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「は?呪いにかかったって...お前が?」


 やっとのことで話し始めた柳さんは、熾条さんが言ったことが信じられないと言った様子で上ずった声を出した。対して、僕はまだ言葉が出てこない。


「そうだけど?」


「そうだけどって...なんでそんなことになってるんだ!」


「なんでって言われても、なっちゃったものはしょうがないじゃん」


 柳さんとは対照的に、熾条さんは肩をすくめながら普段と変わらずのんびりと受け答えをするせいで、柳さんは頭を抱えて固まってしまった。しかし、一つ深呼吸をしたかと思うと、すぐさま顔を上げて冷静に話し出す。


「解けるのか?」


「もっちろん。でも、そのためには夕君が必要ってわけ」


 呪いを解く為には僕が必要だと言う熾条さんの言葉を受けて、柳さんはまたも考え込むように押し黙ってしまった。



「......熾条さん」


 柳さんが黙ったことで、やっと声が出せた僕は、熾条さんの名前を呼ぶだけで何を言えばいいか分からなかった。


 僕のせいで、また人が死ぬ?しかも熾条さんが?嫌なイメージが次々と頭に浮かび上がる。


「黙っててごめんね。でも、今言った通り私にかけられた呪いも解くことはできるから」


 そんな心を見透かしたように、熾条さんは笑って見せた。


「手伝ってくれるかい?」


「それは、もちろんです!僕にできることだったらなんでも!」


「あははっ、いい返事だね。期待しちゃうよ?」


 笑いながらおどけた話し方をする熾条さんは、改めて柳さんに向き直る。


「てことだからさ、わんちゃんには悪いけど、夕君を連れていくのはちょっと待ってくれない?」


 面と向かって言い直され、黙っていた柳さんも口を開く。


「...分かった。少し待つ。ただし!二日だけだ。それ以上は待てないし、二日たった時点でそれは強制的に回収させてもらう」


「わんちゃんありがとー!」


「おいこら!抱きつくな!離せ!」


 腰に両手を回して抱き締める熾条さんの頭を、彼女より少し背の高い柳さんが押さえつける。


「まったく、もう今日は帰る!くれぐれもそれの呪いは解くなよ!」


 やっとのことで熾条さんを引き剥がした柳さんは、頬を膨らませながら捨て台詞のように忠告だけしてさっさと教室から出て行ってしまった。


「あらら、もう帰っちゃった。もうちょっとゆっくりしていってもよかったのに」


「熾条さん。すいません」


「ん?なにが?」


 柳さんが出て行った教室の入り口を見つめながら肩を落とす熾条さんに謝罪の言葉を口にすると、なんのことだと言わんばかりに首を傾げられた。


「僕のせいで熾条さんまで呪いにかけてしまって」


「ああ、そんなのぜーんぜん気にしてないから大丈夫だよ。この仕事やってればよくあることだしね」


「それで、熾条さんの呪いを解くために僕は何をすればいいんですか?」


「それなんだけど、夕君にしてもらうことって特にないんだよね」


「え?」


 まさかのいらない子宣言に、開いた口が塞がらない。でもなんで熾条さんはそんな嘘をついたのか分からないでいると、それに応えるように熾条さんが説明し始めてくれた。


「あの場でああ言っておかないと、夕君がわんちゃんに連れて行かれちゃうところだったからね。そうなると夕君の呪いが解けなくなっちゃうからね」


「なるほど。でも、なんで連れて行かれたら駄目だったんですか?」


「そうだねー。たとえばだけど、夕君は誰にもバレずに人を殺せる兵器が手に入るとしたらどうする?」


 つい気になったので思うまま熾条さんに質問を投げかけてみると、突拍子もない例え話が返ってきたので困惑したが、少し考えてから答える。


「...そんな物騒なものは欲しいと思わないですけど、そんなのがあったら欲しい人は欲しがるでしょうね」


 そこまで話して、熾条さんが何を言っているのか理解した。


「その兵器が...僕、ってことですか?」


「ご名答ー。と言っても夕君にかかってる呪いはそんな単純な物じゃないんだけどねー。あの人たちにとっては、その可能性があるだけでなんとしても手に入れたくなるってわけ」


「それじゃあ、もし、あのまま連れて行かれてたら...」


「どうなってたかな?人体実験とかされちゃってたかもね」


 随分と物騒な話をしているのに、熾条さんの声色は昨日初めて会った時から少しも変わらない。


「ま、私としても望まずそんなことになった人が無理矢理連れていかれるのを見て見ぬふりはできないからね」


 僕の知らないところでどんどん話が大きくなっていっている気がする。まるで現実味を帯びてこない話に、僕の頭の中はぐちゃぐちゃになって思考がうまくまとまらない。


「大丈夫大丈夫!こんな問題サクッと解決して、呪いも解いて、すぐにいつもの日常に戻れるからさ」


 熾条さんは僕の背中を叩きながら歯を見せて笑った。ちょうどその時、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。


「今日はこんなところにしておこうか。私も準備するものがあるから、また明日の昼休みに呪いを解くとしよう」


 熾条さんはそう言うと足早に教室から出ていってしまった。


 何も言われなかった。と言うより聞けなかった。


(自分にできることって何かないですか?)

 

 その一言すらも言う間がなかった訳ではない。きっと聞いても意味は無い。昨日と同じように誰とも話さず大人しくしていろと言われるだけだろう。


 僕にできることはない。人が二人も死んでいる。自分のせいで...。


 誰もいなくなった教室に、どうしようもない無力感を感じる僕だけが取り残されていた。


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