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秘封俱楽部活動記録 ~Last Occultician~  作者: 伽藍堂本舗
第一章『時代遅れの異世界転移』
8/53

正体不明

 四月十三日 金曜日。放課後。


 麟は席に座って空中に展開されたディスプレイを見つめていた。




「菫子さん」




 ステージは体育館。大きな釣り照明が二人を照らし出す。向かい合う両者。ここからの数分が菫子の命運を決める。


 ──にも関わらず、菫子は泰然と構えていた。




 「余裕ね」


 「そりゃ、あんたに負ける理由が見つからないからね」


 「今ならまだ、泣いて謝れば許してあげないこともないわよ?」


 「お生憎様、あんたに謝るぐらいなら退学した方がマシね」


 「あっそ」




 菫子は構えることなく、冷静にぬえを観察する。するとどこからともなく声が聞こえてきた。




「両者、準備はいいかしら?」




 立会人である紫の声だ。紫は改めてルールの確認をする。




 「先に戦闘続行が不可能となった方が負け、反則はなし。ただし、異空間外からの干渉はルール違反とみなす。以上よ」




 入学式で行われたエキシビションマッチと全く同じルールだ。




 「それではランクマッチ、スタート!」




 合図とほぼ同時だった。ぬえがトライデントを薙ぎ払う。だが、菫子はバックステップで距離を取り、難なく回避する。追いかけるように刺突を繰り出しながら間合いを詰めるぬえ。だが、そのことごとくを菫子は回避する。



 ──瞬間移動(テレポーテーション)



 一度、大きく距離を取る菫子。手を止め、ぬえはトライデントを構えなおす。次の瞬間、菫子を覆うオーラが陽炎のように揺らめく。



 ──発火能力(パイロキネシス)



 トライデントが僅かに熱を帯びる。ぬえは即座に菫子に向け、投擲する。だが、トライデントは菫子を貫くより前に燃え上がり、力なく落下した。



 ──念力(サイコキネシス)



 落下したトライデントが浮かび上がるやいなや、猛スピードでぬえに向かって突進する。少しだけ体を捻り、回避したぬえ。それと同時にトライデントを掴み取る。全く動かない。仕方なく菫子は念力(サイコキネシス)を解除する。解除と同時にぬえが動く。突進してくるぬえを菫子は上空へ飛翔し、回避する。だが、ぬえは突進を助走に変換してトライデントを投擲する。

 先ほどとは比較にならないスピードで菫子に迫るトライデント。菫子は一瞬だけ念力(サイコキネシス)を解除する。トライデントを自由落下で強引に回避する。しかし、菫子は一瞬だけ身体のコントロールを失ってしまう。

 ぬえは素早くトライデントをキャッチし、コントロールを失った菫子に狙いを定める。



 ──瞬間移動(テレポーテーション)



 菫子の姿が消える。それと同時にぬえの体が壁に向かって勢いよく吹き飛ぶ。壁をトライデントで突き崩し、激突を防ぐ。瓦礫を押しのけて立ち上がるぬえ。




 「出し惜しみせず魔導を使った方がいいんじゃない?」




 挑発する菫子。




 「使えば何もわからず倒されるだけよ?」




 煽り返すぬえ。


 睨み合う二人。


 静寂。



 ──先に動いたのは菫子だった。



 瞬間移動(テレポーテーション)。姿が消える。即座に周囲を見渡すぬえ。菫子を捕捉すると猛烈な勢いで突進する。だが、菫子はひらりと回避する。次の瞬間、ぬえの前に壁が現れる。菫子はぬえの突進を読んで、壁を背に立っていた。ブレーキをかけられず、壁に突っ込むぬえ。

 だが、ぬえは壁を容易く突き破る。大きな音を立てて壁が崩壊する。舞い上がった砂と埃の後ろからぬえは悠然と現れる。




 「まさか生身で壁を砕くとはね」


 「次はアンタがこうなる番よ」




 生身で建物の壁を砕けるはずがない。ぬえが魔導を発動した証拠である。




 「考えごとなんてずいぶん余裕ね!」




 慌てて地面を転がる菫子。コンクリートで身体のあちこちを擦り剥く。だが、攻撃は回避できた。先ほどまで居た場所の地面には三つほど小さな穴が開いていた。亀裂がそこから放射状に走っている。菫子はあと少し反応が遅れていたらと想像し、身震いする。




 「すばしっこいわね、宇佐見菫子」


 「あんたこそ素手で滅茶苦茶な威力じゃない」


 「そっちこそ燃やしたり、瞬間移動したりやりたい放題でしょうが」




 憎まれ口を叩き合う両者。だが、菫子に言葉ほどの余裕は存在しない。魔導を暴かなければ話にならない。




 「何がどうなってるんだか……」




 さっぱり分からないが考える余裕は無い。菫子の焦りは時間に比例して増大する。ぬえと菫子の間に存在する圧倒的な戦闘経験の差。致命的な一撃をもらうのはもはや時間の問題である。



 ──厳密にいえば違和感は確かにある。



 だが、具体的にどんな違和感なのか。何に対する違和感なのか。さっぱり分からない。まるで、勉強が苦手な人間が「分からない部分が分からない」と言うように。




「ほらほら! 休んでる暇はないわよ!」




 矢継ぎ早に繰り出される攻撃を紙一重で回避する。だが、回避のたびにジワジワと体力が奪われる。時間制限がない以上、守勢に回っている方が圧倒的に不利だ。




 「何か、何かを見落としてる……」




 違和感が判断を鈍らせる。判断の鈍りは僅かな隙を生む。


 そして、トップランカーのぬえにとってその隙は十分すぎるほどに大きかった。


 気づいた時には遅かった。

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