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 血が流れだす。

 空気中に漏れ出た真っ赤な色の鮮血はふわりと彼の首筋の周りで膨らんでいる。



 血が止まらない、このままだとまずい。焦りに焦る神経だけはこの魔法の中にあっても正常な速度で動いてくれていた。

 首の奥深くまで押し込まれた刃渡りの短い短刀のような刃物の刺し傷は運良く瞬間的な絶命に俺を至らせることはなかったがそれでも流れ出る血の量を考えればそれが致命傷たり得ない傷であることの確証は得られなかった・・・・・いやおそらく致命傷だろう。

 あと何秒で俺の体がこの魔術から抜け出して正常な速度で動き始めるのかはわからないが、その瞬間がおそらく俺の命の尽きる時であろうことだけは直感できた。

 人は血を大量に流すと意識が朦朧とすると聞いたことがあるが体を巡る血の速度もこの魔術が緩めてくれているのか俺の脳みそは冴え渡っている。


 その冴え渡った脳を持ってしても俺の能力ではこの状況を脱する方法を思いつくことはできない。


ピカッ


 その時だった。


 何かが光った。通り魔のように俺を刺して通り過ぎた男はまだこちらに背中を向けていたのでその光に最初に気づいたのは俺の方だった。

 まっすぐこちらの方向に進んでくる光が。金髪の男に衝突する・・・俺が感じられた全てはそれであった。


「ぬっ!」


シューーーーーー


 男の腹にその光・・・・・いやその光を原動力に進む円柱状の物体が激突しそのままやつを廊下の奥の壁にまで突進させる。

 ドガアと音を立てて男の熊のような巨体が廊下の突き当たりにめり込み、そして壁と壁との衝突によって舞ったモクモクとした土煙は次の瞬間に起きた光の膨張の一瞬後にメラメラとした爆炎に変わった。

 どうやら爆発が起きたらしいことは音でわかったが魔法で身体速度が極端に遅くなっている今の俺は後ろを振り向いてその規模を確認することはできない。

 俺の背中に伝わる熱の強さから考えると相当の威力であるらしいが・・・。


 ただ唐突な事態はそれだけでは収まらなかった。今度は光を纏った先の尖った円柱、ミサイルが何本も横に並んで飛んできたのだ。そこから発せられる光の粒子は先ほどのもの以上の輝きを放っている。

 そしてそのミサイルの下には人間がいた。ミサイルにぶら下がるようにしてその下に浮遊している人間がまっすぐこちらに飛んできた。それが俺にかけられた魔術の溶ける一瞬前の出来事だ。


ヒューーー


 そうやって風を切りながらこちらに近づいてきたのは女だった。白っぽい金髪の女だ。女の白い手が首筋の傷に触れた。

 また、光った。でも今度の光はほのかな緑色・・・・回復魔術の色、その光に当てられた傷口にそこから飛び出した血の塊がゆっくりと吸い込まれていく。スルスルとまるで時が逆行するかのように、、、


パタっ


 攻撃体制のまま固まっていた俺の体は一気に速度を取り戻して地面にぶつかる。反射的に右手で防御姿勢を取って上手く着地したあと反射的に首筋を抑える。そこに触れた手のひらに目をやると、、、血はついていない。助かったのだ、俺の命は。


「傷はもう大丈夫みたいね。悪いけど詳しく話してる暇、ないから。黙って私に運ばれてね」

「え・・・」


 そういうと彼女は俺の襟元を掴んで無理やり引っ張っり廊下の窓をぶち破って外へと飛び出した。

 フューーーと冷たい夜風が顔に当たる。下を見るとそこには背の低い緑の生い茂る庭園とその外に広がる広い湖の青色があった。

 湖面には綺麗な満月が反射して遠くに見える対岸では背の高い木々の葉がゆっくりと揺れている。まるで物語の一節に描かれるような幻想的な光景が逆さまに広がっていた。


「おい、、、危なっ」


 しばらくの自由落下をしてぶつかってしまうのではないかという程スレスレまで地面に近寄ってから金髪の女は背中に背負ったまるで天使の翼のようなミサイルたちに明かりを灯して飛行を開始する。

 初めて気づいたがどうやら俺がいたのは大きな城の中だったらしい、真っ白に塗られた建物の上に暗い茶色のオークの屋根が並べられている。

 周りは湖に囲まれていてその対岸の森のさらに奥の方に街の明かりが見えた。

 だが彼女はその街の光の方へは進む気がないらしく。少しだけ航路を湖の上にはみ出させたあと旋回して月が影を作りだしている城の裏側の方に着陸した。

 普段から当たる日光が少ない場所なのか地面はやけにジメジメとした水っ気の多い感触だ。そこに俺を着地させてから彼女は魔術を解いて背中に背負ったミサイルを消した。

 ミサイルの発する白っぽい光が消えたせいで辺りは一層その暗さを強める。


「腕、出して」

「え、、、ああ」


 彼女が俺の腕に巻かれているシーツを剥がして傷跡の部分に手を当てるとまた先程のような緑色の光が出てきて未だに血の滴っていた傷口がみるみるうちに肌色に戻っていく。


「あんた誰?」

「私はメフィ、医者よ」

「医者?医者がどうして・・・いやそれはいいか、とにかく状況が知りたいんだ。何か知ってるなら教えてくれないか」

「今、、この城は賊に占拠されてるの。橋が落とされて中にいる護衛の騎士も全部殺されちゃった。で、私は命からがら逃げてきたの」

「じゃあさっきのやつもその賊の一員なのか」

「ええそうよ裏の世界じゃ結構名の通った魔術傭兵でウバールっていう名前だったはず」

「そうか・・・で、なんで俺を助けた?」


 命からがら逃げていたと言うのにわざわざ危険を犯してまで俺を助けるのならそれ相応の理由があるはずだ。


「あなた冒険者なんでしょ」

「そうだけど・・・でも何でそんなこと・・・」


 俺はそんなに名前の通った冒険者ではないはずだが・・・


「リーシャから聞いたのよ、あなたが強い魔法使いだって」

「知り合いなのか?」

「知り合いも何もあなたの頭の怪我を治療したのは私よ」

「ああそうか、だから、その件はありがとう」

「お礼はいらない。対価はもう貰ってるから。それで本題なんだけど、一つ頼まれてくれない」

「頼み?・・・なんだ?」


 何かやって欲しいことがあって俺を助けたのか。


「リーシャを助けて欲しいの」

「リーシャ・・・何かあったのか」

「うん、リーシャが賊に捕まっちゃったのよ」

「お前の能力で助けられないのか」

「私の能力、奇襲するのなら強いけど狭い場所で正面戦闘するのは難しいの」


 リーシャが捕まえられた。その言葉だけでも俺は飛び出していこうとしたが、その考えに冷や水を浴びせるように一瞬頭を過ったのがあの男の存在だった。

 あいつが賊の味方なのであればこの状態で向かったところで結果は目に見えている。

 だから、、、、、せめて


「もちろん助ける。」

「そう良かった。じゃあ」

「だけど今俺は魔法が使えないんだ」

「は?どう言うこと?」

「俺は自分の身一つで魔法を使うことはできない。使うためには魔剣の術式が必要なんだけどその魔剣を泊まっていた宿に置いてきちゃって。」

「そう言うことね、分かった。じゃあ取ってくるから宿の場所を教えて」

「街の東にあるヒョホリという名前の宿だ。そこの201号室のベットの横にある大剣がそうだ」

「じゃあ行ってくるからここで待ってて」


 彼女が再びミサイルを顕現させ飛び立とうとした時ある疑問が頭によぎる。


「いや、待て。思ったんだが空を飛んで向こう岸に渡るのなら何も俺が戦う必要はないんじゃないか。助けを運んでこればいい、人を持った状態でも飛ぶことはできるだろ」

「それは不可能」

「え?」

「だって街の人間は全部石にされちゃったんだもの」




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