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「ギリギリセーフってところ?」

「ああ助かった」

「はい、これ」


 メフィが差し出してきたのは一本の剣。150cmほどの大剣である。

 がっしりとした重みを剣を握る右腕に感じる。

 これで魔法を使うことができる。


「うっ」

「怪我してるの?」

「腕を焼かれた。後、肋骨も何本か」

「じゃあ一度」


 逃げて。そう言いかけたメフィの声が遅くなる。

 雷膜だ。

 俺とメフィの二人ともが速度を失った。

 やつが雷膜で加速してこちらに迫っている。


ガキッーーーーーーー


「!」

 メフィの首元を突こうと振り下ろされた刃に横から飛んできた何かがぶつかり斬撃の軌道を押し留める。


 魔法使いならば誰であっても持っている基礎的な能力の一つ。

 それは魔場と呼ばれている。

 術者を中心に1mほどの円形の範囲を覆うその領域はその術者にとって自分と世界とを隔てる膜のようなものだ。

 この領域の内側に置いては術者はその外の(ことわり)に縛られることなく自分の魔法を自由自在に操ることができる。


 例えば発動した魔法を隣に浮かしてとっておいたり、例えば体の周りを回らせたり、例えば小さくなった魔法に魔力を供給して元の大きさに戻すことだって。

 そしてその魔場の能力の応用技を俺はこの場で使ったのだ・・・領域の拡張。自らの体内にある魔力を相当量。放出することによって魔場を一時的に通常に数倍の大きさにまで膨れ上がらせることができるのだ。

 やつが雷膜を発動し飛ばす刹那の間に俺は魔剣の魔法の一つを発動して広げた魔場の端の方へと逃がした。これによって雷膜による動きの制限を受けない手札ができた。


「炎の・・・魔法?」


 それは紅の炎。魔剣の術式の一つファイア・アロー。先端の尖った鋭い形状で破壊力は控えめだが速度に特化しており形も相まって一点突破に向いた魔法だ。


「オラァ」

「ちっ」


 数秒間の押し合いの末。雷膜の拘束から逃れた俺の斬撃によってウバールは後ろへと飛び退く。


「魔法使えるのかよ」

「ファイア・ボール」

「なっ」


 ファイア・ボール。名前の通り球形の炎でファイア・アローのような鋭さや速度はないが単純な破壊力は最も強力。

 この近距離であればその威力は余すことなくやつを破壊するだろう。


「雷膜」


ズシャッ


「何!?」


 ウバールの腕から血が流れる。

 速度を奪われたファイア・ボールごしに俺が大剣を差し込んだのだ。

 剣をねじる。


「うぎゃっつ」


 これで簡単には抜けなくなった。そのまま雷膜の効果が切れるのを待てばやつはファイア・ボールをまともに喰らう!!。


「クソがっ」

「!」


グシャッ


 ウバールの右手が宙を舞った。

 刃で腕を切り落としたのだ。


 その瞬間だった。ファイア・ボールが速度を取り戻したのは。


「が、あ・・・ぁ」


 剣の拘束が解けたおかけで致命傷には至らなかったがウバールの上半身の右側は完全に焼きただれている。


「メフィ、行こう」

「捕まって」


 ミサイルから噴き出す煙と光が2人の人間を大空へと羽ばたかせた。

 目の前に広がる景色は月が少し傾いた以外に変化はない。景色以外の所に先ほどとの変化を求めるならばそれは下方から迫る一筋の閃光。

 追手の存在。


 まさかまだ動けるとは・・・


「逃がすがよぉ」

「まずい」

「・・・分かってる」


 ガシャん


 窓ガラスを割って城の上層部へと侵入すると、そこでは止まらずに廊下を走ってできるだけ奥の部屋を見つけ中に潜む。


「手、見せて」

「?」

「怪我してるんでしょ」

「ああ、ありがとう。できれば肋骨も頼む」

「分かった。」


 緑の光が傷を癒していく。


「急がないと・・・もうあまり時間がない。」

「どういうことだ?」

「やつらに逃げられちゃうの。このままだと」

「逃げるってどうやって?ボートでも漕ぐのか?」

「違うドラゴンがいるの」

「ドラゴン?」

「そう。改造されたね・・・・・中身がくり抜かれてたくさんの人間を収容できるようになってる。」


 中身のくり抜かれたドラゴンというのがどういうものなのかは想像できなかったが。一つだけ想像のつくことがある。


「もしかしてリーシャも」

「ええ多分。奴らリーシャも連れていくつもり」

「なんでリーシャを?」

「・・・さあ、私には分からない、でも一番の目的って感じじゃなかった。何か別の目的があってそれをやるついでにリーシャを攫っていたのだと思う」

「・・・まあ、そこら辺のことは助けてから本人に確認すればいいか。とにかく今は急ごう。その改造ドラゴン?の場所は分かるのか?」

「分かると思う。かなり巨大だから、私の部屋の窓からも見えたし。城の上空まで飛んで行けばほぼ確実に」



ギィぃ


 ドアが開かれる。

 新手か?いや・・・・


 立っていたのはウバールだ。赤茶色の肌を剥き出しにして両目とも白目になりながらもなんとか意地でここまで俺たちを追ってきたようだった。


「ぃがさねえ・・・ぇったいに逃さねえ!!!」

「ファイア・・・・・」

「!・・・雷膜」


 俺は躊躇わずに魔法を行使する。魔剣に刻まれた3つの魔法の最後の一つ。

 ファイア・・・・ショット。

 照準はウバールではなくその少し上。


「メフィ、剣の後ろに隠れろ」

「え?」


 メフィの腕を無理やり引き寄せて地面に突き立てた剣の影に引き込む。

 一点突破のファイア・アロー。破壊力のファイア・ボール。そして最後の一つ。ファイア・ショットの特性は


バッ


「ぐぎゃああああああああああ」


 広範囲攻撃。

 発動された直後はファイア・ボールを縮めたような球形の炎

 だがその真価は術式2段目の顕現時に発揮される。

 花火のように空中で爆散し小さな炎の破片を広範囲に飛び散らせるのだ。


 それを少し応用したのが今の状況。

 軌道をずらして発射することによって後方からの攻撃が可能になる。

 ウバールはそれに完璧に嵌まった。

 倒れた彼の背中には先ほどまではなかった無数の火傷が浮かび上がっており特に少しだけ弾道のそれた背中の下の方の血管は中途半端に焼けて焦げ付いた血がプツプツと湧き上がっていた。


 今度こそもう動くまい。

 確信して、トドメは刺さないで外に出られる窓を探しに走った。


「こっちだ」

「捕まって・・・飛ぶ!」

 

 俺は先ほどのようにメフィに捕まって城の頂上のその先へと急上昇を開始した。

 城の反対側の空を黒い影が覆っている。

 それは羽の形をしていた。

 黒黒とした翼が空を切り裂いている。

 金色の目には生気は宿っておらずその中の黒は一点に固定されていた。ぎこちなく作為的に設定されたであろう姿勢でその身を固定している姿にはもうドラゴンとしての威厳などない。


「あれが・・・・・」

「ドラゴン、、、もう」


 ブゥッオッサァッー


 影が(うごめ)いた。

 烈風を巻き起こし数十mの巨大な物体が空へ向かって躍進する。


 ブゥワァアアア

「うっ」


 激しい烈風はミサイルの推進力をかき消し飛行を不安定化させた。


「風が強すぎる・・・しょうがない」

「・・・・?」


 パタっ


 メフィはロケットの推進力を無効化し城の屋根に着地した。


「どうする?」

「奥の手を使う」

「奥の手?」

「私のミサイルを他人に付与することができるの・・・向きとか速さとか調節はできないから真っ直ぐ飛ぶだけなんだけど」

「それなら俺をドラゴンまで運べるのか?」

「ええミサイルの数が同じなら2人より1人の方が速く飛べるから・・・ただ細かい調節はできないから片道キップになっちゃうけど」

「それで構わないからやってくれ」

「躊躇しないのね、戻れる方法があるかも分からないのに」

「迷ってる暇なんてないだろ」

「分かった・・・じゃあ・・・まあ・・気をつけて」


 メフィの背後に浮かんでいたミサイルたちが次々と俺の方へと移されて行く。


「ああ、ありがとう」


 ブゥワッ

 先ほどまでとは比にならない程の強烈なGがかかる。

 光を噴き出したミサイルはとんでもない速度で俺を運んだ。

 月の中に埋もれていたドラゴンの背中がみるみる大きくなりやがてその肌に触れられるところまで近づく。


パッ。


 丁度その時俺の背中のミサイルは消えて俺はうまくドラゴンの背に乗ることができた。


ビューーーー


 体にかかるGは消えたが今度はドラゴンの背の上を流れる大空の気流がぶつかってくる。

 それに推し負けないようにゴワゴワとしたドラゴンの背中の所々突起した部分を掴んで中への入り口を 求めて前へと進んでいくと竜の背の中にうっすらとした四角形があるのを見つけた。

 一見では他の肌と同じ色なのでそこに差異を見出すことは難しかったが一回それを認識すると逆に無視しようとしても無視しきれない存在感があった。

 さらにそれを観察してみると四角形の底面にちょうど指を差し込めるぐらいの僅かな窪みをがありどうやらこれは外と内を繋げる扉らしいと気づいた。


(開かない!)


 両手の指をそこに差し込んで両足で踏ん張りをつけて思い切り開けようとしたが、中からロックがかかっているらしくどうにもこうにも俺の腕力だけでは開かなさそうだったので手で開けようとするのは諦めて魔剣を使うことにした。

 風に流されないように素早く立って剣をその四角に突き立て足場を安定させる。


「ファイア・アロー」


 一点突破に優れたこの魔法であればあるいはこの硬いドラゴンの皮膚さえもぶち破ってくれるかもしれないという俺の期待はキンッという硬い金属音によって儚く崩れ去った。

 ファイア・アローは黒色の四角扉に少しだけ深い焦げ跡をつけただけだった。

 さて、どうしようか。ファイア・アローで貫けないとなると今俺が持っている攻撃力ではこの扉を正面突破することは不可能ってこと。

 他の入り口を探すか?いや多分ここと同じようにロックされているはずだ。なんならこのままここで待ってこのドラゴンが着地してこの扉が開くのを待つか?

 いや・・・そんなことをすれば大勢に囲まれることになる・・・相手が素手の一般人ならば100対1でも勝つ自信はあるが王女を攫うなんて大それたことをするようなやつらがそんなお粗末な相手であるはずがない。

 あくまで隠密突破しか方法はない。もし見つかってしまったのならばその時点で俺の負け。たとえドラゴンの内部に侵入できたとしてもそれは変わらない。


(どうするか)


 と俺が思考を行き詰まらせ短く息を吐いた時だ。

 ギィと音が鳴った。間違いなく目の前の四角い扉の内側から。そしておそらく内側のロックを解いた人物がギィギィとさらに音を響かせながら四角い扉を開け放ったのだ。


「・・・え?」


 中から出てきた男が頭を半分ほど露出させたところで俺とそいつの目線が重なる。一瞬の沈黙。どちらもかなり唐突な出来事に一瞬身を固めた。

  気を取り直して現在の状況を考えてみると。結構やばい、人に見つからない隠密作戦というリーシャ救出のための大前提がここで決定的に崩れてしまいそうになっているのだからその深刻さは致命的だ。

 この事態に一瞬でも早く対処する必要があるとすぐに理解した。理解したのなら対処するのにはそれほどの知能労働は必要ないただ男が口を動かして喉を鳴らし仲間を呼ぶことができないようにすればいいのだから。


 そしてこのパンチが繰り出された。


 ゴンッ


 鼻頭を思いっきり打たれたサングラスの男の頭が背後にあった扉にぶつかって白目を剥き、そのまま下の方へと落下していった。

 これでなんとか仲間を呼ばれて即詰みという状況では無くなった。だが油断はできない、もし下に転がっている男の姿を他の人間に見られてしまえば状況は先ほどと同じかそれ以上によろしくなくなることになるだろう。

 俺は柄を下にして剣を放り投げて素早く下に輸送すると自分自身もハシゴに手を掛けその両側をに手と足をがっしりとかけて一段一段降りるのではなく一気に滑った。不慣れなので多少の危険はあるが一段一段ハシゴを掴んだり離したりする作業は今の俺にはあまりにももどかしすぎる。


 タッと着地音を響かせながら自分の股の下で伸びているサングラスの男を見下ろす。ここに置いておくのはまずいか、出入り口の真ん前だし奥の方に移動させとくか。

 そう思って俺がしゃがみ込み男の両脇を抱えて通路の奥の方へと引きずっていこうとして、気づいた。 

 この通路は左側にある廊下から伸びた裏路地のようなところにあるということと、そしてそこにアサルトライフルを構えた数人の男が立っていることに。


パパパ パパパ パパパパ


フルオートの連射音が辺りに響き渡った。

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