次の任務
キーンコーンカーンコーン。えまのクラスは、歴史の授業だった。
えまは、真面目に受けていると、「よっ!」目の前にシャドウが現れた。
えまは、驚いた表情を見せると、ノートの端っこに、
「なんでシャドウがいるのよ。」
と書いた。シャドウは、授業中にも関係なく、普通の声で
「新しい仕事だよ。」「えっ、こんなに度々あるの?」
そう小声でえまは呟いた。
「今度はね、えまとは関係ない人。一般のおばあさんだ。」
えまは、
「知らないおばあさんの最期の手伝いを私がするの?」
とノートにすらすらと書いた。
「心配しないで。俺の力で、えまとおばあちゃんを引き合わせてあげるから。大丈夫。今回は俺もいる。学校が終わったらここに来て。ほら、授業ちゃんと受けなきゃ。」
そう言い、えまに紙を渡した。
「シャドウが話しかけてきたんでしょ」えまはプンプンしながら呟いた。
「えま。来たね。」放課後、シャドウに言われた通りに、駄菓子屋さんの前まで来た。シャドウは前と同様、影山葵の姿になっていた。
「ねえ、そういえば、どうして影山葵のことみんなきれいさっぱり忘れちゃったの?」
「そういう能力もあるんだよ。都合よく相手の記憶からいなくなることもできる。結構使い勝手がいいんだよね、これ。」
「へえ。」えまは純粋に感心した。
「次の依頼は、この駄菓子屋さんの店主、宮崎ひとみ、80歳。彼女は、三日後に持病で死ぬことになっている。じゃあ、行ってみようか。」
えまとシャドウは駄菓子屋さんへと入っていった。
「わー、このお菓子懐かしい!昔よく食べてたっけ。」
駄菓子屋さんへ入ると二人は仕事のことを忘れたかのようにはしゃいだ。
「これ、美味しそう。えま、買ってよ、俺、お金持ってない。」
シャドウはぺろぺろキャンディーをえまに差し出した。
「もー、しょうがないな。一つだけよ。」えまは、シャドウの手のひらに五十円をポンっと渡した。
「じゃあ、あとはね。」シャドウは手いっぱいに駄菓子を持ってきた。
「もう!一個までよ。」
えまは手でバッテンをした。すると
「ふふふ。」
奥から嬉しそうな声が聞こえてきた。えまとシャドウが振り向くと、そこには、おばあさんが一人出てきた。「いらっしゃい」「こんにちは。」二人は我に返って、挨拶をした。
「お二人さん、もしかしてカップルかい?」
おばあさんは、からかうように微笑んだ。
「違います!」えまは、必死に首を振って否定した。
「そうかい、そうかい。お名前は何というんだい?」
「私は、本郷えまです。こっちはシャ、いや影山葵くんです。」
「えまちゃんと葵くんか。いい名前だね。」おばあさんはにこりとした。
「おばあさん、突然なんだけれど、もし三日後に亡くなるとしたら、何したい?」
シャドウは、ドストレートにそう言った。
「いきなり失礼でしょう!」えまは、慌てて、変な質問してごめんなさいと謝った。
「いいんだよ。最期にやりたいことは、息子に会いたいな。喧嘩をしたっきり、今何をしているのか分からないのよ。」
シャドウはノートとペンを取り出して
「息子に会いたい」と書いた。
「もし、会えたとしたら、あの時はごめんなさいと謝りたいね。」
「分かった。俺、その息子さん、探してくるよ。」シャドウはポケットにノートとペンをしまった。
「ウフフ。ありがとう。死ぬ前に会えるなんて、今は思ってもいないわよ。天国へ行ってから、会えたら私は幸せだわ。」
「私も、探してきます。」そう言い残して、えまとシャドウは勢いよく駄菓子屋さんを出ていった。
「え?もう行くのかい?」おばあさんは少し混乱したようだった。
「で、シャドウ、どうやって息子さん探すの?あっ息子さんの名前聞いてくるの忘れた!」
えまはハッとした。シャドウはポケットから一冊の本を取り出し、
「大丈夫、おばあさんのことは、この本に全部書いてあるから。」と自慢げに言った。
「この本には、その人の人生や家系が書いてあるんだ。息子さんの名前は・・・あった!何々、宮崎仁。48歳、今は茨木県に住んでいるらしい。」
「じゃあ、さっそく電車で行ってみよう!」えまは、そう言い駅の方向に向かって歩き出そうとした。
「電車?ああ、まだ説明してなかったね。俺は、こんな時のために、瞬間移動できるんだ。えま、俺の手を握って。」シャドウはえまに手を差し伸べた。
「瞬間移動?」
「そうだよ。ほら。」シャドウがえまの手を握ろうとするとえまは手を引っ込めた。
「どうしたの?」シャドウは首をかしげた。
「無理無理無理!」えまはシャドウと距離を置いた。
「どうして?」シャドウはえまに近づいた。
「これ以上近づかないで!」えまは手を前にした。
「私、男の子となんて手をつないだことないもん。初彼氏と私はそういうことするって決めてるの!」えまは手で顔を覆った。
「そういうことか。」シャドウは苦笑いした。
「大丈夫だよ。えまは俺の助手。助手の仕事の一部だって思えばいいんじゃない?」シャドウは提案した。
「仕事の一部・・。」えまは少し考えた後「分かった。」そう少し納得した。
「俺は嫌じゃないけどな・・。」シャドウは小声でそう言った。「なに?何か言った?」えまはシャドウの隣に立った。「いや、何も?」シャドウは少し照れたように言った。
そして、えまは、言われた通りシャドウの手を握った。
「行くよ」
シャドウが合図したとともにえまは、目をつぶった。そして、目を開けると、田んぼが広がって、家がまだらに立っていた。
「到着!」
シャドウはあたりをきょろきょろしながら、「一応、仁さんは、自営業で電気屋の店で働いているみたい。」と本を見た。「じゃあ、そこの店に行ってみよう。」えまとシャドウは電気屋を目指して歩いて行った。