。
闘技場には分身の魔導具があり、両者は怪我をしようが、死のうが、闘技場から出れば無傷で復活する。
本来は格闘大会や剣術大会などに使われる、その為、闘技場を使う際は刺激を求める観衆達が溢れている。
そんな闘技場は、予定がない場合のみ、ギルドの試験場として、普段から貸し出されている。
試験は一般の人も見る事が出来る、当然、死ぬ事のない試験なので手加減はなく、死んでも復活する為、その残虐な試験すら、民衆の息抜きとして利用されている。
闘技場には既に見物客が観覧席で賭け事を開始していた。勿論、対象はオレ達だろう、明らかに不人気なのが観覧からの視線で分かる。
そんな観客席に向けて、トトが会場から一瞬で飛び上がると三メートルはあろう壁の上に立ち、そのまま、賭けを仕切っている男の元へと向かっていく。
「ウチも参加や、ウチらの勝ちに有り金、全額かけたるわ! 金貨20枚や、文句ないなぁ?」
いきなりの事に焦るも、時既に遅し……トトに任せていた全財産が渡された瞬間だった。
「どうするんだよ、なんで、全部掛けちゃうんだよ!」
「悪かったって、怒らんでや、勝てばぇぇんや! 勝てばガッポリやで! それに勝つ為にウチら、今日はこの場にいるんやろ?」
トトの言葉は正しかった。オレは勝てばいい、寧ろ勝たないとダメなんだ。
「……だね、ごめん。今日は【蒼い山脈】に勝って夜はご馳走を食べないとね」
「勝ったら、掛け金は200倍やからな、負けへんで!」
欲に目が眩むって言葉の意味を初めて知ったような気持ちになる。でも、心強いとも感じる。
時間になり、闘技場には、オレ達と蒼い山脈、審判として、ギルドマスターのモルバがいた。
「ルールは理解してるな? 新人パーティーが勝てば、Dランクへ昇格、負けたらGに格下げだ!」
簡単な説明が再度されると同時に、闘技場についての説明がなされ、最後に「死ぬ気で戦えッ!」とモルバが言い放ち、試合が開始する。
蒼い山脈は、前衛に剣を構えるマロイ、魔法職を持った後衛が一人、後衛を守る為のタンクが一人となっている。
こちらが全員前衛タイプの為、後衛を最初に何とかしないと勝てないだろうが、悩むのは無駄だと理解してる。
アバスはいつも通り、大剣を握り、盾を構えながら前に構えをとる。
それと同様に、トトが新たな武器のお披露目と言わんばかりにチャクラムをホルダーから取り出し笑みを浮かべた。
最初に動いたのはトトであった。
両手のチャクラムをしっかりと握り、両手を広げると、マロイへと駆け出していく。
それに合わせるようにマロイが剣を強く握り、最初の一撃に合わせて、チャクラムを受け止める。
互いに睨み合い、マロイは剣を前に押し、チャクラムを弾き飛ばすとトトはその反動を利用して宙を舞う。
着地した途端、再度、姿勢を低くするとマロイの懐へと一気にトトが移動し、それに合わせ、マロイが剣を勢いよく振り下ろす。
しかし、その瞬間、トトの髪飾りが盾のようなサイズへと変化し、力いっぱいに振り抜かれた剣が叩きつけられる。
その瞬間、マロイの上半身が宙を舞う……両手をクロスさせるように左右から振り抜いたトトの姿に観客が一瞬で言葉を失っていた。
呆気に取られていた後衛とタンクにアバスとオレが向かっていく。
盾でアバスの一撃を必死に受け止めるタンクの男、屈強な腕に握られた盾はアバスの斬撃を受け止めたが一撃で盾が凹み、更にアバスは自身の盾を手放すと、タンクの盾を上から押さえつける、片手を天高く振り上げると大剣を容赦なく振り下ろした。
前衛とタンクが目の前でやられると、後衛の魔道士は慌てて、詠唱を口にするが冷静差をかいた魔道士は、詠唱が上手く言えていないのが分かる。
オレは一気に魔道士に迫ると、魔道士は長い詠唱を辞めると即座にロッドをコチラに向けて、火の玉が放たれる。
「ちくしょう! なんなんだよオマエら!」
魔道士は必死に叫び、数発の火の玉がオレへと一気に加速する。
「異能、発動!」
オレは火の玉を数本のワイヤーで打ち払い、更に前方に向けてナイフを全力で投げ放つ。
魔道士がナイフを回避した瞬間、ナイフについたワイヤーがナイフの方向を変化させる。
魔道士の周囲をワイヤーがうねるように動き出し退路を消し去ると、まるで魔道士を包み込むように球体を作り出している。
逃げられない魔道士に向かって、オレは黒い短剣を握り、一気に魔道士の首に刃をあて、異能を使った刃で振り抜く。
魔道士の体はその場で倒れ、首が転がると審判のモルバが手を上げる。
「そこまで! 昇格戦は、新人パーティーの勝ちとする。不本意だが、今よりお前らはDランクパーティーとする!」
モルバはそう言うと最後に「パーティー名とリーダーを決めておけ! 今後の活動に期待する……」と言って、闘技場から去っていった。
試験が終わると直ぐにトトが動き出す。賭け金の回収に向かったからだ、当然、逃げようとした元締めだったが、トトから逃げる事は出来ず、その日、Dランクの昇格と金貨2000枚というありえない大金をオレ達は手に入れたのだった。




