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 教室に再び沈黙が流れる。しかし、それは僕がこの部屋に来た時のものとは違う緊張が重く張り詰めたような沈黙だった。


「なんで僕が事件に関わっていると思うんですか?」


「否定はしないんだね?」


「......僕は殺してませんよ」


「いやいや、私は何も君が殺したとは言ってないよ。ただ、思い当たるような節はあるってことでしょう?」


「なんでそう思うんですか?」


「夕君を見れば、すぐ分かるよ。君が呪われているような状態だって事がね。それこそ私が超常現象専門家であるからとしか言えないけど...」


 肝心なところははぐらかされてしまったような気がするが、この人は本当に何者なのだろう?さっきまでは、ただふざけているだけの不審者にしか思えなかったのに、今は何もかも見透かされているように感じる。



 熾条さんの言う通り、僕はこの学校で起こった殺人事件について思う節がある。絶対に僕は殺していないし、殺そうなんてことも思ってもいないと言い切れる。ただ、殺された二人と僕には少しだけの接点があったのだ。


「ところで夕君。君は殺された二人の遺体がどうなってたか知ってる?」


 僕がふと過去のことを思い出していると熾条さんが尋ねてきた。


「いえ、変死体ってことぐらいしか知らないです。ただ、噂ではバラバラにされてたとか、滅多刺しにされてたとか色々...」


 一件目の中嶋 美緒の事件が起きた頃は、まだ面白半分に流された多種多様な噂が学校中で囁かれていたが、すぐさま二件目の事件が起こったことで、それらの声は恐怖や疑念の混ざった声に変わり、噂の内容も過激で残忍なものに変化していった。


「残念だけどどれもハズレ。彼らの遺体はどれも亡くなる前と変わらず綺麗なものだったよ。体の中も外も健康そのもの、()()()()()()()()


「その一点って?」


()()()だったんだよ。髪も肌も内臓も血も何もかも全てが色を失ったように白くなっていた」


「白くって…なんで」


「魂を抜かれたんだろうね。人間は魂を抜かれると色を失うから」


「魂...ですか」


 今まで耳にしたどんな噂より荒唐無稽でありえない話に僕は言葉を失う。かといって熾条さんが嘘をついているとも思えなかった。そんな説得力が彼女にはあった。


「さて、今度は私が質問してもいいかな?」


 動揺を隠せないでいるところに落ち着いた声で熾条さんが話しかけてきて、ふと我に帰る。


「夕君自身が、今回の事件について関わっているかも知れないと思う理由を教えてくれるかな?」


 そうだ。僕は彼らの死に関わりを持っているのかもしれない。信じたくなかった。信じたくはなかったけれど、どこか心の奥に影を落としていた。誰かに話せば馬鹿にされるような些細なことだけれど。


 この人になら話してもいいのかもしれない。


 

 

 少し長い沈黙が流れた。その間、熾条さんは何も言わず僕が口を開くのをじっと待っていてくれた。


「馬鹿みたいな話かもしれないですけど、聞いてくれますか?」


「もちろん。馬鹿みたいな話こそ専門分野だよ」


 熾条さんは僕の前置きに、にこりと笑って先を促す。


「殺された二人とは、友人でもないですし話したこともほとんどありませんでした。ただ...その二人とは全員死ぬ三日前に話をしているんです」



 それだけ言い切ると再び沈黙が流れた。


「あれ、終わり?」


 まだ続きがあると思っていたらしい熾条さんは、まばたきして首を傾げた。


「終わりです。やっぱり馬鹿な話でしたよね。ただ話しただけなのに...」


「いや、ただ話しただけじゃなかったはずだよ。それなら私も三日後には死んじゃうことになるからね」


 熾条さんにそう言われてはっとした。あまりに色々な事が起こり過ぎたせいかすっかり忘れていた。今まで学校では誰とも話さないようにしていたのに。


「僕...違うんです!熾条さんに何かしようなんて!」


 取り乱す僕を落ち着かせる為か、熾条さんは僕に一歩近付いて、そっと手を握り締めてくれた。


「分かってるよ。それに言ったでしょ?話しただけでその人が死ぬんじゃ私も死ぬし、もっと大勢の人が死ぬはずだ。きっと、もっと何かあったはずなんだよ。それを今から思い出してみよう?」


 僕の目を真っ直ぐと見ながら優しく話す熾条さんのおかげで落ち着きを取り戻した僕は、二人と話した日のことを思い出していく。


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