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私のシャドウ  作者: あご
15/17

生きる希望

工藤ゆきが亡くなる四日前。


シャドウたち三人は、早く学校に行き、職員室を訪れた。


「二年F組の影山葵です。広瀬先生はいらっしゃいますか?」広瀬先生を呼び職員室の扉の前で三人は待っていた。

「おはよう、どうした?」広瀬先生はゆっくりと歩いて来た。


「ほら、ゆきちゃん!」えまとシャドウは工藤ゆきの背中を押した。

「あの、私、まだクラスでいじめられていて・・。」

広瀬先生は真面目な顔をして

「そっか。詳しく話を聞かせてもらうけど、大丈夫?」と職員室に三人を入れた。

 


「・・・というわけなんです。」シャドウたちは今まで保存しておいた証拠を全部見せた。


「分かった。まずは、遠藤、野々村、雪村、田中、小野、牧野に話を聞いてみるよ。今回は、この前より慎重にやっていくから。」

「お願いします」えま、シャドウ、工藤ゆきは深々と頭を下げた。

「ゆきちゃん、きっと大丈夫だから。」えまは震えている工藤ゆきの手をぎゅっと握った。



この日、男女六名は、先生から証拠をもとに事情といじめの確認が行われた。

証拠があったからこそ、今度こそ六名は言い逃れできず全員、停学処分となった。


翌日他のクラスメイトには、クラスのホームルームが行われ、いじめを見て見ぬふりをしていた君たちも加害者だと広瀬先生はクラスメイトをこっぴどく叱った。クラスメイトも反省の色を見せ、


「見て見ぬふりをしてしまってごめんなさい。」


と工藤ゆきに謝りにくるクラスメイトもいた。それから工藤ゆきに対するいじめもなくなり、工藤ゆきが待ち望んでいた平和な学校生活を送るという願いがかなった。



 工藤ゆきが亡くなる二日前の放課後、


「二人に話があるの」


工藤ゆきは、シャドウとえまをアパートの自分の部屋へと招き入れた。


「二人とも、本当にありがとう。二人がいてくれたからこそ、私・・」


工藤ゆきは涙ながらに話した。


「ううん、俺たちは正しいことをやったのみだよ。」シャドウは照れくさそうに言った。


「そうだ!もういじめも落ち着いたことだし、私、やりたかったことがあるんだ。」


えまは、ちょっと待っててと言い、自分のアパートの部屋に戻り、あるものを取り出した。


「じゃじゃーん!」


えまは大きい箱を持ってきて、工藤ゆきに見せた。


「これ、何?」


工藤ゆきは不思議そうに見た。


「ゆきちゃん、顔立ちがすごくいいから、学校におしゃれしていったらもっとかわいくなるし、もしかしたらモテモテになっちゃうかも!」


えまは、化粧道具を机に広げ、


「明日、朝7時に私の部屋に集合ね!」と言って、はしゃいだ。


「え?!私、そんなことしていいのかな。」工藤ゆきは謙虚にそう言った。


「だって、ゆきちゃんも女の子でしょ?おしゃれぐらいしたって誰も文句は言わない、私が言わせないわよ。」えまは化粧道具を抱えニコッと笑った。


「うん。じゃあお願いしようかな。」工藤ゆきも嬉しそうに笑った。えまはシャドウに目をやると、そんな様子をシャドウはどこか浮かない顔をしてみていた。


「葵、どうしたの?」えまは、すかさず聞いた。


「え、いや、えま、そろそろ帰ろう。」シャドウは静かにその場に立った。


「え、どうしたの?」


「いや、いいから帰ろう。ごめん、ゆきちゃん、また明日ね!」シャドウは、えまの腕をつかんで工藤ゆきの部屋を出ていった。




 「ねえ、どうしたの?シャドウ。」えまは部屋に戻ると少し怒り気味でシャドウに問いかけた。「もう、俺たちができることはやったんだ。」シャドウは下を向いた。

いつもの陽気なシャドウではなかった。


「ゆきちゃんと仲良くなっちゃダメなの?」


えまは、シャドウの言葉に反抗した。


「これ以上、工藤ゆきに感情移入して、もし工藤ゆきが死にたくなくなったとしたら?工藤ゆきはどんな思いで死んでいくと思う?」シャドウはえまの目をまっすぐ見た。


「本当に死なないっていう選択肢はないの?」えまは化粧道具の箱を机に置いた。


「嫌でも、もう決まってしまっていることなんだ。分かってよ。」シャドウは怒鳴った。

空気は最悪に重くなった。シャドウは「言い過ぎた、ごめん頭冷やしてくる」と言って、えまの前から消えた。「ちょっと待ってよ!」えまはそう言ってシャドウを引き留めようとしたがその晩、シャドウはえまに姿を見せることはなかった。




 工藤ゆきが亡くなる一日前。昨日、シャドウに言われたことを気にしながら、えまは工藤ゆきの化粧をしていた。


「よっし、これでオッケイ!」


えまは工藤ゆきに鏡を渡し、化粧後の自分を見せた。


「わあ、凄い。えまちゃん、上手!」工藤ゆきは自分の顔をまじまじと見た。


「髪型は、三つ編みツインテールにしようか!」えまは、髪ゴムを持ってきた。


「そういえば、葵くんは?」


工藤ゆきが周りをキョロキョロと見渡した。


「ああ、なんか今日、調子が悪いみたいで・・」えまは笑ってごまかした。


すると「何言ってるの?えま」そこにはシャドウが立っていた。


「俺は馬鹿だから体調何て崩さないよ。」シャドウはいつも通りの調子で笑いながら言った。


「あれ?どこから入ってきたの?」工藤ゆきが不思議そうに聞いた。「玄関のドア開いてたよ。」「ああ、なるほど。お化けみたいに急にでてきたから。」工藤ゆきは鏡に顔を戻した。


「めちゃくちゃ可愛いじゃん。やっぱり元がいいと違うねー。えまと違って。」


シャドウはぼそりといった。


「ひどい!そんなこと女の子に言っちゃいけないのよ!」えまは、いつもの調子でシャドウを睨んだ。


「そんなに怒らないでよ。」

シャドウがそう言うとえまはプイっと工藤ゆきの髪に視線をおとして髪を結った。


「ほら、完成!」いつもおろしていた髪は顔周りが明るくなり暗い印象も一気に大人びた綺麗な印象になった。


「よし、学校に行こう!」えまは、三人分のカバンを持ち工藤ゆきとシャドウに渡した。そして三人は、学校へと向かっていった。



 学校に着き、靴を履き替えた。工藤ゆきはゆっくりと上履きを取り出した。

「・・入ってない。」

工藤ゆきはぼそりと嘆いた。


「もう、自信もっていいんだよ。」


「そうだよ、今日のゆきちゃんは、イケてるから!」


えまとシャドウは工藤ゆきを励ました。「うん」工藤ゆきは前を向いた。教室の前へ立つと、工藤ゆきは深呼吸をした。そして教室に入ると


「あれ、工藤さん?!」「めっち可愛いんですけど!」クラス中がざわめいた。

自席に着くと数人の女子が工藤ゆきの机を囲み「今日の工藤さん、めちゃくちゃ可愛い!」と言いあっという間に盛り上がった。


「自分で化粧とかしたの?」「ううん、えまちゃんにやってもらったの。」工藤ゆきは少し混乱した様子で言った。


「あっそろそろ授業だ!」


「そういえば今日移動教室だよね?工藤さんもいや、ゆきちゃんも一緒に行こう!」女子一人が工藤ゆきの手を取った。


「えまちゃんたちも一緒に行こうよ」工藤ゆきは後ろを振り返った。


「いいよ。ゆきちゃんほら早く行っておいで!」


えまとシャドウは笑顔で送り出した。


「ちょっと時間かかっちゃったけど、願い叶えられたね。」シャドウは安心した顔をした。


「うん。でも、明日には・・」


えまは目線を落とした。


「しょうがないよ。ほら、えまがそんな顔してたら、ゆきちゃんが悲しむよ。」


シャドウはえまの背中を押した。「そうだね。まだ終わってない。」えまは自分に言い聞かせた。その後、昼休みも休み時間も工藤ゆきは、新しくできた友達と楽しく過ごした。

工藤ゆきは、高校生活の中でこんな華やいだ一日、平和な一日を過ごせている自分に少しびっくりするとともに、幸せをかみしめた。



 放課後


「ゆきちゃん、一緒に帰ろう!」


数人の女子が集まってきた。


「ごめん、今日は一緒に帰りたい人がいるから。またさそってね!」


そう言い、工藤ゆきは、えまとシャドウのもとに来た。


「一緒に帰ろう!」


「他の友達と帰らなくていいの?」えまは、そう言った。


「うん、えまちゃんと葵くんと一緒に帰りたい!」工藤ゆきは満面の笑みで言った。


「よし、三人で帰ろう!」シャドウはえまと工藤ゆきの肩を組んだ。



 夕日があたりを赤く染めた道に、三人は歩いていた。


「ゆきちゃん、友達いっぱいできて良かったね。」


工藤ゆきは嬉しそうな顔をした。


「あのね、私、二人が来る前に何回も死のうとしてたんだ。でね、私も今では不思議に思っていることが起きて。黒い影が現れて、私に、あと一週間で死ぬって言ってきたの。その時私は、本当に死ねるんだって少しうれしかった。でも、えまちゃんたちと出会って私、考えが変わったの。私、生きていたい。ずっとこのままここにいたい!」


工藤ゆきは確かに力強くそう言った。シャドウは驚いて目を大きく開けて、そして視線を落とした。


「そっか。」えまは口を開いた。

しかし、えまはもう、もうすぐ死ぬことになる工藤ゆきにかける言葉が見つからなかった。

そんなことも知らずに工藤ゆきは


「明日、朝、屋上に来て!私、二人に伝えたいことがあるの!」


と何も知らない工藤ゆきは天真爛漫に笑った。


「うん、分かったよ。」


えまとシャドウは優しく、しかしどこか悲しげな顔をした目で工藤ゆきを見た。

 



その晩。

「ねえ、シャドウ、ゆきちゃん、生きたいって言ってたよ。」

えまは、重い口を開いた。


「今回、俺たちは間違ったことをしてしまったのかもしれない。死ぬ前の幸せを与えるはずの仕事が、生きる希望を持たせていしまった。」


シャドウは小さな声で言った。そして


「俺たちができることは、あとは最期を見届けるだけ。」目に涙を浮かべていたえまに、シャドウはうつむきながらそう言った。


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