お袋
えまとシャドウと雄一はさっそく外に出て、じゃんけんで鬼を決めた。「負けた人が鬼ね!」雄一が元気よく、「最初はグ、じゃんけん、ポン」といった。「あー、私、負けちゃった!じゃあ、一〇秒数えるから、逃げてー!」えまがそう言うと雄一とシャドウは勢いよくかけて言った。「九、十!」えまは数え終わると
「まだ、シャドウ、あんなところにいる!まずは、シャドウからよ!」
えまは、シャドウめがけて走っていった。しかし、シャドウは、その場から動こうとはしない。
「かっかて来ていいよ!」シャドウは笑みを浮かべた。「もう、油断しないで!」えまがタッチしようとした瞬間だった。
「えい!」
えまがタッチするのと同時に、シャドウは、一つ先の通路へと移動していた。
「へへーん!俺は一生つかまんないぞ!」
シャドウは腰に手を当てた。えまは、シャドウが瞬間移動を使ったのを察し、
「大人げない!」と怒った。
「もう、絶対捕まえて見せるんだから!」えまは、次に雄一を狙って走っていった。「あー、やばい捕まるー」雄一は色んな所へ逃げ回った。雄一は、かなり足が速かったため、一向に捕まる気配がない。「二人とも、勘弁してー!」えまは、へとへとになりながら走り続けた。
ふう、とえまは、椅子に腰かけた。雄一と鬼ごっこが終わった時には、もう日が暮れていた。
「えま姉ちゃん、葵兄ちゃん、まだ遊ぼうよ。」雄一は、まだ元気だ。
「雄一と遊んでくれてありがとうね。」奥さんは、冷たい麦茶を用意してくれた。
「もしよければ、今日、うちに泊まっていったら。今から、東京へ帰るのは大変でしょうし。」
奥さんも、椅子に腰かけた。
「やった。もっと遊べる!」雄一は喜んだ。
「いや、悪すぎます。」
えまは首をぶんぶんと振った。
「遠慮しないで。雄一も嬉しそうだし。」
シャドウは「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします。よーし、まだまだ遊ぶぞ!」
シャドウは疲れた素振りも見せない。
「じゃあ次は、かくれんぼね!」雄一も乗り気だ。
「私、少し休憩するから、葵兄ちゃんと遊んでおいで。」
えまには、体力の限界がきていた。シャドウと雄一がいなくなると、
「仁さん、怒ってますか?」えまは、心配して聞いた。
「怒ってるよりも、何か考え事をしているみたいな感じかしら。雄一が寝ている時に、もう一度、その話をしてみましょう。さっきと考え方が変わったのかもしれないし。」
「分かりました。いろいろありがとうございます。」えまは、親身になってくれる奥さんには感謝しかなかった。
夜になり、夕ご飯を仁さん一家と食べていた。仁さんは一言もしゃべらない。
「このエビフライ美味しい!あとこのコロッケも・・」
シャドウは、相変わらず空気を読まずに喋り続ける。
「それは良かったわ。」
奥さんも、そんなシャドウを嬉しそうに見ている。えまは、まあいっかと、ため息をつき、奥さんが作ってくれたご飯を、美味しそうにたい上げた。
「葵兄ちゃん、えま姉ちゃん、次は戦隊ごっこで遊ぼ!」雄一は椅子からおりて、変身ベルトを持ってきた。「ダメ駄目、子供は早く寝なきゃ。」
えー、と納得のいかない顔で、雄一は寝室に連れてかれた。
「ごめんね」
奥さんが戻ってくると、さてと奥さんは仁さんに意気込んだ。
「本当に、お母様に会わなくていいの?」心配そうに奥さんは投げかけた。
「さっき、ちょっと考えてみたんだよ。でもミュージシャンになれなかった俺に、お袋に合わせる顔ない。」
少しシャドウは考えた後、
「仁さん、俺も母が女手一つで育ててくれたんです。けれど、俺の母は、病気で若くして死んでしまいました。今では、もっと親孝行しとけばよかったと悔やんでます。でも仁さんは、まだ間にあう。」
えまは、はっとしてシャドウを見た。
「君も、大変だったんだね。」
仁さんは、少し考える素振りを見せた。
「あなた、実はね。さっき、押し入れの中から、こんなものを見つけたの。」
奥さんは、戸棚から、一冊の手帳を出してきた。「これって・・」仁さんは、目を丸くした。「あなたの、母子手帳よ。」奥さんは一ページを開いた。
「ここ見て。」それには、仁さんがおなかの中にいる時のエコーの写真が何枚も重なって貼ってあった。そのエコーの写真の下の余白に、
「赤ちゃんの顔だよ。」
「赤ちゃん可愛い。早く会いたいな」など、全ての写真にコメントが記されていた。
「これ、お袋の字・・。」仁さんは、小さくつぶやいた。
「ねえ、あなた、こんなことしてくれているお母さんが、あなたの事を理解していないことは絶対ないと思うの。あなたはずっと、お母様に愛されているのよ。」
奥さんは、涙声で言った。
「・・分かった。明日にでも、お袋にみんなで会いに行こう。」仁さんは、強く覚悟を決めた。
「ごめんね。部屋が一つしかないから、相部屋になっちゃうけど。」
奥さんは、シャドウとえまに布団が二つひいてある部屋に案内した。
「俺は別に相部屋でいいけど、えまは?」
「わ、わたし?別にいいよ。泊まらせてもらっているに文句言えないもん。」
「じゃあ、ゆっくり、休んでね。」そう言い奥さんは、家事へと戻った。寝る支度をして、お布団の中に身を包んだ。
「はあ、疲れた。」えまは、ぼそっと嘆いた。
「そんなに疲れた?俺、別に寝なくてもいいんだけど。」
「あなたは、幽霊、私は、人間!」
えまは、怖い顔をした。
「そんなに怒らなくてもいいじゃん。」
シャドウはまあまあとえまをなだめた。二人はれる準備をしてお布団に入った。
「なんか違う。」
えまは起き上がって二つくっついている布団を自分の分を引き離し遠ざけた。
「え?えま何してるの?」
シャドウがそう言うと
「一応幽霊でも、あなた男の子でしょ?私、男の子と寝るのは無理。」
えまはそう言って布団に入った。
「えー。」
シャドウは不満そうな顔をして渋々お布団の中に入った。
「ねえ、シャドウ、さっきのお母さんの話、本当なの?」
「・・本当だよ。」
シャドウは、布団に顔半分を中に入れた。えまは、今までずっと言おうか迷っていたことがあった。それは、どうしてシャドウは死んでしまったのか?ということ。えまは少しためらって
「ねえ、少し聞きたいことがあるの」
えまは、布団から体を起こした。
「何?あらたまっちゃって」シャドウは、えまを見つめた。
「あのさ・・何でもない。」えまはシャドウに背を向けて横になった。
「なんだよ、気になって眠れないじゃん。」シャドウは冗談交じりに言った。