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安楽椅子ニート 番外編4  作者: お赤飯
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安楽椅子ニート 番外編4

「お、待ってたぞ!どうだった?」

「木崎さぁぁぁん、聞いて欲しい事があるんですよぉぉぉぉ!」

「いや、まてまてまてまてまてまて!まずは瀬能さんの安否だろ?」

「大丈夫ですよ、逮捕はされないみたいです。それより僕の話を聞いて下さいよぉぉぉ!」

「わかった、わかった、わかった、落ち着け、落ち着け、落ち着け!

それで、警察は何て言ってるんだ?」

「別に何も言ってないですぅ。瀬能さんは任意だって。」

「なんだよそれ、お前、ちゃんと警察から話を聞いてきたのか?」

「だって、我々がいても何も出来る事ありませんし。そもそも瀬能さんの保護者じゃないですし。呼ばれた意味も分かりませんし。」

「ま、そこなんだよなぁ。警察も困ってうちに電話してきたんだろうけどぉ、うちとしても、どうにもならないからなぁ。」

「そこですよ、なんでまた、瀬能さんのお宅に詐欺の通帳が捨てられるんですか?よりによって!」

「・・・それで、見つかったの?詐欺の通帳?」

「見つかる訳ないですよ?あのゴミの量ですよ?本当の宝探しですよ。・・・警察の人も可哀そうなぐらいでしたよ。」

「新山、お前、どうしてたの?」

「警察の人が触るなっていうから。見てただけです。だいいぶ探したみたいですけど埒が明かないから帰っていいって言われました。」

「瀬能さんは?」

「警察に連れていかれました。」

「・・・逮捕じゃん。」

「いや、ちがうんですよ。あのぉ、捜索中は待機だったんですけど。いつまで経っても見つからないから。それで、通帳を捨てられたら困るから、警察に一時保護?拘留?されるみたいですよ。・・・警察は出てくるまで探すつもりでしょうから。」

「・・・なんか、あれだな、警察も大変だな。・・・相手が瀬能さんだと。」

「明日はとりあえず、我々は来なくていいそうです。見つかり次第、連絡が来るそうですけど。」

「だからさぁ、うちに電話されても困るじゃん。」

「・・・そうなんですけどね。でも、警察がそう言うから、返事しておきましたけど。・・・正直、我々は関係ないですし。」

「・・・ま、そう言うなよ。」

「警察から電話があった時は、瀬能さんが逮捕されたんじゃないかと驚きましたけどね。」

「家から出ない奴が警察に逮捕されるって尋常じゃないからな。・・・ほんとに尋常じゃないけど。

そもそも、なんでそんな詐欺で使われた銀行通帳が瀬能さんちにあるんだよ?

おかしくない?」

「・・・あのゴミ屋敷ですから、逃げる途中で捨てたんじゃないですか?」

「・・・ハタ迷惑な話だよ。瀬能さんにも、うちにも、警察にも。どこにも利がないじゃん。損してばっかじゃん。」

「いや、まったく。」

「こっちの身にもなれって話だよ。瀬能さんに何かあったら、うちが身元を保証しなくちゃなんだろ?」

「・・・保証はしなくても、身分を証明するくらいのお手伝いだとは思うんですけど。流石に身元保証はできないとは思うんですよね。」

「・・・だよなぁ。」

「それで木崎さん、聞いて下さい!ゴミの山から警察が銀行通帳を探している時、瀬能さんと僕でずっと何時間も待たされてたんですよ。」

「さっき聞いたじゃん。」

「でね、」

「でね?先輩に向かって、でね?」

「ああ、スイマセン。木崎さんだと先輩っていう感じがしなくて。」

「そこはほら、新山、わきまえろよぉ!」

「ほんとスイマセン。いや、違うんですよ!それでですね。瀬能さんが物騒な話をしてくるんです!」

「・・・物騒?」

「『引き籠もりのニート女が頭のおかしい話をしますので、聞いて下さい。』って言うんですよ。僕にだけ聞こえる声で。」

「ま、いつもの事じゃない?頭のおかしい話をするのは。」

「いや、だからですね。・・・待って下さいね、今、メモ見ますから。

『明日、なぜか警察が探している、詐欺被害者の預金通帳が見つかります。冷凍庫の中から出て来るでしょうね。

その前後、都内から離れた、山間部まではいかない都市部のマンションで、傷害事件が起きます。同様に、違う都市部のマンションで玄関が焼かれる火災、いわゆるボヤが起きます。この都市部は断定は出来ませんが、鉄道と高速道路があり、交通の便が良い所です。おまけに言うと、子育て世代が多い地域だと思われます。

その事件だか事故だかが数件おきた後、この詐欺事件は幕を下ろすと思います。』ってニヤニヤしながら言うんですよ。

あの顔みてたら僕、怖くなっちゃって。

警察に言おうかなと思ったんですけど、言ったところでどうにかなる話じゃないですし、どうしようかなと思って、今、木崎さんに打ち明けました。

ああああ良かったぁ!すっきりしたぁ!

僕と木崎さんは秘密を共有した仲間です!僕と木崎さんは共犯者です!」

「ちょっと待て!やめろ!・・・俺は聞きたくない!・・・俺を巻き込むなぁぁぁぁぁぁ!」

「僕だって一人で、抱えたくないですよぉ!木崎さん、もう聞いちゃったんだから逃げられませんよぉ!」

「俺はもう帰った。俺はもういない。お前は独り言をしゃべっている。

・・・そうだろ?」

「やめて下さいよ!木崎さん、僕と木崎さんは一蓮托生ですよ、一卵性双生児ですよ!」

「バカ!やめろ!

・・・まあいい。もし、万が一、大事があった時は、頭のおかしい職員が酒のみながら寝言いってたって事にするからな!いいな!

おい、新山!酒飲め!いますぐ酒飲めぇぇ!」

「ちょちょちょちょちょちょ、木崎さん、勘弁して下さいよぉ!ちょっちょちょちょ!

分かりました、分かりました、それでいいです、酒ぇ飲みますから、話をさせて下さい!

僕ぁほんと一人で抱えたくないんで!

・・・なんで、あん時、話ぃ聞ぃちゃったかなぁ。」

「・・・お前、運がないもんなぁ。瀬能さんに目、付けられてたんだよ。仕方がないんだよ。」

「続きいきますよ?『私の家に投げ込まれた預金通帳、オレオレ詐欺の被害者の物らしいのですが、その犯人って存在すると思いますか?』って言うです。」

「えっ?どういう事?えっ?死んでるの?瀬能さんが殺したの?」

「『警察は、コンビニでお金を下ろそうとして失敗した男がいると、通報を受けて付近を捜索したそうです。コンビニから逃げた男の、逃走経路上に、なぜか運が良い事に荷物が山積した私の家があり、そこに預金通帳を捨てたらしいと警察は踏んだようです。捨てるに都合が、あまりにも良い場所ですからね。

ですが、私の家から、その後の犯人の足取りはまるで消えてしまったかのように、つかめていないそうです。

私が思うに犯人は、本当に消えてしまったのだと思います。』ですって!」

「・・・荷物が山積みって無理ないか?一般的にはゴミだよなぁ?」

「ご本人が荷物って言っている以上、個人の資産であることは間違いありません。きっと。たぶん。」

「・・・逃走経路上に都合よくゴミの山ねぇ。」

「それでですよ、『犯人も気になりますが、私が気になるのは被害者宅の方です。なんでも被害者宅は、高齢者の男性、一人暮らし。

確かに男性高齢者の独り暮らしはオレオレ詐欺のカモにもってこいと思えますが、オレオレ詐欺の人達って、狙った相手からしかお金を取らないらしいんです。

資産家、財産家の情報が網羅されている名簿っていうのがあって、それを元に詐欺を働いているそうです。

反対にいえば、名簿に載っていない家は関係ない事になります。彼らも遊びでやっていませんから、名簿を見て、効率的に金品を取る必要があるのです。

そうなると、おかしいんです。男性高齢者が狙われるハズがないんです。』」

「・・・名簿に載っていないのに被害にあったわけだな?」

「そうです。このお宅は『まるでお金がない家なんです。数年前に破産して以来、財産はすべて行政に差し押さえ。年金じゃ足りないから生活保護を受給しているようで、その日暮らしの様な生活だったそうです。しかも、お爺さんには奥さんがいるけれど認知症を患い、老人ホームに入居してしまったそうで、ご近所の方は、その残されたお爺さんをたいそう心配していたようです。

ただ、奥さんが元気だった頃は、会社を経営していたらしく相当、羽振りが良かったとも聞いています。知的財産でかなり儲けたらしいです。

どこで災難に遭うか分からないのが人生ですよね。なに不自由ない左うちわの暮らしが、ある日突然、真っ逆さまの急降下。財産は没収され、奥さんは認知症で老人ホーム行き。日々の生活に困窮するような生活になってしまったんですから、人生って分からないものですよね。ね、新山さん。

なんで、そんな不幸のどん底みたいな男性から詐欺をしようと思ったのでしょうねぇ?気になりませんか?』」

「・・・いや、まったく。気になりません。早くこの話を終わらせて下さい。」

「そう言わないで、木崎さん。聞いて下さいよ。

『たぶん、鍵は預金通帳にあると思います。

ところで、新山さんは地面師ってご存知ですか?』

・・・木崎さん、地面師って知ってますか?」

「通帳の話はどこいったの?・・・なに?地面師って?」

「『不動産をカモにする詐欺師なんですけど、扱う物が土地、建物だから、被害額が莫大なんです。億なんてザラですよ。

この地面師っていう詐欺、意外にも古典的な詐欺なんです。』」

「古典的・・・?」

「『詐欺師本人が、被害者を信用させて、お金をだまし取るっていう、古典的なものです。

扱う物が不動産っていうだけで、その手法は他の詐欺と一切変わりません。

ひとつだけ不動産詐欺が他のものと違う所があるとしたら、被害者が被害に合っている事に気づきづらい点にあります。

なにせ不動産ですから、地面に名前が書いてある訳ではありません。地面に名前を書くなんて子供だってそうそうしませんからね。』」

「まぁそりゃそうだわな。」

「『何か行政の指導が入らない限り、分かる手立てがないんですよ。だから騙されるのが分かるまで時間がかかる。年単位で気づかない事もあるそうです。』」

「そんなバカな。なぁ?」

「あり得るそうですよ。

『この地面師っていう詐欺。古典的であるが故、詐欺で得られる額が莫大で、しかしながら身に降りかかる危険も莫大です。

文字通り、ハイリスク、ハイリターン。泥棒でも狂人の類しか行わないそうです。

では、地面師はどうやって被害者から、莫大なお金をだまし取ると思いますか?

たったひとつの武器だけで、だまし取るのです。

それは、“信用”です。

もちろん、嘘の信用ですが、信用だけを担保に、お金をだまし取るんです。

その信用の担保になっているものの一つに、“顔見せ”または“面通し”と呼ばれるものがあります。

新山さん、そんな事か、とお思いでしょうが、詐欺師に取って、顔を見られるということは、御上に捕まるリスクが生まれるっていうことです。

一時的に逃げられたとしても、手配書なんぞをばら撒かれたりしたら、逃げ場なんかありませんよ。

地面師は、捕まる危険を承知のうえで、相手を信用させる為、顔をさらして信用を得るんです。とっても、古典的でしょう。

鬼平犯科帳でも顔がばれた仲間は、しばらくの間、江戸を離れさせていましたからね。

今のオレオレ詐欺は、電話で家族になり済ましますが、電話で行える詐欺なんて、やはりたかがしれてます。せいぜい百万円がいいところでしょう?

地面師のように億単位のお金を狙う詐欺師は、それに見合った危険性を取るんです。

私からしたら、どんな泥棒でも迷惑なだけですけどね。

・・・。

それはそうと新山さん。ここまで話してきて申し訳ないのですが、地面師の話はそんなに関係ないんですよ。

詐欺師の話をしたかったので、地面師を持ち出しただけで、他意はありません。』」

「なに言ってくれちゃってるの、瀬能さん!ずっと聞ぃちゃったじゃないのよぉぉぉ!俺の時間、返せよぉぉぉぉ!」

「『スミマセン。』」

「瀬能さんで謝らなくていいよ!新山、お前もバカなの?」

「『新山さん、企業地面師って知ってます?もちろん知らないと思いますが』

って言われたんで、バカにしないで下さいって言おうかと思ったんですが、」

「・・・知らなかったんだろ?」

「・・・ええ。知らなかったです。

『地面師ってその名の通り、土地を使って金品を巻き上げる詐欺師の事ですが、それが転じて、企業地面師っていうのは、会社、企業を使って金品を巻き上げ地面師同様、一千万、一千億と、被害額が甚大な詐欺師、詐欺集団のことを言います。

経済不況の今、けっこう流行っているみたいですよ。』」

「そうなんだぁ。知らなかったわぁ。」

「僕も同感でした。

『企業地面師の手口は巧妙で、被害に遭っていたとしても、被害を訴えにくいと聞きます。

なぜなら、合法的に金銭を巻き上げるからです。警察や司法に訴えても、法的に問題がなければ彼らも対処できないからです。

極めて黒に近い白なのです。

企業地面師のターゲットは明確で、業績はあるがその会社を受け継ぐ人材がいない会社、老舗なのに業績が伸びない会社、一点突破で同業他社から浮いている会社、そして、弱った会社です。

これらの会社に共通するのは、本来ならば廃業すべき場面で、根拠のない自信や妄想で将来性を描き、会社に未来があると思い込んでいる経営者がいる事です。

いえ。本当の事なので。受け流して下さい。

企業地面師達は、その会社がかかげた夢や希望。いいえ、まるで根拠のない経営方針を利用して企業買収、子会社化、M&Aを行い、資産を丸ごと奪っていくのです。

さっき言った通り、合法的に自分達の参加に入れている為、グループ企業の資産を親会社が根こそぎ持っていっても、何ら問題がありません。

そして、預貯金や不動産を根こそぎ奪い取ったら、ポイしちゃえばいいのです。倒産寸前の会社を守る必要性がないとか言えばいいからです。

企業地面師は、私から言わせれば詐欺師だと思いますが、彼らは組織化されているので、場合によっては、弁護士、税理士などを使って企業買収を行います。いくら詐欺だとわめき散らそうが、法律で守られていますから、警察も司法も手が出せないのは当然で、どうする事も出来ません。

資産を吸い尽くしたら、後は、最初から存在していなかったかのように姿をくらますだけ。見事としか言いようがありません。

被害に遭った会社は、泣き寝入りするしかありません。』」

「・・・タチが悪い奴らがいるもんだなぁ。」

「『これが法治国家の悪いところですよ。法律で黒でなければ、すべて白になる。

新山さん。私の憶測ですが、先ほど話した、オレオレ詐欺の被害に遭ったお宅。少し前に会社を経営していたと言いましたよね。

もしかしたら、企業地面師に財産を根こそぎ持っていかれたのではないですか?それがキッカケで破産した。

奥さんも認知症を患ってしまい、何もかも失ってしまった男性は、もう怖いものがありません。もう全て失ってしまったからです。

そういう人、何ていうかご存知ですか?』木崎さん?」

「えっ?またクイズ?・・・知らないよ。」

「『無敵の人っていいます。失うものがないのですから、本当に無敵の人ですよね。

さて、新山さん。新山さんは詐欺師の知り合い、お友達はいらっしゃいますか?』僕はいませんけど、木崎さんは?」

「・・・いる訳ねぇだろ。いたとしたら縁を切るだろ?普通。

詐欺師って言葉が俺は悪いと思うんだよ。詐欺って泥棒だからな?窃盗だからな。詐欺っていう言葉の響きで軽く考えがちだけど、罪状は重たいからな?」

「ああ。木崎さんって意外とマトモっていうか、ちゃんと考えている人なんですね!改めて、凄いというか、尊敬します!」

「お前もさ、こういう仕事してるんだからさ、線を引くところ、引いとかないと、持っていかれるからな。全部。」

「はい。胸にしまっておきます。」

「胸にしまうな!肝に銘じろ!・・・お前、そういう所だよ?ほんと。」

「それでですね『詐欺師って、その詐欺で得たお金をどうやって管理しているか、知ってます?』知ってます?」

「知らないよ?・・・あれだろ?どうせスイス銀行だろ?ゴルゴみたいに。」

「『中立国家の国際銀行なんて考える人がいるかも知れませんが、口座開設するにあたって審査を受けたり、仮に審査を通ったとしても、為替や手数料を考えたら、とても合理的ではありません。あれはあくまで漫画の話ですよ。』木崎さん。」

「・・・なんかムカツクな。お前も、瀬能さんも。」

「『日本で詐欺を行って得た金銭を銀行で管理するとします。するとどうなるでしょう?

企業地面師は合法的に詐欺を行います。警察や司法は詐欺で立件することは難しいですが、反対に合法であるが故、その金銭を奪っていく組織があります。

答えを言ってしまいますね。答えは、税務署です。

収入があれば、それに見合った課税をかけて税金という名目で身銭を奪っていくのが税務署です。』」

「お前さぁ、小市民にとったらその通りだけど、もう少し言い方があるだろ?税務署の職員さんだって頑張って働いているんだらさぁ。なぁ?」

「『せっかく詐欺で得た金品を税金で何十パーも持っていかれたら、詐欺師も面白いわけがありません。

企業地面師も税務署もどっちが詐欺師か分かりませんし、国内において、脱税して逃げられた事案はありません。ほぼほぼゼロです。

いくら警察から逃げられても税務からは逃げられないのが、日本だったりします。・・・怖いですね。

詐欺師も頭が悪いわけではありませんから、税務から逃れる為に、あらゆる手段を講じて、資金洗浄を行います。資金洗浄の方法は割愛しますが、最終的に現金に変えます。

ですから、詐欺師は現金で保管します。彼らは現物しか信用していませんから、その為、現物を手元に置くのです。

本来なら彼らも、セキュリティが高い、貸金庫に置いておきたいのですが、何分、これも手数料を取られます。

セキュリティが高くなればなるほど手数料が高くなります。当然です。

ですから、安全性を担保しながらも、それほど手数料が高くない、そんな場所に現金を保管しておくのです。

例えば、大手不動産会社がつくったマンション。高級住宅街の戸建て住宅。マンションに至ってはマンション自体のセキュリティもありますし、住民同士の付き合いも希薄です。誰が隣に住んでいるか分からない状況は、詐欺師にとって、現金を保管するに最適な場所なのです。

詐欺師本人が複数、マンションを所有していれば、それはそれで資産と見なされますから、税務署に目を付けられます。ペーパーカンパニーだったり、他人を偽って名義を手に入れる事もあるかと思います。

でも、けっきょく行きつく先は、現金です。彼らは現物しか信用していませんし、現物がある方が安心できるのです。』」

「そういうもんなのかねぇ。・・・ま、よく分かんねぇけど、詐欺師って奴らはきっと小心者なんだろ。他人が信用できねぇ、現金しか信用できねぇ。だから、現金を手元に置いておきたがるんだろうなぁ。金があればあるほど、人に盗られる恐怖が湧いて出て来るんだろうなぁ。・・・その金だって人様の金だけどな。」

「『新山さん。私、言いましたよね。詐欺師は何千万、何千億と詐欺をしても最後は、現金で持っていると。

また、話が脱線しますが、犯罪ってリスクと報酬を天秤にかけた時、割に合わないと言われています。政治犯は別ですよ?彼らは思想信条に基づいて行動しているので、死のうが生きようが関係ない人達なので、時の法律が違法とされているだけで、犯罪を犯している当の本人は罪の意識がありませんから。むしろ、聖戦と考えているくらいです。歴史に名を残さない犯罪者、殺人鬼ですら時代が時代なら英雄だった、なんて話はどこにでもある話です。

そういうのは別にして、金銭を要求するタイプの犯罪は、金品を受け取る時、捕まる危険性が極めて高く、割に合いません。

それから、仲間が多い犯罪も、人数が多ければそれだけ秘密が漏れたり、仲間割れするリスクがある為、頭の良い犯罪者は少数で行います。最近のオレオレ詐欺みたいに、警察に捕まってもいい捨て駒として末端の人間を囲う、っていう事もあるみたいですけどね。

私が言いたいのは、往々にして犯罪は、割に合わないっていう事です。むしろ、まじめに働いた方が稼ぎは良いと思いますよ。新山さんや木崎さんみたいに。

では、話を戻しましょう。同様に詐欺師も犯罪として割に合わないのです。』」

「・・・どうしてさ?」

「『だまし取ったお金を、しこたま溜め込んでいるんですよ?現金が一か所に集中してあるって事は、取られる時も一瞬って事です。

おまけに顔を見られているんです。これ以上、割に合わない犯罪はないと思いませんか?私ならやりませんね。』」

「・・・うん?ま、そう、だね?」

「『被害に遭われた会社は、合法的に、全財産を持ち逃げされ、泣き寝入りするしかない、と言いました。』」

「・・・言われました、ね。確か。」

「『合法的な話です。合法的な。では、市中で知っている人の顔を見かけた、っていうは違法でしょうか?私は合法だと思うんですよね。

・・・私、見ちゃったんです。たまたまその企業地面師さんを。

次の日も、たまたま企業地面師さんを見ちゃいました。近所のスーパーで。生卵買ってました。別の日は、高級焼き肉店で。他の日はスーパー銭湯で。

私の友達も、その人をよく見るって言ってました。ほら、私、日本中に友達がいるから。

高速道路の料金所で見た日もありましたね。別荘だか別宅かは知りませんけど、今、住んでいる家とは違う家に入っていく所もたまたま見ちゃいました。』」

「・・・・おいおいおいおい。瀬能さんが家から出るなんて事、ないだろ?」

「知りませんよ?本人に聞いて下さいよ。

『それで、私、公園の炊き出しでよく会う、そのお爺さん。オレオレ詐欺の被害に遭われた、その方なんですけど、以前に、企業買収で親会社になった会社の人と連絡が取れなくて困っているって話を聞いて、思い出したんです。そういえば、この前、たまたま見たなって。その時は企業地面師さんとは思いませんでしたけど。

それでお爺さんに、教えてあげたんです。企業地面師さんの居所を。私ってとても親切でしょう。』」

「・・・へーっ。そうなんだ。」

「『昔、三億円事件っていうのが東京であったのを覚えていますか?』僕は生まれてないからよく知らないけど、ドラマとか漫画で読みましたって言ったんです。」

「みんなそうだろ?」

「『三億円って大型のジュラルミンケース、3個に入っちゃうんですって。三億でも3個のケースですよ?その企業地面師さんは大型のケースではないにしろ、大きなカバンを持ってその家に入っていく所も、たまたま見ちゃったんですけどね。お爺さんに、旅行でも行くのかな?なんて話しちゃったんですけど、余談でしたよね?』」

「・・・余談?なのかなぁ?」

「『今度は私がお爺さんに相談したんです。ほら、私の家、荷物が多いじゃないですか?嫌がらせに火を付ける人がいたりするんです。家が全焼しなくても荷物が燃える程度の小さな火事。ボヤ程度でも、消防や警察が調べに来るって。大事にしたくないって言っても、警察が家にあがりこんで調べるんです、迷惑しちゃいますって相談したんです。あと、友達と喧嘩をしちゃって。友達が血を出す怪我をしちゃって、驚いて警察を呼んでしまって、傷害じゃないかっって話になって、友達同士の喧嘩で大変な騒動になったって相談したんです。大した事ないのに、やっぱり家に上がり込んで調べていくんですよね、警察って。』」

「・・・そんな話、しちゃったんだ。」

「相談ですからね。」

「いや、待て、瀬能さん、友達いないだろ?」

「だから、そういうのはご本人に聞いて下さいよ?

『入口は大した事ない事件でも、警察は大事にしたいから建物に入って、入念に調べていきますよね?って。

あり得ない金額の現金が、普通の民家にあったら、きっと警察も、驚くんでしょうねぇ。

それから、』」

「・・・それから?」

「『オレオレ詐欺って怖くて、お金を持っている人を狙うって世間話をしてたんですよ、お爺さんと。

私、お金持ちじゃないから関係ないって笑っていたんですけど、ほら、名簿の話をしたじゃないですか?お金持ちの人が載っている名簿を持っていて、それを元にオレオレって電話しているって。

仮にですよ、仮に、普段、家人が住んでいなくて、ほぼ空き家同然の家だかマンションになぜか一千万、一千億のお金が置いてあるって言っても、オレオレ詐欺の人達は信じないでしょうね。そんな夢みたいな話、ある訳ないですから。

オレオレ詐欺って思ったより大変だって警察の人が言っていたんですけど、人を集めたり、車を手配したり、電話をかけたり、手間と費用が存外かかるらしいんですよ。それで誰かが捕まってしまえば、だましたお金も手に入らない訳ですし。

もしも、そんな家の住所が載っている名簿があったとしても、信じるかなぁ。やっぱり信じないでしょうね。

なんて話を公園でしてたんです。炊き出し、食べながら。

あ。そんなものがあったら~、の話ですけどね。』」

「・・・あったらの話だから、な。」

「『それで、これ、なんですけど。』」

「なんだよ、これ。」

「『預金通帳です。』」

「わあああああぁあぁあああ!

お前、これ、どうした?触っちゃったじゃんかよぉぉぉぉぉ!

あれだけ、俺を巻き込むなと!」

「・・・木崎さぁん、これで名実共に共犯ですよ!」

「お前、謀ったなぁ!くそっ!お前ぇ!」

「もう、これには木崎さんの指紋も付いてます。もちろん、僕のも。

『家に置いてあったんです。何の預金通帳かは知りませんが。

事実上、今、新山さんの指紋が付いてます。これで木崎さんの指紋も付いていたら尚、良しなんですが。

・・・そんなに怯えないで下さいよ。汗、拭いて下さい。取って食べたりしませんから。

その、新山さんが持っている通帳。それに、新山さん、木崎さんの指紋が付いているとしたら、私の様な、社会的弱者が通帳を持って相談に来た、っていう証拠になります。話を聞いただけなんですから、指紋が付いていても不思議じゃないでしょう?預貯金の確認だって当然するだろうし。

私としては、そういう機関に相談した、っていう既成事実が欲しかっただけです。』」

「・・・瀬能さんの言いたい事はなんとなく分かった。

その誰か、分からないけど、正体不明な銀行通帳の持ち主が、うちに相談に来たけれど、どうしようもならないって追い返されたって言うシナリオが欲しいんだろ!

くっそぅ、俺は、平穏無事に生涯を終えたいの。変な事に巻き込みやがって。

おい、新山!電話帖、持ってこい!

まだ、家にいてくれよぉぉぉぉ!

そのじじぃ、明日、割腹自殺かなんか傷害事件を起こすつもりだ!止めないと!

それからお前、これ、瀬能さんちのゴミん中に投げ捨ててこい!明日、見つかるんだろ?ちゃんと見つかる所に置いておけよ!」

「っわかりましたぁ!」

「それから、じじぃが電話に出なかったら行先を瀬能さんに聞くしかないから、念の為、その足で警察に行け!いいなっ!

誰だか分かんねぇ奴の為にぃ、くぅそぉ、電話に出ろよ、出ろよ、出ろよ、出ろよ・・・!

下手に死なれたら胸くそ悪りぃじゃぁねぇかぁぁぁぁぁぁ!」

「木崎さん、瀬能さんが『たぶん死にはしませんよ、これで奥さんと一緒に住める口実になるでしょうから』って。」

「はあぁぁぁ?」

「『オレオレ詐欺の逃げた犯人。どこかに消えてしまったそうですけど、背格好がそのお爺さんに似ているらしいんですよ。似ているって。』」

「・・・そっちも狂言だって言うのか?」

「『最初に言ったでしょう。狂言じゃなくて、極めて黒に近い妄想です。』」


※本作品は全編会話劇となっております。ご了承下さい。

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