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イタチの短編小説

異世界心中

作者: 板近 代

「睡眠薬が嫌い」


 だって、動きづらくなって、頭が()()()()()していく中で悪夢に備えなければならないから。


「睡眠薬は大嫌い」


 だって、眠りにつくときのパターンがいつも似たり寄ったりになってしまうから。


「睡眠薬を愛してる」


 だってさ、これがなきゃ眠れないでしょう私。


「それで君は、恋人の酒に睡眠薬を混ぜたわけだね。圧縮術式をかけて大量に。彼が、永遠に目覚めないことを願って。ねぇ、どうしてそんなことをしたんだい?」

「愛憎入り混じった時に、はじめて真実の愛になるのよ」

「愛、だけでいいと思うけどね」


 拝啓、大嫌いなお父さまお母さま。私はどうやら、事件を起こしてしまったようです。


「ねぇ、あなた(やま)さん……だったかしら。さっきから同じことばかりたずねてしまって申し訳ないのだけれど、私は逮捕されたのかしら?」

「うん。そのような感じで概ね間違いはない。君がぐっすり眠っているときに連れてきてしまって申し訳なかったね」

「別にかまわないわよ、起きてたら抵抗しなきゃいけないしめんどうじゃないの。それで、なんで私は逮捕されたのかしら?」


 一応これでも、ご令嬢様ですからね。警察如きが私に物申している理由、ちゃんと説明していただかないと。


「君は、恋人と無理心中しようとしただろう」

「しようとしたということは、あの人は生きているということね」


 しまった…………という顔をした()()()。なんだか、ちょっとだけ可愛いく見える。


「君は今、生きているならもう一度心中できる……と考えているね?」

「そうね。私が生きていれば何度でも心中できるわ。相手もよりどりみどりだし」

「なるほど。たしかに君には複数の交際相手がいた」

「さすが警部! よく調べていらっしゃる」

「僕は警部ではないよ」

「なら、刑事さん? ねぇ、そのあたりの違いよくわかんないんだけど」


 そして、どうでもいいことでもある。


「まあ、君がそう思うなら刑事でかまわない。話を進めることのほうが大切だからね」

「そう。私の罪は無理心中罪(むりしんじゅうざい)かしら?」

「残念ながら、君はもう心中できないよ」


 あら? 独房にでも入れられちゃうのかしら?


「看守に鍵を開けさせるわ。それとも、スイートな監獄でスローライフがよいかしら」


 悪辣さが売りのこの私。そのくらいの権力は、ありますからね。


「いいや、それも無理だ」


 ん? まさか国王様がお怒りってこと? ありえない。だって、この私ですよ?


「えっと。()()()さん。あなた刑事ではなく、魔王軍の人でしょう。刑事のふりして私を騙そうと――」

「まあ、単刀直入に言おう。君はもう死んだんだ」

「へぇ、そう。そういうことなのね」


 ああ、気づいていなかった。今の私、足がないのね。


「驚かないのかい」

「まあ、驚いても仕方ないというか、なるほどって感じというか。ほら、私、心中しようとしてたわけですし」

「驚いてほしかったなぁ」


 そんなおちょくり方されると、ちょっと意地になっちゃうわ。


「さて、さっさと転生させてちょうだい。あなたとの会話はつまらない」


 転生して、心中成功させてやるってね。


「だめだ」

「今の世界がだめなら、()()どこか異世界に飛ばしてくれてもいいわよ。知ってる? 私、別の世界に飛ばされるのはじめてじゃないの」


 どこでもいいわよ。貴族に警察に魔法、さらに漢字、さらにさらに錠剤タイプの睡眠薬まである世界観にも対応できた私ですし。


「もちろん。君に能力(チート)を付与したのは僕の姉だからね」

「それはそれは。お姉さんにお礼お伝えくださいまし」


 よく見たら、前回の神様と顔似てるわ。


「どれだけお礼を言っても、転生はできないよ。君は、大罪を犯したからね」

「へぇ。今回の世界では無理心中って大変な罪なのね。先に教えてほしかったわ。前も、その前も心中だったわけだしさ」


 クソ姉にクソ弟あり……か。


「無理心中に罪はないよ」


 無理心中がNO罪? ああもうなんか、むちゃくちゃですよこの人。私、心中失敗したせいでギャグ時空にとばされちゃったのかな……。


「無理心中に罪はないって、それはさすがに相手がかわいそうでしょう」


 ほら! 私がまともなこと言っちゃったじゃん!


「かわいそうだけど、罪は感情論ではないからね」


 無理! この人超めんどくさい! めんどくさすぎてもう秒で転生したい!


「私、無理心中未遂以外に罪らしいことしてないですけど。あ、もしかして魔術学院時代に、夜美(やみ)ちゃんの彼がどういうわけか私に乗り換えてしまった罪かしら? それともなぜか私に貢いで破産したお方が何名かいらっしゃることかしら? それとも……」

「もういいですから、最後のやつだけ言ってください」

「なぜか、妻も子もある国王が私の意のままになってしまった罪かしら? まあ、ある意味罪作りな女ではあるけれど、相手にも責任はあるし大罪ではないでしょう?」

「得意げにいろいろと語ってもらったうえで申し訳ないのだが、君の罪は、心中関連ではあるんだよね。君の認識がズレているせいで、よくわからない話になっちゃってるけど」


 うわあ、今の言い方めっちゃムカつくわ。こいつ、私のこと煽ってんだろ。まぁ、私も煽ってるけど……。


「そろそろ教えてくれるかしら?」


 もう、考えるのめんどくさくなっちゃった。ずっとイージーモードだったから、こらえ性がどっか行っちゃってるのよね私。


「いいだろう。ほら、君は無理心中を試みて失敗しただろう。それって、すごくよくないことなんだ」


 ん? 


「ん?」

「無理心中、失敗しただろう」


 ん? 


「ん?」

「無理心中、失敗しただろう」


 ん? 


「ん?」

「だから、無理心中、失敗しただろう」


 ん?


「ん?」

「君風に言うなら、無理心中失敗罪ということだ」


 ん? は? え? そんなのってある?


「えっと……もし、心中に成功してたら?」

「転生できたよ。罪じゃないからね」

「つまり、相方が死んでないから、一人で自殺したって判定になってアウトってこと?」 

「違う」

「だよね? 誰か巻き込むほうが罪重いよね? あ、まさか後遺症やばいとか?」


 普通に四回死ねるくらいの量は飲ませたもんなぁ……。


「いや、ぴんぴんしてる。君が死んだことで、精神的にも余裕ができて健やかな日々を送っているよ。ちょうど昨日、ずっと好きだった人に告白して返事待ちをしているところだね。そう! さっき君が言っていた、夜美さんに告白したんだよ。ちなみに、昏睡した彼を回復したのも夜美さんだ。素晴らしい術式だったよ、彼女は天才だね!」


 いや、そこまで詳細な情報は求めてないんですけど。


「無理心中の失敗がよくないことだなんて、わけわかんないんですけど」

「落ち着いて考えてみてほしい。人間の世界の常識と、地獄の常識が同じなわけないだろう」


 ああ、そう。私は地獄に落ちたのね…………なんか納得。


「これから私は地獄の住人ってわけね」

「君の適応力の高さには、毎度驚かされるよ」


 うん、まあ、納得しました。よくわかんないけど納得したってことでオッケーです! そんなことより気になることがあるんだよね。


「ねぇ。あんた、弟であり姉でしょ」


 どうもこの弟さん、はじめて会った気がしなくてね。


「よくわかりましたね。私は姉であり弟であり兄であり妹であり母であり……」


 やっぱり…………。


「あーもういいから。最後のやつだけ言って」

「神であり悪魔です。あなたごときでは、超えられませんよ」


 はいはい。今回はそういう感じで行くんですね。で、地獄での生活ってどんな感じ?

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