表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

原潜はゲームチェンジャーでも救世主でもないんだが

 最近、豪州潜水艦計画に関する記事で日本の原潜保有論を唱えるコメントが多数寄せられていた。


 そう言えば、国民民主党の玉木代表も以前に原潜保有の検討を主張をしていたっけ。


 まあ、これに関してはより専門的な解説をするチューバーオオカミが居るので、そのチャンネルでも視聴する方が理解は早い。


 なんて思っていたんだが、その配信動画のコメント欄ですら、理解に至れない人は居るのだなと、少々悲しくなった。


 まあ、それはまずは置いておこう。


 原潜を持つ。


 で、何をするの?


 これを知るためには原潜の役割を知らなければならない。


 原潜の一番大きな役割といえば、自国戦略ミサイル潜水艦の護衛であろうか。


 そして、それと同じく重要なのが、敵対勢力の戦略ミサイル潜水艦の捕捉、追跡。更には、戦時における撃沈。


 

 その為、戦略ミサイル潜水艦は当然ながら、原子力である方が望ましく、遊弋する海域は自国軍の哨戒が密な方が良い。

 一般に戦略ミサイル潜水艦の行動は自国周辺であったり、敵対勢力の潜水艦が到達し難い場所となる。


 英仏は大西洋沿岸だろうし、米国はアラスカ沖やカナダ沖だろう。ロシアは北極海とオホーツク海。中国が盛んに南シナ海で島嶼部の領有権主張をしている理由も、海南島沖合の安全性確保が理由ではないだろうか。


 さて、これを読んでどうだろうか?


 敵対勢力の戦略ミサイル潜水艦を捕捉、追跡するには、北極海やオホーツク海まで脚を伸ばさなければならない。

 こんなことはディーゼル潜水艦では無理ゲーなのは誰にでもわかる話だ。


 この様に、自国を遠く離れた敵対勢力優勢な海域へ至り、更には自らが捕捉や妨害を受けず、敵戦略ミサイル潜水艦を捜索、追跡する。

 そんな任務を遂行するには原潜で無ければならない。

 これが核保有国が原潜を保有する理由である。


 では、なぜ豪州が原潜を欲するのか?


 これも、理由は核保有国に近い。


 豪州は自国周辺には脅威が存在せず、その安全保障は日本のような自国防衛ではなく、大国のポチとして付き従う事で政治、経済的に遠く離れた地域と深い繋がりを維持して国の繁栄を保つ事にある。

 その為には数千km離れた南シナ海やインド洋へと漕ぎ出し、米英と肩を並べなければならない。

 そのツールとして、脚が長く長期間行動可能な潜水艦を必要としたから。


 

 では、日本の原潜保有に関して、どんな理由があるのだろうか?

 核武装論のひとつとして論じるなら、賛否はともかく「そうだよね、無いと困るよね?定石だもん」と理解に到れる。

 しかし、核武装を否定や時期尚早とするなら、原潜保有の必要性も見出だせない事になる。


 確かに、南シナ海問題盛んな時期に、「日本による南シナ海プレゼンスには原潜だ」って論じた論客も居た。


 が、別に日本までもが原潜を送らずとも、十分な潜水艦戦力を南シナ海へと展開出来る。

 米国が潜水艦を展開するんだから、日本は水上艦や哨戒機を送ってその支援をすれば良いではないか。

 そもそも日本にとって南シナ海問題は政治外交的な搦め手であって、直接の脅威は東シナ海や日本海にあるのだから。


 で、実は原潜保有論者が見逃している視点についても語る必要がある。


 米英仏は原潜のみを保有し、ディーゼル潜水艦は保有しない。

 これら国はNATO加盟国なので、沿岸域や内海での水中活動を他の国に任せる事が可能だから。


 バルト海の要衝を守るのはドイツであり、ドイツ潜水艦はそれに適した小型艦を開発、保有している。更に黒海に面するトルコもドイツ製潜水艦を有するし、そこを抜けてもイタリアが居る。

 と、何も全てを米英仏が一手に引き受けなくとも良い体制にある。


 これを太平洋に当て嵌めるなら、原潜を展開する米国と、海峡部へとディーゼル潜水艦を配する日本という事になる。


 

 しかし、ロシアにはそのような有力な同盟国が居ないため、原潜だけでなく、バルト海や黒海、日本海等に展開させるキロ級等のディーゼル潜水艦も保有している。

 これは中国も同じく、眼前の浅海である東シナ海へと配備するディーゼル潜水艦を保有している。



 さて、こうした広い視野で原潜のあり方を見て、では日本はどう原潜を使うのか?

 真正面の脅威に対して使う手段であるかどうかを考えれば、残念ながら、現時点で原潜が有力な手段ではない。

 そんな答えしか出て来ない。


 日本の原潜保有論は得てして原潜保有が目的化している。原潜はあくまで目的達成の手段なのだから、目的が原潜と合致しないのに、無理にコジツケても辻褄が合わないだけである。


 

 原潜の優位性は速度にある。だから、同じ「反撃能力」を持つなら原潜が有利だ。



 なんて意見もあったが、流石にズッコケたわ。


 日本がトマホークを持とうとしている、有力なプラットフォームは潜水艦。


 うん、そこまでは良い。


 原潜であれば速やかに駆け付けることが出来るがディーゼル潜水艦ではそうはいかない。


 なんて言われて納得してはいないだろうか?



 んなわけあるかw



 そもそもトマホークの射程は二千km程度あるやん?


 ってことは、時速60km程度しか出ない原潜と、巡航だと20km程度のディーゼル潜水艦なんて、ミサイルの時速800kmと比べたらドングリの背比べ。二千kmも飛ぶんだから、100kmや200km程度発射場所が違うかろうが誤差の範囲だろ?


 それに、幾ら高速っても、所詮は時速60km程度の話。ワザワザ原潜向かわせるくらいなら、戦闘機の方がよほど速い。なんせ、時速千kmで飛べるからな?

 トマホークに誤魔化されているのだろうが、空中発射出来る巡航ミサイルだって射程千km程度ある。無理に原潜使わなきゃ何もできないなんて話しにはならんのだよ。


 日本が東シナ海を主正面として活動する限りにおいて、原潜を使わなければ出来ないなんて目的は存在しない。


 日本にとって原潜を必要とする目的は、中国やロシアの脅威が去り、インド洋に重大な安全保障上の脅威が現れた時だよ。


 まずはこれを理解しないと産業基盤やコストの話が出来ないからね。



 至近に脅威があり、自らが矢面に立っている時に必要なのは、何よりも量なので、南シナ海以遠の「遠い脅威」に対するプレゼンスとは、まるで手段やアプローチが違う。


 原潜はたいげい型の3倍から4倍ほど高額の建造費用と10倍近い維持費用を要する事になるから今の22隻体制なんて維持出来ない。

 さらに、国産するならその設備投資に見合い、技術継承が可能になる保有数は最低限10隻。

 つまり、防衛費は幾ら増額されても2倍程度にしかならないのだから、護衛艦であるとか海空戦力であるとかを削減しないと、原潜の建造費や維持費は捻出出来ない。


 数を減らさないと持てない原潜なんて、数を必要とする真正面の脅威と対峙する時には邪魔なだけ。

 それが今出せる答えなんだけど、まさか、そこをナントカ精神で原潜保有を貫徹するとか言い出すのかなぁ〜


 



 


 


  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 原潜保有の理由は、日本周辺の海が広いからに尽きるのではないでしょうか 潜航したままでの長大な航続距離のある原潜は広い海域を防衛対象とする日本には有難みがあります 攻撃対象は別に戦略級原潜を相…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ