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私のシャドウ  作者: あご
16/17

最期の時間

工藤ゆきが亡くなる当日。

えまとシャドウは工藤ゆきに言われたように屋上に来た。


「二人とも、こっち!」

工藤ゆきは、えまとシャドウを招き入れた。


「はい、これ二人にお礼!昨日試行錯誤して焼いてみたんだ。」


工藤ゆきは包装されたクッキーを二人に渡した。


「私ね、二人に、ずっとお礼がしたかったの。私にはこんなことしか出来ないんだけど。二人とも本当にありがとう!」


工藤ゆきは笑顔でそう言った。

シャドウとえまはそんな工藤ゆきとは反対に浮かない顔で黙り込んでしまった。


「どうしたの?二人とも?」


工藤ゆきはそんな二人を心配そうなそうな顔で問いかけた。


「俺たちさ、ゆきちゃんに言わなくちゃいけないことがあるんだ。」


シャドウは顔を上げて工藤ゆきに言った。


「何?」工藤ゆきはえまとシャドウの目の前に立った。

シャドウはビー玉を取り出し胸にあてた。するといつもの黒い影の状態になった。


「この姿、覚えない?」


シャドウは工藤ゆきに投げかけた。


「この前の黒い影・・なんで?」工藤ゆきの表情が一変した。


「ごめんね、俺は、死ぬ間際の人に幸せな時間を過ごしてもらうためにサポートする幽霊なんだ。そして、えまはその助手。」


えまは、顔を手でおおった。


「え、待ってよ、私、死ぬの?」


「うん、今日。」えまは泣きながら口を開いた。


工藤ゆきはしばらく黙った後に


「今までも、全部嘘だったの?私に近づいてきたのも仕事のため?」


工藤ゆきの目には涙で溢れていた。


「最初はね、そうだったのかもしれない。でも、今は違う!生きていてほしいって私は思ってる。」


えまは心から思っていることを必死に伝えた。


「でも、定めには逆らえないんだ。どんなにあがいたって。」シャドウは時計を取り出した。


「ほら、もうすぐ時間だ。」


シャドウがそう言うと、


「なんで?いや、死にたくない!助けて!」工藤ゆきの体が勝手に動き出した。

そして屋上のフェンスをゆっくりとまたいで、一歩歩いたら落ちそうなところに立った。


チクタク。


シャドウの持っている時計が間もなく12を指す。カチカチ、カチ。工藤ゆきの体は空中へと投げ出された。


「ゆきちゃん!」えまは叫びながら目をつむった。

 




目を開けるとシャドウの姿はなかった。しばらくするとシャドウは工藤ゆきの体を持ち上げて、えまがいるところへ立った。

工藤ゆきはその場に崩れ落ちた。えまはすかさず工藤ゆきの所へ駆け寄って工藤ゆきを抱きしめた。


「ごめん、ごめんね。」


えまはシャドウの方に目をやるとシャドウはずっと二人を見ていた。


「俺も、えまと同じ気持ちだったよ。生きたいと思っている人間が死んで、いいことなんてない。」


シャドウは工藤ゆきに向けて言った。工藤ゆきは、シャドウに目をやり、


「さっきは感情的になってしまってごめんなさい。えまちゃんも、葵くんも、いい人ってわかってる。私を助けてくれてありがとう。」


そう言った。


キーンコーンカーンコーン。屋上にチャイムが鳴り響いた。すると


「シャドウ、いや花村葵。お前は、シャドウの仕事の掟を破ったため契約通り地獄に行くこととする。」


天から声がした。するとえまとシャドウは光に包まれた。


目を開けると、そこは雲の上であった。そしてシャドウの目の前に、年を取った男の人二人が立っている。


「親父、閻魔様。」


シャドウは二人の目の前へ行った。


「お前たちは、掟を破った。よって、天国行きの話も破棄だ。」


閻魔様は大変お怒りな様子の反面


「坊主、これだけは私は助けてあげられない。」神様は目をそらした。


「よってシャドウとしての力を回収する。」閻魔様は持っているしゃくを天にかざした。


「やめて!」えまは叫んだ。


すると天から稲妻が落ちてきてシャドウにあたった。


「シャドウ!」


えまはシャドウのもとに駆け寄った。シャドウは黒い影の姿から、影山葵の姿になっていた。


「この姿って・・」えまは、シャドウを起こしながら呟いた。


「そう、これが本当の俺の姿。俺の本当の名前は、花村葵。今日で死んでから六十年たった幽霊さ。」


そして神様と閻魔様の方を向いて「ごめん、親父、閻魔さま。俺、感情移入しちゃって、死ぬべき人を助けちゃった。もういいんだ、この仕事、俺にはもう、潮時なのかもしれない。」


シャドウは淡々と言った。


「ちょっと時間くれないかな。俺の大切な助手に言わなきゃいけないことがある。」


シャドウはえまの方を振り向いた。「分かった。三分だけ時間をやる。」閻魔様は神様とうなずきあった。

 



「いつの日か、えま、俺に聞いたよね。なんで俺は死んでしまったのかって。」


えまは小さくうなずいた。


「俺もね、中学二年生の時、いじめられてたんだ。クラスの皆から、無視されたり、陰口言われたり。それだけだったらよかったんだ。でも段々とエスカレートして終いには暴力を振るわれたり、物を隠されたり。そんな日々に自分の生きる意味が見いだせなくなって。学校の屋上から飛び降りた。」


えまは今でも泣きたくなった。でも泣くのは違うと思っただから目に涙をためながら聞いていた。


「でも俺、死んで後悔何てしてない。そしてシャドウの仕事をしている自分も嫌いじゃなかった。それに、えまとも出会えたしね。」

シャドウは、少年のような顔でほほ笑んだ。


「えま、君も出会ったころから物凄く成長したよ。もう、俺がいなくても大丈夫。一人でやってける。」


シャドウはえまの頬っぺたを触った。


「大丈夫。えま、ありがとう。」


シャドウは膝をついていた体制から立ち上がった。

えまはシャドウのズボンをつかみ、


「助けられたのは、私の方だから。それに、シャドウは、これからどうなっても、私がずっと心の中でそばにいるから!」えまは溢れる涙が止まらずに泣きじゃくりながらそう言った。

シャドウは涙をこらえながら、


「ありがとう、そう言ってくれて。そうだ。えまにこのビー玉あげる。これで離れていてもずっと一緒だね。」シャドウはビー玉をえまの手の中に入れた。


「うん。」えまはシャドウに微笑んだ。「もう時間だ。」神様は、そう言い、地獄の門を出してシャドウを招いた。


「じゃあね。」シャドウは止まっていた足を動かし、地獄の門へ歩いて行った。そして神様と閻魔様に「えまへの罰は、軽くしてあげてください。」そう頭を下げた。「分かった。」神様はそう言い地獄への扉を開けた。「シャドウ・・」えまは、涙でぐしゃぐしゃの顔でつぶやいた。一瞬シャドウは後ろを振り返ると、満面の笑みでえまを見た。そして、シャドウは閻魔様に連れられ扉の奥へ入っていった。


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