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 タッタッタッ。硬い床と靴がぶつかる音が静かな廊下に寂しく響いている。頭上にぶら下がっているむき出しの電球はドラゴンの気流がわずかに乱れるたびにゆらゆらと揺れていた。

 先ほど会った8人・・・最初に倒した奴も含めると9人の男達をぶっ倒したわけだがあの数の男たちを人目につかないところに引きずっていくのはスペースと時間の問題で厳しそうだったので潔く隠密作戦は諦めて作戦目的である隠密、つまり敵に気づかれないということを少し消極的にやることにした。

 詰まるところ各個撃破である。俺の存在を気付かれることは絶対厳守すべき目標にはせず存在は知られても正体は知られないということに重点を置く。詰まるところ会った敵全てに2、3日は起きれないレベルでダメージを与えるということだ。

 

「あ!」


 そしてまた一人の敵が俺の前に現れた。先ほどの奴らと同じアサルトライフルを両手で構えてこちらにその銃口を向けている。

 ただしその弾丸が俺に触れることはない。


タッ


「な!」


 大剣を盾にして銃弾を防ぐ。キキキキと剣の表面を弾丸がはねる音が響くがそれだけで弾丸がいくら剣にぶつかろうともそれにダメージを与えることはない。

 男の必死の連射も虚しくかわされて、俺はやつの間合いに容易く侵入した。そしてギリギリまで近づいてから剣の盾を解いてその側面で男を横合いから思い切り叩きつける。

 

「うっ」


 左の壁にヒビが入るほどめり込んだ男は額から血を垂らしながら短い悲鳴をあげて意識を失った。とりあえず目の前の脅威を解決することには成功したが、通路の奥の至る所からこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。

 先ほどから大量の敵に挟まれないように走り回っているがどこを目指すのかを明確に意識してはいない。このようなやり方ではいずれジリ貧になるのは目に見えている。どうにかしてリーシャの居所を知る方法はないだろうか?そこまで考えて俺は今倒した男に目を向けた。


パチンパチン


 白目を剥いて気絶している男の襟首を掴んで2、3回頬を引っ叩くと男は意識を取り戻し目をひらく。


「・・・うっ」


 俺に対する敵意はもう折れているようで戦闘意欲は感じられずただ全身の痛みに悶え、自分の襟首を掴んでいる俺に対して怯えている。

 ある程度力を抜いているとはいえ剣が触れた側の骨は何ヶ所か確実に折れているだろうからその痛みは結構なもののはずだ。


「おい、お前・・・リー・・じゃなくて赤髪の女を見なかったか?お前らの仲間に攫われた」


 俺がそう問いかけると男はコクリとわずかに首を縦に降る。


「どこにいる?」

「・・2・・・階・・・」

「2階のどこだ?そもそもここは何階だ?」


 俺の問いかけに再び男が答えることはなかった。どうやらまた気絶してしまったらしい。ここが何階か分からないのでは男の情報に価値などないのだが・・・・・ん?

 よく見ると俺のいる通路の先には階段があった。上下二つの方向に鉄の階段が伸びていてその一歩手前の天井に”3階”と書かれたプレートが釣られていた。

 かくして気絶した男を無理やり起こしてそして無理やりはかせた情報は意味を持った。リーシャは一つ下の階にいる。


 くの字に折れ曲がった階段を降りきると上の階と同じような電球が吊り下げられた廊下が広がっていた。

 おそらく構造自体はさっきの階と同じだろう。リーシャの場所が分からない以上この階の全ての部屋をさらう必要がある。

 だとしたら最短ルートは多分こっちだ。

 先ほど見たドラゴンの全体的な大きさと今まで走り回っていた3階の構造を照らし合わせて今の俺にとっての最善のルートを考え出しそれを辿って2階を走り回った。


「ポート」


 案外早くリーシャは見つかった。


「リーシャ!怪我はないか」

「・・・・・うん大丈夫」


 鉄のドアの向こう鉄格子ごしにリーシャと再会を果たす。どうやら怪我はしてなさそうなので安堵するがやはり鍵がかかっていてドアを普通のやり方で開けることが出来なさそうだ。・・・ならば。


「少し後ろによけてくれ魔法で壊す」

「ううん大丈夫」


 鉄格子の向こうから顔を覗かせるリーシャは涼しそうな顔でガシャりと鉄製の鍵を壊して自ら扉を開け、部屋の外に出てきた。

 その光景は俺を驚かせた。別に彼女の実力を正確に把握しているつもりではなかったし一応魔法も使えるとは聞いていたがまさかここまでとは・・・・・


「・・・リーシャ」

「ポート。よかった」


 一瞬の沈黙の後。病院での気まずい沈黙が頭によぎったがそれが再び二人の間に流れることはなかった。俺が何かを変化させたわけではない、動いたのは彼女の方だった。


 バッ


「・・・わっ」

 

 扉を開けて俺と目が合った瞬間。彼女は少し涙ぐんだ後、俺の胸に飛び込んできた。突然抱きつかれたので俺の体はそのまま床に尻餅をつく。

 痛みを感じることも忘れるぐらい俺は彼女の行動に驚いていた。あれだけ酷いことを言ったのだから怒っていても仕方がないと思っていたのにまさか抱きついてくるなんて。


 タトリ


 その時、誰かが隣の部屋から出てきた。俺はこの時一瞬不注意になっていた。リーシャに会って安心して抱きつかれて少しホッとして。いくつかの要因が積み重なって敵地の真ん中で座り込んでいるというこの現状に対して危機感を持てていなかった。

 その危機感は何者かがこの状況に現れたことをきっかけとして再び俺にまとわりついた。この状況であるから敵であるのは間違いない。だがなぜさっきリーシャが扉を開いたタイミングではなく今なんだ?。異常に気づいてそれを確認するために出てきたのだとすればタイミングが不自然だ。

 べっとりと張り付くようなその違和感は数秒後。実際の形を成して俺に降りかかった。



 振り向くとそこには黒いずきんを着た一人の人間が立っていた。その声はひどくしわがれていて体は小さい。老婆だ。

 彼女が今通ってきたはずのドアは先ほどと変わらず閉ざされている。

 開く音も閉じる音も両方聞こえなかった。リーシャのことに気を取られていたとしても、いくらなんでも気づくはずだ。

 あまりにも不自然。何かの魔法か?


「体に染み込んだ霊力が体内で結晶化し固められたそれが宿主の人格と接触することで精霊を生み出す」

「何を言って」

「"精霊の傷"はへその緒。精霊との繋がり。それはその内に特別な力を宿している何よりもの証拠。そしてその力がいかなるものであるかは精霊を”産んで”見なければわからない。さあおいで”リーシャ”。」


 すっ。

 その呼びかけを聞いてリーシャは立ち上がる。


「リーシャ?」

「・・・」


 呼びかけても返事がない

 目から光が消えて虚な視線を彷徨わせている。まるで意思のない人形のような瞳。


「さあおいで」

「待てリーシャ」

「邪魔するんじゃないよ”ポート”」

「っぁ!?」


 老婆の問いかけを受けた瞬間。

 頭の中にぼんやりとしたモヤがかかる。胸の奥まで染み渡るきみの悪い感覚を何かの言葉で形容しようとするがその思いが形をとることはなく。言葉は作るそばから壊れていく。何も考えられない。


「そこにお立ち」

「・・・・・」

「フッ、さあ精霊よお目覚め」


 老婆がリーシャの胸の辺りに手をかざした。

 ピュウア

 何かが擦れるような音が鳴ったあと服の上に魔法陣が浮かび上がる。

 最初は円の形だった魔法陣は次第に幾つかの破片になりその中心の真っ白な光の周りを等間隔に囲んだ。

 老婆がゆっくりと手をその光の渦の中へと差し込む。


「キャアアアアアアアア」


 響くのはリーシャの絶叫。

 動かなければ。

 言葉ではなく感覚ではっきりとそう自覚する。するともやが晴れて体が動いた。


「なっ」

 ドッ


 老婆の顔に右ストレートをかけるる。

 相手の方はそれを予想していなかったようで見事に飛ばされて床に体を打ちつけた。

老人相手に少し酷い仕打ちだが躊躇いは生まれなかった。


「リーシャ、、しっかりしろ」

「・・・・・」


 肩を揺さぶってみても応答はない。


「無駄じゃ、無駄じゃその女には特に強くかけたからな」

「お前、何を・・・」

「リュー、、、出番じゃ」

「はいはい。おばあさま」


 ドアから人の顔が出てきた。

 2mはあろうかというヒョロリとした青年で彼にとっては小さいドアを身を屈めて通り抜けた。

 ・・・ドアは開いていない。

 彼はドアを透過してその部屋から出てきた。


 また、魔法使い。

 能力の詳細はわからないが少なくとも物を透過して通り抜けることができるもの。

 リーシャが動けない以上逃げるという選択肢は取れない。

 リーシャを守る。戦って守る。

 それしか見える道はない。


「”リーシャ”こっちにおいで」

「・・・・・はい」

「リーシャ!」

「!!!」


 先ほどのように老婆の呼びかけに応じるリーシャを無理やり引っ張っるがその力は異常に強く掴んだこちらの方が逆に引き込まれそうになる。

 魔法による操作がリーシャの身体能力を普段以上に高めているのか元からリーシャの身体能力がこれほど高かったのかはわからないがどちらにしろリーシャの動きを止める必要があった。

 だから俺は右腕を構えた。力は強いがそれでも動き自体は緩慢で狙いを定めるのに障害はない。ガッと腕を振り下ろしてリーシャのうなじに手刀を入れた。

 グラリと一瞬体が揺れてリーシャの体から力が抜けた。支える力をなくして無力に倒れ込んだ彼女の体を宙で抱えて一歩後ろに飛び下がった。


「おー、意外とやるなぁ」


 リューと呼ばれた男は目の前に倒れている黒服の姿を見て感心したように呟いた。その言葉の外には咄嗟の機転を働かせて老婆の魔法の攻略方法を探し当てたポートへの賞賛が含まれていた。



「でも、ダメだ僕には勝てない」

「うるせえよ」


 その場。中腰から一気に跳躍して天井を一蹴り男の後ろに回り込む。

 長い髪も幸いしてか一瞬だけ反応が遅れた男の隙を突くように剣の切先をやつの心臓目掛けて突き立てる。


 だが、当たらない。俺が外したわけではない。剣か、もしくは奴が透過したのだ。

 振り向いたやつはブワンと右腕で半円を描いてその右の手のひらを俺の差し出した剣に触れさせたのだ。

 すると剣はやつの腕をすり抜け胸をすり抜け最後にはもう片方の腕もすり抜けてそのまま宙を切ってしまった。


ガッ


 やつの長い腕が俺の頭を鷲掴みにして持ち上げる。地面から足が離れて完全に空中でブランコの状態にに陥った。

 ヒョロリとした見た目に反して男の手の力は異常に強く思わずくっという呻き声が漏れる。


「ャアアアアアアアア」


 その時男の後ろから叫び声が上がった。

 事態をなんとなく察して男の肩越しに目をやると老婆が先ほどと同じようにリーシャの腹の魔法陣に手を突っ込んでいた。


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