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トリウム熔融塩炉の話

 11月下旬、中国がトリウム熔融塩炉のマイルストーンを越えた話題がニュースとなり、中国スゴーみたいなコメントが散見された。


 それ自体はどうでも良いのだが、そこにはジャーナリストだかアナリストだかの比較的著名な人物による「日本は米帝の下僕だから開発を潰された!(意訳)」と言った内容のそこそこ長文投稿がXで行われ、反米論者の賛同が集まっていた。


 まあ、トリウム熔融塩炉って私の作品で複数扱っているのだから、おマンもその口だろ?って見られそうだが、客観的に、悪意的に、「日本じゃ無理よ」な理由があったりする。残念ながら。



 そもそも、トリウム熔融塩炉とは何か?


 原子力工学などという門外漢な話は出来ないが、簡単に言えば700℃を超える高温の塩化物流動物にトリウムという放射性物質を溶かし込み、これを黒鉛を用いてウラン233へ転換、核分裂反応によって持続的に高温状態を維持し、その熱エネルギーを用いて発電や動力源とする。


 って話になるのだろう。


 メリットは、熔融塩という高温液化流体が自然対流する事で、他の原子炉の様な制御を必要としない簡便さ、熔融塩は500℃を切るとガラス固化するので対流を止め、あるいは液化物を炉心から冷却槽へ排出すれば反応は止まり、ガラス固化して暴走事故を抑止出来る。


 つまり、構造や制御が他の原子炉に比べて簡便な事が最大のメリットとなる。


 このメリットに着目したのが、今から80年近く前、米国の原子力飛行機計画だった。


 高温となるタービン駆動力を得るため、早々に固体燃料炉には懸念があるとして液体燃料炉に候補が絞り込まれ、1952年に実験がはじまり1957年には連続運転にも成功している。


 ただ、原子力飛行機計画は普通に考えれば判る様に、「そんな放射能バラまく物体が実用的な訳ねぇだろ」という結末を向かえる。


 その後も発電用として研究は続けられたが、スリーマイル島事故によって増殖炉研究が米国で禁止され、トリウムからウランを生み出し反応させるトリウム熔融塩「増殖」炉もその範疇であるとして規制対象となる。


 こうして米国での研究は先細り、当然の様に日本もその流れで一部研究者を除いて興味を無くしている。


 確かに、日本にも有名な研究者は居り、バブル以前のウラン枯渇を懸念しトリウムに注目が集まった時期があり、その時に国が予算を出していれば、実験炉は完成していたかも知れない。


 ただ、そこには大きな問題が立ちはだかるのも事実だった。


 先の著名人はそれを米帝の下僕とこき下ろして溜飲を下げて終わらせている。が、そんな簡単な話ではない。


 まず、技術的な観点からいえば、トリウム熔融塩炉は構造や制御は簡単であり、小型化は比較的スムーズに行える。

 それが70年前に原子力飛行機の動力源に選ばれた理由だった。


 爆撃機を飛ばすのだから、巨大で嵩張る装置を載せて、核爆弾を満足に載せられないでは話にならないのだから。


 ただ、その後の研究は低調に推移している。


 それもトリウム熔融塩炉の特性に由来している。


 トリウム熔融塩炉は高温炉である。


 飛行機のタービンを動かすには効率がよかったが、発電用原子炉を作るには問題があった。


 今日本にある原発を見て欲しい、その発電能力は如何ほど?


 日本におけるトリウム熔融塩炉の第一人者が遺したフジという名のトリウム熔融塩炉のモデルは、既存原発の数分の一という小規模な発電能力である。


 研究だからではなく、トリウム熔融塩炉の効率を考えたらその規模という話。


 故古川博士は、311後に再出版した著書でも、「トリウム熔融塩炉は安全だが、大規模化すれば軽水炉の様なリスクは付き纏う」とも述べていた。


 つまりはそう言う事だった。


 高温であるが故に大規模化が難しく、数百万キロワットと言った大規模原発には向かなかった。

 

 構造が簡単で制御が簡便というメリットは、「比較的小型で熱制御が可能な範囲において」という但し書き付きの話だったのだから。


 当然、砂漠に作られた中国の施設も驚く話ではない。そもそもが飛行機に載せる前提の原子炉だったのだから、空冷で動かせないと意味がない。


 米国で研究が行われ、日本がウラン枯渇に不安を覚えた時期に求められたのは、大都市や工業地帯の電力を賄える大規模原発だった。

 それはトリウム熔融塩炉のコンセプトにかなうだろうか?


 フジはもちろん、今世紀に入って始まる第四世代原子炉開発は、トリウム熔融塩炉含め、全て小規模である。三菱の発表した次世代原発など、ビルの自家発電設備だ。

 或は、大洗に建設された高温ガス炉は水素製造プラントなどの工業利用がアナウンスされている。

 次世代原発は既存の原発とはコンセプトが異なるのである。


 小規模化、工業地帯や市街地に設置可能な安全性、利便性を求めている。

 だからこそ、飛行機用原子炉としてスタートしたトリウム熔融塩炉のコンセプトがマッチする。


 先の話に戻せば、確かにバブル期の金満資金を使えば実験炉は完成したかも知れない。だが、その先へ続いただろうか?

 それこそ、大規模原発とは相容れないコンセプトから、結局は中止や停滞を招きはしなかったか。


 これが当初から、原潜やむつに替わる原子力商船を目的にしたなら開発は進んだかも知れないが、80年代日本にそんな意欲はあったのだろうか。


 つまり、開発する目的が見出だせていない。


 時代の要求するコンセプトに合致しない。


 それでいて、「米帝の下僕だから潰された!」と?


 きっとこの手の人は、バブル崩壊で不況が顕在化した時期には、時代のニーズと異なるトリウム熔融塩炉を、真っ先に「無駄な研究!」と指弾していたんじゃなかろうか。 


 私がトリウム熔融塩炉を知ったのは艦隊シリーズであり、いわばこの原子炉は発電用ではなく、「乗り物」用と感覚として理解した。

 現在であればスマートグリッド用原子炉と定義出来るだろうか。


 表面的な話だけでなく、少々掘り下げて考えれば、誰でもそうした視点に思い至れる話である。

 ただ、その為には対象に興味、関心を向けなければ至れない。表面的な陰謀論を嗜むだけでは見えてこない世界だから、あんな投稿や、そこへの賛同となっているのだろう。


 そう考えれば、あの投稿は近視眼的で感情論に走りやすい日本らしさ。だったのかも知れないね。




 

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― 新着の感想 ―
まぁ常用はともかく、マイクロSMRって非常用とか緊急展開用としては非常に優秀かもしれませんね。
核発電所をご町内にばらまくの? て、話かぁ……駄目やん
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