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自給率という罠

 日本は自給率が低いらしい。


 しかし、とある艦隊シリーズ作家は作中で何度も人口可載量なる用語を用いていた。


 厨二病な時期に読んだ艦隊シリーズの影響は凄まじく、今だにその衝撃は忘れられない。


 人口可載量とは何か?


 その国の国土面積で養える人口の限界だそうだ。


 日本の人口推移はよく知られるように、戦国から江戸前期にかけて飛躍的に増加しているが、中期以降は明治になるまで横ばいであった。


 何故か?


 これが、日本の国土面積で養える人口の限界であったからだという。


 その理論に従えば、産業発展により人口増加が再び始まった日本が膨張に転じるのは何の不思議もない。


 そうしなければ増える人口を養えず、産業発展も挫折してしまうのだから。


 善悪論で明治日本を語る人々も居るだろうが、人口増加という喫緊の課題に対して、領土獲得。もっと正確な表現をすれば、食い扶持獲得手段は他に無い。


 さて、では現在の日本についてだが、国土面積がよく似たドイツを見てみよう。


 ドイツの人口は8000万人少々である。


 工業だけでなく農業も盛んなドイツですらその程度だ。


 日本はさらには4000万人近く多い。


 先に上げた様に、日本の人口可載量は3000万人ほど。


 自給率が40%を切ると叫んでいるが、人口を考慮すれば、3000万人や4000万人を食わすには十分と言えないだろうか?



 人口可載量から見れば、十分な自給率である。間違っているのは、人口可載量の4倍居る人間の方。


 そう考えると、自給率には何ら危機感は無くなる。


「いや、これは危機なんだ。もっと農業生産を!」


 という人は多いだろう。


 確かに、日本の肥料使用量は自給率100%を超えるオランダの半分から1/3 でしかないともいわれている。


 しかし、だからといって今の農業従事者がそのまま手弁当で2倍、3倍の肥料を田畑に振り撒く訳にはいかない。


 日本の農業が外国の様に産業化されておらず、家内制の占める割合が圧倒的だから、とてもではないが、そんな資金は持ち合わせていない。


 なにせ、肥料を2倍投入したら収穫量が2倍になるほど単純ではないので、とてもコスト回収が出来ず、赤字のたれ流しにしかならないからだ。


 さらに、産業化や人口増加によって耕地面積は減少の一途であるし、無計画な都市化は農地集約の妨げとなり、団地やマンションの脇に残された虫食い農地がさらに大規模事業者から切り捨てられている。


 当然だが、機械化によって効率化を目指す以上、棚田の様な機械化に取り残された山間農地も対象外となっていく。


 この様に、言葉で簡単に自給率を上げよ!と叫んでも、実態はついてこない。



 そもそもの話、人口可載量について耳にし、理解している人はどれほど居るのだろうか?


 基準となる日本の人口可載量は3000万人であり、化学肥料や農薬、品種改良によって爆発的に収穫量が増えた緑の革命を経てなお、流石にベースから4倍にもなる1億2000万人を養うには程遠い。


 それが、「世界はカロリーベースではなく生産額ベースだから、日本の自給率はそこまで低くない!」と言っても、現実は変わらない。


 なにせ、先に挙げたオランダなどは、農地の窒素過多による環境汚染を軽減しようと農地を半分に減らす政策を実行しているほどだ。


 生産額ベース自給率ならば、それを押し上げるには高価値な野菜や果物の生産を増やせば良いが、それはつまりは、稲作や麦作に比較して大量の肥料を使う事になる。

 さらに、オランダはその肥料による汚染を減らそうと農地削減に取り組んでいる。


 なんとも馬鹿げた話ではないか。


 肥料や農薬によって収穫量が爆発的に増え、高価値農産物へと比重を移して収益が出たら、今度は環境汚染対策で作付け面積を減らしていく。


 一体何のギャグだろうか。


 詰まる所、生産額ベース自給率を追求すれば、オランダを後追いするだけ。

 なんとも締まらない結論が待っていた。


 海外は生産額ベースと言っても、それは高価値農産物の比重を上げての話しなので、自給率100%=国民を養えるとなるかは疑問。


 カロリーベースは実際に食わせる話しなので、どちらが誠実だろうか。



 そして、カロリーベースでアップさせるには、国土面積による人口可載量という越えられない壁に突き当たる。


 農業政策や経済政策の記事は星の数ほどあれど、人口可載量を論じた記事は見たことがない。


 現在の日本の人口は人口可載量からみたらとても養えない。そんな話はしたくないからなのかもしれないが、これを知っていないと、「イザという時」の話しなんて何も出来ないよね。

 人口可載量からみたら、緑の革命を考慮し、海外との貿易が可能であっても、半分から2/3、貿易が止まれば1/4を養うのが限度。


 食料安全保障なんて話をするのであれば、まず認識しなきゃイケない事象なのに、「言葉にして現実になっては困る」という言霊の影響もあって、「最悪の事態」は口にしない。議論の場から最悪の事態が排除されて話が進んでしまっている。


災害対策において、311まで巨大津波を想定外としていたのもこうした言霊によるモノだし、今だに戦時に最悪の事態を考慮出来ないのも同じ。


 なので、日本はいくら頑張っても食料輸入がちょっと止まれば4〜5000万人に餓死の危険性があり、戦争などで貿易自体が停滞すれば9000万人に餓死の危険性が生じる。

 これが、人口可載量という話から見えてくる日本の現実。


 人口可載量という具体的な説を出せば、ここまで具体的な話が出来るのは確かだが、あまりにショッキングな数字だから、そりゃあ、メディアは使わないし、政府だって批判を恐れて出し渋る。


 311以後に災害犠牲推定が軒並みショッキングなモノに変わり果てた原因は、「現実見たから今なら批判されない」って現金な話からだよ。きっと······

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本本土で3000万、多くても4000万までしか人間を養えないのは常識だと思っていたけれど、あれって艦隊シリーズですり込まれた蘊蓄だったのか・・・・・・。 日本は米作だから麦作のドイツなん…
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