表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

婚活ファイル1,「プロローグ」

あけましておめでとうございます。

新年一発目という事で、おめでたい感じの作品を投稿してみます、最初のエピソード終了まで毎日投稿!



 とあるビルの一室、「相談室」と言うプレートが掲げられた部屋で、僕は出来るだけ気を遣いながら、目の前に座る女性に自分の意見を伝える


「え~、ですからね? もう少しお相手の方に対する要求を下げられた方が、お見合いはセッティングし易くなります、例えば年収の条件を『300万円以上』に下げてみるのはどうでしょうか? 今のままだと他にも、年齢、身長、学歴、外見・・・あまりにも要求が多すぎると言いますかですね・・・」


 僕がそうやって何重にもオブラートに包んでやんわりと「高望みすんなBBA(ババア)」という事を伝えると、目の前にいる中年女はいかにも「不機嫌です」という顔を隠そうともしないで、唾を飛ばしながら反論して来た。


「何ですかそれ! まるで私が高望みしてるみたいじゃないですか!!?」


(だからそう言ってんだろボケ)

 今週もう何回目になるのか分からない同じような遣り取りに、僕は心の中でため息を吐く。


 僕は結城(ゆうき)(まもる)

 28歳の中堅結婚相談所の相談員で、現在は婚活の相談中。


 相談者は41歳の女性で、相談内容は「この結婚相談所は何で自分の条件に合う人を紹介してくれないのか!?」というクレームだった。


 ちなみに彼女の言う条件に合う人とは、年収600万以上、30代、初婚、身長170cm以上、大卒以上、顔は普通以上で清潔感があり、長男以外で同居は不可、結婚後は専業主婦希望・・・というものだ。


 相談者の女性は41歳、家事手伝い(無職)、現在実家住みで今までバイト程度しか働いたことは無いらしい。


 貯金も無く、両親が年老いてきて「このままでは将来が不安になって来たから」と、寄生先の男を探すために40を超えてやっとこさ婚活を始めたらしいが、完全に手遅れである。


「ですから、女性が男性を年収で見るように、結婚相談所に登録されている男性は女性を年齢で判断します、あなたが希望する様な男性は34歳以下・・・もっと言えば20代後半あたりの女性を希望するんですよ、ですので41歳となりますとミスマッチでして・・・」


「確かに私は41歳ですが、見た目は20代に見えるってよく言われます! だから大丈夫です!、会って貰えさえすれば分かりますよ、それにそこを何とかするのが貴方の仕事でしょう!?」


(一体その自信はどこから来るんだ・・・見た目がどうあろうと実年齢が41なのは変わんねーだろうが!!)


 結婚相談所に相談に来る30代男性は、子供が欲しいから自分の子供を産んでくれる女性を探しに来ることがほとんどだ。大体実感で90%くらいがそうだと言っていいだろう。

 なので大事なのは実年齢。見た目がどんなに若かろうが、出産に間に合わない様な女性にはほぼ需要が無い。

 仮に男性側が「僕の実年収は300万ですが、良く人からは年収1000万くらいに見えますねって言われるんですよ」とか言ってきたらどう思う?そう見えれば実年収が低くても良いのか?違うだろ。

 しかもこの人の言っている「20代に見える」は自称、あるいは美容院とかでお世辞で言われたのを本気にしているだけだろう。

 ハッキリ言って20代後半の自分から見て、普通に40代にしか見えない。

「むしろ41歳!?老けてますね」と思う位だ、口には出さないけど。


「私だってホントは年収はもうちょっと欲しくて800万~1000万位は欲しいかな?って思う所を、妥協して600万にしてるんですよ? なのに誰も紹介しないとか相談所が悪いし、お見合いを申し込んでも全部断られるとか、もしかして貴方が邪魔をしてるんじゃないでしょうね!!」


(だーかーらー、申し込んで全部断られてる時点で察しろよ!! あんたには需要が無いんだよ!)


 正直昨今では年収1000万どころか、600万でも十分高スペック男性と言える、そう言う男性には女性側からお見合い希望が殺到する訳だ。

 特に男性側が希望する様な、20代後半から30代前半、正社員、結婚後も共働き希望、みたいな女性からもたくさん応募が来る。その中でこの女性が選ばれることは無い。


 男性側からすれば、何で好き好んで40代の無職ババアを引き取らないといけないのか、そんな事男性側の立場に立って、冷静に客観視してみれば解りそうなものではあるが、どうしてかこうやって無理な高望みをする女性には未だに「自分は男を選ぶ側である」という根拠のない自信を持っている人が多い。


 むしろ男性側は自分を客観視して、同レベルの女性を望んでいる人が多いので、ここまで酷くなくても高望みを止めさえすれば成婚できる女性は多いのに・・もちろん自分も今まで何人ものカップルを誕生させ、結婚まで導いて来たのだ、経験に基づいたアドバイスはする。

 自分はプロだ、少しでもこっちの言葉に耳を傾けてくれれば結婚できる確率はあるのに・・・


 しかし女性側は何故か、高スぺ女性も低スぺ女性も一様に「高スぺ男性以外不可」で婚活する人が多いこと多いこと。


 だがこれはマスコミの罪もあるだろう。

 彼女達はマスコミが発表するサラリーマンの「平均年収」とか「ボーナスの平均」を信じている人が多い。

 だがアレは一部の極少数の『超高収入の人間』のせいで釣り上げられた数字だ。


 極端な例を上げれば、年収1億の人一人と年収ゼロの人間19人で平均を取れば、その20人の平均年収は500万になるが、じゃあ、と平均年収である500万以上で相手を探せば、対象は1億の人一人だけ。

 これは極端な例だが、こういう数字のマジックに騙されると、マスコミの言う「30代の平均年収」を超える男性は一部の勝ち組以外おらず、婚活男性の2割以下しかいないと言う事実に気付けない。

 なぜなら高収入の男性は既に結婚していて、ここに来るのは言い方は悪いが売れ残りなのだから。


 だから女性からすると、本人は「普通で良い」と思って出した条件でも、その「普通」が既に「勝ち組以外お断り」だったりする。


 結果として結婚が纏まるのは「高スぺ男性×高スぺ女性」となり、普通以下のスペックの男性は散々上から目線で物を言う女性にうんざりし、「これだったら生涯独身でいいや」と言って婚活を諦めて去っていく。


 そして諦めきれない年増の女性は一縷の望みにかけて結婚相談所に残り続け、高スぺ男性を狙い続けるので、現在の結婚相談所は、以前では考えられない「女余り(年増限定)」の状態になっているのだ。

 そして売れ残ったアラフォー、アラフィフの女性達はその責任を全て結婚相談所や相談員のせいにして、連日こうやってクレームを言いに押しかけて来るという訳だ。


 僕が何故この業界に入ったかと言えば、何となく正社員で募集していて、試しに受けてみたら受かったからといういい加減なものだ。それでも、自分が担当したカップルが無事成婚して幸せになっていくのを見る度「この仕事をしていて良かった」と思うくらいには、今はこの仕事に愛着を持っている。

 しかし、ここ最近のこの婚活市場に居残り続けているアラフォー女のワガママさにはいい加減辟易してきていた。


 そして結局この日の相談者も、どんなに就職して共働き希望にするか、希望条件を下げるように言っても聞かず、挙句の果てには「私がこんなに譲歩してあげているのに」という的外れのキレ方をした後、その責任を全て僕の無能のせいだと押し付けて帰って行ったのだった。



◇ ◇ ◇ ◇

_____________



「あ~~~!!、クソォ、やってらんねぇ! ちっとは自分のスペックを客観視してみやがれ! 所詮婚活は同じぐらいのスペック同士でくっつくんだよ! いつまでも夢見てんじゃねぇ!」


「結城さん・・・相当ストレス溜まってますね(笑)」


 仕事帰りの居酒屋でビールを一気に流し込み、テーブルにグラスを叩きつけながらそうこぼすと、同僚の葛西君が笑いながらそう言った。


 お見合いのセッティング等は午前中など早いうちに組まれる事が多いため、それほど残業は無い。

 今日も午後は主に新規入会の人達のデータの整理や、条件確認やマッチング作業が主にだった。


 そして数人にお見合いを勧め、その人たちからは好感触を得た。

 しかし、その人たちはいずれもこちらの話を聞く耳を持っているか、もしくは素のスペックが高い、需要の有る人達ばかりだった。

 売れ残りのアラフォー女性達に紹介できるお見合いは今日も無い。


 守はその事を同僚の葛西に散々愚痴った後居酒屋を出て、アパートに帰る為に夜風に吹かれながら歩き始める。

 家までは少し距離があるが、タクシーを使う程でもない。

 

 駅前から1.5キロほど歩き、そろそろアパートが見えてくるという、人気の無い住宅街に差し掛かった時だった。

 突然後ろからドン!っと誰かに体当たりされた様な衝撃を受け、それと同時に背中に猛烈な熱さを感じる。


 突き飛ばされて膝をつき、振り返って見上げるとそこには自分の担当するアラフィフ女性の姿があった。彼女は今月で登録から1年8か月になる長期会員であり、今まで何度お見合いを組んでも成立しないオバサンだ。


 その手には血の付いた包丁が握られている。それを見た瞬間背中の熱さが痛みに変わった。


「あ・・・グぁ・・・痛っ!!!」

(刺された!? 何で!? 声が・・・声が出ない!?)


 口から血が噴き出して妙な寒気がする。

 肩甲骨の下あたりに猛烈な痛みがあり、息が出来ない。

 薄れる僕の意識の中にヒステリックに叫ぶ女性の声が微かに聞こえた。


「あんたが悪いのよっ!! どうせあなたが私の悪い噂を相手に言ったり、お見合いの申し込みを握り潰したりしていたんでしょう!! さっきの居酒屋で私の事をバカにしてるのも聞いたわ! あんたのせいで私の人生滅茶苦茶よ! 地獄に落ちろっ!!」って。


(ちょ・・・それは別にアンタの事じゃ・・・体が動かない・・・僕は死ぬのか・・・)


 完全な逆恨み。

 死因・地雷を踏んだため(比喩表現)


 僕は薄れていく意識の中で思った。


(あんたみたいな女の相手は今世には居ねぇよ!来世にでも期待やがれ!)


 恨みなのか負け惜しみなのか分からない。だが最後にそんなたわいのない事を思いながら、守の意識は暗闇に飲まれていった。



◇ ◇ ◇ ◇

__________________



 気が付くと僕はベッドの上で目を覚ましていた。


 まるでログハウスの様な見知らぬ天井。

 そしてその天井付近をパタパタと羽を動かしながら飛んでいる、羽根の生えた猫。


 猫!?


「いやおかしいだろ、なんで猫飛んでんの!?」


 思わず大声で突っ込んでしまった。

 しかし、そのお陰で隣の部屋に居たらしい人物に自分が起きた事が伝わった様だ。

 ガチャリと音を立ててドアが開き、見た所50歳代くらいの髭を蓄えた男性が部屋に入って来る。


「おお、起きたか。びっくりしたぞ、いきなり家の前に倒れているんだからな。何だ、行き倒れか?腹が減っているなら何か食うか?」


「あ、ええ、、えぇぇぇぇぇぇ!?」

 その瞬間記憶がフラッシュバックする。


 確かに僕はあのモンスタークレーマーのババアに刺されて死んだはず・・・という事はここは天国?いや、なんかそんな感じでも無いんだが。


 見た感じここはキリスト教の天国とも仏教の極楽とも違い、なんか普通の世界に思えた。別に実際に死んだことある訳じゃ無いから本当の死後の世界がどうなってるかなんて誰にも分らないと思うけどさ。


 何と言うか体に感じる温度も、皮膚の感触も、呼吸をしている事も、普通に「生きてる」って感じで死後の世界って感じがしないんだよ。


「何だいきなり大声を出して、腹減ってるのか減って無いのか、どっちだ?」

「ええと・・・あのですね」


 そう言いかけた瞬間、僕のお腹が「ぐぅぅぅ・・」っと鳴った。

 

「何だ腹減ってるんじゃないか、ちょうど飯の時間だ、起きれるようなら隣の部屋に来い、飯くらい食わせてやる」


 僕は混乱していた、意味が解らない。

 だけどお腹が減っているのは確かで、僕はその男性の好意に従って食事をご馳走になる事にした。



◇ ◇ ◇ ◇

___________________



「・・・・それ、本気で言ってるのか? 頭を打ったとかじゃないんだな?」

「ええ、信じられないと思いますが・・・」


 テーブルに並ぶ料理は見慣れたものではなかったけれど、味付けはまあ普通においしかった。

 ちょっとスパイシーで東南アジアっぽい味付けだ。


 僕はそんな料理をご馳走になりながら、記憶にある出来事を彼に話す。

 自分の名前、刺されて死んだと思って目を覚ましたらこの家のベッドに寝かされていた事、今まで僕の居た国には羽の生えた猫なんて居なかった事。


 彼はバリー・ザンという名前で、この街で小間物屋(雑貨屋)を経営しているらしい。そしてテーブルの上で一緒にご飯を食べている羽根の生えた猫が、ペットのミュウ。

 ちなみにこの生き物の名前はミャルスと言うらしい。


「う~ん、ミャルスは世界中に居る動物だし、ミャルスを見た事が無いとか知らない人間なんて聞いた事が無いぞ?」


 それから僕はバリーさんにこの世界の事を聞き頭を抱える。

 は? エルフにドワーフ?、剣と魔法?、魔物や魔獣? バリーさんから聞いたこの世界の常識は、まるで僕が小学生の頃に夢中になったゲームのRPGの世界そのままのような世界だったのだ。


「それじゃあ何か、お前さん、つまり帰る場所も身寄りも頼りも無いって事か?」

「ええっと・・・・そうなっちゃうみたいですね・・・・」


 バリーさんによると、僕はバリーさんが家を出ようとした時玄関の前に倒れていたそうだ、見たところ傷は無く、気絶しているだけだったようなので家に寝かせて様子を見てくれたらしい。


 第一発見者がバリーさんみたいないい人で良かった。


「そりゃ困ったな、まあこれも何かの縁だ、仕事が見つかるまではウチの離れに置いてやってもいいけどよ・・・不思議な話だが嘘をついてるようにも見えないしな。あんたの話を信じるならあんたは別の世界から来たって事になるが、これからこの世界で生きていくのならまず仕事をしなきゃならんだろう、お前さん何ができるんだ?」

「えッ!?」


 バリーさんの一言に僕は言葉を失った。

 こんな荒唐無稽な話をする他人(行き倒れの一文無し)を、家に置いてくれるって!?なんていい人だ!


 それと同時に現実が押し寄せてくる。

 ここがどこだろうと生きていくにはお金が必要だ。

 衣・食・住にはお金がかかる、コレ常識。そしてその為には働かなくてはいけない。


 僕はバリーさんの質問にこう答える。


「僕は前の世界では、結婚相談所の職員をしていました!」と。



_______________つづく。



普段はノクターンで書いている想々と申します、今回エロ無しなので久しぶりの本家投稿、緊張しますw


皆さんの応援が次話執筆の励みです、気に入って頂けたら↓にある☆☆☆☆☆評価をポチッと押して頂いて評価、あるいはブックマーク、イイね等で応援して頂けるととても嬉しいです!


また感想、レビューなど頂けるとモチベーションが上がります、よろしくお願いします!


読んでいただき有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 結婚相談員の異世界転生(転移?)ってまた突飛な!(褒め言葉です笑) 常識も学ばないといけない状況からどうなっていくのか楽しみです。 そういえば言葉は通じてるんですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ