婚活ファイル4、「ガンス&テュポーネ」
「どうも始めまして、テュポーネと申します」
「ど、ど、どうも。が、ガンスと言います」
(うわっ、ガンスさん滅茶苦茶緊張しちゃってるよ!?)
まあ気持ちは分かるけどね、テュポーネさん美人だし。
テュポーネさんの上半身の見た目を言えば、本当にハリウッド女優かと思う程のゴージャスな感じの美人さんだ。
長いライトブラウンの髪はツヤツヤだし、少し彫りの深い顔立ち、年齢は20代半ばくらいに見える。
本当に人間であれば女性として一番きれいな時期をキープしている感じと言えばいいか。
まあよく見ると目の感じが普通と違って爬虫類っぽかったり、耳の先が少し尖がってたりはするんだけど、そんな事はどうでもよくなる位。
でも下半身を見ると、人間でいう膝丈くらいのスカートから出ているのはニシキヘビ系の模様の大蛇の尻尾。
僕も彼女と対面するとドキドキするんだけど、それが美しい女性を前にしたドキドキなのか、モンスターと対峙した時の恐怖のドキドキなのか分からなくなる。ある意味吊り橋効果?
今回は顔合わせという事で、気取らない居酒屋っぽい場所で一緒に食事でもしながら話して貰えればいいかなと。そんな感じで二人を引き合わせる。
4人掛けのテーブルのイスの一つを取っ払って、テュポーネさんがそこにとぐろを巻くと、丁度椅子に座っているのと同じくらいの高さになる。こっちから見ると下半身は見えないので、本当に人間の女性とお見合いしている様だった。
(ほら、ガンスさん、何か話さないと!)
(何かって、何話せばいいんだよ!俺、最近やったクエストは地味なのばっかりだし、話して自慢できるような事なんか何も無いんだよ!)
僕とガンスさんがそうやってヒソヒソとやり合っていると、テュポーネさんの方が落ち着いた口調で話し始めた。
「今日は誘ってくれてありがとうございます、こうやってギルドの外を自由に出歩くのは久しぶりです・・・」
「いえ、そんな」
彼女は以前のパーティーが全滅してから身元保証人になる人がいなくて、窮屈なギルド暮らしが続いているので「こうやって誘って頂いて、出歩けるだけでも嬉しい」と、まず感謝の言葉を口にする。
これにはガンスさんの方が驚いて、ポーっとなってしまっている。
話によれば、若い頃はガンスさんも勇気を振り絞って女性を誘ったりしていたらしいのだが、その結果は笑われるか、手ひどく振られるかの二択で、誘った相手に喜んでもらえた事など無かったのだそうだ。なんかもうその言葉だけで感極まった感じに喜びを噛みしめているんですけど。
その後は料理が到着したりしたので、のんびり食べながらの歓談となる。
まあね、料理さえ来ちゃえば「美味しいですね」とか「どんな料理が好きですか?」とかなんとか話すネタにはなるものだ。ちなみに彼女は卵料理が好きらしい・・・まさか丸吞みとかじゃ・・・ないよね?
しかし彼女、流石は魔物と言うか、見た目はそれほど食べそうにないのに、大体三人前くらいの量を軽々と平らげる。
ギルドではそれほど量が出ないのか、その食べる姿はとても幸せそうで心から喜んでいるのが判り、食事を奢る立場のガンスさんにしても、これくらい大喜びで食べてくれたら奢り甲斐もあるだろう。
「あ、あのっつ、その・・・テュポーネさんはその・・・何で俺との見合いを受けてくれたんでしょう、その・・・俺、こんな顔だし、女からは何時も馬鹿にされてて・・・それなのにテュポーネさんは俺に会ってから一度も嫌そうな顔をしていないし・・・」
顔の事が相当コンプレックスなのだろう、和やかな食事が終わりそうになった時、ガンスさんが意を決したと言った感じで、そんな質問をテュポーネさんに投げかける。
「顔・・・ですか?」
「はい・・俺、こんなに不細工で・・・」
「正直に言っていいでしょうか?」
テュポーネさんのその言葉に、ガンスさんが目を瞑り「やっぱりか」と言ったような諦めの表情を浮かべる。
普通に楽しく食事が出来たせいで期待も大きかったのだろう、凄い落胆ぶりだった。
しかしその後に続くテュポーネさんの言葉に、ガンスさんは驚いて顔を上げた。
「実は私、人族の方の顔の美醜の基準って・・・良く解らないんです」
「へっ!?・・・わからないって・・・?」
「ですから・・なんて言えばいいんでしょうね、例えば「人間はこういう感じが好きなんだな」って言うのは理解できるんですが、私にとっては別にどうでもいいと言うか・・・ほら、人間だってゴブリンやオーガの顔の美醜の違いなんか分からないんじゃないですか?そもそも種族が違いますし、個体差はあっても『ゴブリンはゴブリン』であってそれ以上でもそれ以下でも無いですよね?」
あ、うん、なんとなくだけど分かるような分からない様な。
元の世界で言えば、パグやブルドックに似た人間だったら「キモイ」って言われるのに、犬であるパグとかブルドック自体は可愛く思えるみたいな感じかな?
「え~と、つまりテュポーネさんにとって、イケメンだろうが不細工だろうが同じ「人間」に変わりが無くて、顔の違いは個体差というだけで美醜はあんまり気にならないって事でしょうか?」
「そうですねぇ、むしろ顔がどうとかより健康で血が美味しくて、月に一度くらい血を吸わせてもらっても大丈夫なくらい体力がある人が好ましいですね」
人差し指を頬に当て、上を見ながら少し考えるようにそう言うテュポーネさんの言葉に嘘は無さそうだった。
でもそれって恋愛というより餌に対する感情なんじゃ・・・と思ったけど、そもそも人間とラミアじゃ価値観が違うのかもしれない。
それに人間だって男を「収入=金=食っていくために必要な物」で見てた訳だから、餌扱いもATM扱いも大筋では大差ないのかもしれない。。
それを聞いてガンスさんはフルフルと震え始める。
「・・・初めてだ・・・こんなに普通に俺と飯を食ってくれる女の人なんて初めてだ!」
それは何だか驚きを通り越して感動してさえいるようだった。
「あ、あの、テュポーネさん!そのっ、また一緒に食事をして貰っても構わないでしょうか!?・・・その・・また誘っても!」
それに対してテュポーネさんはにっこりと笑い「ええ、またこうやって外に連れ出して頂けると嬉しいです」と。
テュポーネさんをギルドまで送り、家に帰る途中もガンスさんはポーっとした表情で夢見心地と言った感じだった。顔が赤いのも多分さっき飲んだ葡萄酒のせいばかりでは無いだろう。
やはりコンプレックスであった顔の事が全く問題にならないと言うのが相当好印象だったみたいだ、テュポーネさんの言う男性の好み?である、健康で体力があるって言うのもガンスさんならピッタリだし、二人の相性は相当いいんじゃないだろうか?
何せ「ひとまず好感触でしたね、やっぱり魔物というのはネックかも知れませんが、性格は普通だったでしょう?」と、僕が今日の顔合わせを総括すると、ガンツさんから「テュポーネさんを魔物呼ばわりするんじゃない、失礼だ!」と怒られてしまう程なのだから。
いつもなら女性を紹介され、顔合わせの度に落ち込んで帰って来る息子が、浮かれた様子で鼻歌を歌いながら帰って来たのを見てバリーさんも驚く。
「何だ何だ、もしかしてうまく行ったのか? あれだけ何度見合いを進めてもダメだったのに・・・マモル、お前どんな魔法を使った?」
僕はバリーさんに今日のお見合いのあらましを伝える。
「ハァ~、ラミアねぇ!? さすがに魔物の女を紹介するなんざァ思いつかなかった! でも待てよ?そうすると、このまま纏まったら、そのラミアが俺の義理の娘になるのか!?」
「まだ気が早いとは思いますけどね、でもこうやって普通に女性と話す事に慣れると言うのは悪いことじゃ無いと思いますよ、心配ならバリーさんもテュポーネさんに会ってみます? 魔物だと言う事を除けば本当に素敵な女性ですよ?」
「あー、それは止めとこう、いい年の男の恋愛にオヤジがのこのこ出て言ったら変にこじれそうだしな。しかし魔物・・・・魔物かぁ・・・」
バリーさんはそう言って頭を掻くが、その心配の仕方はテュポーネさんに実際に会う前のガンスさんにそっくりだった。それを見た僕は、多分ガンスさんも一回テュポーネさんに会えば気に入るんだろうなと思わずにはいられなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
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それから約半年、ガンスさんによるギルド詣では一週間と空けずに続いた。
最初のうちは僕が一緒について行って、ギルドに話を通してテュポーネさんの外出許可を取っていたのだが、回数が5回を超えたあたりから「何かあった時にガンスさんが責任を取るなら」という条件付きで、ガンスさん一人でもテュポーネさんを誘えるようになっていった。
ガンスさんにとっては美女と一緒に食事やお話が出来て、テュポーネさんにとっては、自由に街を歩いて美味しい食事がお腹いっぱい食べられる。
まさしくWin-Winだ。
テュポーネさんにとってはガンスさんの顔の悪さは何の気にもならないし、ガンスさんにとってももう彼女が魔物である事にさほど抵抗は無くなっていた。
そして遂に・・・・・・・
「マモル、ありがとう、俺、テュポーネの主人になる事にしたよ」
従魔登録というらしいが、ギルドから魔獣であるテュポーネさんを引き取り、主人として登録する。ガンスさんはそう決心したらしい。
ちょっと普通の結婚とは違うが、男と女で、しかもテュポーネさんはガンスさんの子供を産むつもりなのだから、実質結婚と言っても良いだろう。披露宴もするみたいだし。
ガンスさんは冒険者を辞め、実家の小間物屋を継ぐそうだ。
「俺が死んだらテュポーネが悲しむし、これから生まれてくる子供の為にも安定収入を稼がないとな!」
そう言って実家を継ぐことを決意し、父親であるバリーさんに頭を下げてこれまでの事を詫び、妻と娘を守るためこれからは地道に働くと表明したガンスさんは、覚悟を決めた立派な男の顔をしていた。
「いやぁ、自分で頼んでおいてビックリだが、まさか本当にガンスの嫁さんを見つけて来て家を継がせてくれるなんてな! 婚活コンサルタントだっけか、やっぱり異世界の結婚のプロって言うのはスゲェなァ!!」
放蕩息子が心を入れ替えて家を継ぐと言ってくれ、バリーさんも一安心と言った所のようだ。成婚料をかなり弾んでくれてこれには僕もかなり助かった。(この世界は物価が安くて、特に食料品の価格は元の世界の三分の一以下なので、喰うだけならそれほど困らないが、それでもやっぱりお金が無いのは不安だったのだ)
そして、この成婚をきっかけに僕の結婚相談所の登録者数は飛躍的に増えたのだ、何故かって?
そりゃぁガンスさんとテュポーネさんの結婚生活が無料の宣伝として効果抜群だったからに決まってる。
あれほどブ男で結婚なんて無理と囁かれていたガンスさんが結婚、しかも相手は美女で、魔物だと思って敬遠していた人の中にもガンスさんの幸せそうな様子を見て悔しがっている人がいる位だ。
テュポーネさんは魔物で、月に一度ガンスさんの血を吸うけど、次の日には血を分けてくれた代わりにと、ガンスさんの好きな食事をたくさん作ってくれるそうだ。
そのお陰でガンスさんは健康そのもの、むしろ本人も「俺は血の気が多いから定期的に抜いてもらう位でちょうどいい」と惚気ているくらい。
料理上手で、しかも夜の方も積極的らしく、ガンスさんは自分が愛されていると実感して、本気で結婚して良かったと周囲に自慢しまくっている。
その結婚をまとめた結婚相談員、マモルの名前は冒険者の間に瞬く間に広まった。
割れ鍋に綴じ蓋、たとえ厳しそうに見えても需要が一致すれば結婚の道はある。これが男女の縁の面白い所である。
そして栄えある異世界結婚相談所の御成婚第一号、ガンスさんとテュポーネさんに祝福を!
この度は御成婚おめでとうございました!
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エピローグ___。
幸せいっぱいのガンス一家だが、更なる幸せは続いた。
一年後、二人の間に子供が生まれたのだ・・・って言うか卵はもう産まれてたんだけど、その卵が孵ったのだ。
生まれたのは母親似の女の子で、やっぱり下半身は蛇。
それを見て、孫が卵から産まれるとは思っていなかったバリーさんは複雑だったらしい。
しかし更にそこから3年ほど経った時には、母親似の美幼女から「おじいちゃん!」と呼ばれてデレッツデレになっているバリーさんの姿が見られる事になるのだが、それはまた別の話。
___エピソード1,ガンス&テュポーネ、end
取りあえずエピソード1が終了です。更なるカップルの話を書くかは読者様の反応や評価を見て判断していこうかと。どうでしょう、このシリーズ、需要ありますかね?
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