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10話・うさぎの洞穴1

 商業の街 《カムロ》で最初にやった事は、家の買い戻しだった。

 買い戻しと言っても勝手に出て行った婆ちゃんの知り合いが管理を引き継いでいた為、オレが顔を出したら、金貨10枚で買い戻す事が出来た。

 貧困街で金貨10枚は高いか安いかは、微妙な感じだが、長く暮らした家と考えたら払えるならそれが1番だと思う。


 アバスと暮らす事になったからには、生活費を稼ぐ必要がある。

 既に手持ちは金貨4枚と銀貨が6枚となっていた。


 冒険者ギルドのクエストをこなしても、低ランクのクエストはやはり、割に合わない物が多い、だからと言って、採取クエストをするにも、時間がかかり過ぎる。


 自宅にて、作戦会議を開始する。


「カシーム、この数日はバタバタしてたが、そろそろ、あの()()に向かわないか」

 アバスの言うあの場所とはダンジョンだ。


「分かってるんだけどさ、食料とか買ったら、本当にスッカラカンになっちゃうんだよなぁ」


 ダンジョンに潜るにあたって、問題点は食料の確保だが、大量の果物だけでは、無理があると考えていた。正直、腹が減るんだ……だからって、肉やパンを買えば量は買えない。


「やっぱり、兎狩りかな?」

「──兎狩り?」

「うん、普段、オレはツノなしウサギを狩ってクエスト報告をしてたんだ、ツノなしウサギも角ウサギも肉にもなるし、角はギルドで買い取って貰えるんだ。まぁ、クエスト報酬は期待できないけどな」


 角は一本辺り、銅貨8枚程度にはなる。だからこそ、大量に倒す必要があるのだが……今のオレなら単純に稼げる可能性があるのも、やろうと思った理由だ。


 アバスは不思議そうにこちらを見ていたが、直ぐに理解したように頷いた。


「確かに、先立つモノは必要か、我は食事をしないから、あまり、よく考えてなかったな」


 話し合った結果はウサギ狩りを一日、二日こなして出来る限り準備金を稼ぐことに決めた。


 目的地は、新人御用達のGランクエリア《獣の森》となり、冒険者ギルドに行先を伝える為、ギルドへと向かう事にした。


 Gランクエリアと言ってもあまり人気がないエリアであり、その理由はツノなしウサギに紛れて、角ウサギが混じっており、新人が度々、被害に会うからだ、角ウサギを上ランク冒険者が間引いても、直ぐに増えていく。

 角ウサギはツノなしと最初は同じで、進化により、体格がデカくなれば、ツノなし、角が伸びれば、角ウサギとなる。

 その為、ウサギを狩れる冒険者はあまり儲からない為、足を踏み入れないし、狩れない冒険者は自然と足が遠のくという訳だ。

 だからこそ、獲物の奪い合いになる事もないし、なんなら過去に《獣の森》で冒険者に出会えたのも数回あるかないかだった。


 冒険者ギルドに入ると既に多くの冒険者がクエストボードを確認しており、ギルド内は賑わいを見せていた。


 いつものようにギルドカウンターへと向かい、ミーネさんの座る受付へと向かう。


「え、ウサギ狩りに行くんですか! 別のクエストとかもありますよ、それにEランクの灰色山羊(グレーゴート)が倒せるなら、わざわざウサギ狩りなんてしなくても……」

「あはは、でも、やっぱり慣れた狩場がおちつくっていうか、まぁだから、いってくるよ」

「わかりました、でも、待ってくださいね──」


 ミーネさんは、カウンターの下から一枚の紙を取り出すとオレの前にそれを置く。


 クエスト内容は、角ウサギの間引きと巣穴の調査、増え過ぎた巣穴を見つけた場合、必要に応じて討伐、報酬は巣穴の場所を発見した場合は金貨一枚、他に討伐報酬、素材買取りの上乗せが書かれていた。


 簡単に言えば、ウサギを狩るならクエストをしてこいって事らしい、言われるがままにクエスト受注を済ませるとオレはアバスと共に《獣の森》へと向かう。


「先ずはウサギ狩りだな、アバスも適当に狩ってくれるか」

「うむ、そのつもりだ。肉も必要という事だから、なるべく綺麗に狩ってみせよう!」


 二人で朝から森に入り、数十体のツノなしを狩り、更に角ウサギもしっかりと数を減らしていく。

 人があまり出入りしないからだろう、予想以上に出会うウサギの数に正直、驚かされた。


 オレは戦闘の中で短剣の使い方をアバスに教えて貰い、短剣を前よりも自由に扱えるようになっていた。


 結局、初日はウサギ討伐のみで巣穴は見つけられず、血抜きから解体を午後から行い、大量の肉をその場で焼いていく、味付けはシンプルに塩のみだ、味見をしてみれば、それが逆に旨みが口に広がっていくのがわかる。


「これ、あたりだよ、角ウサギのが美味いなんて知らなかったよ!」

「嬉しそうで何よりだ。角もかなり集まってるしな」


 その後も、調理と言うには簡単すぎるが、次々に肉を焼き、大量の焼きウサギをマジックバックにしまっていく。


 日暮れになり森を後にする。冒険者ギルドにはよらず、家に帰宅し眠りについた。

 夢の中でもオレは短剣を振り、ウサギを狩り続けていた。


 次の日、早朝から森へと入る。


 昨日同様にウサギを狩っていくと、突然、アバスの手がオレの行く手を塞ぐように伸ばされる。

 アバスが指で洞穴を指さすと、洞穴から数匹のウサギが飛び跳ねて出て来るのが見える。


「どうやら、巣穴みたいだな……巣穴ならラビットクイーンがいるはずだ」

「ラビットクイーン、なにそれ?」

「……知らんのか、はぁ」


 アバスが溜め息を吐くと説明を開始する。

 ラビットクイーンはウサギ達の上位種であり、攻撃力などの危険度は低いが、繁殖力が高く、巣穴を決めると一回に数十匹のウサギを産み、数日、食料を食べ続け、またウサギを産むというサイクルを繰り返す。


「巣穴討伐に関する説明をしっかり聞かないからだ、知っていたから何にも質問しないと思ってた我が間違っていた」

「なんか、ごめん……」

「構わんさ、それに見る方が早い事もあるからな」


 入口にいた角ウサギ8体を二人で討伐し、洞穴の中へと降りていく。

 驚いたのは、洞穴だと思っていたが階段が下に伸びて作られており、壁には松明が置かれていた痕跡もある。


 階段を降りると目に入るのは、複数の巣穴が掘られており、そこからは角ウサギ達が次々に飛び出して来ては、オレ達はあっさりとそれを討伐していく。


 一番下まで降りるとドーム状の広場になっていて、奥には古い祠が半壊した状態で放置されている。

 広場には階段とは別に大きな穴が掘られており、そこからは無数の角ウサギとツノなしウサギが飛び出してくる。


 ウサギ達の目は見た事がないくらい血走っているのがわかる。

 そして、先頭の一匹が駆け出すとそれに続いて無数のウサギが突進してくる。


 

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