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 地面の冷たさを全身で感じる。リューに頭を押さえられている。

 盲点を突かれた完璧な不意打ち。

 打たれた時点で俺とリューの実力差ではこうなることは必須。

 あの時、冷気を打つ直前に気づいていれば冷気を立体的に散布することで防ぐことはできたかもしれないが今となって考えても仕方がないこと。

 こうなった原因は・・・頭が自然と考察を始めるがすぐに切り上げる。これも考えてもしょうがないことだと。


「危なかったよ、今のは、かなり、その力。彼女のものだとしたら最悪死にかねないからね」


 リューの独白が始まる。


「婆様にも困ったのものだ。僕だって別に暇なわけじゃないのに自分の趣味に付き合わせて。父さんも・・・ああいけないこれは悪い傾向だ気が揺れるといつもこうなる。」


 どうやら意識して始めた言葉ではなかったようだが。その数秒の”遊び”が俺に最後のチャンスを与えてくれた。


「とにかく君、動かないでね。できれば殺したくないから」

「・・・・・・随分と鈍いな」

「ん何を言って?・・・・あ」


 今この状況において確かに俺は自由に身動きを取ることはできない。だが俺が最初にリューに接近した目的を達するのに今の状況ならば動く必要などないのだ。

 リューを拘束する。

 それを達成するために相手を凍らせる。

 簡単なことだ。なぜならリューは全身を使って俺のことを拘束しているのだから。俺とリューは今”接触している”のだから。


 手の甲から冷気を吹き出させる。魔法陣の逆噴射。

 俺は魔法陣に溜まった魔力を手の平から噴出しさせているが、最初の爆発は確かに手の甲が震源地だった。つまり見ようによっては魔力を手の甲から出すというのが本来の順噴射で俺が何とくなく行ている手の平からの噴射の方が逆噴射と見ることもできる。要するに”不可能”な訳がないのだ。

 ただし手の平から噴射する場合には直感的に行える角度調整は手の甲からの噴射だとやりづらくなる。だがそれもこの状況においては問題にならない。

 俺は魔力の冷凍能力によってリューの右足と俺の右手を”接着”し、それどころか漏れ出る魔力の量を増やし続けやつの体を侵食させていった。

 

 ゴキッ。

 何かがズレる音が鳴る。

 それは体の骨格が無理やり動かされる時の音。

 発したのは俺。だが痛みはない。これは俺にとって思惑通りの音。

 そしてそれと同時に今度は魔法陣を順噴射。手の平から表出させる。

 イメージは薄く、広く。

 パァッ

 と光が広がって俺とリューの立つ床の表面をアイスリングに早変わりさせた。


「くっ」


 右足で俺の右腕を捕まえ。左手で頭を押さえていたリューは右手と左足を地面につけていたが、足にはられた氷が徐々に広がっていくのを見てリューは反射的に右手を宙に浮かし重心を左側に傾けていた。

 俺の腕から右足を引き剥がそうとしたのだ。

 そこに氷の足場である。急激な重心変化の途中に起きたその足場の不安定化は簡単にリューのバランスを崩壊させる。


 大きく左に傾いた姿勢はそのまま持ち直すことなくやつの体を地面に叩きつけた。それに合わせて俺の体もリューの右足と接着された右腕に引っ張られて回転しながら持ち上げられた。

 リューの反応は早かった。

 姿勢が崩れて横に倒れ始めた時にはもう状況を理解して体を動かした、だが俺はそれよりも前に用意を整えている。

 この差はコンマ1秒が命を決める近接格闘戦においてあまりにも致命的。


 腰を思い切り捻って繰り出した渾身の左蹴りがリューのうなじに直撃する。

 右肩の関節を外すことによって角度の制限を無視できていた。

 やつのすごいのは俺の蹴りが放たれた時までにガードモーションを間に合わせようと体が動いていたことだろう。

 だがその姿勢が完全に形なる前に俺のかかとが奴の首に触れた。人体のうちで最も強靭な部位と最も脆弱な部位の衝突。

 その結果は考察する余地すらない。


「・・・・・・かっ」


 リューは小さな鳴き声のような悲鳴をあげて白目を剥き倒れる。本来ならば首の骨が折れていてもおかしくないやり方をしたがやつは意識は失ってもその心臓の鼓動だけはしっかりと保っているようだった。            

 片腕を失っている上にこの騒ぎですぐにでも新手が現れるかもしれない切迫した状況下でわざわざ留め

をさすような精神的な余裕はない。

 俺はリーシャの元へ走った。


「リーシャ、リーシャ、大丈夫か?」

「・・ん・・・・う?・・・・ポート」


 何度か体を揺らして呼びかけるとリーシャの閉じられた瞳がゆっくりと開かれた。老婆が気絶したことでかけられた魔法が解けたのだろう。数秒後にはすっかり平静に戻って普通に会話ができるようになった。


「あれ?・・・確か私・・・ポートに・・・」

「魔法をかけられてたんだ、それで魔法陣が開いて・・・・・・・とにかく大丈夫か?」

「体?・・・別に普通・・・というよりちょっとすっきりした気分」


 弱々しくも確かな微笑みを浮かべる彼女を見て俺はとりあえずの安堵を得る。確かに疲れはあるが、それでもその笑顔に何らかのひかっかりがある様子はない。

 彼女の言葉は心からのものなのだろう。

 だがそんな彼女の微笑みはその視界があるものを捉えたことで打ち消された。


「ポート、、、その腕」


 彼女が見たのは傷つきその表面を氷で覆われた俺の左腕。血を止めることができたとはいえあくまでそれは一時的な措置に過ぎない。表面を薄く覆っている氷だけでは止血することはできてもその表面の痛々しい傷口まで隠すことはできなかった。


「ああ・・・これ、ちょっとミスって」

「ミス?・・・血出てるよ・・・・・・」


 声色からもわかる昂っていく感情。それを胸の中に留めて置けなくなったリーシャの瞳から涙がこぼれ落ちる。


「ごめん・・・なさい。私が、私の・・・せいで」


 そこからは破裂した胸の中からとめどなく感情が溢れ出した。涙、涙、涙。罪悪感に苛まれるその瞳から漏れ出た水色の悲しみが頬を伝う。

 呼吸は荒く。小刻みになって十分な酸素を取り込めない脳みそはますます自らの感情を抑制できなくなっていく。


「なんで謝るんだ別にお前は何も悪くない、悪いのはお前を攫ったこの船の奴らだ」

「違う、違うの」


 俺の精一杯の励ましも彼女の感情に油を注ぐばかり、別に彼女は悪くないそれは俺の心からの本音だった。そもそもリーシャはこの件の被害者だ悪いやつが突然現れて彼女を無理やり連れ去ったこれのどこに彼女の落ち度が挟まる猶予があるというのか。

 いやもしかしたらあるのか?彼女しか知らない彼女の落ち度がそしてその失敗が俺の怪我につながったのだとしたら。

 普段のリーシャの性格を考えれば今回のような状況でこのような結果に至ったのならば俺の傷を心配して自分を攫った相手に憤慨することはあっても自らに非を感じて心を痛めたりはしないだろう。

 目の前で泣きじゃくる彼女の様子は俺にそんな推測を考えさせた。


 タッタッタッ


 耳の端で足音を捉える。

 それで現実に引き戻された。すぐに状況が抜き差しならないことに気づく。先ほどの戦闘の時。魔法陣の爆発によってかなり大きな音がなっていたのだろう。

 こちらに向かってくる足音の数は多い。

 もうすぐそこまで来ている。前からも後ろからも、、、、、どちらに進んでも接敵するだろう。


 グラリ、その時視線が揺れた。

 胸の中から何かが込み上げてくる。


「オエッ」


 血の混じった吐瀉物が口の中からこぼれ出した。



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