3 10京円の夢 ~総理、世界を変えるゲームを作る
決断の時が来た。
総理執務室の窓から差し込む朝日が、山積みの書類を黄金色に染めていた。総理は深いため息をつくと、静かに椅子から立ち上がり、窓の外を見つめた。東京の街並みは変わらず忙しなく動いている。誰も知らない。この部屋で今日、歴史を変える決断が下されることを。
「本当にこの方針で行くんですか?」
官房長官の声が背後から聞こえた。不安と興奮が入り混じった声だった。
「ああ、決めた。100兆円のビットコイン投資で得た利益を、すべて2050年のプロジェクトに充てる。正確には10京円だ」
総理は振り返ることなく答えた。この数字を口にするのは今日で3回目だが、いまだに現実感がなかった。
「人々は理解しないでしょう。総選挙も近いというのに...」
「理解されなくても構わない。後世の歴史家が評価してくれればいい」
総理は椅子に戻ると、赤いフォルダを手に取った。表紙には「プロジェクトΩ:未来ゲーム構想」と記されている。
「神のみぞ知る・・・ということですか」
「そうだ。」
総理は、赤いフォルダを静かに開いた。中には、数百ページにわたる計画書と、それを支持する証拠やデータがぎっしり詰まっていた。書類を一枚一枚めくりながら、彼の目は一瞬たりともその内容から離れない。これが、未来を変えるための鍵だと、彼は確信していた。
背後で官房長官が静かに息を呑むのがわかる。言葉は少ないが、その眼差しには多くの疑問と葛藤が込められていた。それでも、総理は決して振り向こうとはしなかった。
「100兆円、いや10京円が動く。それだけの規模だ。」
彼は冷静に言った。
「この計画が成功すれば、私たちは次の時代を築くことになる。」
その声に、暗い確信と決意がにじみ出ていた。
官房長官は、何度も総理の顔を伺うように見たが、言葉は出なかった。すでに彼は知っていた。この計画が成功すれば、歴史に名を刻むだろう。それは、目の前にいる者としても、無視できない事実だった。しかし、同時に恐ろしいリスクも伴っている。失敗すれば、それが直接的に自分たちに返ってくる。全てが賭けだった。
「選挙はどうするんです?」
官房長官が重い声で尋ねた。
「選挙なんて、今はどうでもいい。」
その一言で、部屋の空気が一変した。
「我々は、未来に投資している。歴史は、評価する者がいないときに初めてその本当の価値を見出すものだ。」
総理は立ち上がり、再び窓の外を見つめた。
「ここで一歩踏み出せば、全てが変わる。それに、最終的に我々が果たすべき役割は、未来を切り開くことだ。」
官房長官は、無言でその背中を見守った。彼の心の中では、今もなお、迷いが渦巻いている。しかし、総理の言葉には揺るがぬ確信が宿っていた。その姿に触発されるように、官房長官もまた、静かにうなずいた。
「わかりました。」
一度深呼吸をした後、官房長官は静かに口を開いた。
「私も、信じることにします。」
その瞬間、何かが決まった気がした。二人は互いに目を合わせることはなかったが、心の中で同じ未来を見つめていた。