手段と目的の混乱
反撃能力と言う言葉が飛び交うが、それは何なのか?
反撃にはトマホークが必要などとノタマウ主張が散見されるが、流石に手段と目的を取り違えてはいないだろうか。
更に言うなら、反対派が言う先制攻撃に至っては、もはや兵器の取得や使用を論じる論点にすらなり得ない。
世の中には、脅威の存在だけで自衛を主張する意見が存在している。しかし、それはあまりにも広義な規定すぎると言う意見が主流になっているわけだが。
では、自衛でなければナニか?
それが予防攻撃や予防戦争と呼ばれるモノ。
日露戦争などはこの予防戦争として捉える事が出来るし、ウクライナ侵攻もその側面がある。
先制的自衛と予防戦争の境界は明確な基準や論点はなく、いわば解釈次第な状態が続いている。
これを使って今の反撃能力を以前は敵基地攻撃能力と称していた。
先制自衛や先制的自衛の明確な行使基準は存在しない。というか、設けない事により曖昧戦略によって、核抑止が成り立っている現状がある。
核の先制不使用を明言すれども、それは自衛においては話が別という、では、自衛とは?
ここを明確化すると選択を狭めるので、誰も議論したがらない。
ここを明確化してしまうと、実は100年前に逆戻りして戦争を外交の手段として使えるようになりかねないからね。
敵基地攻撃論が反撃能力と言い換えられた理由もソレ。
先制自衛を前提にすると言う事は、撃たれる事を是認しないと成り立たない。
結局、そのジレンマから欧米の曖昧戦略へと回帰したから、反撃能力と言葉を濁している。
にもかかわらず、未だにミサイルランチャー攻撃をシラフで騙るという行為が散見される。
さて、本当に先制自衛にはトマホークが必要なのか?
それを語るのに最適なモデルが、イスラエルが行ったイラクやシリアの核施設攻撃だろう。
先制自衛というのは先にも述べた様に予防攻撃との境界が曖昧なため、攻撃はいわば奇襲として行われる。
奇襲攻撃ならば、相手のレーダー網の盲点を突いたり、欺瞞作戦によって民間機に偽装して接近したりという手段が採れるので、何も巡航ミサイルに頼る必要はない。
それどころか、目標を確実に破壊するには現地で直接攻撃目標の有無を確認出来る航空機が有利ですらある。
米国が20世紀末によくトマホークを使用しているが、あれはテロに対する報復や制裁という、いわばメンツの為に行う行為だから、その程度でよかった。
テポドンショックで何を勘違いしたのか、トマホークによる報復や制裁を、まるで決定的な攻撃だと勘違いして始まったのが、今に繋がるランチャー攻撃論な訳で、そもそもの手段と目的を見誤っている。
では、トマホークや巡航ミサイルは不要かというと、それはまるで別の理由からなくてはならない手段という話になる。
まず、敵基地攻撃論や反撃能力論を忘れて、真っ更な状態で考えて欲しい。
では、自衛隊が保有する対空兵器を見てみよう。
射程1〜2km前後の範囲に基地や艦船を防護するバルカン砲を用いた近接火器がある。
そこから5km程度の範囲にスティンガーや93式という携帯対空ミサイルや35ミリ機関砲、87式がある。
更に20km程度の範囲にRAMや旧型スパロー、81式やその後継となる11式という対空ミサイルが存在する。
艦船には50km程度の範囲にESSMがある。
更に100〜200km程度の範囲に03式やパトリオット、SM2が存在する。
さて、これら重層的な防空網を突破するにはどうすべきか?
巡航ミサイルの必要性というのは、こうした重層的な防空網を破壊して目的を達成する為の手段としてのモノ。
違憲だ攻撃的だと言うのは、つまり「パトリオットみたいに20機撃ち落とされる訳じゃない。10機生き残るなら攻撃成功だ」みたいな特攻作戦で離島奪還する事を望むか、そもそも全てを米軍任せで何もしないと主張してる事になる。
ナゼか、日本の政治はこの辺りの議論をまるでやらない。
そして、反撃能力論を振りかざすヤカラもまるで語ろうとしない。
ウクライナとロシアが血みどろの地上戦やってるのって、どちらも制空権無いからだよ?
それでも陸地なら歩いて前線まで行ける。しかし、海の上だとミサイルと戦闘機に守られた島へ逆上陸カマすなんて無理スジな話だから、まずはミサイル網を破らないと話にならない。どれだけ中国本土の基地や港を叩いても、島に配備された対空ミサイルが健在なら事態は変わらない。
この話、今に始まった事ではなく、10年以上前から今流行りのネトウヨさんのブログで説明してきた話なんだけどね?
それでも大して理解されない。
そもそも、200Kmクラスの射程を持つ対空ミサイルの射程外からミサイルやレーダーを攻撃出来る手段を持つのならば、目的を変えれば中国本土や北朝鮮を攻撃するのに必要十分な能力があるわけだ。
立ったまま足元に届く棒を持てば、離れた机にも届くよね?
同じ棒で違う目的を果たせる訳だが、それが理解出来ない。彼らにとって離島奪還兵器と敵基地攻撃兵器は違うらしい。
敵基地攻撃という決戦兵器さえ持てば相手が臆して攻撃されない。つまりは抑止力だと言うのは、もはや現実から離れた信仰でしかない。
先制自衛や予防攻撃として相手を奇襲するならE2やF35で実行可能なんだから、トマホークやら巡航ミサイルに拘る必要なんか無い。
先制自衛と云うのは、攻撃の意思であって特定の兵器が持つ機能とは違うのだが。
そこを理解出来ずに、特定の兵器への信仰心を高める事を抑止力とする教えに心酔するのは単なるカルトだよ。
安倍氏と統一教会の関係は分からないが、彼やその支持者達が特定の兵器を崇拝するカルト集団なのは間違いない。
そもそもトマホークをはじめとする巡航ミサイルは、航空機での接近が危険な防空網や施設を破壊し、以後の作戦を有利に進める為の兵器に過ぎない。それさえ放てばすべてが終る訳ではない。
離島奪還作戦でワザワザ奪還艦隊がバカ正直に島の防御設備やレーダーを攻撃する必要などはなく、より遠くやまるで別の海域から敵の目を欺いて攻撃をより確実なモノにする。その為にトマホークやらの巡航ミサイルを使うわけで、ナゼ、そうした説明が政治家に出来ないのか。
敵が占拠して防御を敷いた島を攻撃するには、反対派の言う「違憲の疑いがある」長射程の兵器で無ければ、射程200kmの対空ミサイルやそれに守られた対艦攻撃兵器を破壊して奪還部隊を安全に島へ向かわせる事が出来ないではないか。
それがなければ奪還部隊には多大な犠牲と失敗のリスクばかりが高くなる。まさか、全てを米軍任せにして、奪還後は従僕として米国の下に仕える事を希望するわけで無ければ、米軍任せの選択肢も採れないのだから。
何でこんな簡単な説明が出来ないのかね?
攻撃的兵器や専守防衛を定義した半世紀前とは兵器の能力がまるで違うのだから、昔の定義や解釈で今の防衛を考える事は、何も考えていないのと同じ。
それでも先輩や父、祖父の言葉が絶対なのだろうか。
結局の処、今の防衛論議は、過去の定義や解釈に固執した論議に終始して、その定義や解釈の目的や手段すらをも取り違えた混乱の渦中にある様に見える。
兵器の説明だけに徹すれば、相手の射程に合せてこちらも射程を伸ばすという、至極簡単、簡潔な話が出来るのだが、「違憲性」やら「専守防衛」の意味となる目的や講じるべき手段が倒錯してしまっている。
相手が射程200kmの地対空ミサイルを配置しても、古い定義に従い「巡航ミサイルは攻撃的兵器だから持たない」などというのは、もはや宗教でしかない。
もちろん、相手が射程200kmを超えた地対空ミサイルを持つから、それを撃破する300Kmを超える巡航ミサイルを持つという論理的な説明ではなく、「トマホーク1000発は抑止力!」などと意味不明な教義を流布するのも宗教に過ぎない訳で、そんな神学論争をやるのは戦時中の「神国日本は不滅である!」と、何がどう違うのだろうか?
左右共々、戦時中の神国日本神話を21世紀の今、この時代に主張しているカルト集団でしかない。
誰か、このカルト集団にマインド・コントロールされたアンポンタン論議から解脱させてくれる教祖さまは居ないのか?




