婚活ファイル2,「結婚相談所?何それ?美味しいの?」
「結婚相談所? なんだそりゃ?」
バリーさんの第一声がそれだった。
この世界には結婚相談所は無いのだろうか? 僕は相談所の仕事のあらましを伝える。するとバリーさんからまたもや返ってきた言葉は「ああ、何だ、近所のおせっかい婆さんみたいなことをするのが仕事だったって事かい。そんなのが仕事になるのか?」と。
確かに日本でも昔は町内に仲人をするのが趣味みたいなオジサンオバサンが沢山いたらしいけどね、僕が生まれた時にはすでに日本は少子化一直線だったからなぁ・・・
僕はこの世界の結婚常識が昭和の時代みたいな感じだと認識して、令和の時代の未婚少子化の流れをかいつまんで説明した。そして、その中で自分で相手を見つけるのが難しいと判断した人に、手数料を取って相手を紹介するのが僕たちの仕事だと。
さらに自分の勤めていた相談所は会員およそ2万人と、そこそこ中堅クラスの会員数を誇っていた事も説明する。
「ははぁ、2万人とはまたすごい数だな・・・しかしこの街の人口はそれなりに居るが、多くの人は普通に結婚してるし、わざわざ金を払って相手を探そうなんてェ人がいるかね?」
どうやらバリーさんの口ぶりでは、この世界ではそれこそ昭和のお見合い結婚全盛期のように、大抵の人はどうにか相手を見つけて結婚できるらしい。
確かに無料で相手を紹介してくれるおせっかいオバサンがいるなら金を払う必要はないな。これは前職の経験を生かして再就職という訳にもいかないかと諦めかけた時だった、バリーさんが「ポン!」と手を叩いて「あーあー、そう言えば居るわ!
一部結婚できなくて困ってる連中が! そいつらなら金を払ってでも相手を紹介して欲しいって考えるかもな!」と、そんな事を言いだしたのだ。
「その・・・・連中というのは?(ゴクリ)」
ここが自分の就職の分かれ目だ。自分は大学を出てから今の会社に入って他の仕事は一切した事が無い、まだギリギリ20代ではあるけど、出来れば慣れた仕事で生計を立てたい!
緊張しながら聞く僕に、バリーさんはニヤリと笑いながらこう答えた。
「そりゃアレよ、冒険者って奴だ」
「冒険者!?」
冒険者。
バリーさんの話によると、所謂トレジャーハンターと傭兵と便利屋を掛け持ちする様な職業らしく、こっちでは結構メジャーの職業だと言う事だ。
この世界で商売をやっている家では、家を継ぐのは長男が多く、次男以下は独立して商売を始めるか、またはよその家で勤め人になる。
その中で一風変わりものというか、人の下で働きたくない者や、戦闘や魔法の才能を授かった者、後はちょっと素行の悪いあぶれ者がこの冒険者になるらしい。
「まあこの冒険者ってのはな、魔獣と戦ったりとか傭兵まがいの事もするし、とにかく危険な仕事だ。後はギルドからの依頼をこなせば収入になるが、毎日仕事がある訳じゃ無いし、報酬もマチマチ・・・荒っぽい奴が多いイメージもあるし、とにかくモテねぇんだよ。だからな、年齢や怪我で冒険者を引退しようってなっても、その後暮らしていくのに結婚相手が見つからねぇのはよく聞く話なんだ」
そいつらに結婚相手を宛がってやれるなら商売になるかもな。
バリーさんはそう言って豪快に笑うが、ただでさえ変わり者や素性の知れない人間が多いのに、いつ未亡人になるか分からない危険で死と隣り合わせの仕事で、収入も不安定となれば結婚相手としての需要が低いのも頷ける。
だけどそれは逆に言えば今まで居た世界とこの世界で、結婚相手に求める価値観が同じという事だ。それならば今までのノウハウが生かせるかもしれない。
僕がそう自分の頭の中で計算をしていると、バリーさんは「そう言えば」と言った感じで、自分の息子の事を話し始めた。
「俺にも息子がいるんだが、こいつがまた冒険者になっていてな。素直に俺の後を継いで小間物屋をやればいいんだが『俺のこの顔じゃ客が寄り付かない』って言ってよ。確かに息子のガンスは親の俺から見ても結構な不細工でな、だが男は顔じゃねぇって言ってるんだがなぁ・・・こいつが今年30になるのにまだ一人もんでな。冒険者だっていつまでも続けられる訳じゃねぇだろうに・・」
呆れたようにそう言うバリーさんは、次の瞬間ハッとした顔になって手を打った。
「おお!そう言う事か! つまり俺みたいな息子を結婚させたい親から依頼を受けて、相手を紹介する商売って事か!」
元の世界では本人からの依頼な訳だけど概ね合ってる。僕が頷くと、バリーさんは「それじゃあもしかして、ガンスの奴と結婚してもいいって嫁さんを探したりもできるのか!? もしあいつが結婚して戻ってきてくれるような事があるなら報酬を出すぜ、どうだ、マモル、うちの息子の『結婚相談』受けてくれるか?」
突然の依頼でびっくりしたが、こっちの世界では元々ある結婚相談所に就職って訳にもいかないだろう。つまり一から自分で始めなきゃいけないと言う事になる。
そう言う意味でこれは、悪い言い方をすると物凄く都合のいい練習台なのでは無いだろうか?
僕はバリーさんに承諾の旨を伝え、「手探りだからうまく行くかどうかわからないけど」と前置きした上で、自分の結婚相談所をこの世界で立ち上げる事が出来るかどうかの試金石として、バリーさんの息子、ガンスさんのお嫁さん探しを引き受けたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
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「う~ん、これは思ったよりも大変かもしれない・・・」
翌日、将来的に相談所を開設するにあたって色々考えてみたんだが、問題が山積みだった。
まずPCが無い。
いままで会員の管理やデータ化などは、当然パソコンでやっていた。だがこの世界の文化レベルはせいぜい江戸時代レベルだ。PCやスマホどころか電気すらない。そのかわり魔法というものがあるので、魔石という、いわば結構な蓄電量を誇る電池みたいなもので色々な道具を動かしているそうだ。
と言っても有るのはランプや冷蔵庫の様な箱、湯沸かしレベルで流石に自動車や電話みたいな複雑なものは無かったけど。
「という事は・・・手書きのファイルで会員のデータ管理をしないといけないのか・・・」
いよいよ昭和っぽくなって来たぞ・・・だけど昭和の時代はこれが当然だったんだから、やってやれないことは無い筈だ。
僕は自分の着ていた服をバリーさんに引き取ってもらい(自分の着ていた服は安物のスーツだが、こっちの世界には無い材質だから珍しいって高く買ってくれた)、最低限必要なものを揃えていく。
足りない分はバリーさんに借りた。
ちなみにこっちのお金は紙幣ではなく貨幣だった。いよいよ江戸時代っぽい。
筆記用具とファイル。とりあえずコレさえあれば、後は会員を増やしてスペックを比較してマッチングする訳だけど・・・・
元の世界では会社に居て、入会に来る会員を捌くのが基本だったけど、新規に立ち上げとなると、まず会員を集める為の営業から始めなきゃならない。
バリーさんの言ってた通り、こっちの人達はまず「金を払って相手を探してもらう」っていう感覚が無いから、入会金とかは無しにするか、ものすごく安くしないと難しいかも知れない・・・
僕は色々考えて、ともかく最初は会員を増やす為、入会金をゼロにして、紹介できる男女の数を確保しようと決めたのだった。いわばスタートアップキャンペーンって奴だ。
バリーさんに紹介状を書いてもらい、ギルドって言うなんか集会所みたいなところに行ってみる。
そこの受付さんと話をしてその手紙を渡すと、一応仕事の依頼の掲示板の隣にポスターを貼る許可が貰えた。後その異世界から来たと言う事について色々聞きたいらしく、定期的に話し合いを持ちたい旨を伝えられたのでOKしておく。
うん、このギルドって組織に逆らっちゃダメっぽいしね、そこは素直に応じておこう。
連絡は手紙か直接訪問、住所はバリーさんちの離れ、そして今日は詳しい説明の為、僕自身がそのポスターの隣に立って、疑問に答える事にした。
突然仕事の依頼の掲示板横に張り出された変なポスターに、何人かの人が足を止めて質問してくる。
「何だ?つまりタダで女を紹介してくれんのか?」
「女性を紹介というか・・結婚相手を探している、真面目な交際希望の方だけですけどね、この人なら合うって人を多くの人の中から選んで紹介する商売を始めようと思ってるんですよ、基本は成功報酬で、結婚が決まったら『成婚料』を貰う感じです、今ならタダなんで登録だけでもお願いします!」
「ねえ、これって紹介された男とは絶対結婚しなきゃダメって事?」
「いえ、そんな事は無いですよ!?何度か会ってこの人なら良いなと思われたら結婚すればいいと思います、僕はあくまで紹介するだけなんで」
「ふーん、じゃあ、取りあえずタダで登録して気に入らなきゃ断りゃ良いんだ、損はしないか・・・」
「是非お願いします!」
ギルドという信頼できる組織を仲介したからか、初日にしては結構な人数に登録してもらえた。まあ、ほとんどの人は「なんかただ名前とスペックを書くだけで女(男)を紹介してもらえるらしい」って感じで、結婚を意識しての婚活とはちょっと違うみたいなんだけど・・・でも最初は登録者が増えないとマッチングのし様も無いしな。
写真は無いけど自己PRの書類にプロフィールを書いてもらった後、その空きスペースに僕はその人の特徴を日本語で書きこんでおく。
ちなみにこの世界の文字は元の世界のアラビア語みたいな訳の分からない文字で、自分は読める筈が無いのに、何故か読めて書けて意味も分かった。何だコレ。そう言えば何で言葉が通じてるんだろうな?本当に意味の分からないことが多い。
結局その日はギルドに来た冒険者の人達を中心に、数十人規模でデータを集める事が出来た。
そしてその日から守は様々なギルドや教会等をハシゴして、ファイルの内容を充実させていったのだった。
__________つづく。
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