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私のシャドウ  作者: あご
13/17

いじめの日常

「あら、靴の中に画鋲が?」


そうなんですとえまが言った。


「工藤さん、犯人に心当たりある?」保健室の先生が心配そうに聞いた。


「わかりません。」工藤ゆきは首を振った。


「クラスの人からは良い様に思われていないことは事実ですけれど。」


シャドウは靴に入っていた画鋲を手に持ち眺めながら言った。


「担任の広瀬先生にも情報共有しても大丈夫?」


「それはやめてください。」工藤ゆきはすぐさまに言った。保健の先生がどうして?と聞くと


「前に広瀬先生に言った後、チクったのがバレて、いじめがひどくなったんです。」


工藤ゆきはそう言い、ありがとうございましたと言って、保健室を走って出ていった。


「あっ、ちょっと待って。」


えまとシャドウが追いかける。


「あ、君達待って!」保健の先生が保健室のドアから出るともう三人の姿はなかった。


「ちょっと待ってよ!」えまは、工藤ゆきを追いかけ、肩をつかんだ。


「ごめん、先生には助けてって言いたくないの。」


工藤ゆきは小さな声で言った。


「分かった。先生には、このこと黙ってよう。三人だけの秘密。」


シャドウは工藤ゆきの目の前に立ち、ニコッと笑った。「ありがとう。」工藤ゆきは、ほほ笑んだ。

 


その後、階段を上ってえまとシャドウと工藤ゆきは教室に入った。「おはよう」シャドウが元気よく挨拶すると、クラス中が一気にしらけ、一斉に三人に注目し、また、ひそひそと話し出した。


「あれ、もしかして俺、歓迎されてない?」


シャドウがとぼけた顔でえまと工藤ゆきに見せた。


「昨日はあんなに人気者だったのに。」シャドウは残念そうな顔をした。


「そんなこと無視しましょ。」えまは、ずたずたと自分の席に着いた。


「ごめん、私のせいで・・」工藤ゆきは謝った。


「なんで謝るの?ゆきちゃんは、何もしてないでしょ。それに、なんかドラマのワンシーンみたいで面白いし。私は嫌じゃないよ。」


えまは笑顔でそう言った。


「じゃあ、主役は俺ってことで。」シャドウは自信満々に言った。


「葵は黙ってて!もちろん主役は、ゆきちゃんよ。」


「主役・・」


「もしつらくなったら、自分は女優で、演技してるって思えば楽しいよ!私は、いつもそうしてた。」教科書を机に広げ、整理しながらえまは工藤ゆきにアドバイスした。


「でた。えまの妄想癖。」シャドウがいたずらにそう言うと


「何言ってるの!もう!」とえまは怒って見せた。


「分かった。やってみる。」工藤ゆきは、うっすら笑った。



「ねえ、今、工藤さん笑った?ていうか、人間と喋ってるんですけど。」周りにいた女子がヒソヒソと喋りだした。

えまはその声をキャッチして「ほら、今だよ。ゆきちゃんは女優!」えまは工藤ゆきの背中を押した。「うん。」工藤ゆきは、目線を上にあげた。「その調子!」シャドウは、ニコッと笑った。

 


昼休みになった。


「ふう、やっと終わった!」えまは大きな背伸びをした。


「あれ、葵、寝てる?」えまはシャドウの席へ駆け寄った。


「葵、もう授業終わったよ!」えまは大きな声でシャドウを起こした。


「うー、あれ、もう昼休み、やった、ご飯だ!」シャドウは飛び起きた。


「もう、なんで寝てるのよ!」えまはあきれたように言った。


「俺には、難しすぎるんだよ、あの授業。もう先生の声が良い子守歌になっちゃうんだよね。」シャドウは自慢げにそう言った。

そんな様子を工藤ゆきはほほえましく見ていた。


「ゆきちゃん、お弁当一緒に食べよ!」えまは、プイっと後ろを向き、工藤ゆきのもとへ駆けよった。


「うん。」


「ずるい、俺も一緒に食べたいよ!」シャドウも工藤ゆきのもとへ行った。


「よし、三人で食べよう。」えまたちは机を三角形にしてお弁当を広げ、たわいのない会話をしながら、お弁当を食べた。



 放課後、


「えー、俺、今日掃除当番かよ。」シャドウは肩を下ろした。


「あ、私もだ。ごめん、ゆきちゃん、先帰ってて。」


「うん。じゃあね!」工藤ゆきは一人で教室を出ていった。


「あの、葵くんたち・・」女子二人組がシャドウとえまのもとへやってきた。

二人は周りをきょろきょろと見まわし


「あの、話があるの。掃除が終わったら屋上に来てくれない?」といった。


「分かった。あとで屋上で!」えまは、快く承諾した。その隣でシャドウは固まっていた。


「どうしたの?葵?」


「これは、もしかして・・告られる?!」シャドウは大きい瞳をさらに大きく目を開いた。


「そんなわけないでしょ!私も呼ばれてるんだから。」えまは、冷静にツッコんだ。


「あ、でも、あれ?よく考えてみると・・」シャドウはそのあと残念そうな顔をした。

 



掃除が終わり、二人は呼ばれたように屋上へ行った。そこには女子二人が立っていた。


「お待たせ。話って何?」えまはそう聞いた。


「あのね、もう工藤さんには関わらないようにした方がいいよ。次はあなたたちもターゲットになる。」


「ターゲット?あなたたち、工藤さんがいじめられていること知ってたの?」

えまがそう聞くと女子二人は目線を落としてうなずいた。


「悪いけど、あなたたちも加害者だよ。」えまは冷静にそう言った。ずっと黙り込んでいたシャドウは


「あのさ、どれだけゆきちゃんが傷ついているか知ってる?俺は絶対君たちも、ゆきちゃんをイジメている主犯たちも俺は絶対に許さない!」

今までえまが見たことないくらいに、シャドウは感情的に言っているように見えた。


「葵、言いすぎだよ」えまは小さな声で注意した。シャドウは我に帰って「ごめん」とぼそっと言った。


「分かった。このことは学校の人には誰にも言わないで。」女子二人はそう言い、足早に屋上を去った。


「もうさ、ゆきちゃんには聞いた方がいいかもね。死ぬ前に何したいかって。このままだと俺たち、工藤ゆきに感情移入してしまいそうだから。」


シャドウはえまに無表情に言った。えまは、こくりとうなずいておいたが、シャドウがこんなに感情的になっているのをえまは初めて見た。もしかして、いじめとシャドウの自殺は、何か関係があるのかもしれないと、心の中で思った。

 


その夜、二人は寝る準備をしていた。えまは、布団を二枚ひきながら今日の放課後の事を気にしていた。

シャドウの様子が最近おかしいのはうすうす気づいていた。でも理由は今まで怖くて聞けなかった。だからこそ、助手として向き合おうということを心に決めていた。


「ねえ、シャドウ」えまは、歯を磨いているシャドウに声をかけた。


「うん?何?」シャドウは、えまの方を振り向いた。


「シャドウ、最近様子おかしくない?なんかぼーっとしてたりすることが多くなっているというか・・」えまは、心配して言った。シャドウは椅子に腰かけて


「似てるんだよ。俺の時と。」そうつぶやいた。「似てるってゆきちゃんと?。」


「うん。俺もゆきちゃんと一緒だった。」えまは、シャドウはいじめを受けていたんだと悟った。


「俺、ちょっと怖いんだ。今回の仕事は特に。感情移入してしまいそうで。」シャドウは、立ち上がり、口をゆすいだ。


「私は、この仕事、素敵な仕事だと思う。でも、残酷な一面もあるのも事実よね。」


えまは、言葉を選びながらそう言った。「お互い、気を付けよう。それと明日には、工藤ゆきの死ぬ前にやりたいこと聞かなきゃ。」


シャドウはえまの方に振りかえってそう言った。なんだか、その時のシャドウはどこか悲しげな表情を浮かべていた。


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